第16話
村長とこそこそ話す手段がないの困るなぁ。
どう考えているかはこの場ですぐ聞けないから援護ができない。
【念話】を【付与】したろうかな。
だめかな。びっくりして死ぬかもしれない。
めちゃくちゃこっちを見るじゃん。
いやいや、チワワみたいな動きをされても分からないよ。
「えーっと、特産品はアキサルの町に住んでいるスティーナさんが窓口となって販売していく予定ですが、そちらから購入できるようになるまで待てないということですよね」
「え、ええ」
普通に話しかけたらまずかったかな?
この人は……?みたいな顔をされた。
「待てない理由はなんでしょう?」
「それは……」
「すまないが、詳しいことは話せない」
ヘルムさんが口出してきた。
「ではお売りできません。理由もないのに独占契約を無視したとなると、ガイルさんが責められることになりますから」
ならんけどな。
スティーナさんは良いっていっているから。
「しかし……」
ヘルムさんが黙っちゃった。
この世界の人たちにとって常識であることが私の中では常識じゃないから、なにをそんなに隠したいのかいまいち分からないんだよなぁ。
わけがあるなら話してくれたら協力できるかもしれないし。
「ヘルム、皆を連れて下がりなさい。アニエスも」
「姫様、なりません!」
あっ、姫様って言っちゃった。
【毒察知】の子がアニエスさんで【豊穣】の子がお姫様かぁ。
スキル欄しかさっき見なかったから名前も歳も見てないんだよね。名乗れないっていっているし、見たらやっぱまずいかな?
「……アニエス」
「も、申しわけありません」
顔面蒼白になったアニエスさんをヘルムさんがすごい睨む。
怖いよー。やめてよー。
争わないでー。
お姫様ひとりを残すなんてと周りはしつこかったけれど、お姫様は名前を何度も呼ぶことで従わせてしまった。
ヘルムさんは「扉の前におりますので」と怖い顔して出ていった。
タイミングを見計らっていたのか、ミアさんが入ってくる。
お茶ありがとうねえ。
モモチャンを乾燥させて刻んで紅茶と混ぜてから淹れたやつだね。
紅茶の茶葉は買ってきたなかで、とびきり良いやつを選んでくれたんだね。
優しい〜ミアさん〜。
「ありがとう、ミアさん」
ちょっと緊張気味の顔をしていたので声をかける。
えへへと笑って一礼して応接間を出ていった。
自分で作った刺繍のワンピースを着ていて、お姫様はミアさんの服から目を離せなかったようだ。
可愛いよね〜すごいよね〜。
「孫のミアです。村では裁縫をしとります。お茶は召し上がらなくても構いませんからな、よきように」
アニエスさんがたぶん毒見役なんだろうね。
今は追い出しちゃったからお茶飲めないか。
「いいえ、頂きますわ。折角淹れてくださったのですから」
ちょっと怯えている。
無理しなくてもいいのに、でもお茶は美味しいよ。
自分の家みたいにのんびり寛いでお茶を飲んでしまった。
村長の家に泊まっていることが多いから、自然と気が緩んじゃうんだよね。
お茶を飲んだお姫様は驚いて飲み干しちゃった。
ちょっと甘くて口当たりまろやかだし、フルーティーな香りで飲みやすいよね。
「この紅茶も特産品として売っていらっしゃるの?」
「いえいえ、これはミアが好き勝手に配合しとるお茶ですから、売り物じゃありません」
「そうなのね……とても残念だわ」
「護衛の方を下がらせて、なにか、お話しがありましたかな」
村長が聞くとお姫様は頷いて茶器をおいた。
「わたくしは、ここから西にあるメザイア連合王国の王家の血を引いた一族の者です。ですが、王位継承順位が現在最下位ですので、名を名乗ることを許されておりませんの」
王族のお姫様か〜。
「王位継承者は現在、六名となっておりますが、非嫡出子には継承権が発生いたしませんので、全員が死亡しない限り、次代の王はこの六名の中から選ばれます」
可愛い女の子の口から出てくる単語じゃないよ。
急に怖いよ。そして話が難しいよ。
「現在、我が国では王位継承順位を年齢ではなく、魔力の多さとスキルの有用性によって決めております。わたくしは最下位となっておりますので先ほどお伝えした通り、外で名乗ることを今は禁じられております。申しわけありません」
そういうことだったんだね。
名前を言いたくても言えないんだね。
「そして、急いでいる理由ですが……」
うんうん。
あれ、村長、生きている?
気絶してない?
「自国に帰った後、わたくしには監視の者がつきます。購入品が検閲、制限されることになっており、身に余ると判断されたものは他の者に与えられ、手元に来ることはありません」
ええ〜なんか意地悪なことされているね。
なんでそんなことするんだろう。
「3歳になる弟が現在二位となっており、弟を王位につけたい勢力が特に過激な動きをしておりますの」
王子様だね。ぷりぷりかな、むちむちかな。
3歳で二位ってすごいスキルがあるのかなぁ。
「姉の手の者も多く、公式に輸入した品などは姉の方へ運ばれてしまいます」
「それをとめる人はいない?」
「……ええ。わたくしが、最下位ですので」
「助けてくれる人は?」
「残念ながら、支援者は……」
要はこのお姫様にだけ後ろ盾がないからいじめられているってことかな。
「モモチャンの実を食べたあと、魔力が増えた気がしましたの。フィナンシェも、じんわり魔力が回復するような感覚があって……」
うんうん。
魔力回復と魔力の上限値を上げる効果があるらしいね。
魔力回復は聞いてたけど、上限値が上がるって言うのはあとから知ったよ私は。びっくりだよ。
だけど、お姫様の抱えている問題はちょっと複雑な感じがする。
「食べたあとは驚くほど気分が良くなって、久しぶりに本を読んだり食事を楽しんだりする余裕が生まれましたの」
ヤバい薬みたいに言うな。
でもそうだよね、そうなっちゃうよね、お姫様のいまの状態だと。
「お姫様、失礼ですが足につけているアクセサリーってどこで購入したものですか?」
「えっ、なぜ、ええっ?」
ブーツ履いているから見えてないと思ってたよね。
ごめんね。魔法が掛かっているものだなぁって察知しちゃうんだよね。
たぶん村長も気付いてたと思うよ。
なんか足に魔道具ついているなって。
「それ、【魔力放出】が【付与】された魔道具ですよね。魔力を体外に勝手にもらしてますけど」
スキルじゃなくて魔法で作ったっぽいな。
不安定な効果だ。
闇魔法の【魔力放出】を付与魔法の【定着】でアクセサリーに付与しているんだけど【定着】の技術が不安定だから【魔力放出】の出力が指示通りに行ってない。
だけど、指示通りにもし【定着】できていたら、お姫様はこのアクセサリーを付けた時点で体内魔力が全て体外に放出されて死んでいたと思う。
スキル【付与】は間違えないけど付与の魔法は使い手の技術でこういうことになるんだな。
今回は助かっているけど。
「これはわたくしの誕生祝いの日に侯爵家から頂いたプレゼントで、幸運のお守りと……身に付けているだけで幸運値が上がるといって……」
邪悪なプレゼントだなぁ。
誕生日にそんなもんをプレゼントすな。
可哀想だろ。
「その侯爵家ってお姫様と仲が良いんです?」
「侯爵様は弟の支援者です……」
わあ。駄目だ。
「壊しましょう、そんな邪悪なものは。いや、むしろその通りに作り変えましょうか。外したらなんか言われそうですよね」
「え、ええ、つけているかたまに聞かれますけれど、そんな効果だったなんて……」
とりあえずさっさと作り変えよう。
「私一応性別は女ですので、ご安心ください〜。ブーツ脱いでもらっていいです?」
あっ脱ぎ方分かんないっぽいな。
アニエスさん呼んだらお姫様に無礼なことしないでって展開になっちゃうかな?
呼ばないほうがいいかな。
「脱がしてもいいです?」
「お、お願いいたします……」
お姫様だんだん言葉が丁寧な感じになってきた。
ぽいっと脱がせて分厚いタイツみたいなやつをちょこっと引っ張ってスキル【ごみ箱】する。
お姫様を消しちゃったら大変なので、タイツだけだよ〜と強く念じた。
タイツが消えたのでお姫様びっくりである。
これアンクレットって言うんだっけ。
輪っかに触れてスキル【魔法無効】を使ってみる。
これ物に付与された魔法にも適用されるのかな。されたな。
ただのアンクレットになったので、スキルを付与したい所だけど、持っているスキル【超幸運】がステータスの幸運の数値を10倍にするってスキルでやばそうな雰囲気がぷんぷんするんだよな。
めちゃくちゃ幸運になって欲しい気持ちはあるんだけど、どういう基準の幸運が舞い込むのかわからないからいったん避けたい。
スキル【危機回避】は危機を回避する手段がちょっと乱暴そうな気配がする。【完全防御】と似ているくさい。
スキル【危機察知】はどうかな。良いかも。
「【危機察知】を【付与】しますね。危ない方を選ぶと嫌な感じがするようになると思います」
なにがなんだかわからない顔をしている。
【付与】したので、製作でタイツを作る。
この世界のものにしたよ、ちゃんと。
「これ履いてもらっていいですか?」
村長をちらと見たものの、気絶していたのでモソモソお姫様が履いてくれた。
履き方わかんなかったんだろうな、不安そうだった。型通りに履いてみたんだね。あってたよ。
ブーツの紐はしめて結んであげた。ホッとしてた。
「さてさて、お姫様。実は私は魔法が使える人間でして」
でしょうね、という目をしてお姫様が頷く。
「特産品、もし持って帰ってもあれこれいちゃもんつけられて持って行かれそうだなと思いました」
「いちゃもん」
「言い掛かりですね。理不尽な理由とかつけて持っていきそうじゃないですか?」
少し考えて、お姫様は頷いた。
その可能性があると思ったんだろう。
「なので、通販という形でお取り引きしませんか?」
「つうはん、とは一体どのような……」
「通信販売と言います。お姫様が注文して、荷物が直接届くシステムです」
「そのようなことが可能でして!?」
「奪われないように使うぶんだけ。なくなったら注文して、遅くても翌日には届きます。それならお取り引き可能ですが、どういたしますか?」
特産品の数々は完成品をもらってあるので私の方で【複製】すれば良いし、村人と隣国の王族、しかも不遇なお姫様が取り引きをするのは村人に危害が及びそうで怖い。
「ぜひ、ぜひお願いいたします」
「その代わり、お姫様にちょっとお願いをしてもいいですか?」
「わたくしにできることなら」
「では、護衛の人やアニエスさんに説明をお願いします。私はその〜なんというか、色々できる魔法を持っていますが、護衛の方や他の人はきっと疑ったり、何故そんなことができるのかなど色々知ろうとすると思います」
「ええ、そうなりますわね」
「そのあたりをお姫様になんとかして欲しいのです。一つ一つを説明すると大変で、言葉を選ばずに言うととても面倒くさくて……」
苦笑するとお姫様はつい、みたいな感じで笑った。
「私にできる約束は一つです。お姫様に注文された物を、私が必ずお届けする、ということだけ。どうやって、とかそういうのはこれから考えますけど、何故できるのかってところはちょっと説明が面倒くさいです」
「わたくしもお約束します。深い詮索はしないこと」
助かる〜。
お姫様、やっぱり王族と言われたら納得できるなぁ。
「では、お話はこれで終わりにしましょう。帰り道に食べられるようにお菓子とモモチャンの実は私がプレゼントします。マリリンシリーズ一式も。村から購入したという事実がなければ、独占契約は破ったことになりませんし、私がお姫様に販売するものは容器を変えてバレないようにします」
「お心遣い、感謝いたします」
おっ、カーテシーだ。初めてみた。
気絶した村長をスキル【平癒】で治して、意識が戻るようおでこをペチペチする。
全然話を聞いてないじゃん。
「お、終わりましたかな?」
確信犯か。
ヘルムさんを呼んでまぁなんとか都合つけたけど大量購入はできないよ〜と伝えたら、どうやら特産品を餌にしてお姫様の支援者を見つけたかったらしく、渋い顔をしていた。
その辺はお姫様とあとで相談して発注数でなんとかするなり任せるよ。
とりあえずは帰ってね。
お風呂を体験した冒険者たち、ほかほかになって戻ってきた。
この人たちは実はお姫様を守る護衛騎士団だったらしく、それで装備が新しいものだったんだなぁと思った。
中古販売の冒険者装備を買ったらしいんだけど、汚れを気にして清潔にする癖が裏目に出ちゃったね。
色々聞きたがるヘルムさんを黙らせて、お姫様は馬車に乗って帰った。
帰る前に【製作】したネックレスを渡しておいた。
これはお姫様の座標を知らせるネックレスで、真ん中のボタンをポチッとしたらお姫様の座標が私の端末機に通知される。
通販の方法がちゃんと決まるまでは座標転移して注文を聞くつもり。
ボタンを押したら会いに行くから人気がないときでちょっと広めの場所で押してね〜と伝えてある。
お姫様は持ってきた対価を全て村に置いて帰った。
お金もだけど食料品や布など、村のみんなが喜ぶものがたくさんあった。
すごい急に大金持ちになってしまったので、村のみんなはお金の置きどころに悩んでしまって、村長に預けたがった。
なので、村長の自宅の地下をスキル【施工】で改造する。
牢屋とは入り口を別にして距離を開ける。
ちょっと歩くくらいの距離ができちゃうけどいいよね。
宝物庫を作った。
みんなの名前入りの金庫を作って、それぞれみんなの鍵を作る。
金庫を開ける時は鍵を指して何でもいいから一言言うこと。音声認識をつけたからそう言ったんだけど、キーワードで開けられると思った村人が難しい呪文みたいなキーワードを作ったりしてた。
鍵は各自保管するようにして、お金のことは解決。
ようやくモモをお迎えに行きますよ〜。
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