村おこし編

第7話

 村の入り口にアーチのようなものがある。

 かなり劣化してボロボロだけど、崩れてはない。

 ぐるりを村を囲むように低い柵が設置されているけれど、外敵から村を守るというより家畜を逃さないための柵のような感じだね。


 さっき村の中に戻っていった男の子が、誰かを連れて戻ってくる。


 死にそうな顔した長い白髪の老人だ。

 すごい引っ張られている。


 うわあ、苦しそうだよ。

 おじいさん息切らしてるよ。下手したら死ぬよ。


「ひとがきた!」

「ううん、そうじゃな、ひぃ、ひぃ」


 いやひぃひぃ言ってるよ。優しくしてあげて。


 言葉はこの大陸語の共通語で良いっぽい。

 ちょっと訛りがあるみたいだけど、こちらの言葉は普通の共通語でいいよね。


「どうも〜お邪魔します。この先の森に用があって、寄らせて頂きました」


 あいさつをしている間に息を整えたおじいさんが、ふうとひと呼吸吐き出したあとに答えてくれる。


「ああそうですか、何もないところですが。どちらからいらしたのですかな」

「この先のずっと奥の森の向こう側のほうです」

「はぁ〜随分遠いところのお方ですな。もしや、村にはお泊まりになられますかな?」


 おじいさんの隣の少年の目がキラキラしている。


 ほうほう、客が珍しいんだね。きみ、おめめが赤いね、ガーネットの瞳だね。きれいだなぁ。


「どこか泊まれそうな宿がありましたら、ぜひ」

 とりあえず体験してみたいよね。

「宿はないですが、うちでよければ部屋を貸しましょう」


 ないんかい。

 おうちに知らない人を泊めて平気?良いの?


「ええっと、有り難いです。助かります」


 家まで案内してくれるらしい。

 歩き出したのでついていく。


「そうじゃ、あなたさま、お名前はなんと?」

「サイトーです」

「へんななまえだー!」

「こりゃ!」


 少年から名前をディスられた。

 すかさずおじいさんが怒ったが、少年は堪えてないらしい。

 目がキラキラしっぱなしだ。


「おまえ魔法士か?」

「お、よくわかったね。そうだよ」

「すげー!」


 さらっと答えたのでおじいさんがびっくりしている。


 あれ、言っちゃまずかったかな?


 スキル【念話】が使用された。モモからだ。


[マスター、魔法士を自称して良いのは、魔法ギルドに登録済みの者だけです]


 あーそうだった。失敗してしまった。


「ごめん、魔法士は嘘。魔法使い」

「どうちがうんだ?」

「こぉりゃ!」


 少年はぺしん!と頭を叩かれた。

 申し訳なさそうな顔をするおじいさんに苦笑いを返す。


 この人絶対に村長だよね。

 見た目が村長っぽいもん。


 少年、魔法士と魔法使いを間違えてごめんね。

 叩かれちゃったね。


 あれこれ勉強し過ぎて、当たり前の知識がすっぽ抜けてるのかもしれない。気を付けよう。


 村長の家はうちのログハウスよりも大きくて、ちょっとびっくりした。


 めちゃくちゃでかいやん。2階もあるやん。

 さすが村長。


 しかし、歴史を感じる建物でミシミシいってる部分もある。家に入るとすぐ応接間で、奥にふたつ扉がある。

 そのうち一つの扉が開いた。


「あら、お客さん!」


 出てきたのはおめめが赤い、可愛らしい女の子だった。


 髪の毛がミルクティーカラーだね。

 絶対に姉弟だな。

 頭に赤いリボンつけてる。かわいい。

 15歳くらいかな?


 刺繍の入ったベージュのワンピースに、厚めの生地の上着を着ている。


 現地民が着用している服を生で初めて見たので、興味深い。

 少年は長袖のシャツに長ズボン、村長は毛布みたいな上着と丈の短いズボンを着ている。


 まさか、買い換える金がない的な感じだろうか。


「泊めていただく事になったサイトーです。突然すみません」

「まほうつかいだぞ!姉ちゃん!」

「えっうそ!すごい!」

「こりゃ!」


 もう一人増えちゃったね、頑張って村長。


 お姉ちゃんの方は早足に寄ってきた。

 めちゃくちゃ目がキラキラしている。本当に宝石みたい。

 似た者姉弟なんだなぁ。


「この村に魔法士様が来るなんて!」

「ごめんね、魔法士じゃないんだよね。魔法使いなの」

「えっ、どう違うの?」

「ミア!お客さんにあれこれ聞くんじゃない!」


 村長もう疲れ果ててる。

 この子はミアさんね。よし、覚えたぞ。


「あっちに行って遊んでおれ、ふたりとも」


 おじいさんが宥めながらなんとかふたりを応接間から追い出す。

 また後でねと手を振ったら、ミアさんと弟くんは出ていった。弟くんの名前聞いてなかったな。


「わしはガイルと言います、この村で村長をやっとります。ああ、お茶でも出しますかな」

「いえ、お気遣いなく」


 大丈夫ですよ〜とにっこり微笑んだら、村長は諦めたように椅子に座った。


 名前かっこいいな、村長。ガイルって。


「すっかりお見通しでしょうな、貧乏で、申し訳ない。おもてなしもできませんで」


 貧乏だ!と見抜いたわけじゃなかったけれど、なんとなくそうかなという雰囲気は感じた。

 これはちょっとお手伝いしたい気分になるなぁ。


「泊めて頂くお礼に、なにかさせて頂けませんか?」


 何がいいだろう。

 お金はまぁ作ろうと思えば作れるけど、この村の感じだと現金はあんまり役に立ちそうにない気もする。服もなぁ、消耗品だしなぁ。


「有り難いですが、それは恐れ多いことです。魔法を使えるお方に何かを要求することは恥ずかしいことですからな、そんな事は出来ません」


 ああ〜今ってそうなんだよな。

 魔法士がプライド高くなり過ぎて、魔法士になんか求めるのはめちゃくちゃ身の程知らずの奴みたいな風潮が存在している。


 ちょっと嫌なんだよなぁ、それも。


「要求などされていません。私が出来ることがないかと聞いたので、ぜひ何かあれば教えて欲しいです」


 村長はめんたまがこぼれ落ちそうなくらい目を見開いて、ぐぬぅとか声を漏らしながら唇を震わせた。


 村長はおめめが赤じゃなかった。

 茶色だったね。


 顔怖いけどこれはあれだなぁ、感動してる空気だなぁ。困った。


「ミ、ミアが、とても小さい時に、この娘はいずれ魔法を使えるかもしれない、と通りすがりの魔法士様にいわれた事があるのです」

「なんと、ミアさんが」

「あのぅ、もし、何か感じるところあれば、教えては頂けませんか?もちろん、弟子にということではなく、なんぞ可能性を持っているなら、大きい町に出ることもできますから……」


 ミアさんのステータスを見ても良いかな。

 その魔法士が魔法を使えるかもしれないって思った根拠はなんだろう。魔力が強いかどうかって事かな。

 魔力は村長のほうが強いように思えたけど、見てみないとわかんないな。


「では、ミアさんを呼んでいただけますか?」

「はい、すぐに、ありがとうございます。ありがとうございます」


 ええ〜そんな畏まらなくてもいいのに。

 魔法士はもうちょっと親しみやすい存在になってくれないかな。

 やりにくい。


「お、お呼びでしょうか!」


 村長から先に話を聞いたのか、さっきより礼儀正しそうにミアさんが登場した。村長もきた。隠れて少年もきた。


 よし、まとめて全員見よう。


「それでは、後ろを向いて目を閉じて下さい」


 ステータス画面見るとちょっと視線が変なとこ行くからね、そこバレたら困るから念の為ね。


 ミアさんは確かにMP高いね。

 普通の戦闘しない庶民の数値が確か500くらいで、ミアさんはこの若さで700ある。

 スキル【裁縫】あるじゃん、えっ、すごいことだよねこれ。


 村長は〜スキル無いけどMPだいぶ高いな、1000超えてるけど。

 1105あるよ、魔法士の平均が1200くらいだよ、村長は魔法士になれるよ、こんだけあったら。


 少年はクレイくんね、クレイくんはHPが高いね、1500あるよ、騎士になれる数値だよ。

 その歳で1500はやばいよ。

 成長するにつれて伸びていくのに、今でそれなのすごいよ。スキルも【疲労軽減】がある。


 あ〜ちょっとまって、色々気になる。

 モモ〜モモ助けて〜。

 スキル【念話】対象モモ。


[モモ助けて。スキルのレアリティが一般的にどのくらいか分からないって言うのと、それを教えてあげていいものか悩む]

[……マスターは、教えてあげたいですか?]

[え?うーん、うん、そうだね。直感だけど、悪い人達じゃなさそうだよね。知りたがってたし、教えてあげたいと思うよ]

[では、マスターの思った通りにされて下さい。裁縫スキルは比較的に多いスキルなので伝えても大丈夫だと思いますよ。疲労軽減スキルは珍しい方ですが、こちらも伝えて問題ないかと思います。ガイルさんは魔法の素養がありますが、今から師を探すのは難しいかもしれませんね]

[それは、年齢の問題で?]

[魔法士は若い弟子を取りたがりますし、魔法使いの多くは気まぐれで面倒を嫌います。生きている間にガイルさんの師になれそうな人がこの村に来る可能性は……かなり、低いです]

[それは、もったいないね……そっか]

[…………マスターが良ければ、ですが、師になっていくつか魔法を教えてあげるのはどうでしょうか]


 あ、村長に同情してるのがバレた。

 だって、勿体ないよね。

 もし魔法が使えたら、お金に困ることはないかも知れないのに。


[師になるって具体的に何をするの?私がなれるもんなのかなぁ]

[なれますよ。魔法の取得条件を教え、取得するまで面倒を見るのが師です。弟子は師に魔法を教わったら、肌見放さず師の名前の入った持ち物を身に着けます。それにより、師の名前を各地に広める手伝いを弟子がする、ということになるみたいです]

[後半は全然いらないけど、覚えるまで教えるってだけなら別にそんなに難しいことじゃないね]

[マスターなら充分に可能です]

[やってみるよ]


 じっと大人しく背中を向けて、言われた通りに目を瞑っている3人がちょっと面白い。


 ごめんね、長くなって。

 とりあえず伝えるだけ伝えなければ。


「えー、はい、終わりました。どうぞ、前を向いてください」


 隠れていたクレイくんまでもが前を向いて並んだ。


「こりゃ、クレイ」


 村長はクレイくんが居たことにぎょっとしている。


「まず、私が素養を見れる感じの人間というのは人に言わないで欲しいです。出来れば、その、内密にして下さい」

「は、はい!それはもう、勿論です」


 村長、そんなにふったら首が取れるよ。


「えー、ミアさんですが、確かに魔力が多い方です。ですが、裁縫に関しての才能がありますので、そういったお仕事でも活躍できるかと思います」

「すっごーい!わたし、自分でも縫うのがちょっと早いなって思ってたの!勘違いじゃなかったんだ!おじいちゃん!仕事につけるよ!」


 ミアさんはぴょんぴょん飛んで村長に抱きついた。

 嬉しそうな顔してるなぁ、村長。


「そして、そちらのクレイくんですが、生命力的なやつの上限が高いです。【疲労軽減】のスキルを持っていますので、体力を使う職業に向いていると思います」

「クレイのことも見てくださったのですか!有り難いことです。なんと言ったら良いか……むむ、生命力とはHPの事ですか、そうですか……それであんなに元気が……」


 あっHPって言って良かったんだ。

 変に生命力とか言っちゃったよ、恥ずかしいな。

 そういえばそうか、ステータス画面は道具で見れるんだよね。


 クレイくんの情報を聞いたあとからなんかげっそりしてるね、村長。

 普段かなり連れ回されてるっぽいな。


 クレイくんはひゃっほーと言いながらどっか行った。元気だな。


「それで、ガイルさん。あなたには魔法士や魔法使いになれるくらいの高い魔力が備わっています。もしご希望でしたら私が師となりますが、どうしましょうか」


 いや、だから、目玉がこぼれ落ちるよ、そんなに目を見開いたら。

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