第142話 加奈子さんと


 今日は二十四日、クリスマスイブだ。午前十時に加奈子さんの家の最寄り駅で待ち合せしている。


 加奈子さんは車で迎えに来ると言っていたが、流石にあの重厚な車とセキュリティ用の車で家の前に来られたら目立ちすぎる。


 だから加奈子さんと会う時は必ず俺が彼女の家の最寄り駅まで行く事にしている。今日は厚手の紺のスラックス、シャツの上に薄手のモスグリーンのセーターを着て、やはり紺のジャケットを羽織っている。流石に昼でも寒くなった。


 いつもの様二十分前に改札で待っていると、やはり改札を行き来する人がじろじろと俺を見て来る。そんなに目立つか俺?


 やがて十分前になると駅前の交差点の信号の所に加奈子さんが現れた。白いコートで包まれていて洋服は見えないが、醸し出す美しさと気品なのか、周りの人が横目でチラチラ見ているのが分かる。


 信号が青になって一呼吸おいてからこちらに向かって来た。

「達也、おはよう」

「おはようございます加奈子さん」

「じゃあ、行こうか車を待たせている」

 何処に行くつもりなんだ?


 信号を渡ってすぐの所に車が駐車していた。加奈子さんが現れると助手席から降りた男が直ぐに後ろのドアを開いて待っている。


 加奈子さんが先に乗り俺が乗ると車が動き出した。チラッと後ろを見るとセキュリティの車だろう一緒に動き出した。


「加奈子さん、今日は何処へ?」

「ふふっ、何処だと思う。着いてからのお楽しみかな」


 街を出て高速に乗り三十分程走ってから更に下の道をやはり三十分程走ると別荘についた。前に一度行った別荘に似ているが少し違う様だ。

「ここよ。前に行った別荘と似ているけど、ここは三頭家の縁戚だけが使う所。今日は達也と私だけよ」


 加奈子さん側のドアが開かれて加奈子さんが先に降りる。次に俺が降りて周りを見ると周りが低い山に囲まれた静かな所だ。


「この別荘の周辺一キロは三頭家の私有地。主要な場所にはセキュリティを二十四時間体制で置いている他、監視レーダも各所に配置しているわ。ゆっくりと出来るわよ」


 周りを少し見ただけでも八人のセキュリティが俺達を背にして要所に着いていた。俺が想像するより三頭家というのは大きな家、いや組織の様だ。


「ふふふっ、少しずつ達也に慣れて貰わないと。いずれ全てを覚えて貰う。各国の事もね。私の未来の旦那様♡」

「…………」


 入口には、両側に十名ずつの人達が並んでいる。その中の一番前にいる年配の男の人が

「ようこそいらっしゃいました。加奈子お嬢様。準備は整っております。ゆっくりとお寛ぎ下さい」

「ありがとう。こちら立石達也さん。粗相の無い様に」

「ははぁ」


 俺は慣れるのだろうか。加奈子さんは生まれた時から頂点に立つ為に育てられてきた。俺も同じだが、次元が違う事が良く分かる。


 爺ちゃんが言っていた三頭家と立石家の百年以上に渡る関係。それが加奈子さんと俺の縁に寄って再び表舞台に出て来た。中途半端な気持ちでは加奈子さんと付き合う事は出来ない。


「達也、さっきから難しい顔してどうしたの。今日は私と二人だけのクリスマスイブよ。楽しみましょう」



 中に入ると大きなホールに大きなクリスマスツリーが飾られ、部屋全体がクリスマスデコされている。

 奥の繋ぎの部屋には二人だけで座るには大きすぎるテーブルが置かれ、その上には言葉で言うには面倒なほどの料理が並べられていた。


「達也の為に用意したの。気に入ってくれたかな」

「はい、とても素敵です」


 加奈子さんは白いコートを脱ぐと真っ赤なドレス姿だった。

「ふふっ、これも達也の為よ。どう似合う」

「とっても似合います」


「さあ、二人だけのクリスマスパーティを始めましょう」


 周りにいる男女の給仕が動き出し。テーブルの乗っている料理皿の蓋を取り始めた。そしてシャンパングラスにシャンパン多分ノンアルコールだろう、注がれると


「達也」

「「メリークリスマス」」


「加奈子さん、これは俺からのクリスマスプレゼントです」


 俺はクリスマスリボンの付いた細長い白いケースを加奈子さん渡すと

「達也開けていい?」

「もちろんです」


 中には、ちょっと値が張る諭吉さんが二桁単位で飛んで行くネックレスを入れてある。本当は三桁位が良いんだけど、まだ高校生という事と立石家と三頭家という事を考慮して買ったものだ。


「まあ、素敵。達也あなたが付けて」

「はい」


 今、加奈子さんの首には多分とんでもない金額のネックレスが着いているがそれを自分で外しテーブルの上に置くと

「これでいいわ」


 俺は席を立って加奈子さんの後ろに回ると俺が贈ったネックレスを着けた。

「どうかな?」

「はいとても似合います」

「ふふっ、幸せだわ」


食事をしながら

「達也、帝都大にはこれそう」

「はい、模試と学期末考査でA判定を取りました。来年の共通テストで結果を出せれば問題ないと思います」

「そう、それは良かったわ」


 これで、達也と二人でキャンパスライフを過ごせる。楽しみだわ。あそこの大学は家からは通えない。一緒に住んでしまおうかしら。それも有かな。


「あの、加奈子さん。少し顔が赤いですが、先ほどのシャンパン、アルコールは入っていないですよね」

「ふふっ、大丈夫よ。せっかくの楽しみをアルコールで壊したくないもの」

 じゃあ、何で顔を赤くしているんだ?


 話をしながらゆっくりと食事をした所為か随分時間が経ったような気がする。流石にお腹が一杯だ。


「加奈子さん、流石にお腹が一杯です」

「私もよ。少し休みましょう」


 紅茶を飲みながらゆっくりとしていると

「達也、そろそろね」



 加奈子さんが立って歩き始めたので俺もそれに従ってついて行くと大きなベッドルームがある。横には別室だが大きな岩風呂が有った。

「ここで一緒に温泉を楽しみましょう。でもその前に、ねっ」


 加奈子さんが俺に抱き着いて来た。



………………。


 嬉しい。達也との二人だけの時間。誰にも邪魔はさせない。


――――――


 女の子同士のそれぞれの思惑が火花散っていそうです。

 

次回をお楽しみに。

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