第5話

 

 次の日、びっくりするほどすっきり目が覚めた。【ボディケア】の効果かもしれない。


 いまは何時だ〜ときょろきょろして、時計がなかったので【製作】でデジタル時計を作る。


 時間の流れって世界共通なのかな。

 時刻の言い方とかは違うかも?


 デジタル時計は知ってる表示がされていたので、問題なく時間が把握できた。


 もう昼だったね。13時を過ぎていた。


 昨夜は結構遅くまで起きていたので、体がしっかり睡眠を取ったらしい。

 寝ている間にバスローブの紐が解けて、貧相な体が露出していた。


 それでも寒くは感じないな。


 起き上がってベッドに座ったまま、【製作】で洋服を考える。


 Tシャツとハーフパンツ、いや、楽なワンピース。どうしようかな〜と悩んで無地のアイボリーのワンピースを出した。


 おお〜着心地良いね。


 下着も新しく作る。

 動き回るかな?スポブラとかでいい?


 ちょっと悩んで通気性の良いノンワイヤーのブラとパンツを選ぶ。

 色は黒でいいや。下着が透ける生地のワンピースでもないし。


『マスター、おはようございます』

「おはよう、モモ」


 寝る前に着ていたモコモコのルームウェアから、昨日作ったドレスの一つに着替えているモモ。


 着てくれたんだ〜嬉しいな。


 ご機嫌がぐんぐん上昇していく。


 もっと作ろう。山ほど作ろう。


『魔法のピックアップが終わりました。地下に練習場も作りましたので、ご利用下さい』

「働きすぎじゃない?」

『そんなことありません。また、【製作】ですが、あちらの世界のものとこちらの世界のもので、区別がつきにくい一覧でしたので、あちらの世界のものは赤、こちらの世界のものは青のマークをつけることに致しました。マークはいつでも取り外し可能です』

「そんな事できたんだ?助かるよ〜全然使いこなせてないから」


 着替え終わったので、モモにおいでおいでと手招きする。


 ありがとうね〜。


 なでなでしたらはにかんでくれた。眼福。


『朝ごはんはどうされますか?』

「モモは何が食べたい?」

『マスターのお好みで良いのです!』

「え〜じゃあデザートに桃食べよう。まだ本物は食べたことないよね?」

『はい……うれしいです』

「かわいいが過ぎる」


【製作】でベーコンエッグとサラダを出して、耳まで柔らかいタイプの食パンを出す。無糖のカフェラテと、モモ用にりんごジュースを出した。


 桃を出してまな板と包丁を食洗機から取り出して、包丁の背で桃の皮をなぞる。皮剥きして、たねをとってカットして【製作】したガラス容器に盛った。


「ほらモモ、触って」


 桃の入った容器ごと【伸縮】を【付与】して触って貰ったら、モモサイズに変化。

 モモはじーっと見つめている。


『マスター、本当に本当に絶対にお外でしないで下さいね』

「絶対にしません、大丈夫」


 モモは自分の分も私の分もささっとテーブルに運んでくれて、ふたりとも席について頂きますとご挨拶。


「朝って感じがする……というか、このまま行くと食器類が永遠に増えていくね?」

『困った場合はスキル【ごみ箱】で宜しいかと思います』


 置き場がないぞ〜となったら処分する方向で。


「スキルの使い方を覚えて、魔法を覚えて、あとは何したらいいかな」

『ある程度の知識が必要かと思います。こちらの世界の人間や生き物と関わって行く上で困らない知識と、あとはマスターがどのように生活されるかで必要なものも変わってきますね。したいことやなりたい職業、ご希望はありますか?』

「モモと一緒にいろいろできたらそれでいいかな〜」


 本心だけど、そうなると外に出る必要があまりないね。困った。


「一生引き篭もってても良いの?」

『そうですね……』


 モモは私がやりたいことがないと知って呆然としている。わあ。


「モモが見たいものとか行きたいところとか、もしそういうのがあれば行こうよ」

『……』


 考え込んでしまった。


「ほかの妖精族に会いに行ってみる?」

『マスター、わたしは妖精族ですが、こちらの神様に生み出されて、あちらの神様からたくさんのものを授かりました。その時点で、この世界の妖精族とはもう同じ生物ではないのです』

「こっちの妖精族はどんな感じか気にならない?」

『マスター、スキル【歴史書】にて、種族の特徴などは確認済です。見た目や特徴は同じですが、妖精族は唯一の女王を筆頭に手足となって働く種族なのです。わたしはマスターの配下として生きています。この世界に妖精族の女王はただ一人ですので、ほかの妖精族と会ってわたしがマスターを女王としていることが発覚したら、大変な事になります』

「大変な事?女王を間違えてるって心配される?」

『いいえ。種族的に違う存在を女王と認識する事は有り得ないので、異物として排除されるのが普通かと』

「絶対に嫌だなぁ」


 というか、スキル【歴史書】って。

 またすごいもん出てきたな。


『マスターのやりたいように生活して頂くのが一番です』

「なんか宿題的なやつがあれば目標も出来るけど、なーんもないもんねぇ」

『では、魔法の取得条件がかなり限定されているものを選んで、時間を掛けて取得するのはいかがでしょうか?』


 なんか楽しそうなのがきたな。試練だね。


「どんなやつがあるの?」

『こちらの聖魔法【広範囲治癒】などは、取得条件が1000人以上の【治癒】となっております。【治癒】の魔法を1000人に使うことで取得出来る魔法ですよ。聖魔法の【治癒】の取得条件は、大怪我と分類される程度の怪我を10回ほど負うことです』

「怖い取得条件だな」

『ただ……』

「うん?」

『マスターはスキル【平癒】とスキル【範囲指定】をお持ちですので……』

「同じことできるって訳ね……スキル【平癒】はどんなもの?」

『完全回復させることが出来るスキルです。怪我も病気も欠損も治ります。スキル【治癒】は生まれ持って来る人もそれなりに多いですが、欠損は治りません。【治癒】は持っていると聖女などになれますが、マスターは【平癒】があるので、スキルの【治癒】はお持ちではありません』

「なくていいなぁ、被っちゃうなぁ。聖女になるのも求めてないなぁ」


 そんな悲しい顔しないで。

 狙ってないから、聖女になることを。


 わざわざ大怪我を負って【治癒】の魔法をとってもなぁ。外に出る理由かぁ。


「……あ、派手な色した喋るキノコのこと知ってる?」

『おはなしダケのことですね。マスターが最初に遭遇した魔物はおはなしダケと言います』

「結構かわいかったんだよね、あいつら」

『おはなしをする事しかできない魔物なので、放置されていることが多いですね。殺すと静かにはなりますが、切ったときに体液だと思われる液体がたくさん出るようで、わざわざ手を掛ける者はいないそうです。うるさくて腹が立って殺した例などはあるそうですが……食べてもあまり美味しくはないそうです』

「可哀想な上にちょっと残念な魔物だなあ」


 そんな生き物だったんだ。


「あれ飼えるかな?かわいいよねちょっと」

『攻撃もしないので可能です。仲良くなると会話も出来るそうです』

「よし、あれを取りに行く旅をしよう。目標はそれ」

『かしこまりました。では、おはなしダケを取りに行くルートを探しておきますね。人間に遭遇することも考えて、必要な訓練と勉強のスケジュールを改めて組んでおきます』


 朝ごはんは終わりだ。ごちそうさまでした。

 食器を一緒に片付けて食洗機に入れて、ぐーんと背伸びをする。


『それではマスター。冒険者や魔法士が一般的に使っている魔法、初級と言われている簡単な魔法の取得スケジュールを組んでおりますので、練習場に入りましたらスキル【訓練】を使用して、訓練項目を上から順に消化して行ってください』

「了解しました〜ありがとう、モモ」


 モモに手を降って、階段を降りていく。


 地下はセンサーでライトがつくようになっていて、昨日の夜にモモが手を入れたのか、最初に見た時よりも綺麗におしゃれになっている。


 練習場、と書かれたプレートが体育館のような建物の入り口に下げられている。

 ドアを開けたら全面コンクリートのちょっと怖い空間だった。


「スキル、訓練」


 一覧の一番上に火魔法【着火】作成者モモと書かれている。


 二番目には水魔法【注水】

 三番目には風魔法【送風】

 四番目には土魔法【盾】


 土魔法だけなんかちょっと違うなと思いつつ、モモに言われた通りに一番上をタップする。


 取得条件、魔力を放出しながら燃える様子をイメージする。


 魔力の放出ってどうやるんだ。

 なんか出ろって思えば出るもんなのかな。


 メモのタブがある。

 タップしたらモモからのアドバイスが書いてあった。

 さすが。


「体内に流れている魔力を感じ取り放出することで魔力を体外に出せますが、マスターはスキル【魔力操作】をお持ちですので、スキルを起動して魔力を放出することが可能です。慣れたらスキルを使わずとも出来るようになるはずです。へー、すぐ慣れると良いけどなぁ」


 最初はスキルを使って、感覚を覚えて慣れたらスキルを使わずにやればいいって事ね。なるほど。


「スキル、魔力操作」


 画面に出てきたわ。

 %で選択出来るようになっていて、1%から100%まである。

 その横に放出というボタンがあって、%で選べる所の下にも数字のボタンが4つ。小、中、大、特大とある。


 上が自分で調整する用で、下が簡単に選べるよっていう配慮なのかな。


「とりあえず50%くらいにしてみるか」


 放出ボタンを押すと同時に、焚き火の火をイメージしてみる。


 どんっと言う爆音がして、体に違和感が起きた。


 あー、これなんだっけ。

 喉が乾いたような、変な感じ。

 飢餓感みたいなやつ。

 貧血とも違う、飢えた感覚というか。


 いや、それよりすごい音したな。


「ぶっ壊れてる」


 コンクリートを突き抜けたらしい。

 大きい穴が出来ていた。


 うーん、これもしかして威力が大き過ぎるって事かな。

 次は小で選んでみる。


 焚き火の火、焚き火の火。

 体から出ていくものに気が付く。


 うわあ、分かりたくないけど分かってきた。

 血管がたぶん増えてる。そんな感じ。

 その増えた血管を通ってるのが魔力ぽいな。


 一応うっすら血管が見える手首を確認してみるけれど、動脈と静脈しか見えない。


 でもなんかもう一種類あるんだよ、体の中に。

 変な感じ。


 スキル【魔力操作】を使わずにやってみる。

 逆にタップする手間がないから、このスキルは使わないほうが楽かもしれない。


「つけ」


 指先に火が出るイメージをして魔力を放出する。

 思い通りに指先に火が出る。


 へぇ、こういうことか〜。


 掴めたら後は簡単だった。

 二十種類くらいあった訓練をクリアしてしまい、ちょっと早すぎるかなと悩んで、暇つぶしがてら【魔法書】を読む。気になった魔法の取得も終わったので、さぁログハウスに帰ろう。


 コンクリート壊しちゃったからモモに怒られるかな〜。

 直してから戻ればよかったかも。


「モモ、練習場の壁をうっかり壊しちゃったよ」

『お帰りなさい、マスター。はい、いま修繕しました』

「私がやってから上がってくればよかったね、ありがとう」

『いいえ。どうでしたか?魔法の取得はうまく行きましたか?』

「とりあえず訓練にあったやつは全部終わらせてきたよ」


 まんまるの目。

 モモがぴたりと固まって、スキルを確認している。


『マスター!素晴らしいです!数時間で終わるような内容ではなかったのですが!やはり、マスターの精神はとても安定しておられるのですね』


 モモが尊敬の眼差しで見てくる。恥ずかしい。


「そんな感じしないんだけどなぁ。不思議だね」


 モモが用意してくれた訓練内容は、簡単かつ取得している人が多いものばかりだと言うので、そんなに驚くとは思わなかった。

 褒められてちょっと嬉しい。


 ぽんっと枝付きの花を出してモモに渡す。


「それ、桃の花。枯れないように魔法で時間を止めてあるよ〜モモにプレゼント」

『きれい……ありがとうございます、じゃなくて、マスター!花魔法は妖精族にしか使えない魔法です!時魔法も龍神族しか使えない魔法ですが……』

「うん。魔法書にかわいい魔法と便利な魔法とあるのに、種族限定の魔法だったからスキルで強引に取っちゃった。スキル【種族変更】はこのためにあったんだなぁと思って」

『されたんですか?』

「取得するまでね。今は人族に戻してあるよ」


 スキル欄も検索出来る仕組みで助かった。

 全部読むと眉間が痛くなりそうと思って、スキル欄、検索、種族の変更方法で声で指示したらスキル【種族変更】がヒットしてくれたのでさくっと使ってみた。

 それにしても種族も結構たくさんあった。いつか出会えるといいなぁ。


 それから、もう一つ便利なスキルも発見した。


「スキル【魔法少女】って詳細を確認したことある?」

『そんなスキルがあったんですか?』


 慌ててモモがステータスを出してスキルの確認をする。

 しばらくして、首を振った。


『わたしのほうには出ておりません、マスター』

「そうなの?じゃあ説明するね。スキル【魔法少女】は魔法の取得条件を、いくつかの選択肢から置き換えられるんだよね」

『選択肢、ですか』

「選択肢が複数あって、例えばさっきの龍神族限定の時魔法【時間停止】は、取得条件が龍神族であることを除けば生後800年生き物を殺さないこと、なんだけど」

『はい』

「それを置き換える選択肢は、A.フリフリのミニスカートを着用して一回転後に決め台詞、B.アンタなんか好きじゃないんだからね!と言いながらめちゃくちゃ好きそうな顔をする、C.規定のアイドルソングの中から1曲選択して歌いながらダンスをする、の3つだった。私はCに置き換えて取得したよ」


 本当にあの神様が考えたスキルか?って疑ってる。

 たぶん違う気がするよ。

 これまでに神隠しした人達から求められたスキルとか、そういう【出来上がったもの】をたくさんくれてるのかも。


 モモは話を聞きながら、驚いたり青い顔をしたり赤い顔をしたり忙しい。

 それでも最終的にはしょんぼりして『それ、見たかったです』とこぼした。かわいい奴め。


 花魔法の【花作り】はなぜか妖精族になった時点で取得した。

 モモいわく『女王を楽しませるために必須のスキルとされているので、生まれ持ってきます』とのことだった。


 これはそういうことに使うためのスキルなんだ。

 そっかぁ。

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