第141話 束の間の休息


 俺、立石達也。一昨日は涼子、昨日は玲子さんと一緒にクリスマスパーティをしてくれた。でも彼女達とのイベントはこれが最後にしたいと考えている。


 これ以上引き摺る訳にもいかない。だが、涼子の事だけは、別の方法で支えてやる必要がある。運命で助けた命、自殺なんかで無くさせてたまるか。


 今日は金曜日だ。フリーの日だ。こんな気分になるのは、やはり彼女達との付き合いが精神的に疲れて来ているからだろうか。


 登校する為に玄関を出ると門の所で早苗が待っていた。相当に寒い。

「達也おはよう」


 俺の左ポケットにさっと手を入れて来た。

「早苗、頼むから家の中に入る様にしてくれないか。お前が風邪でも引いたら困る」

「私は風邪ひいてもいいよ。達也がずっと看病してくれるんでしょう?」

「そんな事になったらクリスマス過ごせなくなるぞ」

「それは別」


 他愛無い会話をしている内に駅に着くと改札で玲子さんが待っていた。とてもすっきりした顔をしている。

「達也さん、桐谷さんおはようございます」

「「おはよう立花さん」」

 

 立花さん、とてもすっきりした顔をしている。昨日は達也と二人で過ごしたはずだけどまさか、まだ達也と。でも彼女とは話をするだけだと言っていた。

 達也を信じたいけど、それにしては爽やかな雰囲気過ぎる。後で聞いてみよう。



 電車に乗ると二つ目の駅で本宮さんが乗って来た。昨日もそうだけど首にガーゼをしている。怪我でもしたのか。でも顔は明るいし…。


 学校の最寄り駅に着くと改札で四条院さんが待っていた。

「おはよう皆さん」

「おはよう明日香」

「玲子、昨日はどうだったの?」

「明日香、何の事か分かりませんが?」

「ふふふっ、すっきりした顔しちゃってぇ。分かっているわよ。達也に気持ち良くして貰ったんでしょう」

「な、なんて事を言うのですか。達也さんとはお話をしただけです」


 立花さん顔が赤くなっている。やっぱりこれは達也としたんだ。後でしっかりと問い詰めないと。



 やがて学校に着き、教室に入ると高頭さんと小松原さんが楽しそうに会話をしている。私も早く達也と二人きりであんな風になりたい。



「おはよ達也」

「おう、おはよ健司。いつもながら仲良いな」

 何故か早苗、李玲子さん、涼子から睨まれた気がした。


「俺達だけじゃないだろう。達也だって仲良いじゃないか」

「あ、ああ」


「達也、何その返事は、私とは仲良くないの?」

「達也さん、どういう事ですか?」

「達也?」

「いや、俺はみんなと仲が良いぞ。うん」


 健司と小松原さんが、口を押えて笑っている。後で覚えておけよ。


 俺達が駄弁っていると白鳥先生が入って来た。いつもながらのボリューム満点だ。

「皆さん、終業式を体育館で行います。廊下に出て下さい」




 体育館で校長先生のありがたーい、ながーいお言葉を頂いた後、教室の戻った俺達は、実質学校も終りの所為か賑やかにしていると少しして白鳥先生が入って来た。少しお化粧が濃いような気がするのは気の所為か。


 そして冬休みの間の注意事項を聞いた後、嬉しくないか嬉しいかは個人の勝手だが、通知表を受取り解散となった。



「達也、また来年な」

「立石君、また来年」

「ああ、二人共また来年」


「達也、私達も帰ろう」

「そうだな」



 教室に残っている生徒も大分少なくなった。みんな嬉しそうな顔をしている。駅に向かう途中、

「達也さん、今日から実家に戻ります。お正月には達也さんの家に父と一緒にお伺いしますので、その時は宜しくお願いします」

「今日戻るんですか。ご両親には宜しく言っておいてください」

「分かりました。そのお言葉、両親も喜ぶと思います」


 達也の家に立花さんが来るのは父親同士の仕事関係だから仕方ないけど、玲子さんも一緒に来るのは面白くないな。仕方ないにしても。


 駅に着くと

「達也、玲子、桐谷さん、本宮さん。今年は楽しかったわ。また来年ね」

 そう言って四条院さんは迎えの車が待つ駅の反対側に歩いて行った。



 電車に乗って俺達が降りる二つ前の駅で涼子が

「達也、また来年」

「ああ、来年な」


 達也は正月忙しい。でも元旦のお昼は確か空いているはず。桐谷さんの事も気になるけど後で電話してみよう。一緒に初詣行きたいし。



 涼子がそんな事を考えているとは露知らず

「本宮さん、簡単にさよならしちゃったね。初詣の事達也に言うと思っていたのに」

「さあ、色々考えがあるんだろう」



 俺達の降りる駅について玲子さんのマンションの前に着くと既に黒塗りの車が止まっていて、沖田さんが車の前で待っていた。俺達が目に入ると

「お嬢様、お帰りお待ちしておりました」

「ご苦労様、では達也さん、桐谷さん。また来年」

「はい」

「立花さんまたね」


 既に部屋の片付けなどは別の部屋だが一緒に住んでいるお手伝いさんが片付けているのか、玲子さんは制服のまま車に乗って実家に帰って行った。



「ふふっ、なんか皆が帰って行くといつもと違ってちょっとだけ寂しいね」

「そうか」


 俺は、まだ明日は加奈子さん、明後日は早苗とクリスマスパーティするという頭が残っているので、そんな感傷は無いんだが。



 早苗の家の前に着くと

「達也、後で部屋に行っていい」

「構わないが、お昼はどうするんだ?」

「うん、今日はお母さんが用意していると思うから家で食べてから行く」

「そうか、じゃあ後でな」


 早苗のお願いは基本どんなことでも聞く。今日は特に用もない。早苗と遊ぶのもいいだろう。だがあれは止めにしたい。流石の俺も体が持たない。


 玄関のドアを開けて

「ただいま」


 タタタッ。


「お兄ちゃんお帰り。お母さんがお兄ちゃんが帰ってきたらすぐにご飯にするって」

「分かった」


タタタッ。


「お兄ちゃん帰って来たよ。今日は珍しく女の人の匂いしていない」


 勘弁してくれ。妹はそんなに俺が女性と……。まあ事実か。でも半分だぞ。


――――――


 まあ、落着いた日でしたね。達也。

 

次回をお楽しみに。

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面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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