第136話 それぞれの覚悟


 私、立花玲子。昨日達也さんの家に行き、少し衝撃的な言葉を彼から聞いてしまいました。


 桐谷さんと大学卒業後、結婚をする。


 始めは、ショックで息が詰まりそうでした。でも彼は桐谷さんの行動を彼の思いだけで制限したくない。だから婚約などは直ぐに行わないという事でした。


 それと私とは友達の範囲でしか会わないという事。


 前者は、四年半という時間の中でどうにでも変遷します。どうにでも出来ます。でも後者は私の彼への思い行動が大きく制限されてしまいます。だから最終手段をいつでも取れる様にしておく必要が有ります。それをお父様に了解しておかないと。


だから、今日は久々に実家に戻ってきました。

「玲子、久しぶりだ。元気そうで何より。ところで話というのは何だ?」


「はい、実はお父様にご許可を頂きたくて」

「私に許可を?何の許可だ?」


「達也さんの子供を宿すという許可です」

「なにーっ?!

 玲子、お前はまだ高校生だぞ。何を言っているんだ。これから大学にも行かなくてはいけない。何を達也君の子供とか言っているんだ。それに彼はそれを了解しているのか。ま、まさか、もうお腹の中にいるという訳では無いだろうな」


「お父様、玲子はそこまでふしだらな娘ではありません。あくまで今後の話です。実は…」

 私は昨日、達也さんが私に話した事をお父様に話した。ゆっくりとお父様が分かり易い様に。


「そうか、達也君がそう言ったのか…。しかしそこまで達也君の事を思っているとはなあ」

「はい、私は達也さんに一生を捧げるつもりです。その為に彼の高校へも転入し、住まいも彼と同じ街にしました。簡単に彼を人に譲る気は有りません」


「それで彼の子供はいつ宿すつもりだ。高校生の間だけは止めて欲しいが」

「大学生活の中で彼と桐谷さんのとの間が揺れ動いた時がチャンスだと思っています。そのチャンスは四年間の間に必ず来ると思っています」


「そのチャンスがやってこなかったら?」

「チャンスを作ります。座して待つ気は有りません」

「はははっ、凄いな玲子は昔から芯が強い子だったが、その玲子をここまで思わせる男なのか達也君という男は」


「はい。でも達也さんを狙っているのは私ばかりではありません。ご存じのように三頭加奈子さん、四条院明日香さん、本宮涼子さんも同じです」

「ちょっと待て。四条院って、玲子の友達の明日香ちゃんか?」

「はい」

「はははっ、これは笑える。三頭家だけでも凄いのに、我が立花家、そして四条院家の令嬢も惹かれるほどの男とは。達也君の将来が楽しみだ。これは玲子の思いに乗ってみるのも面白そうだな。

 分かった。時が来た時玲子の判断で彼の子供を宿すのは認めよう。後の事は私に任せなさい。

 但し、あくまで本来の方法で彼の気持ちを玲子に向けさせる事が本筋だぞ」

「分かっています」


 これで後顧の憂いは無くなりました。達也さん待っていて下さい。桐谷さん思い通りには行かせませんよ。





 私、桐谷早苗。昨日達也が皆の前で私と大学卒業後に結婚するとはっきり言ってくれた。気持ちが舞い上がってしまった。婚約はしないと言っていたけど、達也の心は天に誓って変わらないとも言ってくれた。

 

 とても嬉しい。でも今日は三頭さんと会っている。あの人は例外と分かっている。でもこうして達也がはっきりと思いを告げてくれた以上、正妻として内縁の妻との立場の違いをはっきりとしておかないといけない。彼女とはいずれ一対一で決着をつける。もちろん達也も一緒だけど。


 いつもなら達也のベッドに潜り込んで朝寝して、一緒に朝食を摂って、ふふふっするんだけど。今日はいいわ。ゆっくりしていよう。それより後一ヶ月もすればクリスマス。その前に期末考査、実質高校最後の考査と言ってもいい。三学期からは自由登校になるから。


 そしたら達也と一緒の大学を受験する。もちろん三頭さんが居る帝都大なんて絶対に行かない。

 そして二人でキャンパスライフを過ごすんだ。それが過ぎたら彼の妻になる。嬉しくて堪らない。


「早苗、そろそろ起きて朝ごはん食べなさい」

「はーい」


 今日はどうしようかな?





 私、三頭加奈子。やっと考査や模試が終わって達也と会う事が出来る。今日は私の家の最寄り駅に午前十時に待ち合わせている。

 いつもの様に五分前に駅前の信号に行くと、居た居た。達也が改札で待っている。信号が変わったから右を見て左を見てもう一度右を見てと車来ないな。最近馬鹿な車多いから。


「達也待ったあ?」

「いえ、いつも通りです」

「ふふっ、じゃあ二十分前に来たのね」

「はい」

「そっかあ、今日は映画を見て食事したら、ねっ」

「はい」

「あっ、食事はホテルのレストランを予約してある。お父様に言って押さえて貰っているからゆっくりと食事出来るわ」

「はい」

 なんか嫌な予感?



 俺達は映画を見終わると三頭家の車でホテルに向かった。おかしい正面玄関に誰もいない。

 車がホテルの正面玄関に着くとセキュリティが周りをゆっくりと見てから加奈子さん側のドアを開けた。何も言わずにお辞儀をしている。俺も降りるとフロントフロアだけで六人のセキュリティが居る。他に人はいない。


「ごめんね。お父様がどうしてもと言ってこうなちゃった。みんな私と達也の為よ」


 エレベータに向かうと既に一基だけドアが開けられてセキュリティが中で待っている。俺達が入ると何も言わずにドアを閉めてボタンを押した。最上階のレストランフロアではない。


 ドアが開いてエレベータから降りると

「達也ごめんなさい。一般レストランは流石にセキュリティが効かないからって。でも個室でも広いからゆっくりと二人で食事が出来るわ」

「…………」

 またか、俺こんな事に慣れる事が出来るのかな。


 いつものスイートだ。既にテーブルには美味しそうな料理が一杯並べられて、女性と男性の二人の給仕が立って待っていた。向こうのドアは多分ベッドルームだろう。



「お嬢様、立石様お待ちしておりました」

「ありがとう」

 

 玲子さんの座る席の椅子を女性の給仕が引いて、俺の座る席の椅子を男性の給仕が引いた。


「さっ、達也食べましょう」


「玲子さん、食べながらで申し訳ないですが…」


 昨日俺が早苗達に言った事を加奈子さんに話した。


「そう、分かったわ。別に誰が正妻でも関係無いわ。達也は私と一緒。貴方は立石産業のトップとして采配を振るい、私は三頭家の総帥として全世界にある我が三頭家の企業の采配をする。そして達也は三頭家の役員、いえ私のパートナーとして三頭家の采配を一緒に振るう。そして私は達也の子を授かる、出来れば二人以上がいいわ。男の子と女の子がいいな。それだけの事よ」


 全くこの人の前では一般人の心配事など、些末な事でしかない様だ。


「そんな事より、帝都大には来れるわよね」

「はい、何とかなりそうです」

「何とかじゃ駄目。絶対に来てね。達也のいないキャンパスライフなんて想像しただけでも凍ってしまうから。まああの大学には産学共同プロジェクトで色々と出資している。どうにでもなるけど、そんなことしたくないから」


「加奈子さん、もしそんな事する様だったら絶対に帝都大には行きませんよ」

「冗談よ。それよりお腹いっぱいになった?」

「はい」


「じゃあ、向こうの部屋に行きましょうか」

「…………」


……………………。


 後半年もすれば達也とまた一緒に学生生活を送れる。他の子達の邪魔はさせない。


 やっぱり二週間も開くと体が持たない。思い切り来て達也。もう離さない。



「達也、クリスマスは一緒だよね」

「早苗達の事も有ります。日にちの調整は必要ですけど、加奈子さんとは会います」

「嬉しいわ。それを聞いただけで安心。今日は思い切りしてね」

 もう二時間も経つんだけど。


 堪らないこの頭から足の先まで突き抜ける様な感覚。達也もっと。



ふふっ、私の大切な人が目を閉じている。大きな切れ長の目。がっしりとした鼻。太い眉毛。薄くてしまった唇。しっかりとした輪郭。

そしてしっかりとした厚い胸板。緩みのかけらもない腹筋。みんな私のもの。達也ずっと側に居て。


「あっ、済みません寝てしまいました」

「いいのよ。まだ午後六時だもの。だからもう一度」



 結局俺が帰ったのは午後十一時を過ぎていた。加奈子さんの体力に負けそうだ。



 私、立花玲子。達也さん今日は三頭さんと午前十時に会った後、映画を見てホテルに行きました。どうせ三頭家の息のかかったホテル。

 そこから出て来たのはなんと午後十時半。悔しいです三頭さん程の力は有りませんが、達也さんの心を必ず私に向かせてみます。


――――――


 達也の宣言で余計周りの子の気合が入ってしまったようです。

 どうする達也?


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。





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