第33話


 パーティーが始まった。


 モモは来たよ。

 メローナさんがもう褒めに褒めまくって、ついには絵を描き出したというので、めちゃめちゃ笑ってしまった。気持ちわかるよ〜。

 モデルさんをして来たんだねと言ったら、とても恥ずかしそうにしていた。

 てれてれフェアリーである。



 貴族の家の名前を読み上げる人みたいなのがいて、順番に会場に入るみたい。

 途中で読み上げる人が交代したりして、声を張り上げながら頑張っている。


 大変だな、あの仕事をする人。

 喉大丈夫かな。


 長いなー貴族多いなー。

 みんなこれをじっと待ってるのすごいわ。

 当然の顔してるもんね。


 退屈だったのでモモと二人でしりとりをした。


「まつげ」

『下剤』

「居間」

『撒き餌』

「映画」

『骸骨』

「なんかモモのチョイスが怖いよ」

『そうですか?』


 いつの間にかみんな来てた。

 王族も紹介が終わってた。

 出てくるところ見逃しちゃったね。



 会場には段差が作られていて、王族はそっちの方に

 固まっているみたい。

 初めて見たなぁ、王様。王妃様もね。

 第二王女様と第二王子様も初めましてだね。


「王妃様は瞳の色が同じだね、メローナさんとメイローナさんと」

『……ですがマスター、あの方は』

「うんうん、ちょっと苦手なのかな。分かるよ」


 王妃様はお姉さんに近い雰囲気があるね。

 少し怖いかもしれない。

 王様は普通に偉そうな感じ。良い人って感じはしない。一国の王様だもんね、そりゃそうか。ニコニコしたりはしないか。

 第二王子様も第二王女様も強烈な感じはしないけど、第一王女様はすごいよね。きつい顔してる。


 メイローナさんはもうとんでもなく可愛い。

 第一王女様がすっごい睨んでるもん。

 ドレスが羨ましいんでしょ、顔に出過ぎてるね。


 ウィルヘイムさんは正装だとキラキラしてるね。

 あれっなんか怖い顔してないね。元々の顔立ちもあるし、ちょっと厳しい顔はしてるけど、いつもみたいにぐぐっと眉間に皺が寄ってない。

 さっき見たときはすんごい顔してたのに。

 公式の場では王子様をちゃんと演じているんだね。

 髪も左側をオールバックみたいに固めてあって、右だけ流してる。撫で付けているからかな、雰囲気がピシッとしていた。


 第三王子様はどうした?ってくらい華美な服を着せられている。

 表情は僧侶みたいなのに着ている服はビカビカしてる。支援家の趣味ってこと?王妃様の趣味?侍女のセンス?


 ウィルヘイムさんが挨拶をして、メイローナさんを庇護下に置くといったら、会場内がかなりざわついた。

 王様が居なくなって、本格的にパーティーが始まった。王妃様も居なくなる。


 あれ、二人はパーティーに参加しないの?

 裏に控えるんだ。へー。


 怪しいところはないですかな〜


 メイローナさんの上に陣取って周囲を警戒する。


 青い顔したご令嬢がメイローナさんに飲み物をぶつけようとしたけれど、メイローナさんがすいっと違う方向に歩みを進めたので回避された。


【危機察知】が働いたんだね。


 ご令嬢はもう真っ青。さっきそれを命令されていたご令嬢とは違う顔だね。

 急遽頼まれたのかな。悪い子じゃなさそう。

 やりたくなさそうだもんね。


 ウィルヘイムさんもその様子をちょっと離れた所から見ていて、騎士様になんか指示していた。

 メイローナさんの事を気にしつつ、話し掛けて来る貴族を捌いてる。

 王様も王妃様も特に反応が無かったけど、第一王女様はウィルヘイムさんの発表のことを、事前には聞かされてなかった方なのかな。

 ウィルヘイムさんにずっと話しかけたそうにしているけれど、ウィルヘイムさんの身体がなかなかあかない。


 しびれを切らしたのか、メイローナさんの方に向かい始めた。だけど、メイローナさんは【危機察知】があるからすいすい逃げている。

 お姫様は走ったりしないから、かなり優雅な追いかけっこだね。


 そんなことをしている間に第一王女様は囲まれて、話し掛けられて捌きはじめた。


 メイローナさんも話し掛けられていたけれど、挨拶程度で終わるようですぐに移動できる状態だ。


 そりゃあなかなか話し掛けられないよね。

 今までずーっと放置してたんだもん。気まずい感じだよね。


 それでも、一人の男性が迷いに迷ってメイローナさんのところへ向かってくる。


 さっきから悩んでたよね、あの人。

 あれ、ヘルムさん?に、似てるよね?メイローナさんの騎士をやってるヘルムさん。

 あっ、わかったぞ!シェルトハイヌ子爵じゃない?

 ヘルムさんがそのお家の人だよね。

 メローナさんのご実家のシェルトハイヌ子爵家、ヘルムさんちでもある。


「……メイローナ様」

「ご機嫌よう……リークア」

「父に代わり本日は……」


 あれっ違ったね。シェルトハイヌ子爵じゃない?

 父の代わりにってことは、ヘルムさんのお兄さんかな。

 ヘルムさんは次男なんだ。

 リークアさんが後を継ぐ人なんだね。


 王族って敬語は使っちゃいけないんだね。

 メイローナさんがちゃんと王女様してる姿ってそんなに見ないけど、芯がある感じがかっこいいね。


 シェルトハイヌ子爵は身体の調子が悪いみたい。

 えーっと、メザイア連合王国の貴族は世襲制で当主が死亡したら後を継ぐんだよね。危ない状態なのかな。

 ちょっとまった、お祖父様って言った?

 それって、メローナさんのお兄さん?ご存命なの?

 モモがもう張り付いて離れない。

 そうだよね、気になるよね。うんうん。


 ちらちら周りを見渡しつつ、警戒を続けて行く。

 第一王女様は〜捕まってるね。よし。


 と思ったら、ウィルヘイムさんの近くで気配が動く。


 動作がパーティーに似つかわしくないね。

 障壁を進行方向に作って止めたら後ろ向きにずっこけた。

 ウィルヘイムさんが気付いて冷静に対処する。

 刺客かぁ。

 ウィルヘイムさんの方も色々とあるのね。


 眉間がぐーっとなってしまっているので【平癒】をかけておく。


 気が付いて、つい、みたいな感じで笑ったから、周りにいた貴族がちょっとどよめいた。


 あら、恋に落ちたっぽいご令嬢がおりますことよ〜。ウィルヘイムさん、笑うとモテる。周りにハートが乱舞していそう。


 少し場が落ち着いて、ウィルヘイムさんとメイローナさんがダンスをし始めた。

 優雅だな〜舞台を見てるみたい。

 モモも釘付けで楽しんでいる。


 その後も警戒しつつ、パーティーの雰囲気を楽しんで、ようやく終わりとなった。


 長かったなぁ。


[帰るのか?]


 あっ。バレてる。


[帰りますよ。お疲れ様でした]

[部屋に寄ってくれ]

[え〜]

[……熱を加えると固まって冷めると水みたいになる素材の粉末があるが、持って帰るか?]

[行きます]


 でんぷんだー!

 なんちゃってわらび餅が作れるぞー!


 モモにもおいでと言ったのに、メイローナさんとアニエスさんとお疲れさま会をすると言って逃げられた。


 なにそれ、参加したいよ、させてよ。

 絶対に楽しいじゃん。



 お片付けには王族は参加しないみたい。

 指示を出すのも明日以降となるそうだ。


 今日はもう執務が終わりとなるようで、メイローナさんもウィルヘイムさんも自由。

 疲れただろうにわざわざ今日じゃなくても、と思ったけれど、でんぷんを貰いに行く。


 正装のまま私室で待っていたウィルヘイムさんは、現れるなり粉末の入った袋を差し出してくれたので、わーいと受け取ろうとしたら引っ込められてしまった。


「それはなんの意地悪ですか?」

「意地悪ではない。受け取ったらすぐにでも帰りそうだったから一度引っ込めただけだ」

「だって、お疲れでしょう?見てるだけの私でも大変そうだな〜と思うのに、実際にその場でいろいろ気にしながら動いてるんですから〜」

「慣れている」

「……ちょっと話したら帰りますよ」

「ああ」


 嬉しそうな顔しないで〜。片栗粉も早くください。

 手を出したらくれた。やったー。

【倉庫】に仕舞って、ソファにいそいそ座る。


「早くから来ていただろう」

「そうですね、最初にウィルヘイムさんの所に出たので【平癒】だけ掛けてメイローナさんの所に行きました」

「だろうな。貴女が来たと思った。感謝する」

「いいえ〜めちゃめちゃ怒ってましたね」

「……一度で理解しない奴が多い上に、言われたことを言われたとおりにできない奴も多い。どうやら指示の仕方が悪いらしいな。本来の俺の仕事ではないんだが」


 キレるなキレるな。

 まぁ、大変そうだなとは思ってたけど。

 ウィルヘイムさんの仕事じゃないんかい。


 確かに、王族が直接指示を出すのもなんか変か。

 普通はその辺りは取りまとめる人がやるよね。

 王族は細かく準備に口を出したり、そういうことをしないイメージがある。


「パーティーはどうだった?なにか食べたか?」

「モモと二人で空中で警戒してたので、片手間にモモチャン食べましたよ」

「料理も楽しめなかったのか」


 残念そう。

 もしかしてなんか気を使って食事の内容に指示してくれたのかな?食べると思って。


 食べてる貴族が「これは……」とか「ほう……」とか「さすが……」とか言ってたもんな。

 いいもん出してくれてたんだろう。


「何か持って来させよう」

「いや良いですよ。もう遅いですし」

「……俺は気が利かないな」


 ウィルヘイムさんが気が利かないと言うなら、大抵の人は気が利かないと思うけど。

 スキルに【並列思考】とかないのに超人みたいな思考してますよ、あなた。


 本当に象徴か?

 本来はそこに居るだけで偉い立場なんだよな?


「貴女も好き勝手に食べると思ったんだ」

「人のことどう思ってるんですか」

「好きだが?」

「……いや、そういうことではなくて」


 助けて〜モモ〜この人怖いわぁ。

 好ましいを使わなくなったよ〜直接的になったよ〜。


「ウィルヘイムさん、私は」


 他の人に聞かれたらまずいか。

 でも退出させるのも手間だな。


[私は【不老不死】なんですよ]

[……貴女を遺して逝くのは、少し心配だな]

[ええ〜]


 思ってたんと違う〜。


[王子様は然るべき所からお嫁さんを貰って結婚するんじゃないんですか?]

[王妃になれとは言わない。その辺りは貴女が関わらずに済むように、理解ある娘を王妃に頂いて子は兄弟から極秘裏に養子を頂く。退位したあとは貴女の生活を邪魔しない程度に近い場所で余生を過ごす]


 こっわぁ。

 なんか計画立ててる。

 恐ろしいこと考えてるよこの人。


[あの〜申し訳ないですけど、私は王子様とはちょっと恋のお付き合いはできないですね]

[なぜ?]

[なぜって、いや、そりゃあ色々と、何より国を背負ってる人ですから]

[……背負っていなければ、良いのか]

[え?うーん、まぁそういうことになります、かね?けど、ウィルヘイムさん、国民のこと大事ですよね?]


 真面目な感じするもんな。


[……少しだけ時間が欲しい]

[いや、なんの?]

[自分の人生を考え直す時間だ]

[ええ〜]

[確認だけいいか?まず、王位継承権がある人間は駄目なんだな?]

[そうですね]

[ほかには?]

[うーん、面倒ごとが多い人もちょっと……]

[分かった。そのほかは?]

[えー、そんな思いつきませんよ。付き合う人を条件で選んでた事があまりないですから]

[絶対に受け付けない部分だけ、思いつく限り教えてくれ]

[口が臭いとか?]

[……俺は臭いのか?]

[臭いと思ったことはありませんね]

[次は?]

[無いですって。そもそも嫌な人と関わりは持たないですし]


 ウィルヘイムさんが私と居たいと思ってくれてるのは分かるけど、真面目な性格だし、王子様を辞められるようなタイプじゃないと思うんだよな。

 聞いてもあんまり意味がないと思うんだけど、この問いには答えないといけないんだろうか。


[貴女の気持ちを聞かせて欲しい。俺は、ただの男として見たときに貴女と交際できる資格があるのか?]

[資格て]

[違うな。言い方を間違った。貴女は俺の事が好きか?]

[普通に好きですよ]


 あ、失敗した、と思ったのはウィルヘイムさんが見たことないくらい真っ赤になってしまったからだ。


 うわぁ、ミスった。

 好きか嫌いかでいうとそりゃ好きじゃないと関わりませんよ。

 でもそれが恋愛的な意味かっていうと今のはちょっと違ったんだけど、それを言える感じではない。


 逃げよう。


「じゃあ、お暇しますね。また今度」


 サッと転移してモモを迎えに行っておうちに帰る。


 やだやだ、うまくできないよ、こういうのは。

 苦手なんだよなぁ、こういうの。小っ恥ずかしくて。

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