第150話 達也の専任講師


 俺、立石達也。昨日加奈子さんから専任講師を付けると言って来た。いったいどうやって勉強するのか、いつ勉強するのか全く分からない。


 あの人の事だから色々やれるのだろけどいきなりはな。


「どうしたの達也?」

「ああ、ちょっとな」

 早苗に言えばとんでもない事になりそうだし、かといって黙っていればそれなりに問題になりそうだ。どうすればいいものか。


「達也、それより帝都大で行う二次試験対策しましょ。問題は数学ね。今回のテストで出来なかった所を洗い出してそれを集中的にやろう。地理歴史はぎりぎりだけどこれも間違った所を覚えれば良いしい」

 本当は帝都大を落ちて公立大学に行きたいのだけど、今それを言う訳には行かない。


 達也と駅に着くと立花さんが改札で待っていた。

「達也さん、桐谷さんおはようございます」

「おはよう玲子さん」

「おはようございます立花さん」


 改札を入りホームに向いながら

「達也さん、帝都大の二次試験に向けての事なんですけど…」

「立花さん、それはもう達也と話している。私が達也をフォローする」

「いえ、桐谷さん。一人ではいけません。二人でやりましょう」

 また始まった。

「早苗、玲子さん。その事なんだが…」


 話の途中でホームに電車が入線して来た。途中涼子が乗って来て二人の顔を見て直ぐに察したらしく挨拶だけすると何も言わずに窓の外を見始めた。



 やがて学校の最寄り駅に着き四条院さんと合流するといつもの様に学校に向かった。

「達也さん、先程の話ですが…」

「ちょっと待って玲子さん。さっきも言った様に私が達也の苦手部分をフォローする。貴方は自分の事していて」



 私、四条院明日香。また始まった。この二人、達也の事になるとまるで周りを気にしない。見ていて楽しい。


 帝都大に行くか公立大学行くか分からないけど、後四年はこれが見れるのね。それに二人がこの状況で有る以上、私の方に達也がポロっと来る可能性もある。楽しみだわ。その為にもしっかりと達也にアピールしておかないと。


「玲子、桐谷さん。二人で言っていても仕方ないわ。みんなで達也の弱い所フォローしましょう」

 何を言っているのよ四条院さん。いつもこの人は…。



 参ったなあ。仕方ない。

「三人共待ってくれ。実は加奈子さんから昨日の内に俺に今日から専任講師を付けると言って来ている」

「「「「えーっ!」」」」


「達也どういう事?」

「いや俺にも分からないんだが」


 話をしている内に学校に着いた。今週の残り授業は短縮になったし、来週からは自由登校だ。ここに来るのも数えるだけになったな。早いものだ。

 ちらりと早苗を見ると何か怒っている感じがするが大丈夫か。



 私、桐谷早苗。あの女(三頭加奈子)いくら力が有るからって好き勝手な事言って。今度は思う様にはさせないわ。そろそろはっきりと話をする時が来たようね。



 授業も消化試合の様な感じになっている。自習時間にしている先生もいるが良いのかな?まあここまで来るとこんなものだろうな。



 今日の授業も終わり、放課後になると

「達也、今日から達也の部屋でしっかり勉強しよう。後一ヶ月しかないから」

「加奈子さんの件も有るからちょっと待ってくれ」


 駅に着くと黒塗りの大型車一台止まっていた。直ぐにドアが開いて

「立石様。お嬢様がお待ちです。直ぐにお車にお乗りください」

「えっ?!」


 後部座席のドアを開いて乗る様に催促された。

「達也、行っちゃ駄目」

「早苗、今日だけはちょっと行って来る。どんな状況か分からないし」

「でもう」

「とにかく終わったら連絡するから」

「分かった」


 達也を乗せた車が行ってしまった。立花さん、本宮さん、四条院さんがあきれ顔をしている。



 俺は、車に乗って直ぐに助手席に座る多分三頭家のセキュリティだろう人から

「立石様、これから三頭家に参ります。三十分程で着きますのでお寛ぎを」

「…………」

 いつもながらの事だが、慣れないものだ。


 三十分程で三頭家に着いた。車止めの向こうに加奈子さんが立って待っていた。

「達也、いらっしゃい。さっ入って」


 三頭家の本宅は車止めのある門から玄関までは三十メートル位の庭を通る。そして玄関は間口が四メートルは有ろうかという昔ながらの玄関だ。


「本当はホテルとかでやっても良いんだけど、今回は家でやる事にしたの。達也は我が家にあまり来てないでしょ。慣れて貰う為にもこちらのが良いのかなって。お父様もお爺様も喜んでいたわ」

「あの、専任講師というのは?」

「ふふっ、私よ」

「えっ?!」

「というのは冗談。帝都大学出身で毎年あの大学の試験問題を監修している人よ。教える人としては完璧な人ね」

「それって良いんですか」

「何かいけない事あるの。出題問題を教える訳では無いわ。彼は出来た問題に間違いや手抜かりが無いか確認する立場の人だから。

そんな事より達也の間違った部分を徹底的に直しましょう。でも休憩時間は私と一緒よ。その後もね♡」

「…………」

 何を言って良いか分からない。



 俺は、三頭家の一つの部屋に通された。そこには先程加奈子さんが言っていた人。そしてオーバーヘッドプロジェクター、PC、ホワイトボードと机それに今回の共通テストの問題と別の問題集が置いてあった。俺の解答も何故か置いてある。


 直ぐに勉強が始まった。俺が間違った部分の問題とその関連問題を行い、その後二次試験対策問題を解くという方法で行う事になった。


 俺が何故間違った方向に思考が働いたか等の視点からも修正が加えられた。確かにこれをこなしていけば同じ間違いをしないような気がする。

 

 休憩時間になり、部屋を出ると加奈子さんが別の部屋で待っていた。俺が見ても相当に高価だと分かる調度品やタペストリが飾られた部屋だ。


「達也、どう勉強は?」

「はい、分かり易くていいですね。でもこれいつまでやるんですか?」

「二次試験の二日前までよ。東京で受験する事になるから、一日は移動時間、もう一日は環境に慣れる為ね。宿泊は私のマンションの部屋を使えば良いわ」

「えっ、しかしそれでは…」

「何か問題あるの?」

 加奈子さんの気持ちは嬉しいが早苗が黙っていないだろう。どうしたものか。


「達也、桐谷さんが色々言っているかもしれないけど、彼女の力では一ヶ月で達也の数学の補強は出来ない。ここはやはり専門の人間に任せるべきよ。私も学校の授業は終わっている。ずっとここに居れるわ」

「加奈子さん、早苗とも話します。ここでのやり方は良いと思いますが、一か月間も早苗を無視する訳にはいきません」

「そうね。私が桐谷さんと話しましょうか。彼女も貴方の為だと分かって貰わないといけないから」




 私、桐谷早苗。家に帰って来たけどむしゃくしゃしてしょうがない。なんで三頭さんが達也を独り占めするのよ。

 絶対に許されないわ。今日達也が帰ってきたら、きっちり話してあの女ともケリを付ける話をしないと。


――――――


 早苗お怒りの様です。まあそうか。いよいよ二人の正面決戦ですかね。


次回をお楽しみに。

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