第11話


 モモチャンが溢れるくらい行き渡るようになる頃には、みんな疲労困憊だった。


 やる事が多すぎて毎日忙しい。


 モモチャンが栄養満点なので身体に問題がある訳じゃないんだけど、みんなの目がやばい。

 エナジードリンクを飲んで働く社畜みたいな目をしている。


 これはちょっとよろしくないね、と言うわけで一旦すべての作業をストップしてもらう。


 そろそろプチトマトができるよ、食べてのんびりしようよ。


 しかし、何もしないことが落ち着かないようで、プチトマトを食べてきゃあきゃあ言ったあとは、みんながそわそわし始める。

 村長も魔法の訓練をしたそうにこちらを見ている。


 暇だなぁ、あれこれしたいなぁ、プチトマトもなんか加工したいなぁ、でも今日は休みって言われたしなぁ、という空気がみんなから出ている。


「サイトー様!種だけをきざんで、くつくつ煮込みましたら、新しいお味のジャムとなりました!果実のジャムと混ぜても美味しいですが、そのままでも美味しいです!」

「リリアン!いけません!」


 きゃーっと走ってきて嬉しそうに報告してくれたリリアンさんの後ろを、真っ青な顔をしたマリリンさんが追い掛けてきた。


 これはあれだね、おやすみだよ〜と言ったけどリリアンさんは開発が楽しくて今日もやっちゃって、マリリンさんが作業したことがバレたと思って青い顔をしているという事だね。


「素晴らしいですね、リリアンさん。それも販売できるようにしましょう」


 あれ?怒られない?とマリリンさんがおどおどしている。


 誤解してるなぁ。

 おやすみをとってほしいのは、頑張り過ぎるみんなの事が心配だからってだけなんだけどなぁ。


「よし、分かりました。それでは、明日予行練習をします」

「予行練習ですか?」


 村長がそそそと寄ってくる。村人も集まってきた。

 みんな暇なのは嫌なんだねぇ。


「旅人がきた、という想定で明日私が村に来ます。皆さんは旅人が来たらどう動くか、どう接するか、などを各々考えて実行して下さい。その準備を今日は行います」

「なんと!みな、おもてなしの用意を!」

「こらこらこら、待って待って。違いますよ、あくまで来るのは私ではなくて、皆さんの知らない旅人です。最初からおもてなしをするのは親しい人などですよね?」

「た、たしかに」


 うんうんと頷いている。


「みなさんが知らない人、どこの誰かも分からない人。親切にしたり、警戒したり、いろいろな接し方があると思います。みんな今日の間に考えてみてください。明日のお昼くらいに旅人が登場します」


 災害訓練みたいでいいね。

 この世界に災害はあるんだろうか。

 あるならちゃんとした災害訓練もやったほうが良いのかな。


「相談ごとがあるなら今日のうちに聞いてね。日が暮れたら姿を隠します。明日のお昼までは私はこの村に来ないので」


 おろおろし始めたので安心させるように微笑む。


「大丈夫、どれが失敗とか成功とか特にないですし、ここはこうしてみるとかこれは伝えるとかこの情報は隠すとか、この先の参考になれば良いなくらいの気持ちでやる予行練習です」


 リリアンさんは嬉しそう。アローニャさんもやる気満々って感じの顔をしている。


 これどうしましょうとかあれはどうしましょうとか、みんなからの相談を、何となくこうかな?ああかな?と返しつつ、日が暮れるまで村の中をぐるぐる見て回った。



 あらためて見るときれいになったなぁ。

 町って言えるほどには建物がないけれど、区画整理をしたのですっきりしているし、貧困に喘ぐ村のイメージはさっぱりなくなった。


 モモチャンとマロのおかげでほんのり爽やかな甘い匂いもするし、リリアンさんの作業のおかげであま〜い匂いもする。


 みんな清潔な服装になったし、マロの実を水で薄めて身体を洗ったり髪を洗ったりしているから、体臭もぜんぜん酷くない。

 だけど、ちょっと髪がキシキシしているかも。

 コンディショナーとか作ってないもんな。

 それもちょっと考えよう。


 久しぶりに村から出る。


 ログハウスに帰ってもいいなぁ。と考えた所で思い出した。


「モモさんや」

『はい、マスター』

「おはなしダケのこと忘れてたね」

『すみません、マスター』

「いやいや、モモのせいじゃないよ」


 そういやここを通ってあいつを取りに行こうと思ってたんだよね。



 実はこの一週間で分かったことがいくつかある。


 モモは神様に作られた万能サポートではなく、サポートに向いている特徴を持っているのが妖精族だから選ばれた存在だった。


 何でもかんでも全ての事を把握している訳ではなくて、私が寝ている間にスキル勉強をしたり、使い方を調べたり、頑張って覚えてくれているということが判明した。


 生まれる前に知識としていろいろなものをインプットされてはいるけれど、全知全能みたいな存在ではない。


 間違えたり、悩んだり、うっかりしたり、いろいろできるサポートなのである。


 頭がとても良いので、スキルの効率的な使用や細かい調整などは私よりモモが向いている。

 そして、情に脆くやさしいうちのフェアリーはお人好しでかなり気が利く。

 小さいことによく気付き、思いやりに溢れている。


 モモは自分が至らないとめそめそしてしまうけれど、神様って多分やろうと思えばイジって色んなことができたと思うんだよね。


 それでもいまのモモを与えてくれたってことは、一緒に成長したり失敗したりいろんな経験をふたりでできるように、って考えてくれたんじゃないかなぁと勝手に思っている。


 なので、モモが落ち込む必要はなく。


「村のみんなが外から来る人とうまくやれる目処がついたら、満を持しておはなしダケを取りに行こう」

『はい、マスター。本日はどうされますか?』

「久しぶりにログハウスに帰ろうか」

『かしこまりました』


 それでは初めてのスキル【転移】だ。

 行ったことのある場所はどこでも転移可能で、細かいカスタマイズで転移先の調整もできる。

 今だと選択肢はログハウスかシュレト村の二択。


 ログハウスの中に転移した。

 自分が移動したというより景色が移動した、みたいな感覚だなぁ。


「ただいま〜」

『おかえりなさい、マスター』

「モモもおかえり〜」

『ただいま帰りました、マスター』


 かわゆい。

 モモとのふれあい時間がここのところ足りなかったので、ちびっこフェアリーを抱いてからスキル【製作】でおっきいビーズソファを出す。


 体重をソファに預けると身体から力が抜けていった。


「いろいろやったねぇ」

『たくさん頑張りましたね、マスター』

「うへへ」


 ぴったりくっついて褒めてくれる、最高の癒やしである。


「それにしてもやり過ぎちゃったよね。どうなるかなぁ」

『今のところ思いつく最悪の事態は、村人が全員殺されて近くの国が村を乗っ取るという事態でしょうか』

「おおっとかわいいお口からとんでもない単語が出てきた」


 でもそうなんだよね。

 このまま、ほのぼの〜と平和にはできない気がする。


「【歴史書】を読んだ感じだと、こちらの神様は凶悪な犯罪者とかすごい悪いことを企んだりしてるやつを、わりとサクッと処理してるよね」

『お仕事がお嫌いなんですよね』

「うん、たくさん死ぬって言うのが面倒くさいみたいだから。大量殺人になる戦争も、結構神様っぽい妨害があるよね」

『悪天候や竜神族の介入ですね』


 竜神族。

 神様からの使いの役割を果たしている種族らしく、長生きで恐れられている。


 普通に出会う事は滅多にないというので、地上でぶらぶらしていて見かけることはないかもしれない。


「村人は人数が多いとも言えないからどうなるか分かんないなぁ」


 規模が小さい争いって思われるかな。


「でもみんな良い人だから守りたいよね」

『はい、マスター』


 子供と老人で生活をしてきたからか、寛容で思いやりがある。そんなに悪いことを思いつかないみたいな性格の村人ばかりだ。


「とりあえず、何が起こるかは分からないし、起こってからなんとかしよう。村人に危害を加えるならすぐ対応して助けて、その他は都度考えることにしよっか」


 起きてないことを考え込んでしまうと、つい心配のあまりあれこれ事前にいらん力を揮ってしまいそう。なので、考えを中断する。


 久しぶりにモモとふたりでお風呂に入って、お互いにスキル【ボディケア】を使って気持ちよく眠りについた。



 目覚めて朝ごはんを食べながら、コンディショナーをどうするか悩む。


 保湿成分が少ないので、作ったマロは全身に使えても保湿特化しておらず、人によっては髪がキシキシになっていたりする。悩ましい。


 プリティモモはお着替えしてレースのあしらわれたドレス姿だ。なんでも似合うね、うちの子。


「特産品としてコンディショナーを作って出すのも良いんだけど、違うものにも使えると便利かなって思うんだよねえ。この世界の貴族とかはなに使ってるの?」

『油を使っていますね。植物からとれる油で食用ですが、髪にそれを塗っているみたいです』

「おおう」


 ヘアオイルってあるもんな、そうか。植物油か〜。


「あれ?桃の種ってもしかして油とれる?」

『可能です、マスター』

「やっば!」


 万能過ぎでは?

 テンションが上がってきた。


 だけど、油を効率よく抽出するには、別の薬品が必要だったり設備が必要だったりで手順が面倒くさい。

 これもうすっ飛ばして完成できるようにした方が良さそう。魔法でーす、といえばなんとでもなると思うし専門家じゃないから許してほしい。


 と言う訳で、種を入れてぐるぐる回したらモモチャン油が出てくるよというガラガラポンみたいなやつを【創造】した。

 この世に存在しないもんなぁ、そんなとんでもないもんは。


 モモチャン油はすごいもので、ヘアケアだけじゃなくボディケアにも使えるし顔にも使える。爪にも唇にも。

 マロの実を溶かしたものにモモチャン油を入れることで保湿もしてくれる石鹸も作れる。

 ポテンシャルを秘めすぎていた。



 村人にプレゼントもできたので、そろそろ時間かなと外に出る用意をする。


 見た目を変えちゃおう。


 これも初めて使うスキルだ。

 スキル【外見変更】このスキルのすごいところは魔法じゃないから見破る手段がないというところで、なおかつカスタマイズでかなりいろいろ選べる。


 いじり始めると時間が溶けていくので、プリセットから人族の青年を選ぶ。

 茶髪でちょっとそばかすもあって騎士っぽい見た目にした。


 丸ごと変えてくれるからいいね。

 声も変わってくれるので、別人になって遊べる。


「さぁ、行こうか、モモ。冒険だ!」

『マスター、ちょっと格好よく言おうとしないで下さい』

「キリッとした感じをイメージしました」


 村のみんなめちゃくちゃ驚くよね。でもそれでいいんです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る