第148話 涼子と…
俺、立石達也。今日は一月五日。朝から早苗が俺のベッドに潜り込んで来た。もう母さん達は俺と早苗がそうしていても何も気にしないみたいだ。
出来れば少しは気にしてほしいのだが。何と言っても俺達はまだ高校三年生だが、ここまで事が進んでいると関係ないのだろう。
俺のベッドの中で気持ちよさそうに寝ている早苗を見ると無下に起こす訳にもいかず、仕方なくそのまま思いに耽っていた。
今日の午後から会う涼子の事だ。彼女と初めて会った時からの事を思い出している。はっきりって面白くない過去が一杯含まれている。
でも最初の頃や彼女を一度は許しても結局裏切られたという思いが沸き上がった後、いじめで自殺までしようとした彼女を助けた事がきっかけで、俺は自分の運命が彼女を支えていく役目なのだと思った。
その後も別れを切り出したが、命に変えてもそれは嫌だと拒否された。ここまで来れば思う事は一つしかない。
二日に加奈子さんと会った時、俺の気持ち考えを話した。最初呆れていたが、それもありという事で納得してくれた。
加奈子さんに取っては些末な事なのだろう。普通の人間にとってはとんでもない事だが。
だがそれをおいそれと言う訳には行かない。だから一生懸命涼子を説得してどうしようも無かったら俺の考えを彼女に言うつもりだ。
そして今俺は涼子と会っている。市内のホテルの二階にあるラウンジだ。とても広いが人は多くない。話すには良い所だ。
「涼子、本当に新しい道、他の世界を歩く気は無いのか?俺だけ見ていてはお前に相応しい世界が見えなくなるぞ」
「達也と別れろというの?」
「そうだ」
「達也、言ったよね。達也に助けられた体、心。何処に私に相応しい世界が有るというの。私に相応しい世界はあなたの傍にいて、ずっとあなたを見ている事。その中に私の生きる道はあるわ」
「どうしてもか?」
「うん」
…………。
「涼子、俺は大学を卒業したら早苗と結婚する。加奈子さんと内縁の儀を挙げる。お前のいる所はないぞ」
「そんな事ない。私には十分にある。確かに桐谷さんと結婚すればあの人は達也の正妻、そして加奈子さんが正式に内妻に収まれば、二人の立ち位置は確定するわ。でも達也の傍にはまだ席は有る。
友達として、そしてあの人達とは関係ない立ち位置であなたの子供を育てる事も出来る。私は何も達也との正式な肩書が欲しい訳じゃない。達也がいつも側に居てくれているという思いが欲しいの」
「…………」
涼子は何としても俺を諦めて他の男を選ぶという選択肢は自ら捨てているという事か。
「しかし、俺はお前ともう体を合せる事は出来ないししなぞ」
「いい。してくれないならそれでもいい。でも一つだけお願い。達也の精子が欲しい。それを私の体に入れる。そしてあなたの子供を産む。子供は私一人で育てる」
「女手一つで子供を育てるなんて生半可な事じゃ出来ないぞ。今そう思っているだけだ。それにご両親の事どうするんだ。そんな事したら悲しむぞ」
「両親には私の気持ちを思い切り伝える。もし理解してくれないならあの家を出て子供と二人で生きる」
「涼子…」
どう言えば俺と別れてくれるのか。出来れば俺から離れて別の道を進んで欲しい。
「生活はどうするんだ。幼い子供が居ては仕事出来ないぞ」
「保育施設に預ける。基本的に母子家庭は優先してくれる。私は大学生の内に教員免許を取って小学校の先生になる。今は保育休暇も長いから」
そこまで考えているのか。それほどまでに俺の事を。
「どうしてもか」
涼子は言葉を発せずに頷いた。
…………。
何も言わずにお互い目だけを合わせた時間が続いた。
「涼子、分かった。そこまで俺の事を思ってくれるならお前の気持ちを汲もう」
「えっ?!」
「ただし、色々条件が有るぞ。
まず第一に大学卒業まで友達として過ごす。体の関係は一切しない。
第二に教員免許でも良いが、大学卒業までに一人でも生きれる職業を手に付けてくれ。出来れば国家資格の仕事が安全だ。
そして第三に…今の二つの条件がクリアできれば、大学卒業後俺の子供が出来るきっかけを作ってもいい。その子供は俺が認知する。
だけど、あくまで認知までだ。正妻は勿論の事、内妻にも慣れない。あくまで俺が外で作ってしまった子供という位置付けだ。だから簡単に会う事も出来ない。
それでもいいか」
「達也…」
なんて事なの。達也が許してくれた。達也の子供を育てていいと認知もしてくれると。達也とは会えないかも知れないけど、その子を達也として育てればいい。
涼子が、大粒の涙を流しながら思い切り首を上下して頷いている。加奈子さんには既に話してあるが、早苗には話していない。
今話せばあいつがどんな事をしでかすか分からない。あくまで大学卒業後の俺の失態として片付ける。ゴシップメディアは潰すだけだ。
「達也、一度だけ、一度だけで良い。思い切り抱き着いていい?」
「駄目だ」
「やだぁーっ」
涼子が席を立ち俺の体にぶつかる様にして来た。避ける事は簡単だが…。
「達也、ありがとう、ありがとう。達也の傍にいる。友達としている。我儘は言わない。でも大学四年間同じ学校で良いよね」
「それは構わないさ。他の人も同じだろうから」
もうここまで話したら大学四年間くらい構わないだろう。
これが俺に定められた運命として受け取るしかない。こいつを助けた時から決められていたんだ。
俺達は、ラウンジで話が終わった後、ホテル内の庭園を散歩した。このホテルのオーナーは立花物産だ。
この辺でこんな話が出来る場所はここしかない。いずれ玲子さんとも話をしなくてはいけないだろう。
涼子の顔を見ると何か嬉しそうな顔をしている。彼女にとっては嬉しい結果なのかもしれない。
――――――
ふーっ、しかしこれが落し所なのかな?
次回をお楽しみに。
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