第151話 正妻の立場


 途中から早苗と加奈子の舌戦になります。


――――――


 俺、立石達也。加奈子さんの所で行われた帝都大二次試験対策は、途中の休憩を入れて午後七時まで行われた。三頭家に着いたのが午後四時だからほぼ三時間続けていた事になる。


 来週からは自由登校だ。朝から勉強する事になる。時間が長くなる分、点数の低かった地理歴史も補強の対象になった。

 確かに内容は濃いがこれを一ヶ月続けたら流石に早苗は我慢出来なくなるだろう。だから俺は家に帰ったら直ぐに早苗に電話する事にした。


 いつもの様に駅まで三頭家の車で送って貰った後、歩いて家に帰った。もう午後八時近くになる。


 母さんに夕飯を食べる前に早苗に電話すると伝えてから部屋に入ると直ぐに電話した。



 ブルル、ブルル。


 あっ、スマホが震えている。達也からだ。直ぐに出ると


『達也、私』

『早苗か、今帰って来た所だ』

『遅かったわね。どうだったの専任講師の勉強は。まさかあの人じゃないよね?』

『流石に違う。帝都大学で試験問題の監修をしている人だ。教え方や導き方はとても良い。あのやり方をすれば二次試験も何とかなると思う。

 しかし、土日も含めて毎日これは避けたい。早苗とも会えなくなってしまう』


 嬉しい。達也が私と会う事を優先していてくれる。達也はあの人より私を選んでいるんだ。


『じゃあどうするの?』

『考えたんだが、三頭家に行くのは週四日にしようと思う。後の三日は早苗と一緒だ』


 加奈子さんとは毎週日曜日午後から会う約束をしていたが、この勉強が終わり二次試験が終わるまでは日曜日会う事は止める様に話した。


 もちろん二次試験が終わるまではあっちも我慢して貰う事にしようとした。最初相当に抵抗したが、二週間に一回の四日目は彼女の自由にするという事で折り合いをつけた。たった一ヶ月間だけだというのに、この辺は早苗と同じで我儘なようだ。


『えっ、私が三日であの人の所が四日なの?』

『早苗勘違いするな。四日と言っても加奈子さんと会っている訳じゃない。本当に真面目に勉強している。彼女と会うのは間の休憩時間位だ』

『でも四日間連続で会える訳でしょ』

『早苗とは三日連続で会えるし、学校も一緒だ』

『でも学校は来週から自由登校だし。朝から三頭家に行くんでしょ。ねえ、達也。私三頭さんと一度二人きりで話したいけど良いかな?』


 何となく止めた方が良いような気がしている。この二人は自分を主張するだけで終わってしまいそうな気がする。それぞれの立場を考えれば、妥協なんて絶対にしないだろう。それに何を話するんだ?


『早苗、何を話するんだ?』

『達也に関係は有るけど女同志の話よ』

『そうか』



 達也との電話が終わった後、三頭さんと話をする為に考えをまとめようとしたが、中々旨くまとまらない。


時間はもう午後九時を過ぎている。明日は土曜日。達也は私と一緒だと言ってくれた。話すのは明日にしよう。

 



 翌日、私はいつもの様に午前六時には、達也のベッドに潜り込んだ。彼のお母様は、もう当然の様にしてくれている。


 外は寒いから手袋を外してコートや厚手の上着を脱ぐとベッドでまだ寝ている達也の横に滑り込んだ。下着も外したいけど流石に節操がない感じがするので我慢する。

 気持ちいい。彼のぬくもりや匂いを感じながら……。



 俺、立石達也。午前七時少し前に目が覚めた。隣に柔らかい肌の温もりが有る。早苗だろう。羽毛と毛布を少しあげると嬉しそうな顔をして寝ている。もう少し寝かしてあげるか。俺もまだ起きたくない。


 午前七時半に目覚ましが鳴った。



 うーん。寝ちゃった。達也起きているかな。まだ動かない。頬をツンツンすると目を開けた。

「達也、おはよ」

「おはよ早苗。昨日加奈子さんに電話したのか?」

「朝から無粋な事言わないで。今は二人だけの時間よ」


 私は彼が目を覚ましたので体の上に乗って頬を彼の胸に乗っけた。気持ち良い。このままもう少し眠れそう。


コンコン。


ガチャ。


「お兄ちゃん、早苗お姉ちゃん、もう午前八時過ぎたよ。お母さんがご飯食べちゃってだって」


 私、立石瞳。いつの間にか朝起きると早苗お姉ちゃんがお兄ちゃんのベッドの中にいて幸せそうな顔をしている。

 私はこんな事出来ない。でもあの人はどう思うんだろう。えっ、何考えているんだ私。


「どうした瞳、顔が赤いぞ。風邪か?」

「お兄ちゃんの馬鹿知らない。早く起きて」


ガチャン。


「どうしたのかしら瞳ちゃん?ねえ彼女恋をしているの?」

「さあ?」


 瞳は玲子さんの兄洋二さんと正月以来何回か会っている様だ。兄としては素性は良く知っているし、加奈子さんからも性格はほぼ聞いている。彼ならと思う所あるが、瞳はどうなんだろう。上手く行っている様な感じはするが。


 私、桐谷早苗。土曜と日曜は達也と二人きりでいれた。とても嬉しかった。今日は月曜日、学校は自由登校になっている。つまり用がない限り行かない。補講の人達は登校するみたいだけど。


 これから三頭加奈子さんに電話する。電話番号は達也から聞いた。彼女は世界中に力を持つ組織の人間。多国籍企業とか財閥なんて言葉では言い表す事が出来ない事は達也から聞いている。


 でも私は大学を卒業したら達也と正式に結婚して妻となる。まだ十八才だけどその気持ちは十分に持っている。


 普通の女の子なら舞い上がって喜んでいる所だけど私はそうはいかない。それは内妻として決まっている三頭加奈子がいるからだ。


 たとえどんな組織の頂点に立つ人であろうと内妻で有る以上正妻の私の上どころか横に立つ事も許したくない。内妻はあくまで妾、夫の遊び相手だ。それ以上それ以下でもない。


 だけど彼女はあきらかに私より妻面をしようとしている、いやしている。だからはっきりとしておかなければならない事がある。


 それは達也の横にいる女性は常に私で有るという事だ。それを彼女に分かって貰わなくてはいけない。


 だから今日はその事をはっきりさせるつもりで電話した。本当は会って話す方が良いのだろうけど。



 スマホが鳴っている。この電話番号を知っているのは達也だけ。でも知らない電話番号。

 達也から桐谷さんから連絡が有るから話してくれと言われている。多分彼女だろう。


『三頭です』

『桐谷です。三頭さん少し宜しいでしょうか』

 やっぱり。丁度良いわ。


『良いわよ。何かしら?』

『達也の事です。三頭さん、彼がそちらに勉強に行っている様ですが、あなたはあくまで内妻。そして私は正妻の立場。あまり調子に乗らない様にして頂く為に電話しました』

 突然の言葉に一瞬何を言っているのか分からなかったが、


『どういう意味で言っているのかしら。達也の為にしている事よ。桐谷さんが出来ない事をしてあげているだけ』

『っ!…。私が言っているのは、私は達也の正式な妻となるの。勝手に達也の進路に口を挟まないで』

『何を言っているのか分からないけど、達也は自分の意思で帝都大に行こうとしているのよ。それをあなたが止める権利は無い。

 でも彼は今の学力では合格できないのが分かっている。だから私の元に来て勉強している』

『ふざけないでよ。別にあなたの所に行かなくてもいいじゃない。帝都大に行くのもいかないのも達也の勝手でしょ』

『本人は帝都大に来たがっているわ。いえ私の所にね。だから私はそれに協力してあげているだけ。正妻であるあなたは夫となる人の夢を叶える助力はしないの?』

『するわよ。しているわよ。だからあなたの所にはもう行かせない。私が達也の傍にいる』

『ふふっ、どうかしらね。貴方の力で彼が帝都大に受かる学力まで持って行けるの?受からなかったらどうするの?』

『別に帝都大だけが大学ではないわ。達也の力なら他の公立だって十分に受かる』

 

 ふふっ、本音を出したわね。彼を帝都大に来させない為に。


『そう、大学は帝都大だけではないわ。だからあなただけ公立大学に行けばいい。達也は私が帝都大に来させてあげる。彼がそれを望んでいるから』

『達也は、望んでいない。元々彼は私と同じ大学ならどこでも良かったのよ。貴方が現れてからよ。貴方が達也をおかしな方向に導いたのよ』


 ふふっ、思い通りだわ。


『達也が私と体を合せた時、貴方はまだ彼女でも正妻でもないただの幼馴染だったでしょ。それも縁遠い。後から彼の彼女になった人が言う言葉ではないわ。貴方の言葉を借りるなら、後から出て来たあなたが達也をおかしな方向に導いたのよ』

『そんな事関係ない。貴方を選ぶ前から達也の心の中には私が居たの。嘘だと思うなら彼に聞いてみてよ』

『ふふっ、無理があるわね。あなたの勝手な妄想で彼の心を作らないで』


 悔しい。確かに三頭さんの方が早く達也の恋人になった。その前には立花さんも。確かに私は最後かもしれないけど達也が正妻に選んだのは私。


『好きな事言うのは勝手よ。でも達也はいつも私を選ぶわ』

『選ぶのは勝手よ。でも彼と共に歩くのは私よ。貴方は立石家の台所をまかせてあげる。達也に美味しいものを作ってあげて』

『何ですって。良くそこまで言えるわね』


 

 俺、立石達也。三頭家の午前中の勉強が終わって、加奈子さんが居る部屋に行くと電話をしている声が聞こえる。何か尋常でない会話だ。取敢えず空いているドアをノックして彼女に戻った事を知らせると


『桐谷さん、お話は一旦終わりにしましょう。達也が戻ってきたから。これから彼と昼食よ。ではまた』



 一方的に電話を切られてしまった。とてもむしゃくしゃする。彼女に言われっぱなしだった。何とかしないと。


――――――


 いやいや、なかなか。これからどうなる事やら。


次回をお楽しみに。

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