『月と光』
最近、体調があまり優れない。多分睡眠の質が落ちているせいだ。
質と言ってもただ寝る時間が遅いというだけなのだが。
仕事の時間が不規則なことが多いので深夜に寝ることが多い。別に、寝るのが遅いのなんて今時中学生でもあり得る話かもしれない。それでも体が叫んでいた。
「この身体、7時間以上寝ないと駄目だ!」って。
寝不足はなんの得にもならない。眠れない、眠くならないならまだしも、寝るのを我慢して別の事をしているのは良くはないよなと思う。
ここ最近になって思い出すことがある。
寝る時、暗い部屋の中で色んなことを考えながら小舟に揺られるように眠るのが好きで、目を閉じると夜空を思い浮かべるのが子供の頃からの癖だった。
私の実家の部屋は屋根裏部屋で、天上には窓が設置されておりいつも月が見えていた。
その部屋は西日が強く夏はひどく暑いので夏の夜は良く窓を開けたまま寝ていた。
夜、静かな家の暗い部屋の中で見る月明かりは私のお気に入りであった。
台風や大雨の日には、早朝に屋根を叩く激しい雨音で目を覚ます。時折、猫や鳥が屋根を歩く小さな足音が聞こえた。思わず笑ってしまうような小さな足音だ。
色んな思い出の中でも一際輝いて心に残っているのは、西日の射しこむ夕方、部屋は真っ赤に染まる中で遅い昼寝から目覚めた私の耳に届いたのは、弟が弾くピアノの音色だった。1階にあるピアノの音色も3階の私の部屋まで届くらしい。
鳥も大群となって自身の寝床に帰るような時間に、弟はいつもドビュッシーの「月の光」を弾いていた。
今でこそ、実家を出てしまった私には彼のピアノを聴く機会はないが、私は彼のピアノが結構好きだった。当時、思春期の彼にもやるせない事は沢山あったようで家族に対してあまり交流を持とうとしなかったものの、時折こうして弾いていた。
私が弾いてよと頼んでも嫌がるが、彼自身ピアノは好きなようで実家の母に聞けば「今でも時々弾いてるよ」と言っていた。
その時の名残なのか、今でも「月の光」を聴きながら夕方を過ごすことは多い。お互い、あまりしゃべらなくなって久しいが、いつかもう少し大人になったら言ってみようと思う。子供の頃よく一緒にピアノを弾いていた頃に言っていたこと。
「ねぇ、もっと聴かせて」って。
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