『桜と自転車』

ある日、玄関先の扉を開けた瞬間のことだった。

その扉の風圧によってアパートの薄暗い廊下に散らばっていた桜の花びらが一斉に逃げ出していった。いつの間にか春になっていたらしい。

しかし、それも一瞬の出来事だった。再び気付いた頃には葉桜となり、桃色の花びらは歩道の隅でコンクリートに点々と薄く色を残すばかりとなった。


今年の春は短かった気がする。

歩道の隅や自転車の籠の中。捨てられた傘の中には濁った雨水と桜の花びらが浮いている。誰も、目も向けないような打ち捨てられたものに桜の花びらが降り注ぐだけでなんとも絵になるなと一人関心してしまった。


通勤の道すがら、それは見事な桜並木があり、毎朝自転車でその道を通るのが毎年の恒例行事であった。

ただ、今年は少し雨が多く降り、早くに散ってしまわないかとヒヤヒヤしていたが、どうやら例年よりも暖かい日差しのため、一足早く緑が到来したようだった。

暖かい日差しは、絵に描いたような「お出かけ日和」で休日は部屋の窓を全て開けて大掃除に花が咲いた。おかげで綺麗になった部屋でこれを書けるのだから、春の陽気には感謝しなくてはいけないかもしれない。


もう少しだけ、この陽気が続けばいいけどきっとすぐに梅雨が来て夏になり、落ち葉を踏みしめ、雪に足跡を残すことになるのだろう。

またすぐに桜の季節が一瞬のうちでやってくるに違いない。

それがどこか刹那的で、時の流れがより綺麗に見える瞬間なのではないかと思う。


今日の文章はいつもより感傷的な気がするが、これもまぁ春の陽気のせいと言うことにしようと思う。

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