第3話
私が嬉々としておうちを作ろうとするので、さっきからモモはぷりぷりしている。
ほらほらと洗面所とトイレを頼んで、スキル【施工】を展開する。
口に出さなくても大丈夫そう。
念じる事に慣れてきたかな?
家をどこに置こうかなと悩んで、ログハウスを少し拡張することに決める。
このエリアの中に家を作ってもプライベート感はあまりないし、部屋を一つ作ればうちは立派な1LDKだ。
ベッドルームエリアの奥に扉を設置して、その扉の向こうにモモの家を作る。
スキル【インテリア】
モモの種族、妖精族は体が小さいので、大きい家具はなるべく避けよう。
かわいらしいパステルカラーの小さい家具を選んで設置していく。
ベッドは天蓋つきでお姫様みたいなものを選んだ。
キッチンはホワイトカラー、浴室は大理石、猫脚バスタブも置く。
かわいい〜。
その他にも、ありとあらゆるかわいいを設置しまくっていたら、モモがぱたぱた飛んでくる。
『マスター、やりすぎです』
「まだまだ」
『妖精族は食事も睡眠も必要のない種族で、お風呂も洗濯もしないのです』
「嫌いなの?」
『嫌いとかではなく、必要ないのです』
「でも、あったら暇つぶしにならない?」
『マスターのお手伝いをするためにいつもおそばにいますので』
「じゃあうちにもいろいろ置こうかな」
小さいベッドとか、小さいテーブルとか。
『マスター……そうではなくて……』
目がうるうるし始めたので、モモを抱っこする。
おいでおいでと言われるがままに来てくれるので、なおさらかわいくなってしまう。
キリッとしているモモもかわいいけれど、怒ったり困ったりしゅんとしたり笑ったりするモモも素敵だよ。ういやつ。
「せっかくだからいろいろやって楽しく暮らそうよ。しばらくは引きこもりになるんだし、ずっと私につきっきりじゃなくてもいいと思う。モモにもダラダラしたり遊んだりする時間あってもいいかな〜って私は思うんだけど、そういうことは神様から禁止されているの?」
『いいえ、禁止なんて』
「じゃあいいよね」
ひょいっとスキル【インテリア】でクローゼットを設置する。
次はお洋服だな。
「洋服を作るスキルってある?」
『はい。スキル【裁縫】がありますが、こちらは裁縫に掛かる時間を短縮するスキルです。切ったり縫ったりせずに作る場合は、スキル【製作】が良いと思います』
「製作って本当に便利なんだなあ。スキル、製作、洋服」
ずらっと出てくる洋服のジャンルからドレスを選ぶ。
うわぁドレスも数が多いなぁ。
「ドレス、妖精族サイズ」
一つも出てこない。
『マスター、妖精族は着替えたりしません』
「どうやったらモモのお洋服が作れるか教えて欲しいなあ」
『スキル【伸縮】を完成したお洋服に【付与】した後、触れたものが使用者と認識されぴったりのサイズになります』
「また新しいやつが出てきた。スキル【伸縮】はそのままの意味?伸びたり縮んだり?」
『はい、マスター。【伸縮】は魔法の一つですが、マスターは』
「恩恵スキルとして神様からもらっている、と。ありがたい。うーん【付与】っていうのは物に魔法の効果を与えるってことだよね?」
『はい。【付与】も一般的には魔法で行います。ですが、付与魔法で細かく条件をつけるためには、数多くの魔法の同時行使が必要です。マスターはスキルでの【付与】が可能ですので、カスタマイズ画面で詳細を決めることができます』
「絶対に使いこなせないやつ」
『また、連携しておりますので【製作】などお使いの際も【付与】が可能です』
「神様ありがとう」
ドレスの項目からかわいい系のドレスを選んで、服に伸縮を付与して生み出す。
楽ちんだね。
どんどん作ってクローゼットに詰めていく。
モモは無言である。
もこもこの靴下やらカチューシャやらヒールやら出していくうちに、だんだんとお腹が空いてきた。
「モモ〜ご飯にしよう。というか、今は何時?」
『マスター、現在マスターの世界で言う23時42分です』
「うわ、夜中だったね。ちなみに季節は?」
『マスターの世界で言う冬、12月です。そのため、現地の住民の多くが冬ごもりをしております』
「それでいまの時期に来たんだ。都合いいもんねえ」
『それでなくともこの周辺には不可視の力が及んでおりますので、発見されるご心配はありません』
「じゃあモモのお洋服はこれだな〜」
ジェラ○ケをパクったルームウェアを出す。
モモはまた真っ赤になった。
『もう!マスター!妖精族は寒さも暑さも感じません!』
薄ピンクのボーダーラインが入ったオフホワイトのモコモコのパーカーとショートパンツ、ニーハイである。
「着替えたらご飯にしよう」
そう言ってモモのお家をあとにして、ログハウス内戻る。
さぁなに食べようかな。
それにしても冬か。ログハウス内が寒くないのはなんかしらのスキルとか魔法とかのおかげなのかな。
なんだかんだ言いながらすぐに追ってこないので、モモは着替えてくれているのだろう。かわゆい。
キッチンの前に立ってみたものの、料理を始める気分でもないなとあっさり【製作】に頼る。
料理で検索してクリームシチューとフランスパンを呼び出し、ちょっと考えてオーブンレンジとレンジボードも出した。
重いので運ばずに【インテリア】で配置する。
クリームシチューは寸胴鍋で現れて、フランスパンは紙袋に入っていた。
寸胴鍋か、コンロがいるな。
再び【製作】でちょっと悩んでなんちゃら製の卓上コンロを出す。
ガスボンベ式かと思っていたら、その部分に何かを嵌め込む凹みがあって首を傾げた。
ぱたぱた音がしたのでモモが来たことに気付く。
もこもこだ〜最高。
「ねぇモモ、これ寸胴鍋って中身が無くなったら消えるの?」
『いいえ、鍋の方も【製作】されているので消えません。必要がない場合はスキル【ごみ箱】をお使いください』
「なるほど」
あれ?スキル【ごみ箱】って【付与】したら便利だよね?
スキルの【伸縮】が【付与】できるならスキル自体も【付与】の対象になるということだ。
「普通のごみ箱にスキル【ごみ箱】を付与したら中身を回収して捨てる必要がなくなる?」
『その通りです。洗面所のごみ箱、トイレのサニタリーボックスは【製作】する際に【ごみ箱】を【付与】して作りました。また、排水口の先にも【付与】しております』
「モモが完璧すぎる……」
スキル【ごみ箱】のポテンシャルえげつないな。
「もしかして、スキル【ごみ箱】ってさ、物以外にも使える?生きているものとか」
『使用可能です』
ゾッとした。怖すぎる。違うことを考えよう。
「そういえばオーブンレンジ出したけど、電気コンセントあるかな?見当たらないんだよね」
『カスタマイズで使用する動力を選択可能です。魔力を使って使用しますか?』
「お願いします」
【製作】でいじり直してくれた。
モモありがとう〜。
「魔力便利だなあ」
『魔力が少ない存在は魔石で代用しております。そのコンロも魔石を嵌めて使うタイプのものですね。あちらの家電に近いものはこちらでも魔石を使う事で実現しておりますが、オーブンレンジは存在しませんのでお気を付けください』
「どうやって温めたり焼いたりするの?直火?」
『富裕層は火の魔石を利用したコンロを使いますが、庶民は火をおこして温めます』
「かまどか」
モモと話しながら、片手間に製作でおたまとシチュー皿とパン皿を出す。
「卓上コンロって書いてあったから出したんだけど、魔石ってどうやって作るの?」
『スキル【魔石製造】がありますが、連携されているので【製作】で可能です。一般的には魔力の塊をイメージして魔力を体外に放出し魔石を作ります』
「かっこいいね」
『マスターが製作したその卓上コンロは、この世界で一番流通しているコンロの小型式です。穴に魔石を嵌め込んで使用します。通常、魔石は作成者の任意で形が決まりますが、魔石の形を固定する魔法を【付与】した魔力注入器を開発し、技術面の詳細は少し長くなりますが、お聞きになられますか?』
「いや、いいかな……」
『かしこまりました。このコンロに必要な魔石は商会でのみ発売されており、マスターが今から一般的な方法で作るには手間が掛かるかと』
「【製作】なら簡単にできるってことだね」
『はい。アステロ商会のものですので、アステロ商会魔石をスキル【製作】で作ることでコンロの使用が可能です』
「いま私がスキル使わないで自力で作るとどんな形になるの?」
『マスターの魔力は上限がありませんので、魔石は巨大になります』
「巨大な魔石か。今度作ってみるね。製作、魔石、アステロ商会魔石」
ふぉんと鳴って魔法陣から魔石が出てくる。
コンロのくぼみに魔石を嵌め込むと、魔石が赤く色づいた。
「モモ、シチュー温めてくれる?私はパンを焼くから」
『畏まりました。温めるだけでしたらスキル【温度変更】もご使用可能ですが、スキル詳細を聞かれますか?』
「いや、いいかな……温度変更できますってやつだよね。対象が物だけかどうかは敢えて聞きたくないな……」
『かの』
「いやー、なんか本格的に手間が必要ない生活が出来そうだね!コンロいらなかったな……パンを焼くスキルはある?」
『焦げ目をつける目的となりますとスキルではなく火魔法が向いているかと思います。魔法を取得するには条件が存在しますが、今から取得されますか?』
「とりあえずはいいや、パンはオーブンレンジで焼いちゃお」
『かしこまりました』
モモがシチューをスキル【温度変更】で温めてくれている間に、まな板と包丁を出してフランスパンを斜めに切っていく。
スライス出来たパンを天板に乗せて、トースト機能を選んで押す。
あちらの世界で使っているものとこちらの世界で流通しているもの、どちらも多分ごっちゃになって項目に並んでいるんだろうな。オーブンレンジの仕組みはあちらの世界のものだし。
たぶん、検索も細かく指定したら分けてくれるんだろうけど。
ぼやっとしていたらパンが焼けたのでオーブンレンジを開けて、あ、と思い出す。
ミトンを用意してなかったな。
スキル【製作】でオーブンミトンをふたつ作って両手に嵌める。
天板を取り出してテーブルに置き、焼けたパンをミトンを外した片手でパン皿に置いていく。
「あっち」
『マスター、変わります。妖精族は熱さも感じませんので』
モモが火傷したらあかんと思って止めようとしたけれど、そんな熱そうな素振りもなく、さっとパンをちいさな両手に持ってパン皿に置いてくれた。かわいい〜。
「ありがとう、モモ。かわいいねえ」
『ありがとうございます、マスター』
だんだん慣れてきたな。
社交辞令を受けた女の微笑みになってきた。
「いただきます〜ってカトラリーも出してくれたんだ。さすが」
木製のスプーンやフォークなどカトラリーも用意してくれて、北欧風のおしゃれなランチョンマットも敷いてくれていた。
できる子。
いつの間にか透き通ったガラスの水差しとコップも置かれていて、気の利くモモに拍手したい。
けれども本人は浮かない顔である。
『マスター、妖精族は食事はいらないのですよ』
「食べれないの?」
『いいえ、食べる必要がないのです』
「食べたらなんか悪いことはある?体調崩すとか」
『いいえ』
「じゃあ一緒に食べようよ。というか、大きいよね。サイズが」
モモは気を使って、カトラリーやランチョンマットやら出してくれたけれど、モモにはサイズが大きい。
私が一緒に食べようとしていることに気がついたから自分のものも製作したのだろうが、私のサイズにあわせて作っているので、モモには全て大きい。
敢えて【伸縮】を【付与】せず作ったのはなぜかなモモたそ。気にしちゃったかな。いいのにな。
テーブルの上に小さいテーブルセットを置いて、かわいらしいカトラリーを用意する。
シチュー皿もパン皿もモモのサイズにあわせたいので触ってもらう。
「これでモモのサイズ。パンはちぎろう」
ちぎったパンをパン皿に乗せる。
モモは怒りたいような嬉しいような泣きたいような顔をして、言葉を飲み込んで小さい椅子に座った。
『マスター』
「はい」
『ありがとうございます。嬉しいです』
体が溶けちゃいそうなくらいテンションが上がってしまった。
モモ〜
「いただきます」
『いただきます』
シチューは美味しかったけど、好みかどうかで言うと好みじゃなかった。
レトルトの味がして、あ〜これがスキルで手抜きして作る味かぁ〜となる。
項目にシチューも種類がたくさんあって、具材のカスタマイズなども出来るけれど面倒で飛ばした結果、たぶん総合的に人気のあるレトルトシチューが出来上がったのだろう。
ホワイトシチューは生クリームがちょっと多めのほうが好き。
次はカスタマイズしてみよう。
パンも普通のフランスパン。
カリカリもちっとしていて普通に美味しかった。
でも、もっちもちの白パンのほうがやっぱり好きかも。
「食べ終わったあとは全部スキル【ごみ箱】しちゃえば早いんだけど、そうすると人間の生活って感じがしないよね」
ということで、食洗機と食器棚も設置したりいろいろと生活していく上で普通にあったものを置いておく。
洗剤とかどうするかな。
「モモ〜洗剤とか消耗品とかも製作?」
『製作でも可能です。スキルを連携しておりますので、洗剤や薬、化粧品など製作可能となっております。洗面所にはあちらの世界でマスターが使用していた物と同じ成分の歯磨き粉や化粧水、乳液や美容液、ヘアオイルやヘアミルクをご用意させて頂きました。生理用品などもあちらの世界で使っていたものを製作して置いております。また、カスタマイズで成分を簡単に変えられます』
「すごい、天才。モモは乾燥肌?」
『マスター、妖精族はスキンケアは必要ありません』
「じゃあ桃の匂いがするやつにしちゃお〜」
自分の分は用意してないだろうなと思ったので、さっそくモモの分を作っていく。
スキルの練習にもなるし、良いよね。
製作で化粧水を選んでカスタマイズを選ぶ。
分かりやすく、しっとりとかさっぱりとかの項目になっているのが助かる。成分だとよく分からないし時間掛かるから。
香りのところで桃を選んで、容器もピンク色のファンシーなものにする。
化粧水を選んで伸縮スキルを忘れずに付与。
モモに触れるようにお願いして、サイズが小さくなったことを確認。
スキルの使い方がうまくなってきた気がする。
乳液やら美容液やらハンドクリームやらボディクリームやら、スクラブやら思いつく限り作っていたら背後でモモも作り始めた。
どうやらモモは私の記憶を共有してるぽいんだけど、こっちに来る直前に家にあったもの以外の美容品は作っていなかったらしく、興味深そうに見ながら作っている。
スキル【施工】でモモの洗面所を作ろうと取り掛かると、モモからストップが入った。
『マスター、既にご用意頂いています』
「でもこっちにもあったほうが便利じゃない?」
『わざわざ私のサイズで作らなくても良いのです。妖精族は飛べますし、小さいサイズを使いたいとなったらおうちがありますから』
「使ってて困ったら言うんだよ?というか、自分で変えちゃっていいからね?スキルは自由に使って」
『かしこまりました』
はにかんで、スキンケア用品が入ったピンクのカゴを抱き締めたモモにノックアウト。
ずっとモモとふたりで生きていきたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます