第10話


 モモチャンが成る日をみんなわくわくして待っていた。

 3日待つ間に思いつく限りの大改造をして回る。


 洗濯はぶっちゃけ過疎化してからやってないおうちが増えていて、汚れが酷くなったりにおいが酷くなったら、桶に水を汲んでじゃぶじゃぶ洗うくらいにしていたとのこと。


 家に洗濯機的な仕組みのものを備えても良かったんだけど、それぞれの家に目立つ機械が増えると各家庭内で危ないことが起きそうだねという話になり、洗濯場を作ることにした。


 ほら、出て行った若者とかね、いつか奪おうとするかも。


 それに、個別にそれぞれの家に置くより、洗濯場として一か所に作ったほうが問題が起きたときも離れて見てられる。


 私が出した物は全部、もしも他人に奪われそうになったら、慌てず騒がず従ってと伝えてある。


 なるべく世界観が浮かないように気を付けて、洗濯場を作っていった。


 コイン使わないコインランドリーを、どーんと置いてしまいたい気持ちはあったけれど、魔力で動かすタイプにすると使える人が限られる。


 それに、魔石は高価なので、村に魔石を使う機械をたくさん置くのは争いを招きそうで怖かった。


 どうにかできないかな〜とモモと意見交換して、結局サラダスピナーみたいなものを作った。


「まず、この桶の中に水を入れて洗濯物を入れます。洗剤はこの小さい丸いのを入れて下さい。この洗剤は服の汚れを落とす効果があるけど、きちんと落とさないと肌に刺激があったり衣類が変色したりするので、洗剤で衣類を洗ったあとは水でもう一回洗濯物を洗います。それが終わったらこの穴がたくさんあいている桶に洗濯物を入れて、さっきの桶の中に入れます。たくさん洗濯物を入れると重くなるから気を付けて、腰とか悪い人は一度に洗う量を減らして下さい」


 見せながら説明する。

 いちいちおお〜とかわあ〜とか反応してくれるので、実演しているこちらも楽しい。

 観客の反応って大事だね。


「結構な力仕事なので、手の空いている男性が中心にやってくれたら助かります。桶の中に穴あきの桶を入れたあとはこの蓋をして、ずれていないかどうかを確認して、蓋の上のハンドルをぐるぐる回してください。そうしたら、余分な水分が穴から外に出てきます。ある程度回したら、穴あきの桶を取り出して溜まった水を捨てて、もう一回。水分が少なくなったら干しましょう」


 なるほど〜と女性陣が拍手した。

 男性陣はちょっと首を傾げている。

 分かんない人はあとで女性陣に教えてもらってね。


 洗濯に使用する石鹸はすすぎ一回で大丈夫。

 これはスキル【創造】で苺みたいに植物に成る石鹸を作った。


 見た目は水色の丸い塊で、洗濯場に置いておく石鹸は、この石鹸を溶かして洗濯1回分に固め直したものだ。

 親指の爪くらいのサイズ。

 食べてもお腹は壊さないけど苦くてまずい実になっている。

 これも特産品にする。


 成分は全然違うけど色はウ○マロ石鹸をイメージしたので、見つけやすく収穫しやすい。


 マロという植物だと伝えてある。

 洗剤のことをマロの実って呼んだ村人が居たので、なんかそれいいねって言ったら定着した。


 モモチャンとマロの実。

 あとはどんなものがいるかな。


 洗濯場は村のみんなが使えるように広めにとって作り、もし雨が降ったら室内干しができるようにそれ用の小屋も作った。


 村人は洗濯場の管理人を誰にするか相談して、サイラスさんが選ばれた。


 せっかく管理人として選ばれたのだから、それっぽくしてあげたいよね。


 小屋に鍵をつけて鍵をサイラスさんに渡した。


「俺でいいのか?」

「あ、奪われそうになったら」

「おとなしく従う。分かってる」

「お願いしますね〜」


 頷くサイラスさんににっこり。

 そうそう、戦っちゃだめ。


 念の為に鍵の複製を奥さんにも渡しておく。

 サイラスさんがいないときだってあるだろうし。


 すっかり顔色が良くなった奥さん、セレナさんはお腹を重そうにしながらも元気いっぱいだ。

 セレナさんはふわっふわのロングヘアで薄いピンクの髪色なので目立つ。

 華奢で綺麗な人。めっちゃ優しそう。

 サイラスさんと並ぶと美女と野獣を思い出すくらい体格の差がある。


 洗濯場ができて洗濯物が洗えるようになったのは良いんだけれど、洗濯物を間違えたりすることもあると思うので、名前の刺繍を村長の孫、ミアさんに頼むことにした。

 刺繍の練習になっていいと快諾してくれて、みんなの家を回って洗濯物に刺繍を入れている。


 それでも数が多くて大変だろうと思ったので、村人みんなに服をプレゼントすることにした。


「エルヴァです」

「はい、エルヴァくん」

 6歳の男の子。金髪に金色のおめめ。


「アローニャです」

「はい、アローニャさん」

 36歳、エルヴァくんのお母さん。

 金髪だけどおめめは灰色。シングルマザーだ。


 全員並んでもらって1人ずつ、私の勝手なイメージで服を作って出す。名前の刺繍入り。


 カスタマイズで名入れできるの良いね。


 日が暮れる頃にやっと全員終わり、肺の病気で寝たきりだった少年のハロルドくんも今日は顔を見せに来てくれて、あったかいトレーナーとズボンをプレゼントした。


 この世界にある服をスキル【製作】で出してスキル【伸縮】を【付与】したのだけれど、どうやら普通の服と思って出した服は王族とかが着る高級な素材の服らしくて、うーん難しいとなった。


 翌日にはお風呂を作った。

 この村ではいくつかの家に浴室のようなものはあるけれど、水を持ってきて体を拭いたりするプライベートゾーンみたいな小部屋らしい。

 みんなで使えるお風呂があると良いねという話になり、浴場を作ることにした。


 男女別の銭湯にしよう。

 そして、村人以外からはお金をもらう仕組みにしよう。


 収入源になるね。お仕事もできるね。


 張り切ってやりたいと言ってくれたのは、肝っ玉母さんみたいな雰囲気のあるアローニャさんと、体調不良で寝込んでいて復活した、儚げな見た目の女性マリリンさん。

 マリリンさんは黒髪黒目で親近感が湧くけれど、私と違ってセクシーさがある。


「実は宿屋も隣に作りたいなと思っていて、そっちの経営と管理もできる人を探しています」


 マリリンさんは落ち着いてそうだし、宿屋の方に行ってくれたら嬉しいな〜と思っていたけれど、ふたりとも顔を見合わせて何やら相談し始めた。


「じゃあ宿屋は私がやります」


 アローニャさんがそう言ったので、まぁいいかと思ってお願いする。


 話を聞いてみると、アローニャさんは若いときに町にいて村に戻ってきた村人らしく、町では宿屋で働いていたことがあるというわけだった。

 それを知っていたからマリリンさんはアローニャさん見たんだね。経験者は助かるね。


 アローニャさんもマリリンさんも慣れてくるとだいぶ気軽にいろいろと話せるようになり、モモと相談して、村人に必要な物の判断を任せてみようということになった。


 こういうものが作れるよ、こういうものが出せるよ、争いをなるべく起こしたくないから浮かないようにしたいよ、という希望を伝えて、アローニャさんとマリリンさんと打ち合わせしながら銭湯と宿屋を作っていく。


 金属を建物にたくさん使うのは王族でもなかなかしないというので、なるべく木製にして土とか石とか活用し、技術的な面ではあちらの世界の知識を取り入れる事にした。


 それでもやはり建物が綺麗すぎる、洗練され過ぎているとのことで、村長が活躍した。


【盾】を利用して敢えて一部を硬くしたり、弱くしたり。

 自分の家から物を持ってきて「これを複製しましょう」とか、提案などもいろいろと頑張ってくれた。


 複製できるのがもうバレバレである。

 なるべく秘密にしといてね。


 みんなで協力して浴場と宿を作っていく。


 スキル【温泉】で温泉を発生させる。


 マグマがないと温泉ってできないよね、普通。

 ただの土の下から湧き出るものじゃないんだろうけど、まぁ、いいか。


 本当は村のためを考えるならあまりよくないけれど、排水口の先はスキル【ごみ箱】を【付与】した箱を設置した。

 万が一があると怖いので、排水口は絶対に開けられないようにしてある。


 村人達はそれぞれできることがないかとみんな動いてくれて、ここはこうしたらどうか、こういう仕組みにしたらどうか、と積極的に話し合っていた。


 みんな元気が出てきたね、嬉しいよ。


 しかし、ここで問題が発生する。

 村人が少なすぎて、みんな仕事が決まってしまった。


 洗濯場はみんながそれぞれ洗濯できたらいいなぁと思っていたが、仕事としてやるようで、浴場と宿と連携するらしい。


 洗濯場で働く人、宿で働く人、浴場で働く人、掃除をする人、管理をする人、それぞれ役割をみんな作り、暇な人が居なくなってしまった。残ってるのは働けない幼い子どもたちくらい。


「どうしましょうね、お休みは絶対に必要だから、何もしない人が毎日出るようにしないと……」


 そう言うと、とんでもない!みたいな反応をみんなする。

 いや、だめだよ。普通にだめ。なにか考えないといけないね。シフト制とかね。



 3日目の朝。

 日が昇るよりも早くに村人たちは起き出してきて、みんな木の前の集まっていた。


 ぐんぐん木が成長するのを見ていたから、今日実が成るのをみんな楽しみにしていた。

 誰も集合をかけたりしていないのに、朝の5時を迎える頃には村人全員が集まってみんな恥ずかしそうに顔を見合わせた。


 次第に世界が明るくなって、木がほんの少し揺れた。

 ぷくっと現れた桃色の実が、あっという間に大きくなる。


 手のひらよりもちょっと大きいくらいのサイズで成長が止まり、村人が歓声を上げた。感極まって泣いている。


 美味しいよね、桃。

 私もちょっとうるっとした。


[モモ、実ができたね]

[はい、マスター]


 ぱたぱた飛んで、一番高いところにある実をモモがもぎった。

 モモチャンが空中に浮いているように見えるので、村人がどよめく。


 モモは私にモモチャンをそっと渡した。

 スキル【洗浄】を手だけに掛けて、ピンク色した皮を剥く。


 うん、剥きやすいね。


 スキル【倉庫】からいつか作った果物ナイフを呼び出してざっくり切る。


 村長に手招きして、あーんした。


「お師様、一番乗りにわしなど恐れ多い。ぜひお先に召し上がってくだされ」

「そう?」


 別にいいんだけどな。

 気にしているようなので、一口食べる。

 うっまぁ。


「モモ」

[マスター!]


 うっかりそのまま声かけちゃった。


[あっごめん、食べな、美味しいよ]

[消えたように見えちゃいます]

[いーから]


 肩に乗るかわいいうちの子にあーんする。

 ちょっと大きかったかな、ほっぺがむちむちになった。

 ふわーんと笑顔になったので、美味しかったのだろう。


 端から見たら謎の光景を黙って見ていた村人たちに苦笑して、村長にあーん。


「こ、これはぁ!」


 興奮し始めたので、ちょっと身体を引く。

 怖いて。


 3本植えたので今日はあと29個食べられる。

 みんなで分け合えば全員の口には入るだろう。


「背の高い人は上の方を中心に、危なそうな場所は大人がとってあげてね。みんなで分け合って食べて。また明日も30個は成るし、水をあげたらもっと増える。魔力をあげたらもうちょっと増えるから。これを加工したりして、特産品にするからね。甘くて美味しい果物だよ」


 わあーーっと声が上がった。


「賢者さ、あっ、サイトーさま、あのぅ」


 いま完全に賢者って言ったな。

 10歳くらいの女の子だ。

 名前はリリアンさん、マリリンさんの娘。


「浴場のお手伝いをする予定になっています、リリアンです」

「うん、リリアンさん。どうかした?」

「あの、わたし、その、じ、実は」


 マリリンさんが慌てて近寄ってくる。


 大丈夫だよ、なに言われても別に怒ったりしないし、思ったことはなんでも言って。


「おやつを作るのが、すきで、そのぅ」

「もしかして加工するアイデアを考えてくれてるのかな?」

「はい!」

「リリアン、あなた、もしかしていつものお絵かきのことを話しているの?失礼よ」

「お母さん」

「すみません、サイトー様。この子、少し想像力が豊かで、いろいろなものを思いついて落書きをしているだけなのです」


 なんと、素晴らしい人材が眠っていたようだ。

 ステータスにスキル【着想:製菓】がついている。


 素材に触れると甘味限定でレシピを思いつくスキルらしい。

 この村だと素材自体があまりなくて、今まで触れたものが少なかったのかな。恩恵スキルだ。



[モモ、このスキル恩恵スキルだよね?]

[このスキルは、こちらの神様が生活水準を上げるために与えているものですね。各地にこのスキルを持っている生き物がいて、そのジャンルを発展させる事を望んで与えているようです。スキル【着想:ドレス】というごく限られたジャンルのものや、スキル【着想:料理】など幅広いジャンルを扱えるものがあります。リリアンさんは幅広いジャンルの方なので、かなり希少です]


 だいぶもったいない感じで埋もれてたなあ。

 村から出たらトントン拍子に名声を獲得できるのでは。


「素晴らしいです。リリアンさんはおやつを作る才能があるみたいですよ。ぜひ、一緒に考えましょう」

「まぁ、そうだったの?」


 マリリンさんは驚いているが、驚いたのはこっちである。とんでもない人材を産んでくれて、本当にありがとうございます。

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