第19話

 それではお姫様の座標を確認。

 モモは妖精族の姿だと透明化して隠さなきゃいけないので、人間になってついてくる。


 飛ぶよ。


「きゃあ」


 かわいい声がしたぞ。


「どうされました!?入っても宜しいですか?」


 室外からの声掛けにお姫様がハッとする。


「いいえ!少し躓いただけよ、必要がある時は呼ぶわ」

「承知いたしました!」


 この声はヘルムさんっぽいな。


 しーっと指を唇にあてて、スキル【遮音】を部屋の中に使用する。


「外に声が漏れないようにしました」

「すみません、ありがとうございます。アニエス、お茶の用意をお願いね」

「かしこまりました」


 事前に準備してくれていたのかな。

 ワゴンに用意があるみたいで、室外には出なさそうだ。とりあえずここでお茶を淹れるなら、【遮音】はそのままでいいみたいだね。


「さてさて、ご注文をお聞きしましょうか」

「お急ぎでいらっしゃるかしら?」

「そんなことないですよ」

「ではぜひお茶を一緒に飲んで頂きたいわ。そちらのお客様も」

「よろこんで。この子は私の娘のモモです」

「えっ」

『身の回りのお手伝いなどをしています、モモと申します』

「まぁ!驚きましたわ。モモさんとおっしゃるのね、わたくし、名乗りができない立場ですの、許してくださるかしら」


 眉がハの字に下がってしまった。

 モモはお姫様の瞳を少し切なそうに見つめて、頷いた。


『許すも何も、姫君が気にされることではありません。わたしはサイトー様のただのお手伝いですから』


 あら、モモ。お姫様のことも好きかもしれない。

 メローナさんとちょっと似てるもんね。

 お姫様かわいーよね。


「でも、本来の名前が名乗れなくても偽名は名乗っていいんじゃないです?それも駄目なんですか?」

「……まぁ!」


 考えたことなかったのね。目を白黒させている。


「もしよかったら、考えてくださらない?」

「いいんですか?じゃあモモ、何がいい名前ある?」

『ローナはどうですか?』


 メローナさんからとったな。

 そんなすまし顔で〜。


 お姫様はアニエスさんを振り返って、アニエスさんはぶんぶん首を振った。


 わはは、本名メイローナだもんね、お姫様。

 親御さんが元王妃様のメローナさんから名前を取ったのか、全然関係ないのかは知らないけど。

 モモはステータス見てないから偶然だよ〜。


「では、ローナとお呼び下さいませ。ありがとうございます、モモ様」

『わたしに様なんて……』


 いいえ、と首を振って微笑むローナさん。

 ローナさんもモモのお友達になってくれそうだなぁ。


 アニエスさんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、失礼にならない程度に部屋を見渡す。


 寝室に呼んでくれたみたいだ。

 そうかぁ、人目を完全に避けられてちょっと広い場所となると寝室になっちゃうのか。

 窮屈な生活を強いられてる感じがあるなぁ。


「サイトー様、国に帰る前に魔法を掛けて頂いたアイテムですが、本当に助かりました」

「なにかあった?」

「賊の襲撃を避けられたり、相性が悪い貴族が来るお茶会を避けられたり、とても助かっておりますの。嫌な感じのする招待状は全て避けて、これまでにないくらい穏やかに過ごせていて……」


 助けになっているようで良かった。


「御恩のあるサイトー様にこのようなことを言うのは大変心苦しいのですけれど、お支払を宝石でさせて頂きたいの」


 お金を自由に使えないんだろうなぁ。

 うーん。なんか力になれることがあるかな。


「それは全然大丈夫ですが、困ったことなどありましたら力になりますよ」

「もう充分助けて頂いておりますわ。こんなに素敵なアイテムも頂いておりますし」


 サラッとアイテムって言うよね。

 1回スルーしたけどやっぱりちょっと気になっちゃうよ。

 もうお姫様の中でそれアクセサリーじゃなくなっちゃってるよね。


「あ、そうだ。これからのお買い物のやり取りをどういう形でやっていくか決めたいと思っているんですが、この部屋は他に人が入ったりしますか?」

「わたくしとアニエスだけですわ。弟の支援者の侯爵家の子飼いの侍女がついておりますけれど、寝室へ入る許可は与えておりません」

「勝手に入ったりします?」

「そうですわね……不在のときに入っている、と思っております」

「じゃあお部屋に品物だけ届けるのはちょっとまずいですね」


 不法侵入すな〜。

 入れないようにする事は可能だけど、急に入れなくなったら怪しむよね。


「ローナさんと信用できる人しか入れない場所ってあります?」


 少し考えて、首を振る。ないかぁ。


「姫様、私の部屋に届けて頂くのはいかがでしょうか」

「そうだわ。サイトー様、アニエスは公爵家の側室の娘ですの。支援しておりますのは王位継承順位一位の第一王子ですが、公爵はアニエスの事も可愛がって下さっていて、侍女として城に上がると聞いた時に私室に鍵を許してくださっています!」


 おお〜。公爵って侯爵より偉いんだっけ。

 貴族のそのあたり分かんないけど、強そうな感じなんだね。


「では箱を用意しましょう、ちゃらららーん」


 スキル【製作】で両手で抱えるくらいのサイズの箱を用意する。木目シールを貼ってあるプラスチックだよ、軽いよ。


 箱の奥に【座標転移】を【付与】する。

 箱の上に押せるボタンも作っておく。


「この箱の中に注文したい品を書いた紙を入れて、箱を閉めて、ボタンをぽちっと押して下さい。そしたら私の方に届くようになってます。早くて即時、遅くても翌日中には商品が箱の中に入っているようにしますね」


 アニエスさんも真剣に話を聞いている。

 たぶん操作するのはアニエスさんだもんね。


「箱に入り切らない量の注文の時は私が直接届けに行くので、受け取れる時間とか日にちとかを注文の紙に書いて下さい。箱が置かれている部屋に行くので、アニエスさんの部屋になると思います」

「分かりました」


 アニエスさんもお姫様も一緒に頷いているのでかわいい。


「今日はどうします?何がご入用ですか〜」


 ちょっと商人っぽい。楽しいなあ。


「姫様!そろそろお時間ですが」


 ヘルムさんの声だね。

 お時間ってことは、用ことがこのあとにあったのかな。話し過ぎちゃった。悪いことしたな。


「このあと何かあるの?」

「……戻ってから初めてのお姉様のお茶会ですの。嫌な感じはしましたけれど、お姉様のお誘いは断ることができなくて」


 わーお。絶対嫌なことが起きるよね、それ。


「そっかぁ。じゃあついていこうかな」

「えっ?」

「ちょっと透明になれる方法があってね、誰かにバレることは無いからついていってもいいかな?」

「え、ええ、え?」


 お姫様は戸惑ってたけど、アニエスさんはぜひとも!と言う感じだったので、お茶会についていくことにした。


【透明化】と【遮音】を使用したらその場にいなくなったように見えるので、ローナさんもアニエスさんもちょっときょろきょろしている。


 どういうふうに隠れてついてくるかをなんとなく飲み込めたあとは、二人で頷き合ってお茶会に向かう準備を始めた。

 と言っても、ほぼ用意は終わっていたらしく身嗜みを軽く整えて寝室を後にする。


 アニエスさんが気を使ってドアを閉めるまでたっぷり時間をとってくれた。

 そんなに気しないで大丈夫だよ。

【座標転移】もできるから。




 ローナさんのお姉さん、王位継承順位第四位のお姫様は一言で言うと意地悪なお姫様だった。

 なんかこう、意地悪ばっかり言ってると顔にも影響が出るのかな。

 すごく醜い表情に見えるというか、あんまりこういうこと人に思いたくないけど、不細工に見える。


 顔自体は整っているのにね、不思議だね。


 王位継承順位第一位が20歳の第一王子、第二位が3歳の第三王子、第三位が16歳の第二王子、第四位が18歳の第一王女のこのお姉さん、第五位が16歳の第二王女のここに居ないお姉さん、第六位がローナさん。


 そう考えるとやっぱり第三王子の年齢が異色な感じがするね。どんなスキルなんだ。

 それか、末っ子がかわいい感じがあるのかな。


「庶民の生活はどうだったのかしら、貴女には居心地が良かったのではなくて?」


 アキサルの町になんでお姫様が来たかってことが、このお茶会の中の会話で分かった。


 嫌がらせで、旅慣れもしていないローナさんに、庶民の生活を学ぶなんて尤もらしい名目で、準備も万端にさせずに他国に向かわせたのがこの意地悪なお姉さん。


 無事に帰ってきたローナさんに不満そう。

 嫌な感じだ。モモはむっとしている。


 お茶会の席も変な感じで、お姉さんの味方みたいな女の子がたくさんいる。

 控えている侍女もお姉さんがローナさんを貶すと、くすくすっと笑っているし、アニエスさんは怒りを出さないようにか、無表情になっている。


 せっかくついてきたからね。

 お姉さんの侍女が仕込んだ腹下しのお薬入りの紅茶は【毒物無効】させてもらった。

 聖魔法に【解毒】はあるんだけど、連合王国だしお抱えの魔法士とか居そうだよなぁと思って、魔法を感知されたくなかったので、念の為にスキル【毒物無効】で対処した。


 お茶を前にしていたローナさんがちょっとあれっと言う顔をしたけれど、私が何かしたと気付いたのかカップを手に取ってお茶を飲んだ。


 お姉さんは嬉しそう。

 性格が悪いぞ〜。


【危機察知】がきちんと機能してローナさんの味方をしてくれていることが分かって少し安心。

 お姉さんからちくちく言われてるけど、ローナさんは流している。

 こうやってローナさんは耐えているんだね、いつも。


 お姉さんの侍女が配膳したお菓子も【毒物無効】しつつ、そろそろモモが爆発しそうなくらいぷくぷくになってきたので、お姉さんのつむじをティースプーンですっと撫でた。


「きゃああああああ!」


 うわっ大きい声。


 バターンと椅子ごと後ろに倒れてしまった。


 そんな驚く?

 ちょっとヒヤッとしたくらいじゃない?


 女の子たちが慌てて立ち上がってお姉さんを心配する。ローナさんは呆然として、アニエスさんはサッと顔を下に向けた。


 面白かったんだね。

 笑いが取れて良かったよ。


 お茶会はお姉さんがぎゃんぎゃん騒いで解散の流れとなった。


 ローナさんとアニエスさんは寝室に戻って、私とモモが姿を現して、何をしたかを説明したらようやく声を上げて笑った。


「も、もう!サイトー様ったら、そんな可愛らしい悪戯を……」


 あっ、そこに笑ってるのか。

 ローナさんは優しいなぁ。

 お姉さんが倒れたときも呆然としてたもんな。


 落ち着いてから希望の商品を聞いて渡して、じゃあね〜とお別れをする。


 ミアさんのお洋服が気になっていたみたいで、もし可能だったら一着買いたいとのことだった。納期は設けないので急がないで欲しいと言付かった。


 採寸表をアニエスさんから受け取って、ついでにアニエスさんにも【危機察知】を【付与】したアンクレットを渡しておく。

 ブレスレットだと侍女がアクセサリーをつけてることになんか言われるかもしれないから、隠せるようにアンクレットにした。


 アニエスさんがこそっとメモを渡してきた。


 ドレスはもし可能なら、一ヶ月後にある第一王子様のお誕生日パーティに間に合ったらとても助かります、もしくは代理で購入して届けて頂きたいです、と書いてあった。

 遠慮してローナさん言わなかったんだねえ。アニエスさんが守ってくれているんだね。



 村にそのまま【転移】して、ミアちゃんにお姫様からの注文を伝える。

 恐れ多いと焦っていたけれど、作ってみたい気持ちはあるというのでとりあえず一着作ってもらう事にした。

 第一王子様のお誕生日パーティに間に合わない場合は、私が作って渡してもいいな。

 装飾が派手すぎるものは上のお姉さんにかなり叱られるから、控え目だけど品のあるレースのドレスがいいみたい。


 そのままの流れで作った倉庫の鍵を渡す。

 見に行ったらビックリするだろうな〜。


 村の様子を見て回る。

 みんないろいろやってるね。


「サイトー様だ」

「おーい!サイトー様!」

『マスター呼ばれてますね』


 サイラスさんちの前にいた男性二人が手を振っていたので、寄っていく。


「どうかしました?」

「この紙おむつってのは普通のごみと同じでいいんですか?」

「そうですね……よし、焼却炉を作りましょう」

「しょうきゃくろ?」


 村からちょっと離れて、焼却炉を作る場所を決める。

 村長がレンガで窯を造ってたし、焼却炉だってあっていいよね。


 レンガの焼却炉を設置する。仕組みと使い方を教えて、周りにレンガの壁を作る。

 開閉式の柵を設置して、鍵を掛けた。


 子どもたちが間違って入ったら危ないから、管理は大人がするように頼んだ。

 焼却炉の管理人も決まったようだ。


 大丈夫?ちゃんとみんな休んでる?

 ローテーションしてねってシフト制とかやり方を教えたけど、大丈夫かなぁ。

 みんな働くの好きだよね。


 宿屋に顔を出すとアローニャさんから相談を受けた。

 お姫様の騎士たちや商人ギルドの二人が、宿の部屋を見学したいと言って見て回ったそうなんだけど、ちょっと質素すぎるかもという感想だったらしい。


 最初はあまり浮かないようにって気を付けながら作ったから、かなり地味ではあるんだよね。


「絵を飾ったり花を飾ったり置物を置いたりする?」

「花はまだしも絵や置物は高価じゃない?」

「じゃあ家具を少し良いものに変えちゃいます?」

「私たちはサイトー様に頼り過ぎなのよ。アイデアが欲しいだけだから、あれこれし過ぎないでくださいな。充分頂いてますよ」


 楽しいからいいんだよ〜みんな大袈裟なくらい喜んでくれるし。


「あ、タペストリーはどうですか?」

「タペ?」

「壁に掛ける刺繍のことです。刺繍絵画とも言いますね。ミアさんとハリサさんが作ってくれるんじゃないかな」

「良いわね!ふたりにお願いしてみるわ」


 と言いつつ〜お部屋の調度品を少しグレードアップ。


『流石に低反発まくらは……』


 アローニャさんは無言で見てた。

 何も言わず、ただ見てた。

 わはは。



 浴場も見に行く。

 マリリンさんがカウンターでごそごそ作業している。気付いてにっこりしてくれた。


「サイトー様、ご利用ですか?」

「いいえ〜様子を見にきたよ。欲しいものとか困ってる事はない?」

「そうねぇ、この間来た商人ギルドの女性の方が、お化粧直しができるような所があったら助かると言ってましたね。脱衣場は他の人の邪魔になったりしないかしら〜って」

「なるほど。それは思い付きませんでしたね」


 スキル【施工】で脱衣場にパウダールームを増設する。


「あ、もしかして、鏡って高いですか?」

「かなり高価ですね」

「わあ」


 まぁいっか。

 問題が起きたら撤去するか違うものを置きましょう。


 マリリンさんにしょうがないわみたいな顔された。ごめんね、度合いが分かんないんだよ〜。

 難しいよ〜。


 洗濯場はサイラスさんが育休中なので、マーヤさんが仕切っているようだ。


 育休とってくれてよかった〜。

 サイラスさんちの赤ちゃんは名前をいま必死にサイラスさんが考えている所だそうだ。

 絶対サイラスさんめろめろになるよなぁ。


 赤ちゃんグッズをいろいろまた【製作】で出して、木箱に詰めてサイラスさんちの前に置いておく。

 サイラスさんがお家から出てるのを見かけたら木箱にいろいろ詰めたよ〜って伝えておいてね、と近くの人にお願いした。


 さぁてパトロールも終わったし、お家に帰ろうかね。


 途中、エルヴァくんにあったので元気の報告嬉しいよ〜と言ったらボタン連打してくれた。


 目の前におりますよ〜居ないときにやってね。

 嬉しいけども。


 ハロルドくんのお父さんともちょっと話したけど、私はハロルドくんの将来が心配だよ。

 ずっと閉じこもっていろいろ作っているらしい。研究と開発に熱中しまくっている。



 数日わりと平和な日が続き、ログハウスでモモとトランプで遊んでいるときにハッと思いだした。


「おはなしダケ!」

『すっかり忘れてましたね……』


 取りにいこう。

 おはなしダケを迎えにいこう。

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