第17話


 メローナさんちにモモをお迎えに行くと、モモは飛び付いてきた。


『マスター!心配しました!』

「ごめんよ〜お話しして来たよ〜」


 よしよしと抱っこして、メローナさんにご挨拶。

 朝早くから大変だったよね、みんな。


「サイトー様……」


 メローナさんがめちゃくちゃ申し訳なさそうな顔をしている。

 あれ?あ、そうか!


「メローナさんってメザイア連合王国の出だったりします?」


 お姫様とおんなじ紫の瞳。

 お姫様を見たときに、うん?って思ったんだよね。

 なんか既視感があったのはメローナさんと瞳の色が同じだったからか。

 メザイア連合王国には紫の瞳の人が多いのかな。

 この村には紫はメローナさんだけだから、珍しい色なんだろうと思っていた。


「サイトー様、わたくしは……あなた様に申し訳が立ちません……」


 ええ、どういうこっちゃ。

 モモはしょんぼりしている。


『マスター、メロちゃんは先々代のお妃さまで……』


 まてまてーい。

 なんでそんな人がこんな小さい村で生活していたんだ。


「故国では死んだことになっておりますの。わたくしが出てゆけばきっと解決致しましたのに、わたくしは我が身可愛さに何もせず、どうお詫びした良いか……」

「モモが止めたんじゃないですか?」


 こくこく頷くモモに分かっているよ〜と頷いた。


 メローナさんのことを守ってくれたんだね。

 偉かったねぇ。


「メローナさんがここに居ること、バレると良くないんじゃありませんか?」

「……ええ」


 なにか事情があるんだろうし、この感じだとモモには話しているっぽいな。


「気にしないで下さい。メローナさんが危険な目に合うとモモが悲しむし、お姫様とは話して問題は解決したので大丈夫です。万が一、またメザイア連合王国の人が来たとしても同じようにじっとして外に出ないで隠れて居てください。モモ、【施工】で地下を」

『かしこまりました!』


 メローナさんが絶対に見つからない場所を作っておこう。備えもモモに任せる。

 私よりモモのほうが気が利くから全部任せて大丈夫だろう。


 モモがメローナさんちをいじっている間に、今日の話の経緯をメローナさんに伝えた。


 メローナさんは3歳で王位継承順位が二位の王子様の話を聞くと「なんとも情けないこと」とため息を吐き出した。


 そうなったのは先代からのようだ。

 メローナさんの孫が今の王様なのかと思ったら今の王様は側室が産んだ人らしい。

 メザイア連合王国の王は一夫多妻制で、きちんとした血筋からであれば側室を持つことが出来るとのこと。

 しかし、正妃以外の子供は非嫡出子として認めらない仕組みだったのが、メローナさんの代で変わった。

 メローナさんはその変革の争いに嫌気が差して、誰にも言わず姿を晦ましたそうだ。


 どこに向かっているかも分からないような状態でひたすらに限界までひとりで歩き続け、シュレト村と街の中間くらいの外れたところで行き倒れ、シュレト村の人に拾われたらしい。


 拾ったのはサルートさんという人で、嫁探しの為に街に向かっていたとか。

 メローナさんに一目惚れして、連れ帰ったあと必死に口説いたそうだ。

 メローナさんは自分の身なりがボロボロになっていることをよく分かっていて、そんな状態なのに一目惚れしたというサルートさんがおかしくて次第に好きになっていたのだと話してくれた。

 もう良い年なのにそれでも良いのかと、秘密も多く、過去には子も産んだことがあると説明したけれど、それでもと言ってくれたそうだ。


 えーいい話過ぎる。


 メローナさんなんとお歳は82歳、全然そんな歳に見えなかったから驚いた。

 20年ほど前にサルートさんに先立たれて今は独り暮らしなんだそうだ。

 国から逃げてきたのは30半ばの頃とのこと。

 信頼できる家臣も居なかったのか、それとも居たけれど一人きりで出てきたのか。


 色んなことがあったんだろうな。

 だけど、メローナさんはいま幸せそうだ。

 サルートさんのおかげかな。


『マスター、メロちゃん、隠れ家の建築が終わりました。地下に小部屋を作って、そこから通路を作って森に繋がるようにしました!森の中に隠れ家を作りましたので、メロちゃんは安全です!』

「森に隠れ家つくったの?」

『あっ、マスター、あのっ、ごめんなさい、だめでしたか?勝手に、すみません』


 ハッとして急にうるうるフェアリーになったので、慌てて抱っこする。


「ううん、良いんだよ。そうじゃなくて、発想が素晴らしいなと思っただけだよ」


 泣かないで〜。

 モモが何か悪いことをしたとしても、全部許す自信だけはあるよ〜。


『勝手にごめんなさい……』

「いいんだよ〜メローナさん、私が住処にしている森にモモが隠れ家を作ったそうです。いつでもご利用下さいね」

「まぁ……!ありがとうございます」

「いえ、こちらこそモモのこと、ありがとうございました」


 隠れ家にもスイッチ置いとくかな?

 モモがもう設置したかな。


 長居するとぺこぺこお礼合戦が始まってしまうので、手を振ってお別れする。


 メローナさん、結構ご高齢だったんだなぁ。

 どーしよう、寿命がきたらモモが絶対に泣いちゃうよ。

【不老不死】を【付与】したらやばいかなぁ。

 やばいか。流石に良くないか。危ないぞ。


 ログハウスに転移して、ビーズソファーにだらーん。

 早朝からバタバタしたからお昼寝しても良いね。


『マスター、お休みを下さってありがとうございます。本日はどのようにお過ごしになられますか?』

「お仕事モードのモモだ〜」

『朝ごはんはお食べになられましたか?』

「あっ、忘れてた」


 スキル【製作】で高菜おにぎりと赤だしの味噌汁を出す。ゆで卵も出した。


「モモは食べた?」

『メロちゃんが用意して下さいました。パイを焼くのがお上手で、昨日焼いたパイを温めていただきました』

「いいな〜美味しそう」


 もぐもぐおにぎりを食べて久しぶりのお米の食感を楽しむ。


 お味噌あったかーい。おいしー。


 さてさて。

 お姫様に販売するやつは容器を新しく作らなきゃいけないよね。


 メザイア連合王国はガラスが作られているのかな。

 スキル【歴史書】でメザイア連合王国を確認する。

 ガラスに似たようなものはあるみたいだな。

 色を混ぜて使うのが主流ってことは純度が高いものが作れないのかも。

 樹脂を使った加工品など、色々あるな。

 さすがは連合王国。

 じゃあプラスチック容器でもいいかなぁ。


 スキル【製作】で可愛いボトルを選ぶ。

 お姫様っぽいやつってなんだろうな。

 ジ○スチュアート?

 うっわぁ可愛いなぁ。

 モモ用にも作っておこう。


 お姫様に渡すスキンケア系の入れ物はこれで良いね。喜んでくれるかな〜。

 お菓子も可愛くラッピングしよう。

 可愛いものって良いよね。目の保養だよね。


 ふんふんふ〜んと鼻歌交じりに作業していたら、モモがぴとっとくっついてきた。


 どうしたどうした〜。


『マスター、モモにご指示はありませんか?』


 あれっ、寂しくなっちゃってたか。


「よし、モモに指令を与えよう」

『はい!』

「スキル【種族変更】で人間になってみて」

『こうですか?』


 ああ〜可愛い〜最高すぎる〜!


「5歳くらいの子に見えるね。妖精族のときの姿よりちょっと大人になったみたい。そのままスキル【外見変更】で10歳くらいになれる?」

『可能です、マスター』

「よしよし、その状態で与えられているスキルは問題なく使えるかな?」


 モモがステータス画面を出して操作してみる。

 いけたっぽいな。


「モモ、その姿だったら村のみんなと話してもいいんじゃないかな。お手伝いをしてくれる?」

『かしこまりました』


 うわーん可愛いよ〜。

 お膝に座って欲しいよ〜。


 腕を広げたら来てくれた。お膝に乗せて抱っこする。おっきいのもいいね。


『お手伝いとはこのことですか?』

「ううん、これから村でってことね。抱っこは癒し補給」


 わはは〜。

 されるがままで離れないでいてくれるモモに癒やされながら、お菓子のラッピングをして行く。


「でもあんまりにも可愛すぎて誘拐されちゃうかも」

『わたしはマスターとほぼ同じスキルを与えられておりますので、どうにでもなりますよ?』

「怪我とか嫌だよ〜」

『しません、大丈夫ですよ、マスター』


 なでなでしてくれる〜やさしい〜。


 作業が終わったので完成品を【倉庫】に仕舞う。


 ありゃ、鳴ってますね。


「モモ、そのまま一緒に行こっか。村に来て〜だって」

『かしこまりました、マスター』


 村長宅に【座標転移】すると外がやんや言っている。今度はなんだろうねぇ。


「この人たちは村に入れなくていいのよ!村長さまに失礼を働いたのよ!許せないわ!」


 スティーナさんだね。怒っているぞ〜。


「けどよ、謝っているしなぁ」


 サイラスさんが困り顔。

 リクドールさんがこっちに気付いてスティーナさんの肩を叩く。


「サイトーさま!」

「スティーナさん、随分早く来て下さったんですね。ありがとうございます」

「いいえそんな!本当は準備をきちんとして来るつもりだったのに、この人たちが先に行こうとしたから慌てて追い抜いたの」


 怒った顔をして睨みつける先には、商人ギルドで嫌な感じの対応をした人が立っていた。

 眼鏡を掛けたキツそうな顔の男性だ。隣にはあの時気遣わしそうにこちらを見た女性の職員の人もいる。


「いや、その際は失礼しました。品を確認もせず、本当に申し訳ない事をしました。ぜひ、こちらの村の特産品を取り扱わせていただきたいのです」


 なるほど。

 スティーナさんがあの後からすぐさま駆け回って売ったり宣伝したりしたのかな。

 それをどっかで知って、村にすぐ向かった訳だ。

 スティーナさんはそれを知って追い掛けてきて、地の利を活かして先についた、みたいな感じ?


「サイトー様、わたし、他の方に真似したものを登録されて権利を取られてはならないと思ったので、商人ギルドに商品の登録をして権利を村のものにする手続きをしに行ったのです!そうしたら、話しているうちに、この人ったら村長さまを追い返したなんて言うの!信じられなかったわ!登録してさっさと引き上げようと思っていましたら、村に行く用意なんて隠れてしておりましたのよ、本当に厚かましいわ」


 スティーナさんが激怒しているからか、村人はまぁまぁと宥める気持ちになっているらしい。

 でもスティーナさんみたいな人が居てくれないと、みんな騙されたり搾取されたりしたと思うよ、スティーナさんを大事にしてね。


「それで、権利の登録って終わりました?」

「ええ!サイトー様、全て登録して来ました。おなじ物は今後誰も許可なく作って販売することが許されません。登録した商品を売りたい場合は、必ず許可証に村長さまのサインが必要となります!」


 完璧な子がここにも居るな〜スティーナさん本当にこの村の人の特徴出てるな〜。


「ガイルさん、独占契約の話はしましたか?」

「もちろんです」

「それを知ってなおって事ですね」

「本当に信じられない!」


 ぷりぷりスティーナも元気があっていいね。

 リクドールさんが背中を擦って落ち着かせている。

 ポルテみたいな扱いしているな。


「リクドールさんのご両親は今回のこと。なんと言ってました?」

「父は出来るだけ確保したいということで、もし可能であればギルドの方にも少量で良いので卸してほしいとの事でした。母の方もマリリンシリーズを定期購入したいと」

「村を行き来することは許されたと言う事ですね?」

「はい。今後は三日に一度の頻度で村に通うことになりました」


 ペース早いな。疲れないか?


「それなら、特産品を村から直接卸すのは独占契約をしているスティーナさんの所だけですが、スティーナさんから買い取って売るのはアキサルの街の冒険者ギルドと商人ギルドも可能という形でどうでしょう?」

「サイトーさま!そんなお優しいことを!」


 優しくはないと思うよ。


「冒険者ギルドと商人ギルドはスティーナさんから提示された金額で買って下さい。その金額がスティーナさんが仕入れた価格よりいくら高くても、スティーナさんに文句を言う権利はないと思って下さい。そして、スティーナさんも直接販売しますが、販売行為を絶対に妨害しないで下さい。契約書にその旨も書きます」

「問題ありません。宜しくお願いします」


 商人ギルドの二人がスッと頭を下げた。

 スティーナさんはむっと唇を閉じる。飲み込んでくれたんだね。


「契約書は私が作りますね。なにか間違いがあってはならないので」

「サイトー様、スティーナの提示する販売価格に上限をつけては頂けませんか?」

「えーっと、私、あなたのお名前聞きましたっけ?」

「すみません、ハザルと申します。商人ギルドのギルド長補佐をやっております」

「どうも、ハザルさん。私はサイトーと言います。それで、スティーナさんとはどういうご関係で?」


 きょとんとハザルさんが見つめてくる。

 いやいや、呼び捨てしていたから、知り合いなんかなと思って。


「い、いえ、関係というか、申請などを受けたことは数回ありますが……」


 スティーナさんがぷーんとしてつっけんどんに言う。


「顔を合わせたので今日を含めて四回ほどです!」


 とくに知り合いでもないわけね。


「じゃあスティーナさんと呼んで下さい。お取り引きされるなら関係は良好な方が良いと思います」

「は、はい。申し訳ない、スティーナさん」

「……今後は気を付けて頂けたらいいです。価格の上限はどのくらいがご希望でいらっしゃるの?」

「商品価格から30倍までと……」

「サイトーさま、どうでしょうか?」


 いやそれだいぶ取るな。

 良いのか?それで良いのか?逆に?


 ぶっとび過ぎて分かんないから好きにしていいと思うよ、そのあたりは。

 スティーナさんは絶対に村に損をさせないだろうから、村が大金持ちになってみんなたぶんお金の使いみちが無くて困っちゃうよ。


「スティーナさんの良いようにして、ね、ガイルさん」

「そうですな、お師様。苦労を掛けることになる、スティーナの良きように」


 本当に30倍でいいのか?良いんだな。

 怖いわ。



 契約書は王都から取り寄せるとか言ってたけど、待っているあいだにまた問題なくが起きそうだから私が作るよ。


 えーっと、契約書は聖魔法の【制約】を付与魔法で【定着】させて作るのね。

 内容を魔力を含ませたインクで書いて、名前書いて血液で捺印ね。

 こっわぁ。


「冒険者ギルドの方はリクドールさんに任せます。身内同士だし、きちんと話し合ってから決めたいですよね?」

「いいえそんな、両親のことは気にしないで下さい。ご配慮いただきありがとうございます。契約書が出来次第、署名・捺印して村の方にお持ちします」

「ちなみに疑問なんだけど、これ署名・捺印している人が死んじゃったら無効になる?」


 ハザルさんがヒッと喉を鳴らした。

 違うよ、村長の寿命を心配しただけなんだよ。


「片方が死去した場合、契約は無効になります」


 リクドールさんがちらっとハザルさんを見たあとに答えてくれる。


 なんか誤解してない?

 ハザルさんに別になんかしようとかいうことではないからね?


「じゃあ念の為に独占契約の契約書をエルヴァくんとも交わしておこうか」

「エルヴァですか?」


 村長が不思議な顔をして聞いてきた。


「ガイルさんが死んじゃったら契約が無くなっちゃいますよね。エルヴァくんはまだ6歳ですから、村長より長生きしますし」


 そんな真っ青にならないで。



 この世界では契約書は破棄されたらまたその時の状況に応じて結び直すものらしい。

 領主とか王族とかは予め死去した時はこうするようにという文言を追加していたりするんだとか。


 村人の契約でそういう先のことを考えるのは一般的じゃないらしい。


 ええ〜備えあれば憂いなしだよ。

 まぁでもそっか、エルヴァくんが村から旅立って居なくなることもあるかもしれないもんね。


 勝手に村長候補みたいにされたら嫌だよな。

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