第137話 思いと現実と


 俺、立石達也。模試の結果は帝都大の判定A。今の時期でこの成績なら気を緩めない限り来年の大学入学共通テストも大丈夫だろう。


 そして十二月に入り高校生活最後の学期末考査も終わった。結果は中間と同じ様にあの三人は満点、そして俺と涼子はその後に続いた。



「達也、いつも一緒だよ」

 そう言って彼女は教室に向っていく後姿を見ながら、複雑な気持ちが湧いていた。


 心で支える。形は見えなくて思いの中でいつも側に居る。どう理解すればいいのか分からない。


 周りでいつもの様に好きな事言っているが耳には入ってこない。ただ涼子の言葉だけが残っていた。




 既に授業は午前中だけの短縮授業になっている。今週末からクリスマスウィークだ。だが俺は、短縮授業が始まった日から学校から帰って来ると爺ちゃんの所でひたすら稽古に夢中になっていた。早苗や玲子さんが色々言っていたが。




 そして今日は土曜日。来週の金曜日が終業式だ。今日は早苗が珍しく友達と買い物に行くと言って朝から来ていない。午前中、爺ちゃんの所で稽古をした後、午後からはリビングで何をするでもなく過ごしていた。


 早苗は俺の大切な人だ。この子と一緒になる事は、思いが心に雪のかけらの様にしっとりと落ちた時から決めていた。


 でも小学校低学年の頃、彼女が苛めに有っても何も出来なかった俺は、悔しくて、悔しくて爺ちゃんに相談した。


 強くなりたいと。


 それから一生懸命武術を学び彼女を守る事にした。でも中学校二年の時、早苗には彼氏が出来たのか、俺から離れていった。


 仕方ない事だった。体だけが大きくてあまりにもごつい顔つきと分かる俺から早苗が離れて行くのはと当然の事と思った。


 でも心の中に溜まったしこりは中々消えなくて、その気持ちを稽古に注ぎ込んだ。結果として学校では俺に文句を言う奴はいなくなった。



 早苗は俺に近付こうとしなかった。でも早苗が他の男子と付き合っている様な噂も影もみなかったのがせめてもの救いだった。どこかで俺が気が付かない内に上手くやっているのだと思っていた。


 高校に入りもう諦めていた時、涼子、加奈子さん、玲子さんと親しくなる中で、早苗が突然気持ちを打ち明けてくれた。理由は他愛無いものだった。もう少し早く打ち明けてくれたら彼女だけだったのだが。今となっては仕方ない事。



 早苗は本当にいい子だ。少し我儘な所も有るが、それは俺の事を思っての事。だからいくらでも聞き入れて来た。


 しかし、結婚とは何だ。今更ながらに疑問だ。好きだから一緒にいたいのと一生のこの人の傍にいたい、連添いたいとは違う事。


 では俺は早苗に対して、涼子、加奈子さん、玲子さんに対してどう思っているんだろうか。



 家の為に妻を選ぶ、それは俺みたいな立場に生まれて来た人間は仕方ない事だ。加奈子さんという女性がいい例だ。

 俺は、結婚という儀式そのものには興味がない…。もの思い耽っていると



「どうしたのお兄ちゃん?」

「あ、ああちょっと考え事をしていた。そう言えば休みだというのに珍しく家にいるんだな」

「うん、涼香ちゃん、南部君とデートだって言うから。いいなあ私も彼氏欲しい。お兄ちゃん、私の彼氏になって」

「はははっ、なってあげたくても瞳は妹だからな。他に良い人いないのか?」

「全然駄目。この前南部君を助けたおかげで、学校の男子はますます私から遠のくし、中学三年からこの三年間で十二センチも伸びた身長のお陰で、声を掛けてくれる人なんかいないわ」

「…………」



 妹は兄の俺が言うのも何だが、容姿は母さんに似ていてとても綺麗だ。頭も良い、武術のお陰か分からないが運動神経もいい、モテると思うのだが、問題は背の高さだろう。確か百七十五センチになったと言っていた。中々妹の横に並んで釣り合う男もいないのだろう。



「お兄ちゃん位よ。私の隣にいていいのは。でもお兄ちゃんには早苗さん以外にも一杯いるしね。どうするの?もう高校生も終りだよ」

「ああ、この前皆に言った。俺は早苗と結婚するって、でもな皆離れてくれそうにない。どうしたものか」


「良い考えがある。早苗お姉ちゃんと子供作っちゃえば。そしたら他の人は諦めるかもよ。まあ加奈子お姉ちゃんは無理だろうけど」

「大学出たらそれも良いが今は出来ない。早苗の自由を奪う事になる。俺は彼女に大学卒業までは自由に生きて欲しいんだ」


「ふーん。ところで今日は会わないの?」

「ああ、友達と買い物に行くと言っていた」

「ああそうか、もうクリスマスだものね。お兄ちゃんは買いに行かなくていいのクリスマスプレゼント?早苗お姉ちゃんの他に三人いるでしょ」

「ああ、そうだな。今から買いに行くか。瞳一緒に来てくれるか」

「ふふっ、去年と同じだね。いいよついて行ってあげる」




 今はまだ午後二時だ。午後六時位には帰って来ると母さんに言って、デパートのある駅で降りた。


「久しぶりだね。こうして一緒に買い物するの。取敢えずデパートに行こうか。プレゼント何か目星付けている?」

「ぜんぜん」

「仕方ないなあ。付いて来て」


 妹には頭が下がる思いだ。去年瞳に選んで貰ったプレゼントはみんな喜んでいた。やはり女の子の欲しい物は女の子の方が分かっている。デパートの中はクリスマスムード一色だ。


 いくつかのテナントを見て回っていると見知った女性が男と歩いていた。あれっ、玲子さんだ。俺と同じ位の身長の男、顔は結構なイケメンだ。まあ彼女が誰と歩いていても俺が何を言う事もない。


 そのまま通り過ぎようとすると

「お兄ちゃん、あれ玲子お姉ちゃんでしょ。男の人と一緒に居る。お兄ちゃん以外の人とデパートなんて。彼氏かなぁ。でもお兄ちゃん一筋に思えたんだけど」


 あっ、こっちに気が付いた。そのままこちらに寄って来ると



「達也さん、珍しいですね。この様な所でお会いするとは。妹さんと一緒なんですね」

「はい」

 

 俺が、男の方をチラッと見ると

「紹介が遅れました。兄の立花洋二です」

「初めまして、達也君。君の事は妹の玲子からよく聞いている。妹が随分お世話になっているそうだね。これからも宜しく頼む」


「初めまして、立石達也です。こちらこそ宜しく。こっちは妹の瞳です」

「初めまして立石瞳です」

「綺麗な妹さんですね。玲子にもひけを取らない位だ」

「ありがとうございます」

 玲子さんが穏やかに微笑んでいる。

 

「達也さん、ところで今日はどうしてここへ?」

「クリスマスプレゼントを買いに」

「そうですか。クリスマス楽しみにしています。私も今日は兄と一緒に達也さんのプレゼントを買いに来ました。楽しみにしていて下さい」

 そういう事か。


「そうですか、それではまた学校で」

「はい」



 俺達は本来の目的の為に別のテナントに歩いて行きながら

「玲子さんのお兄さん初めて見た。まだ大学生なのかな?それとも社会人?」

「気になるのか瞳?」

「ううん、別に」



「あれが、玲子の彼氏か。聞いていた通りだな。しかし妹さんと全く似てないな」

「ふふっ、達也さん素敵でしょ。妹さんはお母様似です。美しいお母様ですよ。ところでお兄様、瞳ちゃんに興味でも?」

「まさか」


 お兄様が女性に対してあのような事言うとは。初めて聞きました。学生時代から彼女一人作らないから女性嫌いと思っていたのに。


――――――


 ここに来て新展開?まさかね!


次回をお楽しみに。

カクヨムコン8に応募中です。★★★頂けるととても嬉しいです。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

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