第14話

ポルテを2匹と馬車を1台。ポルテの餌を5袋。

野菜と穀物とお肉も運べそうなだけ。


みんなから頼まれた買い物リストを渡したら、リクドールさんが揃えてくれた。

スティーナさんは商品をどう販売しようか楽しそうに考えている。


リクドールさんと相談して、これだけの品を買わせてもらえるならご両親も文句は言わないだろう、言わせてたまるか、という話になったらしく、一週間後に村に商売をしに来てくれるそうだ。


スティーナさんは自分のところ以外にも売っても良いと言ってくれたけれど、村長はスティーナさんを窓口にすることで両親に束縛を許さない流れにしたいそう。


万が一リクドールさんが街から出るなと言われても、護衛を雇って自分だけは行くと強い意志を表明してくれた。

リクドールさんは真っ青な顔をしていたが。



週に一度は村に来るという契約をして、卸す数などは次に村に来たときにまた相談しようという話にまとまった。

良かったよ〜スティーナさんに出会えて。


クレイくんもいるし街探索でもするかな?と思ったら、村長はサッと帰る支度をした。


あ、そうか。

クレイくんのお母さんが町のどこかにいるんだもんな。



日が落ちる前に村に帰り着きたいので、来るときと同じ魔法で帰る。

門番がまた菓子を買いたいと声をかけてきたので、村長はスティーナさんのことを紹介していた。


村に戻るとみんなが家から出てくる。

ポルテは魔法で飛ばしたからかおびえていて、クレイくんと村長が一生懸命なだめてくれていた。ごめんって。


若い頃はポルテを管理していた、という村人のマティアスさんにポルテをお願いして餌などを運ぶ。

なるほど、だからマティアスさんのお家に馬小屋みたいなところがあったのか。

奥さんに先立たれてお子さんも町に行って一人で暮らしている無口なおじ様だ。

いつもは容器作りをしてくれている。


スキル【施工】で大改造をしていた時に、この場所はなくさないでほしいと言われたので修理だけしていた。

欲しい追加設備があれば付け足しますよ〜と言っておく。餌も【複製】しておいた。



手が空いている村のみんなを集めて、これからは定期的にスティーナさんが商人として村に来ることを伝える。

サイラスさんは怖い顔をして話を聞いていたが、奥様のセレナさんになだめられて落ち着いた。

村長が経緯を話したら納得したようで、しょうがないなと呟いている。

仲直りできたらいいね。



村のみんなをぼんやり見つめ、自分にできることは大体終わったのかなぁとちょっと寂しくなる。

スティーナさんは約束を破るようには見えないし、きっと来てくれるだろう。

定期的に村を訪れる人が増えたら、うわさが広がってみんなも忙しくなると思う。


「皆さん」


声を掛けたら、みんなが振り返ってくれる。


「忙しい日々が続きましたが、これで村もひと安心だと思います。スティーナさんが来てくれたら、その後は他にも人が来てくれるでしょう」


村長がごくりと唾を飲み込む。


「このあたりで私はいったん、村から出ようと思います。後のことをよろしくお願いします」

「そんなっ!」

「サイトー様!」

「行かないで!」

「やだよー!」


子供たちがわぁんと泣き出してしまった。


いったんだよ、大丈夫だよ。

常駐しないだけだよ。居候をやめるだけだよ。


「落ち着いて、居なくなるわけではありません。皆さんで村のことを切り盛りして、なにかあったら私を呼ぶような形にしようかなと思っています」

「やだー!」


エルヴァくんが駄々っ子になってしまった。


「お師様……」

「ガイルさん、これをみんなに渡しておきます」


スキル【創造】であらかじめ作っておいた腕輪を渡す。

ボタンが3つついていて、緑色、黄色、赤色のボタンがある。


「緑色は、何か相談したい事があっていつでも良いから来てほしいという時に押してください。黄色は今すぐに村に来てほしいときに、赤は生命の危機を感じたときに押してください。これは大人に全員分を配ります」


【複製】してみんなに行き渡るようにする。

次は子供たちだ。


「こっちの腕輪は子供たちに。青は元気だよということを伝えたいときに、いつでもぽちぽち押してください。会いに来てほしいときは大人にそれを伝えてね。赤は大人が近くにいなくて、私に助けてほしいときに押してください」


子供たち全員の分を【複製】する。

みんなに行き渡ったかな。


「間違えて押しても大丈夫です。そんなことじゃ怒らないので。とにかく連絡できる手段があることが大切なので、みんな持っていてください。腕輪は失くしても1日経つと持ち主に返ってくるようになっています。水につけても火にくべても壊れることはありません。盗まれたりしても盗った人を追い掛けたりしないで」


危ないことはしないで、と念を押す。


「では、これからはみんなそれぞれ頑張って暮らしてください。いつでも会いに来るし、相談にも乗ります」

「お師様」

「はい」

「今日はみなで、食事をとりませんか」

「いいですね」

「お師様に最大の感謝を。これからも、感謝を捧げます」


腕輪が心強かったのかもしれない。

悲しい顔ではなく、きりっとした顔をしている村人ばかりだった。子供たちも腕輪に興味津々だ。



初めて食堂にみんなで集まってご飯を食べた。

村人全員は入りきらなかったので、宿の外に椅子や机を運んだり、入れ替わったりしてみんなで楽しくご飯を食べた。


モモがずっと嬉しそうにあちこちに様子を見に行って、お気に入りのおばあさんであるメローナさんの周りをぱたぱた飛んでいた。


夜も更けて、子供の親は子供たちを寝かすために一足先に私にあいさつをして家に帰る。

片付けを手伝って、残ったみんなともお別れのあいさつをした。


村長が一番最後まで残っていつまでも帰らないので、家に入るのを見届けてから村を出るよと伝えて帰ってもらった。


うん、入ったね。


「よし、行こっか」


最後に話しておきたい人がいる。


扉をたたくと少し遅れて顔をのぞかせてくれた。

どうぞと言われるがまま中に入って、室内を軽く見渡す。

 そこかしこに配慮があるおうち。

一生懸命考えたんだよね、うちの子が。


「メローナさんに会わせたい子がいるんです」


モモは、ずっと気になっていたんだよね、ひとり暮らしのおばあさん。


「ふふ、サイトー様。お教え頂けるのですね」


あれま。

気付いていらっしゃったかもしれない。


「ずっとメローナさんの事を心配してまして、お家の中にあれこれ追加したのもその子のお願いを聞いたからでした。勝手に変えちゃってすみません」

「謝ることなんてありません。わたくしがどのようにしてくださっても構いませんとお伝えしたのですから、サイトー様が謝ることなんて一つもありません」


良いところのお嬢さんだったのかなぁ、メローナさん。ちょっとほかの村人と雰囲気が違うというか、すごくお嬢様っぽいんだよね。


「おいで、モモ」

『マスター……良いのですか?』


ちびっこフェアリーが不安そうな顔をしている。

メローナさんは両手で口元を隠して、びっくりしていた。


「そうでしたか……いつも、わたくしの周りにふわふわとあった光は……」


メローナさんもしかしてなんかスキルがある?

ついステータスを見たけれどスキルはなかった。

でも魔力は人よりあるなぁ。モモチャンの影響か?


「小さなお方……お名前を教えてくださる?」

『わたしは、モモ、です』

「モモさんとおっしゃるのね……モモチャンと似て……あら?」

「モモチャンはモモが作ったんですよ。美味しくなれって考えながら、大変な手順の全てをモモがこなしてくれました」


メローナさんがモモに向き合った。

モモはあわあわして恥ずかしそうにしている。


「それはそれは……どうしましょう、こんなに素敵なことがあるなんて。手すりをつけてくださったでしょう?わたくし手すりのあの辺りで、うっかり転んでしまって。見ていらしたのね、お恥ずかしいわ」

『危ないと思ったので、手すりがあったら歩きやすいかもって、思って、マスターにお願いしました。ご迷惑だったかも……』

「いいえ、そんなことはないのよ。本当に嬉しかったの。わたくしのうっかりもサイトー様にはお見通しなのかしら、と思っていたけれど、そう、モモさんが気にしてくださったのね、とても嬉しいわ。そんな顔をしないで、わたくし本当に嬉しいの」

『でも、でも』

「ひざ掛けもモモさんがサイトーさんにお伝えくださったのかしら。あれはあたたかくてね、本当に、あたたかくて……毎日、使っているの。もうなくなったらきっと、大変なくらい」

『足が、寒そうだったから……』


うわーん、うちのプリティフェアリーがてれてれして泣きそうになっている。


メローナさんとすごく相性が良いんだね。

大好きなんだね。

これはもうお友達コースだよね。


「どうしましょう、サイトー様。わたくし、モモさんにお返しできるものがなにかあるかしら、どうしたら喜んでくださる?」

「お友達になってあげてください」

「まあ!よろしいの?」

『マスター!』


いいよ、駄目なわけないよ。

モモにお友達ができたら私は嬉しいよ。


「メローナさん、うちの子は妖精族という種族で、ちょっと特殊な生まれ方をしています」

「そうなのね」

「だからいろいろな人に姿を見せて存在を知られることがなにか危険を招くかもしれない、と考えて隠しています」

「ええ」

「だけど、モモはメローナさんが大好きみたい」

「嬉しいわ……」

「モモがメローナさんのおうちに、たまに遊びに来てもいいですか?」

「もちろんです。大歓迎だわ」


即答である。

そうだよね、モモかわいいもんね。分かるわあ。


「モモ」

『はい、マスター』

「メローナさんのおうちに遊びに行くときのルールを決めておこう。メローナさんが不在のときとかもあるだろうし」


スキル【創造】でスイッチを作る。


「メローナさん、これを玄関の横に設置します。家から出るときに✗と書いてある方にこのレバーを倒して、お家に帰ってきた時に○の方に戻すようお願いします。取り込み中でモモに来られると困る時も✗の方に倒してください」


神妙に頷いてくれた。使い方は大丈夫そうかな。

スキル【創造】で続けてペンダントを作る。


「モモ。メローナさんの家のスイッチが○になっている時はペンダントが桃色、✗になっているときは真っ黒の色になるからね」

『はい……マスター』

「メローナさん、モモのこと、お願いします。来たときは話し相手になってあげてください」

「こちらこそ、モモさんとの縁を繋いでいただいて、なんと言ったらいいか」


メローナさんは滲んだ涙を品よくハンカチで拭って、モモに微笑んだ。

モモはぴゃっと私の後ろに隠れて、少しだけメローナさんを見る。


恥ずかしさが限界突破したようだ。


かわゆいかわゆいモモを抱っこして、メローナさんにお願いする。


「メローナさんが良ければ今日はモモをお泊まりさせていただけませんか?」

「そんな、大歓迎ですわ!」


モモが口を挟む前にメローナさんがめちゃくちゃ嬉しそうに返事しちゃったので、モモがあうあう言っている。


『マスター、でも、でも、わたしはマスターのお力に』

「今日はもう何もないし、ゆっくりしても良いと思うなぁ。モモ、私はログハウスにいるよ。明日はおはなしダケを取りに行こうよ」

『……はい、マスター。ありがとうございます。わたし、あの』

「うん?」

『マスターがだいすきです』


ぱたぱたきてほっぺにちゅうして隠れたぞ!

えーなにそれ!かわいい!


めちゃくちゃ緩んだ顔をしてしまった。

メローナさんが微笑ましそうに見ている。


ちょっと恥ずかしい。

いちゃついてるの見られちゃった。


じゃあね〜とモモとメローナさんに手を振って、ログハウスにそのまま【転移】した。


使える魔法をちょっと増やしたいな。

今のうちにやっておこうかな〜。

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