#5

縮地クイックムーブを成功させたこの日から僕は魔法を使うことに夢中になり、どんどん空間魔法を習得していった。空間収納魔法のストレージ、空気を固形化してその場に乗ることができるようにするエアロック。2年の年月をかけて今の段階でお母さんから教えてもらえる空間魔法を全て教えてもらった。あとは教えてもらった魔法を扱いこなすだけになった。それは空間魔法に限る話であって、幻影魔法は一度も使ったことがない。教えてくれる人もそれを記した書物もこの村には存在しないからである。


幻影魔法の魔法書を買うため、お母さんにお願いして魔王の都へ行くことになった。僕が住む村から魔王都までは馬車を使って約半日、検問を終え王都へ入る。


出発から今まで違和感しかなかった。村で見たこともない形、装飾をした馬車、見たこともない服装をした御者ぎょしゃ。軽やかに見えるもしっかりとした装備をした護衛の冒険者。検問の際も門番の人が何やらよそよそしくしていたし、言葉遣いも先に検問をしていた時の言葉遣いと違っていた気がする。護衛は道中魔物が出てきてもおかしくはないので付けるのは当然だという。それは知らなかった。僕は自身が思っているより世間一般の常識というものを知らないようだ。将来村を出て自立するためにはなくてはならないものだろう。


御者に礼をして目的である魔法書店に向かう。なんでもお母さんが昔よく通っていた店らしい。王都で最も賑わっている通りからだいぶ外れた路地。人通りがほとんどないこの路地歩いていくとその店はあった。『テト魔道書店』。そう看板には書かれていた。


店内は本棚いっぱいの魔道書や魔法の歴史に関する本。ツボに無造作に入れられている巻かれた紙の束。そしてやや埃っぽい匂いと古い本を扱っている店特有の紙の匂いが漂っている。嫌な匂いというわけではない、不思議と落ち着く。店の奥、会計する場所には白髪のおじいさんがいる。


 テト爺さんお久しぶりです!


 お?おぉ!ライラお嬢ちゃんかい!?久しぶりだねぇ。元気だったかい?


 前と変わらず元気ですよ!今日は用事があってきました!


そう言われたテト爺さんと呼ばれた老人は僕に目をみやる。じっと僕を見つめ、そのあと何かを察したようにふっと笑うと、


 そうかい。カナン様の息子様ですかい。そうなると坊ちゃんに必要なのはあの本だね。ちょいと待っててな。よっこいせっと、えぇと確かここにまとめておいてたな……。


ゆっくりと思い腰をあげ僕が望んでる本を知っているかのように奥の本棚へと向かい2冊の本を抱えヨロヨロと戻ってきた。


持ってきて僕に見せた本の名前は「魔道書『幻』」と「魔道書『影』」。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る