第149話 高校最後の三学期


 俺、立石達也。高校最後の三学期が始まった。だが今週末は大学入学共通テストだ。


 いつもの様に教室に入ったが、みんなピリピリしているのが分かる。学期始めは賑やかなはずの教室はいつもよりずっと静かだ。


 流石に早苗、玲子さん、涼子、四条院さんは余裕の顔を見せているが、健司と小松原さんは問題集を解いていた。


 俺もスクールバッグに入れて来た問題集を開いて解き始めると隣に座っている涼子がこっちをじっと見ている。

 ちらりと後ろを見ると早苗、玲子さんそれに四条院さんも俺を見ている。どうしたんだ?


「早苗、玲子さん、涼子それに四条院さん、なんで俺を見ているんだ?」

「達也が分からない所有ったらすぐに教えてあげようと思って」

「俺の事は気にしなくて良いから自分で勉強したらいいんじゃないか」

「自分の事より達也が大事」


 健司と小松原さんが問題集に目を落としながら肩が震えている。絶対笑っているんだ。仕方なしに問題集に取り掛かると直ぐに担任の白鳥麗子先生が入って来た。今日もスーツがピッチピッチだ。


「皆さん、体育館で始業式を始めます。廊下に出て下さい」


 結局一問もやれなかった。

 


 始業式が終わると教室に戻った俺達は午前中二限だけ授業が有った。それも終わり放課後になると早苗が


「達也、共通テストも近いから一緒に勉強しようか?」

「そうしたいが一人でやる。その方が俺自身の為だ」

「じゃあ、声掛けないから一緒にやろう」

「それならいいが、本当に声を掛けないか」

「うん」


「達也さん私も良いですか?」

「達也私も」

 なんで立花さんと本宮さんが声掛けて来るのよ。


「達也じゃあ私も」

 四条院さんまで、全く達也断ってよ。


「今の時期は図書館も混んでいるしなあ。皆でやるのは無理じゃないか。だからやっぱり一人でやるよ」

「えーっ、そんなあ」


 全くこの三人が声を掛けなければ達也と二人で出来たのに。でもやらない振りして家まで帰ってしまえば、この人達には分からずに二人でやれる。


「達也、分かった。仕方ないけどそうしようか」


 私、立花玲子。おかしい、桐谷さんがこんなに簡単に受け入れるはずがない。もしかして帰った後に、達也さんの家に押しかけるという事も彼女なら出来る。


 でも、私も同じ方法を取る事が出来る。駅に降りたらそう言えばいい。


「達也さん、仕方ないですね。そうしましょうか」


 私、本宮涼子。おかしいわ。この二人がこんなに簡単に引くなんて。あっ、そうか。二人共降りる駅は達也と同じ。だとすれば考える事は同じはず。


 でも私は違う駅。仕方ないけどここは引くしかないか。それに達也は四年間ずっと一緒で良いって言ってくれたし。


「達也、分かった。頑張ってね」

「涼子悪いな」


「ねえ、なんで本宮さんにだけ優しい声掛けるの?」

「早苗、それは…」

 早苗の考えは分かっているから敢えて言ったのにこんなんで焼き餅焼くのかよ。


「まあいいわ。達也帰ろうか」


 私、四条院明日香。なんかみんな素直でつまらない。この冬休みの間に何か有ったのかな。でも他の三人が引いたのだから仕方ないか。でも方法がある。


「ねえ、達也。ファミレスは。あそこなら出来るよ」

 四条院さんが詰まらない事言って来た。何とか阻止しないと。


「駄目だよ四条院さん。あそこじゃあ集中出来ないし。だから今回は諦めましょ」

「集中力は自分自身の問題でしょ。それに桐谷さんが嫌なら達也と二人でやるわ」

「冗談じゃないわ。達也が行くなら私も行くわよ」

「達也さん、良い考えかも知れません」

「達也そうしようか」


 参ったなあ。せっかく一人でやれる方に傾いたのに四条院さんと言い、玲子さんそれに涼子まで。仕方ない。

「今日だけファミレスでやるが明日からはやらないぞ」

「「「うん」」」


 俺達は駅の傍にあるファミレスに昼食も兼用で入った。ドリンクバーだけじゃないからいいだろう。


 結局、昼食を挟んで午後四時までやった後、解散となった。約束通り声は掛けてこなかったが、ペンが止まる毎に四人が俺を見てくるのには参った。


 四条院さん、涼子、玲子さんと別れて早苗と二人だけになると

「達也、もうちょっと二人でやろう」

「ファミレスだけって約束しただろう」

「いいじゃない。本当は二人でやるつもりだったのに四条院さんがあんな事言うから」

「じゃあ、夕食までだぞ」

「うん」


 俺は早苗と俺の部屋で午後七時までしっかりと勉強した。流石に早苗も今の時期は必至の様だ。



 そして週末、俺達五人は同じ大学で二日間の共通テストを受けた。手応えはそれなりに有ったが、月曜日学校で自己採点がある。


 新聞で解答が公開されるのでそれを見ての答え合わせだ。全てマーク式なので思考より結果だけだ。


 月曜日、登校すると教室は朝から賑やかだった。既に土曜日分は昨日の内に新聞に載っていたのでその話だろう。


 俺と早苗それに玲子さんは昨日テストが終わった後、土曜日分の答えを確認していた。二人とも信じられないがほぼ満点に近い。あきれるばかりだ。


 俺はと言うと国語と外国語こそ百八十点台だったが、地理歴史は百六十点を下回っている。昨日の数学と理科がとても心配になって来た。


 学校では各教科とも担当の先生が何故その答えになるのかを説明してくれた。理科は八十点台だが数学は百四十点台だった。これでは帝都大は厳しい気がする。



 私、桐谷早苗。達也の点数では帝都大はぎりぎりか不合格だ。他の国公立なら問題ないだろうけど。大学が実施する試験まで後一ヶ月しかない。一応達也と同じく帝都大と公立大学をエントリはしてある。


 だけど、合格するか否かは単純に試験結果だけじゃない。内申もあるし共通テストは重みづけされる。それに帝都大落ちたら公立大学という手もある。


そうなれば立花さんや本宮さんも来るだろうけど、あの三頭さんは一緒ではない。これは私にとって取っても都合がいい。どうしたものか。


 


 俺が家に帰り、夕食が終わり自分の部屋で勉強していると加奈子さんからスマホに電話が入った。


「達也、どうだった共通テストは?」

「あまり良くありませんでした。」

「えっ、本当に。達也、仕方ないわ。明日からでも専任の講師を付けるから。何としても帝都大法学部に入らなければだめよ。」

「しかし…」

「しかしも何もない。絶対に帝都大に来て。それに出来ない教科だけ底上げすればいいじゃない」

「出来ない教科と言っても国語、理科、外国語は、正答率が八十パーセントを超えましたが、地理歴史が正答率八十パーセントを切って、数学は正答率が七十パーセントぎりぎりです。簡単には上がりません」

「だったら数学だけに集中しましょう。直ぐに明日から行かせるわ。でも今週末は私と会ってね。昨日は共通テストで会えなかったのだから」

「分かりました」


 しかし、専任講師と言ってもどうするんだ。




 ふふふっ、予定通りだわ。明日から達也は私と一緒。楽しい日々が始まる。


――――――


 これは大変な事になりました。達也どうするのかな?

 しかし、加奈子さんの言った意味は?


次回をお楽しみに。

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