第13話

 細かいところを確認して回ったり、村長の魔法を見たりして2週間くらい過ごした。


 村長、もう大魔法使いなんだよなぁ。


 同時に違う魔法を使うのって相当に難しいはずなんだけど、地道にずっと訓練してるとできるようになるものなのかな。


 魔法士の平均的な強さはとっくに超えてるってモモが言ってた。

 いつの間にか自分でレンガとか作れるようになってるんだけど、そうなると村の建物を木製にこだわらなくても良かったよね。


 村長作のレンガかまど、味があってめちゃくちゃ良い。


「おいひいですね」


 エルヴァくん、6歳。

 かまどで焼いたクッキーをサクサク音を出しながら食べている。


 いや、村の発展がすごい。


 村長がやったことにしても誤魔化せるなってくらいに、村長作のいろいろなものが増えてきた。

 かまどもそうだけど、水魔法を極め続けて【乾燥】ができるようになったから建築に強い。

 保存食も作りまくっちゃってる。


 でも村長は自分が死んだあとの事を考えてか、人の作業に手を入れたりはしてなかった。


 魔力を使いたいっていう意思は伝わる。

 感覚を忘れそうなんだって。


 だから自分の家の中を主にいじったり、なにか作っても隠したりしている。


 けれども、成長がすごいのは村長だけでなく、サイラスさんとクレイくんは身体をめちゃくちゃ鍛え始めてる。

 クレイくん、きみはそのままだと恐ろしいことになるよ。


 奥さんのセレナさんは妊娠中なのに宿屋のお手伝いに精力的でもはや歴とした従業員となっているし、リリアンちゃんは立派なパティシエになってるし、マリリンさんは片手間にスキンケア用品をあれこれ作って試してる。


 アローニャさんはお客さんが今のところ来ないので、料理に勤しんで料理人みたいになってるし、ハロルドくんは研究員みたいになってるし、ミアさんとハリサさんは洋服屋ができるくらいにあれこれ作ってる。


 エルヴァくんとのんびりお菓子を食べてる私、ちょっと怠け過ぎな気がしている。


「サイトー様」

「はい」


 リリアンさんだ。マリリンさんも来た。


「モモチャン果実のジャム、モモチャン種のジャム、モモチャンケーキ、モモチャン宝石ケーキ、モモチャンミニケーキ、モモチャンクッキー、モモチャン果汁、それぞれの在庫が1000を超えました」

「私の方もモモチャン種肌用クリーム、モモチャン種バーム、モモチャン種オイル、モモチャン種石鹸、モモチャン肌用保湿水も在庫が800ほどたまりました」


 全部モモチャンつくとややこしいな。

 そしてすごいな。


「もうそんなにいったの?早いね」

「サイトー様に容器をたくさん出していただいたおかげです」


 マリリンさんが綺麗に一礼する。


 売るためには入れ物が必要だったので、まず木工が得意な村人に作ってもらってスキル【複製】でたくさん増やした。

 そうでなくとも5人ほどの手先が器用な村人がずっと作ってくれているので数はたくさんある。


「ちょっと商品名がややこしいよね。なんかつけようよ」

「ややこしい、ですか?」


 私の中にあっちの世界の知識があるせいだろうな。


「モモチャン果実のジャムとモモチャン種のジャムはリリアンジャムって名前にして、種類として【果実】と【種】ってつけることにしよう。リリアンケーキとリリアンクッキーにして、モモチャン宝石ケーキはフィナンシェ、モモチャンミニケーキはマドレーヌって名前にしよう」


 パッと聞いて飲み込めるほうが助かるから、できれば変えたいなぁ。


 この世界にはフィナンシェもマドレーヌも存在しないから、いいよね。自力でレシピを思いついたリリアンさんがすごいけど。


「フィナンシェとマドレーヌ、素敵なお名前ですね、ありがとうございます!」


 わーい。受け入れて貰えた。

 あとはマリリンさんの方だな。


「マリリンさんが完成させたものもマリリンって名前にしちゃってマリリンシリーズのクリーム、化粧水、バーム、オイル、石鹸で良いと思う。保湿水が化粧水ね。モモチャンって実を使ってますって説明だけしたらどうかな」

「良いのですか?」

「実際、ふたりがいるから作れてるものだし」


 いつの間にか来ていたハロルドくんにも同じように伝える。ハロルド君が作ったものは、ハロルドって名前の商品にしたらいいと思うよ。



 ついに町に行く日が来たかぁ。

 村長に声を掛けて町に行く準備ができたみたいだよ〜と報告する。

 相談した結果、村長と私とクレイくんで行くことになった。


 クレイくんなんか身長も伸びてるな。

 急成長してない?なんかおかしいぞ?


 みんなに買ってきてほしいものなどを聞いて、売るものの用意する。


 リリアンちゃんのお菓子と果汁をそれぞれ全種類10個ずつ、マリリン印のスキンケア用品をそれぞれ10個ずつ。マロ石鹸は20個。モモチャンは実のまんまを21個。

 1個は試食用。

 買い取る前に味とか知りたいよね。


 村長が荷車を持ってきた。

 これ、もしかしなくても新しく作ったな。


 みんなに見送られて出発する。

 荷車は村長が引っ張っているけれど、【送風】で後押ししてるから負担があんまりなさそう。

 息をするように魔法を使うなぁ、村長。


「町までどのくらい?」

「6時間ほど歩いたところに休憩所がありますな」

「あ〜」


 ちょっと長いなぁ、それは。

 うーん、どうしよう。どうしようかな〜

 悩むけど。

 うーん。


「飛んでいこっか」


 久しぶりに見たなぁ、その目玉が落ちそうな表情。



 ごめんね、内緒にしてねと言って重力魔法【浮遊】を使う。

 村長とクレイくんと荷車も浮かせて、送風でぎゅんぎゅん進む。一応風魔法【障壁】で保護して空気抵抗を感じないようにした。


 町が見えてきたのでゆっくり降り立つ。

 ぎりぎり向こうからは見えてない距離かな。


「ほ〜心臓が止まるかと思いました」

「すっげぇ!」


 クレイくん、見た目は成長してるように見えるけど、中身は純粋なままで良いね。

 というか、ひょっとしてみんながみるみる成長してるのってモモチャンの効果?


[モモ、モモチャンって食べたら進化させるみたいな効果がある?]

[魔力を回復する効果があるので、その影響かと]


 わぁ。ファンタジー。



 町の入り口には兵士みたいな人が立っている。

 えっと、この町は領主からはぞんざいに扱われてるけど、領主様から遣わされている領主一家の三男坊が今のとこ町で一番偉い存在らしい。

 だけど歳は18歳と若くて取りまとめしてる人は別にいる。

 村長が教えてくれた。


「顔役が複数おりましてな、魔法ギルド長、冒険者ギルド長、司祭様、商人ギルド長といったところですか」

「いろいろいるんだね」

「貴族は屋敷がいくつかはあるようですが、住んでいるものはおらんはずです」


 ほうほう。

 そのうち来るんだろうなぁ、貴族。


 ふわぁ〜とあくびした門番が、こちらに気付いて3度見くらいした。


「シュレト村からか!?」


 村長が前に出る。

 なんか四角のプレートを見せてる。カード?

 身分証明書みたいなものかな?

 私持ってないけどそれってやばいやつ?


「随分と久しぶりにこっちの門に客が来たな……いま村はどうなってるんだ?」

「過疎化が進みましてのう、随分と寂しくなっておりました。村のみなで発起して、なんとか売れるものを生み出して来ましたわい」

「そうか……後ろのは?」

「孫と娘ですが、身分証がいりますかな?」

「いや大丈夫だ。荷物だけ軽く確認させてくれ」


 荷車の木箱を開けてふんふんと確認して、これは何だあれは何だと聞いてくる。


 随分と興味を持たれたようだ。

 村長は一つ一つ説明した。


「聞いたことないものが多いな……危険物でなさそうなのは分かるが……」

「おひとつ食べなさるかな?このフィナンシェなんかは村の娘の力作で、大層あまくて美味しい菓子です」

「ぜひ、いただこう」


 甘いものが好きなのかもしれない。

 フィナンシェは薄くした木で一つ一つを包んでいて、パッと見ると高級菓子に見える。


 ぱくりと一口食べたら真剣な顔になった。


「これは美味い。購入したいんだが、良いか?」

「勿論ですぞ。一つ500ルーツですが、よろしいですかな?」

「高いな!だがその価値はあるな!」


 腰から下げた小さい革のポシェットのようなものから硬貨を出して、門番は5つ買った。

 村長は数が多いからと木箱をつけてあげている。

 ほくほく顔で通してくれた。



 町に入ると人が多くて思わず見入ってしまう。

 活気が全然違うな〜さすがは人が集まっているところ。レンガの家も多い。むしろ木の家の方が景観から浮いてるな。


「さて、行きますかの。わしも久しぶりなもんで気後れしますな」


 村長が道を知っているから先導してくれる。

 店も多いな〜こんなにあるなら少しは村にも来てほしいな〜。


 商業区なのかな?お店が多い所を過ぎていく。


 商人ギルドと書かれた建物の前で荷車を止めて、扉を開けると、中にいた職員らしき人たちがサッと出てきた。


「なにか御用ですか?」

「商品を見てもらいたいんじゃが、良いかの」

「どのような?」


 ちょっと冷たい感じ。

 うーん、なんか嫌がってるように思えるなぁ。


「わしはシュレト村のガイルと言う。村で作った商品を見てもらいたいが、よろしいか?」


 ちょっと強気な言い方に変えた村長。


 ふたり出てきた職員のうちひとりは頷いてくれたけど、もう一人は渋い顔をしている。


「シュレト村?あの村の商品を買い取る事はできません、お帰りください」


 えーなんでそんなこと言うんだ。

 嫌な感じだなぁ。

 なんか理由があるのかもしれないけど、随分と態度が冷たいよ。


「そうですか、それじゃあ仕方がない」


 村長はあっさり引いた。

 男性職員はそれを聞いてさっさと建物に戻っていく。気遣わしげなもう一人の職員の女性に見送られて、荷車を再び引っ張って歩く。


「良かったんですか?」

「よいのです、お師様。物も見ないであんなふうに言われた場所です、そんな所でこの宝を売りとうもないですからな。みなで頑張ったものを価値の分からぬ輩に売らずに済んでむしろ助かりました」


 うわ〜村長好きだわ〜。

 モモも同感のようで頷いている。

 クレイくんも誇らしげ。

 だよねえ、そうなるよねえ。


「こっちに馴染みがおりましてな」


 すいすいと道を進んでいく。

 さっきの建物よりは小さいけれど何かのお店のようだ。

 扉を叩くと中から溌剌とした緑の瞳の女性が出てきた。


「えっ、わあー!村長さま!クレイ!」

「元気そうだの、スティーナ」

「たったいま元気になりました!遠いところから、よく、よくいらっしゃいました。みなは今……」

「みな今は楽しく過ごしておるよ」


 嬉しそうに大歓迎のテンションで迎えてくれる。

 好印象がすごい。


「今日はお顔を見に来てくださったんですか?それとも違う用事で?会えて嬉しいです」

「買い取って貰いたいものがあってのう。こちら、村に来てくれた魔法使いのサイトー様じゃ、わしの師になって下さった」

「ええ!?魔法使い様!?」


 入って入って!と女性は中に招き入れてくれた。


 お店の奥から旦那さんかな?それらしき人が出てきて、荷車の荷物を運んでくれる。クレイくんもさっと手伝う。

 えらい。私も運ぶ。


 店内は小綺麗で雑貨屋さんのような感じだった。

 服も少し置いていて、食器やアクセサリー、小さい魔道具のようなものもある。


 可愛らしいお店だなぁ。


 お店の奥までそのまま案内されて、明らかに居住スペースのリビングに連れて行かれた。

 女性がお茶を用意するとぱたぱた動き回って、その間に旦那さんが椅子をあちこちから集めてきてくれた。旦那さんはアイドルみたいな顔してるね。ジャ○ーズのタッ○ーみたいだね。


 優しいなぁこの人たち。

 お茶が入ってみんな席についた頃、旦那さんだけが店の方に出ていく。

 店番してくれるんだね。


「それで、村長さま!魔法を覚えたのですか?」

「そうなんじゃよ。お師様のおかげでなぁ」

「本当によかったです、お顔の色も前にお会いしたときよりずっと良くなって……村のみんなはどうしてるかなって考えたら、いつも気が気じゃなくて、リクドールに八つ当たりも少なくはなかったのです」


 きれいな人がしゅんとしてしまった。

 村長、よくわからないけど元気づけてあげて!


「お師様、こちらはサイラスの妹のスティーナです。旦那の方はリクドールと言いますが、リクドールがこの町の冒険者ギルドの長の息子でしてな」


 あっなんか分かったぞ。

 私は探偵の素養があるかもしれない。

 結婚のために村を出なきゃいけなかったけど、スティーナさんは嫌だったんだな。

 見抜いたぞ。


「結婚の条件がこの町で生活することだったのでな、当時は別れるだなんだと言ってリクドールをやつれさせるくらいでしたが、サイラスが強引に追い出しましてなぁ」


 正解してたわ。

 サイラスさんが追い出した事は見抜けなかったけど。


「そうですか、サイラスさんが」

「ああ、もちろん、スティーナもサイラスが意地悪したとは思うておりません」


 スティーナさんがこくこくと頷く。


「義両親は、私が村に様子を見に行くことも許してくれないのです。一人では危険だからと言って、けれど、リクドールを町から連れ出すのは絶対に許さないと」


 そのまま村に居着きそうな勢いあるもんね、スティーナさん。心配なのかな。


「護衛を雇って行きたかったのに、リクドールは自分抜きでは行かないでくれと言って泣きますし!」

「これこれ、リクドールをあまり責めるんじゃない」

「だって村長さま〜!」


 村のことを心配してくれる人がいて私は嬉しいよ。


 クレイくん出されたおやつに熱中しとるな。これなんて言うんだっけ、カロリーメ○トみたいなやつ。この世界でのちょっと良いお菓子だよね、確か。


「今日はこれを買い取ってもらいたくての。ちと高価になるからリクドールとも相談してほしいんじゃが」


 木箱の方を見て村長がそう言うと、スティーナさんは笑顔で頷いた。


「中身がどんなものでも買い取ります!みなが作ったものですもの!」

「ちゃんと見てからにしなさい」


 完全に村長が正しい。



 スティーナさんは箱の中を開けてわあ〜!と声を上げた。


 村人だ!間違いなくシュレト村の人だ!


 村長にこれはなに?こっちはなに?と忙しく聞く。

 全部の説明が終わると真剣な顔をして、店番をしていたリクドールさんを呼んだ。


「リクドール、こちら全て買い取ります。お金を用意してほしいの」

「どれくらいだ?」

「村長さま、言い値で買います。全て合わせておいくらですか?」


 スティーナさんの真面目な顔に村長がにっこり笑った。

 私を振り返って視線で訴えてきたので、頷く。

 好きな金額でいいよ。


「120万ルーツで全部売ろう」

「ひゃく……ガイルさん、それはあまりにも」

「リクドール!」

「しかし、スティーナ」

「違うわ、リクドール。村長さまは、村長さまは」


 スティーナさんがわぁんと泣き出してしまった。

 リクドールさんはおろおろして、村長とスティーナさんを見比べる。


「中を、中を見て、リクドール」


 スティーナさんがわーんと泣きながら木箱を指した。

 リクドールさんは木箱の中を確かめて、驚いた顔をした。

 分からないものもきっとあっただろうに、質問は何もせず、顔を上げて村長を見て、静かに頭を下げた。


「すぐに、お金を用意します。現物のほうが良ければそちらもご用意します。スティーナ、泣かないで、ガイルさんをもてなしてくれ。俺は役所に金を引き出しに行ってくる」


 うん、と返事をしたスティーナさんを心配そうに見てリクドールさんは急いで出ていった。


「村長さま、これ、こんなにたくさん、みんなが?」

「頑張っておるよ、菓子はリリアン、そっちの化粧水やらの方はマリリンが作ったものでな。マロの実の収穫もモモチャンの加工も、みな忙しくしておる」

「そっか、そうなんだぁ……」


 ぼろぼろ泣いてるスティーナさんの背中をクレイくんが擦りに行った。

 絶対将来モテるよ、きみは。



 それにしても、この様子を見る限りスティーナさんは相当に村のことを考えて心を痛めてたんだな。

 これからはどうにか人の行き来が増えて村との繋がりが増えるといいんだけど。


「ごめんなさい、お客さまに恥ずかしいところをたくさんお見せしてしまって……クレイも大きくなったのね、優しい子に育って……ありがとう」


 落ち着いてきたスティーナさんが椅子に座り直して、村長と向き合う。


「さて、村長さま」

「うむうむ」

「このような素晴らしい品々をありがとうございます。必ず、必ず全て私が売ってみせます。今後もお付き合いさせていただきたいと思っておりますけれど、村のみんなはどうかしら」

「商人が来てくれるようになると助かるんじゃが、どうかのう」

「絶対に行きます!こんなに素晴らしい品々ですもの、お義母さまもお義父さまも首を縦に振るしかありません!」

「そうかの」

「ええ!私も商売人として数年やってきましたから、村へ商いに行くこともできると思います。他の方より私のほうがみんなのことを知っております。知らない商人に任せて、万が一にでもみんなが傷付くなんてあってはならないわ」


 商人ギルドちょっと嫌な人居たもんなぁ。

 スティーナさんのほうがいいよね。


「きっかけを下さった村長さまにお礼を。私、村と町を往復する商人になります」


 燃えてる、スティーナさんがめちゃくちゃ燃えている。

 村のことを考えて取引してくれる人が商人として来てくれるなら、村長もみんなも安心だよね。

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