第18話


 契約書にサインしてスティーナさんと村長が卸す数などを打ち合わせる間、商人ギルドの二人は浴場に案内することになったらしい。

 いってらっしゃーいと送り出して、用事がないかどうかを聞いて回る。


 そういえば誰もモモに突っ込まないなぁと思っていたら【透明化】していた。なぜ。


「どうしたの、モモ」

『メロちゃんを驚かせたくて……』


 そういうことか。

 よしよし、行っておいで。


「メローナさんと一緒にあとで村長の家においで」

『はい!』


 羽根はないけれど、走り方がぱたぱたしている。

 人間になってもかわいいね。


 村長宅で話し合いをしているスティーナさんと村長の横を通り過ぎて、2階のミアさんのお部屋に行く。部屋っていうか、もう衣装部屋になっているね。


「サイトー様!」

「お邪魔してもいい?」

「どうぞ!お茶を持ってきますね!」

「いいよいいよ、私が出すよ〜」


 スキル【製作】で紅茶を出す。

 紅茶にはあんまり詳しくないけどこれでいいかな。

 王族が飲んでいる紅茶だって。


「わぁ、素敵なかおり」

「ミアさんは紅茶も好きだよね」

「はい!とっても美味しいですよね、ちょっと高いけど……」


 むむむっと紅茶を見つめるミアさん。

 雑談しながらしばし癒やしの時間を過ごす。


「それにしてもお洋服が増えたねぇ。部屋狭くない?広げようか?」

「いいんですか!?」

「もちろんだよ〜というか、服屋さんでもする?」

「ふくやさん?」

「お洋服を売るお店」

「えっ、そんなっ、わたしなんてまだまだ!」


 いや、めちゃくちゃすごいもの作っているよ。

 ドレスとか何着も作れる子はこんな田舎に一人もいないよ。

 総レースのドレスなんてかなりすごいよ。


「お金の管理とか経営とかは村の誰かに任せてもいいし、ミアさんが勉強してもいいし。技術的な面ではとっくに一人前だと思うけどなぁ」

「ほ、ほんとうですか」

「本当だよ」

「お金の計算はマーヤさんがやってくれるかな?でもでも、マーヤさんは洗濯場のお仕事もやっているし……ハリサはまだ小さいし……」


 悩んでしまった。

 いらんこと言っちゃったかな?


「じゃあ、後からお店にできるような建物を建てておいて、そこを倉庫にするのはどうかな?」

「素敵……でもわたし、お店を建ているのにどれくらいのお金が必要かまだ分かっていないから……」

「プレゼントだよ」

「サイトー様……」


 よーし、頑張っちゃおう。

 下の階に気配が増えてきたな。

 商人ギルドの二人が戻ってきたっぽい。


「希望があったらそれに沿って建ているけど、なにかある?」

「ないです!おまかせします!……ありがとうございます」


 欲がないなぁ。

 ミシンとか布とか色々置いちゃお。

 ハリサさんも来るだろうし、仮眠ベッドも置いとこ。


「村のお土産屋さんの隣に建てておくからね〜あとで鍵も届けるね」

「ありがとうございます!楽しみです!」


【座標転移】で目的の場所に出る。

 近くにいたサイラスさんがびっくりしちゃった。

 ごめんよ〜。


 スキル【施工】でレンガを取り入れた大人しめのお店を建ている。

 二階建てにして上は作業出来る所で一階に服とか置けるようにしておこうかな。

 作業部屋とベッドルームとトイレと空き部屋を作って、一階はどんな感じにしようかなぁ。

 陳列棚とか気が早い?

 防犯対策もしておかないと。


「サイラス!サイラスどこだ!」


 呼ばれているよサイラスさん。


「急げ!セレナが産気付いたぞ!アローニャとマーヤがそばについている!」


 なんですと。



 サイラスさんの奥様、美女セレナさん。

 アローニャさんの宿屋をいつも手伝ってくれている。マーヤさんは洗濯場で働く女性の一人だ。


 女性陣がバタバタ走ってサイラスさんちに向かっていく。アローニャさんは店をほっぽりだしてきたからと交代して戻っていった。


 あれ?

 この村って赤ちゃん取り上げられる人いるの?



「ベラばあさんはどこだ!?」

「ボケてんのかサイラス!ベラばあさんは先々月神様のところに還っただろうが!」

「そうだった!」


 大丈夫か!?

 そのベラさんがいなくなったときに誰も出産のこと考えていなかったの?


 ああそうだ、衰弱していたんだ。

 村のみんな栄養失調であんまり元気なかったんだった。


 あーそうだよなー。

 そっか、出産が無事にできるようになったってこと、改めて強く意識できていなかったんだ。


「アローニャは!」

「店だ!」

「呼んできてくれ!」

「おい誰か!店番変われないか!アローニャだ!アローニャを呼びたい!」

「はっ!そうだ!サイトー様!サイトー様だ!お知恵を貸してもらおう!ボタンだ!赤を押せ!」


 いるよー。

 いるから行くよー。


「みんな落ち着いて〜村の女性の人達に出産が始まったって知らせて回って手伝って欲しいって伝えて。仕事がある人の分は交代してあげて」


 おおおおと言いながらみんな出ていく。

 いや、サイラスさんはどっか行くなよ。

 まぁいてもあれか……。


「セレナさーん。セレナさん、聞こえます?」

「サイトーさま……」


 つらそうだ。でもどうしようね、スキルに出産関連はないんだよな。当然か。


 出産の知識がないよ〜。

 子供を産んだことがないんだよ〜。


 えーっと、お湯とかたくさんいるみたいなのは聞いたことある。あとはなんだ。


「あらあら、お産まれになられるのね。痛みはどの程度で来ているかしら」


 救世主が来たよ。

 メローナさん、助けて。モモ、助けて。


「マスター、メロちゃんにお任せしましょう」

「うんうん」


 支持されるがままに色々【製作】する。

 大きい布って言われたけどタオルでいいよね。一番いいやつ出そう。バスタオルをドサドサ。


 背中をちょっと上げるのかな?

 メローナさんが背中を支えている。


 えーい、ベッドをリクライニングつきに交換!

 角度はちょっと斜めくらいがいいんだね。なるほど。

 このボタンで操作してね。

 メローナさんが動じていない。助かる。


 呼吸を指示したのかな、一定になってきた。


 わー!叫んでる!セレナさーん!


「大変、もう会えるわ。我慢していたのね、セレナ」


 ずるんって出てきた!

 えー!赤ちゃんだ!!

 苦しそう!いっぱい水が出ている!


「ふえええん!」


 泣いたー!!


 メローナさんが慌てず騒がず、タオルでやさしく赤ちゃんを包んでメローナさんの胸に載せた。


 お腹を押している?なんか出している?


 そして横からへその緒をちょっきん!

 そこで切っていいんだ!?


『マスター!【平癒】します!』

「ここでしていいんだね!」


 モモがスキルを使う。

 セレナさんの顔に血色が戻った。


 そっかぁ、出産って大事故にあったくらい身体にダメージがあるって言うもんね。

 出産したあとは身体がボロボロなんだね。


「すごいね……」


 圧巻だった。

 メローナさんの手際もよくて、周りの女性陣のサポートもサッとしてて、すごかった。


 赤ちゃんはふぎゃーと泣いている。


 セレナさんの身体を拭いたりきれいにして、サイラスさんが部屋の中に呼ばれた。


「お、女の子か、ああ、なんてかわいい、かわいいなぁ」


 泣いちゃった。

 いや、泣くよね。すごいもん。


「部屋を片付けたり着替えたりするから。ほら、出ていって」


 さっさっとアローニャさんに追い出されちゃった。

 めちゃくちゃ名残惜しそう。

 でもセレナさんがお洋服ちゃんと着れていないからね、ちょっと色々やらなきゃね。


「サイトー様、治して下さったのね。良かったわね、セレナ」

「はい……ありがとうございます」


 全然いいんだよー、おろおろしちゃってごめんね。



 赤ちゃんのベッドとか作ろう。

 汚れたタオルもベッドもまるごとスキル【ごみ箱】にぽい。

 みんな頑張ってくれたから後はやらせて。


 新しいベッドはクイーンサイズにしよう。

 赤ちゃんは小さいうちはベビーベッドがいいよね、寝返りとかで潰しちゃいそうだもんね、サイラスさんが。


 ベッドに、遊具に、お洋服に、お部屋にはクッションフロアを敷いて、固くないようにして、ふわふわのラグを敷こうね。

 危ないものは周りにないかな、大丈夫かな。

 おむつとミルクと、あとはなんだ。


『マスター』

「うん?」

『……みんながびっくりしてしまいます』


 あっ、こっちは粉ミルクとか紙おむつないのか。

 あちゃあ。



 赤ちゃんは可愛いけど家族の時間が一番大事だよね。

 プレゼントをたくさん置いて、粉ミルクと紙おむつは使い方を教えて、サイラスさんちを後にする。かわいかったなぁ。


「あ、みんな。こちら、モモ。私の娘です」

『誤解されますよ……。初めまして、モモです。マスター、サイトー様のお手伝いをしています。宜しくお願いします』


 みんなびっくり。

 かわいいもんね、びっくりするよね。


「これから村にも沢山くるから仲良くしてくれたら嬉しいです。他の人にもモモのこと伝えておいて欲しいな」


 ぱちぱちぱち。拍手くれた。



 セレナさんの出産で大騒ぎになっちゃったけど、商売のほうは話がまとまったみたい。

 スティーナさんが立ち会えなかったことを悔やんで泣いてしまった。

 リクドールさん、慰めを頼むよ。


 乗ってきた馬車に特産品をみんなで積んでいく。


 我が子が旅立つみたいな気持ちだよね。

 売りに行ったときとは規模が違うもん。

 みんな見送っている。


 温泉が気に入った商人ギルドの女性の職員さん、ウィランナさんが絶対また来ますと言っていた。

 お客さんがこれから増えそうだね。



 ログハウスに帰ってきて晩ごはん。

 今日はすごい瞬間に立ち会えて光栄だったなぁ。


 モモときゃいきゃいしながらお風呂に入って、お互いに【ボディケア】を掛け合う。

 とっても気持ちよく就寝した。



 目覚めて村からの通知が来ていないことを確認して、練習場に向かう。


 またいくつか魔法をとるぞ〜。

 次はなんにしようかな。


【空間収納】はスキル【倉庫】の劣化版って感じだけどカモフラージュとかに使えそうだし、一応とっておいた。

 龍神族の時魔法は【時空間転移】とかあるんだけど、制限が多いし別に今の所は使う必要がないなぁ。

 どうしても、となったらスキル【時空移動】があるし。こっちは制限がない。たぶん使わないけど。



 夕方まで色々やってハッとする。

 まだ一度も通知来ていないけど、もしかして壊れた?

 そんなことはないよな。音沙汰がないと不安だな。

 と思ったらエルヴァくんからの元気だよ通知が来た。

 うわーん、ホッとした。


 夜になっても呼ばれない。

 おお〜村が安定している。

 ちょっとそわそわしながらモモと就寝。


 次の日、初めてのお姫様からのお呼び出しがあった。

 呼び出されるとちょっとホッとするようになっちゃったの、もしかしてワーカホリック?

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