『プレゼントとシーフードカレー』
出張の帰りに雨が降り出した。
車内から見える山々は眠りから目覚めたような白い湯気をたて、静かにその存在を知らしめていた。
この日の為に卸した新しい靴やズボンの裾が雨に濡れても足取りが軽いのは明日から3連休だからかもしれない。
18時という時間は最も人の往来の激しい時間帯で、それでも隣の人の傘から垂れた雨水も気にならないくらい何処夢見心地で雨粒の跳ねるアスファルトを進んだ。
薄暗く街の光が漏れ出し雨粒も光る頃、そのまま帰るのは何とも味気なく感じてしまったので近くで見かけた雑貨屋へと流れ込んだ。
控えめな音楽と雑貨の数々。入口に小さく掲げられた父の日コーナーに、そう言えばと数ヶ月前に交わした父との会話を思い出す。4月、父の誕生日前のことだった。
「誕生日プレゼント何がいい?」
「自分の好きなことに使いなさい」
私が社会人となり自由に使えるお金が増えた頃、そんな質問を父にすればなんてことないように返された。父なら、そう言うだろうなと思っていた。
見返りがどうとかはあまり考えたことはなかった。それでも街を歩けば「あれは母が好きそう」「これは父に似合いそう」そんなふうに思う事が増えたのは自由に使えるお金が増えたからだろうか。決して十分に余裕があるわけではない。
頻繁にあるわけではないが、父へ母へ何か強く贈りたいと思う物に出会ってしまうと思わず手に取りレジへと向かった。
二人は恐らく私が何を贈ったとしても喜ぶが、それでもやはり吟味した。
そして、今日は運が良い日なのかもしれない。
父に贈りたいものだけでなく、母へ贈りたいものまで見つかった。一遍に出会えるのは滅多にない。
雨の中、可愛らしく梱包された2つのプレゼントとそれを入れたビニール袋。濡れないように抱え込んでバスに乗り込む。揺られること数十分、自宅の最寄りとは違うバス停で降りれば実家の最寄りだった。
プレゼントを理由に実家へと向かおう。あわよくば晩御飯にもありつけるかもしれない。
予めLINEに連絡を入れておいた。
今日は父も母も実家にいるはずだから、すぐに渡せる。袋を持つ手に力が入る。
私は見知った家の明りを目指して足早に駆けた。
ただいま。今日の晩御飯はなに?
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