第138話 二つの思い


この話から数話、日付が前後しますのでご了承ください。


――――――


 私、本宮涼香。最近南部君と話す事が多くなった。登校は瞳ちゃんと一緒だけど下校は私が図書室当番の時だけ、彼の部活が終わるのを待って帰る。


 偶に日曜とか会う事もある。彼の事が好きと言われるとそこまでではないけど、じゃあ彼が嫌いかと言うとそうでもない。


 彼氏がいない私にとって、色々と誘ってくれる南部君を断る理由がないから。彼が私に何となく好意を寄せている気がする。自分の思い上がりかもしれないけど。


 この前だって、いきなり手を繋ごうとしてきた。友達だけど手まで繋ぐのはちょっと気が引ける。立石先輩なら私から腕に巻き付いちゃうけど。もう手の届かない感じ。


 瞳ちゃんからの話だと立石先輩は大学卒業後、桐谷先輩と結婚するって言っているし。そう言えば今度のクリスマスイブ南部君に誘われている。


 終業式の次の日の土曜だから日にちは良いんだけど…。どうしようかな。去年は瞳ちゃんやクラスの友達と一緒にやった。お姉ちゃんは立石先輩とだけど。


 南部君と二人で会うのは構わないけどクリスマスイブに二人というのは、ちょっとそこまではという感じ。どうしようかな。瞳ちゃんに相談してみよう。



 図書室担当の無い放課後、

「瞳ちゃん一緒に帰ろう」

「うんいいけど。彼は?」

「彼って?」

「南部君」

「まだそこまでじゃないよ。それよりその件で相談が有るんだ」




 駅まで向かいながら

「実言うと南部君にクリスマスイブ二人で会わないかと誘われている。私としてはそこまでの人じゃないと思っているんだけど、南部君結構積極的で…。だからちょっと」

「ふうん、私、涼香ちゃんが南部君の事好きなのかと思っていたんだけど。一緒に下校するとか、日曜日会っているって聞いたから。それに積極的って例えば?」


「南部君が話しかけてくれるし、一緒に帰りたいとか休みの日に会いたいと言うから。特にあの人の事嫌いじゃないし、だから付き合っているという感じ。でもこの前手を繋ごうとして来て。友達なだけなのに手を繋ぐとかありえないし」

「はぁ、それは南部君も誤解するわ。でも異性で友達同士で手を繋ぐは無いわね」

「だからクリスマスイブどうしようかと思っている。去年は瞳ちゃんやクラスの子と一緒にやったから良かったけど、今年はお誘い無いし」


「あっ、そういう事。みんな涼香ちゃんは南部君とクリスマスイブやるだろうからと声掛けなかったのよ。だってあれだけ一緒だから。まあクリスマスイブに名を借りた彼氏いない女子会みたいなもんだけどね。残念ながら私も参加する」

「えーっ、何で声掛けてくれなかったの。それが有ればもっと早く断ったのに」

「うーん、まだ間に合うんじゃない。去年みたいに持ち寄りで恵子の家でやるって言っているし」

「じゃあ、直ぐに言うね。そっちが良い」

「でも本当に良いの?南部君がっかりするよ」

「でもう。だって南部君とクリスマスイブに二人なんてちょっと不安」

「ふふふっ、何想像しているの涼香ちゃん?」

「な、何も想像していないけど。でもやっぱりね」


 結局結論が出ないまま駅の傍に来た。




 おれ、南部和人。最初は四条院先輩の事がとても気に入っていた。向こうだってあれを誘う位だから俺の事好きなのかと思っていたけど、長尾祭の時連れて来た男が彼と言っていた。

 はっきり言って四条院先輩と合う訳が無い。その内振って俺に声を掛けて来ると思っていたけど、全くそんな事は無かった。


 俺の方からあの後何度か声を掛けたけど、全く相手にされなかった。でも長尾祭が終わった後に仲間と行ったゲーセンの出口でチャラい男達に絡まれて、殴られてしまった俺を助けてくれた立石瞳と一緒にいた本宮涼香ちゃんが、俺の介護をという程では無かったけど自分のハンカチを殴られた俺の頬に当ててくれた。


 涼香ちゃんは本宮先輩の妹、そんな事も有って、彼女を意識するようになってしまった。


 それ以来、彼女が図書室担当の時とか、日曜日とか会って話をするようになった。とても可愛くて、優しく俺に接してくれる涼香ちゃんは、俺に気が有るのかなと思ってデートの時手を繋ごうとしたけど、拒否された。


 でもそれは状況が悪かったのだと思い、思い切ってクリスマスイブにデートに誘った。その日は、終業式の次で土曜日。誘うにはうってつけだ。上手く行けば彼女との関係を大きく進展する事が出来るかもしれない。


 しかし彼女からは会う事を保留させた。考えさせてと言われて。今までの事を考えると簡単にOK貰えると思っただけにショックだったけど、特にその日は用事も無い筈だし、会う事が出来ると思っている。



 もう学校は、短縮授業になっている。部活も午後三時までだ。だから涼香ちゃんと一緒に帰る事にしている。クリスマスイブの返事も聞きたい。



 俺は部活が終わると急いで下駄箱の入口まで行った。今の時期、校門とかは寒いから。



「涼香ちゃん待った?」

「ううん、さっき図書室絞めた所だから」

「そうか。帰ろうか」

「うん」



 駅まで十分。その間に聞かないと。無言のまま途中まで来た時

「ねえ、南部君。クリスマスイブの事なんだけど…」


 OKしてくれるよね。


「やっぱり二人で会うのは止めておく。まだそういう関係じゃないから。南部君とは今まで通り、友達のままでいよう」

「えっ、そんなぁ。なんで、なんで駄目なの。だって、こうして時間合う時は一緒に下校するし、日曜日だってデートしてくれるし、イブに二人で会うのはおかしくないよ」


「南部君、ごめんね。私南部君とデートしているつもりは無かったの。友達として一緒に居るという感じだったから…」

「でも、涼香ちゃんだって俺に好意が有るから会ってくれていたんじゃないの?」

「ごめんなさい。もし南部君が私をその…好きとかって言うなら本当にごめんなさい。私はまだそんな気になれない」

「えーっ、本当にそうなの。少しでも可能性は無いの?」

「ごめんなさい」


 彼女はそう言うと駅の方に駆け足で行ってしまった。俺はとても追いかける気になれなかった。

 片思いか。よりによってクリスマス直前とは…。もうプレゼント買っちゃったのに。


――――――


 南部君残念!


次回をお楽しみに。

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