第32話
お土産がたくさん〜とホクホクしながらログハウスに戻り、ウィルヘイムさんとのおデートの詳細を聞きたがるモモを連れて村へ向かう。
ただの買い物だったけど、おデートと言えばおデートですわね、わはは。
村長を呼んで手が空いてる人も呼んでもらう。
あれこれ教わったことをそのまま説明して、畑をやる人や花の世話をする人が決まった。
無理しないでね〜代わる代わるやってね〜と念を押しておく。
自然城壁となるらしいサイの木に魔力を与えようと思ったんだけれど、村長に止められた。
もしや、私の魔力が無尽蔵な事にうっすら気が付いている?
放出のコントロールは完璧なんだけどなぁ、信用ないね。
まぁあんまりみんなの前でコントロール重視の魔法を使って見せないもんね。
リリアンちゃん、アローニャさん、ハロルドくんにもそれぞれ渡して回った。
ハロルドくん、きみは一体なんになるつもりだい。
ぶつぶつ言いながらモモチャンとマロの実の成分をあらゆる方法で抽出して、成分に名前もつけて管理していた。
恐ろしい子!何を生み出すつもりなんだい。
ハロルドくんのお父さんはもはや諦めたらしく、ハロルドくんに構うのをやめてマロの実の収穫を手伝っている。
メローナさんちにモモとお邪魔したら、クレイくんがいた。
珍しい組み合わせだね?
クレイくんが一人でメローナさんちに遊びに来ているのは初めて見たので、事情を聞いてみたら、どうやら村で一番高貴そうなメローナさんに貴族のことを聞きに来たそうだ。
メローナさんが元王妃様ということは旦那さんも知らなくて、誰にも言っていないらしいんだけれど、村長などはなんとなーく貴族よりも上の人だったのではないか、と気が付いている気配があるらしい。
村長って本当に村長だよね。
村に影響がない間は追求とかもしないし、聞いても驚きはするけど結果的にそっかぁってなるもんね。
「アイルは貴族だったっていってたから、しりたかった」
「うんうん。メローナさん物知りだもんね」
「アイルはいなくなる?」
「どうかなぁ。いなくなることはなさそうだけど」
貴族家の成り立ちや義務、そのあたりまで話したそうだ。
貴族に産まれたからには血を守り国に尽くし、領地を与えられたからには領民を守り、手本となる振る舞いをして、何かあったら解決する。
クレイくんに分かりやすく説明してくれるメローナさんの話は、私にとっても分かりやすい。
本来はそうあるべきなんだね、貴族は。
そうできない人が多いということだね。
「おれは、そのぎむってやつ、ちがうと思う」
「違う?」
「人がしなきゃいけないことなんて、ないんだ」
えっ難しいことを言うね?
クレイくん?ちょっと?
哲学の話をしている?
「ぎむがやらなくちゃいけないって決まっていることなら、そんなのはまちがいだと、思う」
それは大賛成過ぎる。
嫌だよね、決まってる事って。分かるわぁ。
「アイルにぎむがあるっていうなら、それは生きることだと思う」
クレイくん?クレイくん?
きみは賢者の素質があるのか?
「死んだらおわりだから、大切にしてくれる人が、ひとりでもいるなら、生きることがぎむだ。かなしいのは、みんなつらいから」
クレイくんはそう思うんだね。
うん、そっかぁ。そっか。
分かったような分からないようなクレイ君の話に、私は戸惑いがすごいよ。
私も20年以上生きてるのに、そんな深いこと考えたことなかったよ。
クレイくんえらいな。
そしてすごいこと考えてるな。
「クレイ。わたくしたちは悲しい思いをしないで過ごせるように、よくよく考えて生きましょうね。命を大切にして」
メローナさんは流石だな。
私はびっくりして固まっちゃったよ。
「アイルが帰るっていったら、サイトー様は手伝う?」
「うん。手伝う。でも、その時は私もついていくよ。アイルが悲しい思いをしないか、ちゃんと楽しく暮らせるか、きちんと全てが決まるまでは私がそばにいる」
「うん!」
納得してくれたようだ。
クレイくんはばあちゃんありがとな!と言って出ていった。村長がいる時はメローナさんって呼ぶのに、二人きりだとそうなの?
『メロちゃん』
「ふふ、今日も素敵なお召し物だわ。こちらも貰って下さるかしら」
『作ってくれたの?』
帽子だー!可愛いニット帽みたいなやつだ!
「サイトー様も受け取って頂けるかしら」
「わーい、ありがとうございます。うれしい」
モモのはピンク色と白の色を混ぜて作ったニット帽で、私の方はすごいカラフルだ。これはもしや。
「みんなの瞳の色ですね?」
「まぁ!すぐにお分かりになられますのね。そちら、よろしいかしら……ちょっと派手かしら……勝手にごめんなさいね、みなの色を押し付けたい訳ではないのです」
「とってもうれしいですよ〜」
色とりどりで派手だけど、みんなの瞳の色を思い出させてくれる。
似てる色を選んで作ってくれたんだなぁ。赤に緑にピンクに紫に灰に茶に黒にたくさんの色。
うれしいよ〜かわいいよ〜。
被ったら髪の色が黒だからすごい浮いちゃった。
がーん。でも被ります。
さてさて、メローナさんにご相談。
ウィルヘイムさんの誕生パーティーに参加するにあたって、ざっくりパーティーの流れなどを聞く。
古い知識で良いのならと言うことで話してくれた。
入場とかあったり挨拶とかあったり進行のことを教えてもらって、合間に豆知識みたいな感じでマナーとかも挟んでくれる。
メローナさん、教師に向いてるよな。
学校の先生とかやらないかな。
賊が何かを仕掛けるとしたら、パーティーでダンスが始まるタイミングが多いそう。
音楽が大きく響くので、物音や声が聞こえにくかったり、多少の騒動があっても気が付かない人もいるらしい。
ぶち壊しにしたいと思っていない限りは、そのあたりが危ないらしい。
招待客は危険物の持ち込みがないか確認されるそうだが、女性のドレスの下までは確認しないみたい。
武器を持ち込み放題だな。
毒殺などを行う場合は給仕に紛れ込む必要があり、王宮で開催されるパーティーは給仕をするにも身分が高くないとならない。
身分が高い敵ばっかりだから、どんな手段でも選べそうだよね。
メイローナさん、危険が多い。
「サイトー様はどうなさるの?」
「へっ」
『ウィルヘイム様ですよ!マスター!』
「あ〜そのことか。あのね、モモ。1回伝えとこうと思ったんだけど、ウィルヘイムさんとその〜お付き合い?とか結婚とか、そういうのはしないと思うよ」
『恋も駄目なのですか?』
「恋、うーん、恋かぁ」
ゴールが見えない恋って疲れないかな?
「メローナさん、実は私【不老不死】なんですよね」
「……まぁ!」
「それもあって、なんだろうなぁ、恋とかってちょっと難しいなぁって思うんですけど、こっちの人からしたら【不老不死】の人間ってどんなふうに思います?」
「サイトー様、わたしくしは、という言葉を先につけさせて頂きますけれど、わたくしはサイトー様のこの先の事が一番に思い浮かびます。お寂しい気持ちになられるのではないかしら、と」
「あー、それはモモがいるから、モモも【不老不死】ですし」
『マスター、わたしに【不老不死】はついておりません』
反射だった。
物を考えるよりも先に、気が付いたら動いていて、モモに【不老不死】を【付与】する。
モモがびっくりしてこちらを見た瞬間、はっと現実に帰ってきて、頭が回り始めた。
「あ〜ごめん、ほんっとにごめん」
その事実に耐えられそうになかった。
ずっと一緒にいられるものだと思っていて、まさか【不老不死】がついていないとは思わなかった。
「ごめん、反省してます、今回は本当にごめん。嫌だった。モモが居なくなったら、嫌だったんだ」
【スキル剥奪】したっていい。
モモの気持ちを無視して、勝手につけたものだ。
取り消さないといけない。
『あ、あの、マスター、わたしはおそばにずっとおりますよ?』
「うん?」
『妖精族の寿命は200年ほどですが、わたしはマスターのサポートとして産まれておりますので、寿命がありません。【不老不死】のスキルはありませんでしたが……』
「で、でも、それだと害されたら死んじゃうよ」
『はい、その可能性はありますが、それらを跳ね除けるスキルがありますので……マスターに【付与】頂きましたので、いまは死ぬことも無くなりましたが』
「ごめん……消したほうがいい?」
『いいえ、とくに問題ありません』
そっか。良かった。
あ〜びっくりしたー。心臓止まるかと思った。
「あの〜それで、一応聞いてみたいんですけど、メローナさんって【不老不死】になることって可能ですか?」
「……まぁ!」
流石にモモにぽかぽかされた。
ログハウスに帰って、おはなしダケにご飯をあげる。
おはなしダケは私のニット帽に興味津々で、海から「よこせ」と言われたのでちょっと喧嘩した。
あげん。
ゆっくり休んでみんなに癒やされつつ、森の整備を始める。
スキル【施工】を展開して、全体図を見ながらああでもないこうでもないと整備する。
スキル【施工】の良いところは全体図を出してくれるから、現地を実際に見ていなくても大丈夫な所だよね。
部屋の中で森の整備ができるんだもん。
便利すぎる。
遠く離れた場所は、流石に遠隔操作で建築なんてことができないけれども。
森に小道を作ったり、飼う予定はないけど動物が休める場所を作ったりしていく。
なんかこういう、建物置いたりする経営シュミレーションみたいなゲームがあった気がする。
翌日も森整備をしながら一日のんびり過ごす。
群がるおはなしダケを、優しく揉んだり頭に載せたり膝に載せたりしながらダラダラした。
明日はパーティーがあるなぁ。
パーティー自体は夕方から始まるけれど、その前に行って色々と確認はするつもり。
結局、モモが聞き出したメローナさんの回答は「好ましい相手が【不老不死】だったら、わたくしはうれしいわ、遺してゆかなくて済みますもの」だった。
そういう発想かぁ。
王族は「好ましい」って言うのが好きだよって事なんだね。品のある言い方がそれなんだね。
なるほど。
ウィルヘイムさんには【不老不死】のことは伝えてないので、それを伝えてからかな。
それでもいいよーって言ってきたらどうしようね。
恋愛できるのかなぁ、今の私。
愛情を伝えることがめちゃくちゃ下手らしいんだけど、元カレの言葉から察するに。
庭園とか作っちゃった。
そのうち村のみんなを家に招待してみたいね。
不可視だから、転移で連れてこないと森の中には入れないかなぁ。
私はいつものローブにメローナさん作のニット帽、モモにはドレスを着てもらった。
かわゆいよ〜メローナさんにも見てもらいたいよね。
よし、行っておいで。
パーティーは夕方からだからのんびりしておいで、なんならパーティーはモモ来なくても大丈夫だよ、危ないからね。あ、本末転倒?
メザイア連合王国に飛ぶ。
王都はとくに人が増えてるね。
王位継承順位第一位だもんね、次の王様の最有力候補となるとやっぱりみんな来るんだね。
貴族の馬車がすごい並んでる。
前乗りしてる貴族も多いって言ってたけど、近場の人は今日来るのかな。
賑わってますね〜。
ウィルヘイムさんの所に行ってみる。
「シイアの貴族はゴートペリのワインは飲まない、他の種類も混ぜて置くように言った筈だ。手配した者を呼べ!ホルムゲンのエルト卿の申し出は却下しろ、混乱する。父上の謁見の予定は勝手に変えるな。誰が許可した!アブラムに勝手なことをするなと伝えろ。私の名前でだ!」
めちゃくちゃキレてるやん。こっわぁ。
忙しそうだね。ちょっとお邪魔だね。
寝不足みたいだし、眉間の皺がすっごいよ。
やっぱりお出かけしてる場合じゃなかったんだよ。
断ってくれても良かったのに〜。
【平癒】を掛けてその場を後にする。
がんばれ、ウィルヘイムさん。
メイローナさんもこれまた忙しそう。
ウィルヘイムさんから贈ってもらった靴にモモから貰ったネックレス、ミアさん作のドレスを着ているんだけれど、モモの作ったネックレスの色が薄紫だから合わないと侍女さんが言っている。アニエスさんじゃない人ね。
メイローナさんはつけたいみたい。
アニエスさんもなんかあったときの為にかな、つけておいて欲しいみたい。
だけど、ドレスが薄ピンク色のシースルー刺繍だし、靴がそれに合わせたほんのりピンク味があるベージュなんだよね。
それ対して薄紫色の目立つネックレスは、確かにちょっと合わない。
侍女の人は前にいた人ではなくて、初めて見た顔の人。
意地悪な言い方はしていなくて、でもその色だけはあかんと譲らない。
もしそのネックレスをつけるなら、ドレスと靴を替えたほうがいいと粘っている。
もしかしてウィルヘイムさんが、新しくつけた侍女さんかな?
直前までどんなドレスを着るかはひた隠しにしていたそうで、今日何を着るか知った侍女さんが大慌てで変更させようとしている。
あーお姉さんに取られないために、ドレスのことを隠してたんだね。
どうにかしてあげたいな。
大きなダイヤモンドがトップにあるけれど、装飾自体はドレスに合わせて控え目のネックレスを【座標転移】を【付与】して、カスタマイズで決まった座標を付け足して【製作】する。
なるほどね、こうやるのね。
座標はログハウスにしといた。
作ったネックレスをジュエリー用のギフトボックスに入れて、アニエスさんの肩を叩く。
[サイトー様?]
[うん、いきなりごめんよ]
アニエスさんも【念話】の使い方は既に熟知してるみたいだね。良かった。
[手を後ろで組んでくれる?代わりのネックレスを渡すから]
[畏まりました!]
ほいっと渡すと、アニエスさんは優雅にカニ歩きして、チェストの上にネックレスのギフトボックスを置いた。
「姫様!以前、ウィルヘイム様からいただいたこちらではどうでしょうか?」
アニエスさんが今思い出しました〜!みたいな顔をして渡しに行く。
あっメイローナさんに【念話】を使ったな。
「ええ、そうね。今日はこちらにしようかしら」
ぱかりと箱を開けたら、他の侍女たちから歓声が上がる。
思わずメイローナさんとアニエスさんまで驚いた顔をしたので、一瞬のうちに表情を引き締めていた。
可愛いなぁこの子たち。
これで解決したようだ。よかったよ。
でもモモのネックレスを外すメイローナさんは、とても残念そう。
[今度、それに合うドレスを作ってもらいます?]
[サイトー様!よろしいの?]
[大歓迎だと思いますよ、ミアさんはとくにドレスを作るのが好きみたいですし]
[ぜひ、お願い致します]
伝えておくね。すぐに作ると思うよ。
最近めちゃくちゃ早いからね。
どういう動き?ってなるくらい。
ファンタジーを強く感じる早さ。
会場の下見に行ってくるね〜と【念話】して、開催されるひろーいホールに向かう。
すごい。結婚式の披露宴会場みたいだなぁ。
立食パーティーなんだね。
たくさん丸テーブルが設置されている。
会場に仕掛けとか怪しそうなものは見当たらなかった。
やたら挙動不審な給仕はいたけど、まさかあれかなぁ。
ついていってみる?
挙動不審な給仕は周囲を警戒しつつ、客室なのかな?控え室なのかな?それっぽい場所に入った。
中には偉そうな座り方をしているおじさんがいて、話を聞いた感じ、この人が弟さんの支援家の人みたい。
毒かぁ。
その瓶の中身は【毒無効】しておくね。
他に持ってない?そのひと瓶だけ?
そうみたいだね。じゃあもうこの人は良いか。
他にはなんか無いですか〜大丈夫ですか〜。
うろうろ見て回ったり飛んだりしつつ調べていく。
毒を仕込むように言われている人がその後に3人も見つかったので、持たされている毒をすべて無効化させていただいた。
他にもお姉さんの支援家からの手のものがメイローナさんのドレスを汚しておびき出す作戦を立てていたので、ドレスを汚す役の令嬢のおやつに腹下しの毒をちょこっと、メイローナさんを襲う役だった貴族の息子のおやつにも同じものをちょこっと。
時間差で効くと思う、それ。
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