第21話
10日も呼ばれなかったので、ちょっと不安になって村を見に行った。
子どもたちが元気だよボタンをたまに押してくれるから、子どもたちが元気なのは通知が来るんだけど、息抜きがてらに村にぶらり。
おはなしダケはみんなメキメキ成長して、賢くなっていく。
外見は変わらないけど知能が高くなったと思う。
【透明化】してから【転移】すると村はかなり賑わっていて、思わず違う所に出たかとスキルを疑ってしまった。
なんだーすごいぞー。
冒険者が沢山いる。
馬車も多いね?
あれっ、ポルテの管理をしているマティアスさんちの小屋が大きくなっている。
村長が作ったのかな。
馬車も綺麗に並んで置かれている。
なんか木札が下がってるな。
馬車を間違えないようにつけてるのかな?
すごい、みんな色々自分たちで考えて頑張ったんだ。
露店がいつの間にかあるよ。
アクセサリーを売ってるみたい。
屋台も出来てる。お肉を焼いてるね。
村が見違えるように発展してる。
縄のはしごが掛かった塔みたいなレンガの建物がある。見張り塔?
【透明化】をそっと解いて、村長の家に行く。
扉を叩いたら知らない気配が近付いてきた。
「はい、なにかご用?」
うん?この人は誰?
「誰か来たのか」
いや、あなたも誰?
知らない夫婦がいるけど、なに?
地下に気配があるんだけど、嫌な予感がする。
「あなたがたはどちらさまでしょうか?」
「お前こそ誰なんだ」
感じ悪いな。
返事をせずにスキル【座標転移】で村長宅の地下の牢屋に行く。
やっぱり村長だ。
「なにがありました?」
「お師様、なぜ……」
あー村長、敢えて私を呼ばなかったな。
バツが悪い顔をしている。
「もしかして、みんなにも私を呼ばないようにって伝えてました?」
「数日のうちにはリクドールの家の者が兵を連れて来る予定だったのです……お師様に心労をお掛けするわけにはいかないと思うておりました」
「なにがあったんです?」
村長はめそめそしながら事の次第を話し始めた。
特産品はアキサルの町で大流行して、王都にも評判が届き始めた。
王族が品物を村の人間に献上するように求めたが、村のみんなを守るためにスティーナさんとリクドールさんがお城に上がることになったと言う。
王都は遠くて、しばらくはアキサルの町に居られない。
それを知った商人ギルドは沢山在庫を抱えたくて購入したけれど、その数があまりにも多かったので町でかなり話題になったらしい。
話を聞きつけたクレイくんの母親、村長の娘でもあるさっきのあの女性が、自分の今の旦那を連れて慌てて村に帰ってきた。
村長もミアさんもクレイくんも女性の事を受け入れず、追い返そうとしたけれど、男性のほうがクレイくんを殴り飛ばし、強引に家に押し入ってきた。
村長が魔法でやっつけようとしたけれど、ミアさんがそれを止めたみたい。
村長がその二人を傷つけてしまうと、罪に問われる可能性があると思ったんだって。
アキサルの町の兵は村よりも、町に馴染みある人間の方を庇うかもってミアさんは咄嗟に思ったと。
賢いね。
それに何かして万が一、村長に何かあったら私が悲しむからと。
ミアさん〜。
ミアさんが村長を止めたすきに、再婚相手の旦那が村長を捕まえた。
村長は身内のことで私に迷惑を掛けたら申し訳ないからと、クレイくんとミアさんに腕輪の使用をしないように言った。
クレイくんはサイラスさんちに避難していて、ミアさんは服の倉庫に避難しているみたい。
泣きながら避難してきたミアさんから、事情を聞いたハリサさんがアローニャさんやマリリンさんに伝えに行った。
憤る女性ふたりに気づき、お風呂に入りに来ていたメローナさんが話を聞き出す。
メローナさんのアイデアで、村長の娘と旦那さんを浴場に誘導して、そのすきに村長を助け出す作戦を立てた。
だけど、牢屋に囚われた村長は、助けに来たミアさんに、慌てず騒がず村のみんなは普段通りに行動して、事情をサイラスさんに話して、冒険者ギルドにいるリクドールさんのお父さんに助力を願い、村に来てもらうように頼んだ。
私に迷惑を掛けないこと、今後のためにもまずは村のみんなでなんとかしたいということも伝えるように言ったと。
それで外は大騒ぎになっていないんだね。
私が来たから不安になったのか、牢屋の扉がドンドン叩かれている。
なんか鈍器みたいなもので殴ってる音がするな。
村長に私のことを聞こうと思って牢屋に降りてきたんだろうけど、話の邪魔をされたくなかったので扉が開かないようにした。
「クレイくんの怪我を治さないと。ミアさんも迎えに行かなきゃ。ここは、ガイルさんとミアさんとクレイくんのおうちです」
「お師様……」
スキル【インテリア】で扉自体を無くす。
勢い余ったのか、男性が転がり落ちて来た。
躊躇いなく【時間停止】を掛ける。
声が聞きたくないから。
後ろにいた女性にも【時間停止】を掛けた。
村長を牢屋から出して、代わりにその二人を入れておく。
牢屋を閉めて鍵は作り変えて村長に渡した。
スキル【インテリア】で新しい扉を作って、室内に【遮音】を【付与】する。
閉めてから【時間停止】を解除。
クレイくんとミアさんをお迎えに行こう。
『マスター、お怒りですか?』
「こういうことされるのは嫌だなぁって感じだよ」
サイラスさんちの前に【座標転移】して扉を叩く。
「どなた?」
セレナさんだ。
「サイトーです」
「サイトー様!」
すぐにドアが開いて、セレナさんは後ろの方を確認するように見た。
「村長助けてきました。あの人たちは閉じ込めて来たので、大丈夫ですよ」
クレイくんが走って飛び付いてくる。
おおっ、大っきくなってるわ。あっぶない。
顔の一部が腫れ上がっている。
それだけじゃなく、中指から小指までの3本の指がパンパンに腫れていた。
「手を、踏まれた?」
「でも、泣かなかった!だけど、だけど、あいつをやっつけられなかった」
「えらいね。よく頑張ったね。痛かっただろうに、そうか、泣かなかったか」
スキル【平癒】で完治させる。
「ミアさんを迎えに行こう」
「うん!」
「セレナさん、クレイくんを匿ってくれてありがとうございます。赤ちゃんもいて大変だったでしょう」
「いいえ!クレイったら怪我が酷いのに、手伝おうとあれこれしてくれて……治して頂いてありがとうございます、サイトー様」
赤ちゃんグッズをまた追加でたくさん作っておこう。健やかに育つんだよ〜。
【座標転移】で服の倉庫の二階の廊下に移動する。
「ミアさん」
声を掛けたらベッドルームのドアがバン!とあいた。
「わあああああん!」
ぎゅうっと抱きついて来たので、受け入れてよしよしする。
頑張ったよね。不安だったよね。
怖かったし、寂しかったよね。
あの人、お母さんだもんね。
ミアさんがとっくに物心ついてる時に居なくなったんだよな、あの人は。
「おうちに帰りましょう」
「でも、サイトー様、うちには今……」
「地下に閉じ込めちゃいました」
「大好き!」
私も〜村のみんな大好き〜。
村長宅の居間に【座標転移】
みんなでおうちに帰ってきたぞ〜。
ふーん。
勝手なことをたくさんしてくれましたね。
売るつもりだったのかな、ミアさんが作った刺繍絵などが全部外されて袋に詰められている。
家具も売ろうとしたのか、配置が前と違って一部分に固められていた。
「大改造だ!」
希望を聞きながら、家具を配置したりものを入れ替えたりしていく。
模様替えとか新しい家具ってわくわくするよね。
みんな笑ってくれた。良かった〜。
【遮音】を掛けてあるから、地下からの音は一切しない。
「お師様」
「うん?」
「ありがとうございました」
「ガイルさんは私の弟子ですよね?」
「そうです」
「弟子の面倒を見るのが師匠の役割だと私は思います。頼らないで頑張ろうとする事が悪いとは言いません。だけど、怪我をするのはちょっと嫌です」
「これからはそのようなことが起きぬよう、肝に銘じるとお約束致します」
村長は深く頭を下げた。
でも、気をつけてもどうしようもないときってきっとあるんだよね。
「ひとつ、スキルを与えます。これでどうにかして下さいね」
スキル【平癒】を【付与】する。
人にしたの、初めてだ。
ちょっとよくないかなと思って避けてたんだよね。
「スキル【平癒】と言います。対象に触ってスキルを使うと強く念じたら怪我や病気が完治するスキルです。お願いしますね」
あっ、村長気絶しちゃった。
ミアさんとクレイくんが村のみんなに解決したよ〜と伝えて回ってくれた。
みんな気が気じゃなかったけど、今はお客さんも増えているし、持ち場を離れられないしと責任感が強く、なんとか仕事をこなせていたみたい。
町の兵がどのくらいで到着するか分からなかったので、夜になったら飛んで見に行ってみた。
説明とか用意とか大変だったのかな。
村長も数日のうちには来るって見ていたし、それから考えると早く動いてはくれたのかも。
やっとアキサルの町を出発する所だった。
この調子なら明日の朝には来るね。
一日くらいご飯を抜いても死にはしないと思うし、牢屋には近付かないでおこうって言ったんだけど、そうはできなかったみたい。
戻ってきたらミアさんが、牢屋の前で泣いちゃってた。ご飯を用意してあげたんだね。
【時間停止】を掛けたままにしておいて、もし誰かに見られたらまずいかな〜と思って解除したのが失敗だったかも。
「出しなさいよ!聞いてるの、ミア!誰が産んでやったと思ってるのよ!こんな良い生活をして、あんた私を馬鹿にしてるでしょ!」
なんでそんなふうに考えるかなぁ。
ミアさんの真っ赤になった目をそっと手で隠して、抱き締めて座標転移した。だんだん座標が何となくで分かるようになってるんだよな。
居間のふかふかのソファーに座らせると、クレイくんが駆けて来てミアさんの手を握る。
「ごめんなさ、ごめんなさい。近づかないって、いったのに、サイトーさま、わたし」
「いいんだよ。ご飯を持っていってあげたんだよね。やさしいね。ミアさん、お母さんも一緒にここで暮らしたいと思ってる?」
「それは……ううん、思わない。だってあの男の人、クレイを殴ったのに……お母さんは、あの人は、それを黙って見てた」
あの人って言っちゃったよ。
冷静になってきたんだな。
「心配もしないで……クレイが殴られたのに!」
うんうん。そっかぁ。怒ってるんだね。
「サイトー様、わたし、あの人のこと、お母さんって思ってたけど、だけど、クレイを大事に出来ない人と、暮らすなんて、できないよ」
ひどいかな、とミアさんは呟いた。
全然ひどくないよ。
「ミアさん。私はガイルさんとミアさんとクレイくんが笑って暮らして行ける事が一番嬉しいです。そして、その暮らしを守ろうとしてくれるミアさんの気持ちがとっても嬉しいよ」
「あの人、ホントにおれたちのお母さんか?にてない」
クレイくんが真面目な顔して言った言葉に、ミアさんがふきだして笑った。
今日はみんなで雑魚寝しようと誘って、居間にお布団を出す。
村長、クレイくん、私、ミアさん、モモで転がった。
スキル【ボディケア】をみんなに使ったら、村長が初めて聞く奇声を発した。キエッて言ったよ。
気持ち良さそうで何より。
翌朝、日が昇ってすぐの頃に村長の家の扉が叩かれた。
町の兵と冒険者ギルドの人かな?
複数人が到着したようだ。
サイラスさんから話を聞いているけれど、もう一度それぞれの目線で何が起こったかを教えて欲しいと言われた。
私のことは村長が誤魔化してくれるみたい。
クレイくんの怪我は村長が魔法で治したと言うことにした。
魔法ギルドに登録していない事を怪しまれていたけれど、村から離れるつもりがないこと、町で暮らすつもりないことを強く訴えて、魔法ギルドには有用な魔法が使えることを伝えないでくれとしつこく口止めをしていた。
冒険者ギルドから来てくれたのは、なんとリクドールさんのお父さん。
ギルド長自ら来てくれたので、兵も礼儀正しかった。
領主があまり介入していないアキサルの町では、領主様の下についている兵よりも冒険者ギルドの方が力が強いようだ。
起こった出来事としては不法侵入と強盗なので盗賊と同じ罰になるところ、身内の犯行という部分があるので処遇の希望があれば言ってくれと言われていた。
この世界では盗賊は普通に処刑になるそうだが、村長の希望で終身強制労働の罰となった。
国の境にある砦で働くことになるみたい。
国を出るのは簡単だけど、出た先の隣国は奴隷制度が存在する。
強制労働の罪を負った人間が逃亡のために国境を超えたりしたら、もう戻ってくることは許されないらしい。
逃げても良いけど命の保障はないよ、と言うことだね。
ただ、男性の方がアキサルの町に住んで長いので、男性の両親に事情を説明したあとに減刑の申請が出来るそうだ。
場合によっては金銭でも減刑出来るというのでちょっと不安。
その場はへーと話を聞いておいて、あとでスキル【強制制約】を掛けた。
もう村の敷地内には入れない。
【制約】を【強制】するスキルなので、魔法と違って間違いが起こらない。
スキル【従属】とかあるけど、これは自分に従わせるというスキルなので、別に今後こちらに近付かないでくれたらいいしなぁと却下した。
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