第132話 心は変わっていくもの
俺、南部和人。昨日ゲーセンの入口でチャラい男に殴られた時に助けて貰った立石さんと本宮さんに明日学校でお礼を言おうと思ったが、ただ口だけで言うのも申し訳ないと思い、何か形でお礼をしようと考えた。しかしいいものが思い浮かばない。
自分の部屋でダラダラしながらスマホを触っていると開け放したドアから妹が俺の事を見て
「お兄ちゃん、休みなのに部屋で何しているの?」
「別に、お前には関係ない」
「ふーん、私出かけて来るね。お昼は要らないってお母さんに言っておいて」
「自分で言えよ。あっ、そうだ。なあ女の子に簡単なお礼をプレゼントするって何が良いと思う?」
「はっ?ああその傷のお礼ね。ハンカチ汚したんでしょ。ハンカチでも返したら。じゃあねえ」
俺には同じ高校に通う一年年下の妹がいる。昨日頬に怪我と言っても当たり所が悪くて頬に傷がついただけだが、母さんに理由を聞かれた所に妹も一緒にいたので、聞かれてしまった。兄としては恥ずかしいが仕方ない。
しかし、ハンカチかあ…。全く分からないどんなものが良いんだ?取敢えず出かけるか。
母さんに俺と妹の昼は要らないと告げて外に出た。しかしそもそも女の子のハンカチなんて何処に売っているんだ?
取敢えずデパートに行ってみるか。全く売り場が想像つかない俺は、仕方なくデパートの入口にいる案内の女性に聞くと四か所のショップで売っているらしい。順番で行ってみると…。女の子のハンカチってこんなに高いのか。二枚買ったら俺の小遣いが無くなってしまう。
お店の人と相談して若い子も持ちそうな花柄のハンカチを買ってラッピングして貰った。もちろん一枚だけ。渡すのは本宮さんだ。立石さんはいいだろう。何となくだけど。
俺は翌朝、彼女が何時に登校するか分からないので早めに学校の最寄り駅に来て改札で待っていると本宮さんと立石さんが改札を出て来た。
普通に言ってもとても可愛い女子生徒二人だ。俺は同じクラスだが、こうして見てみるとちょっと気になる。
改札から出て来た二人に
「本宮さん、立石さんおはよう」
「あっ、南部君おはよう」
「どうしたの朝から改札で私達を待ち伏せして」
「立石さん、待ち伏せなんてしてないよ。ちょっとこの前のお礼を本宮さんに渡したくて」
「教室ですればいいじゃない」
「教室じゃあ恥ずかしいだろう。だからここで待っていた。本宮さん、これハンカチ。この前、君のハンカチ汚してしまったから」
「えっ、そんな事気にしなくてもいいのに」
「俺は気にする。だから受け取ってくれないか」
「瞳ちゃん、どうしよう?」
「良いんじゃない」
「じゃあ、南部君頂くねありがとう」
「改めて二人共この前はありがとう。じゃあ、俺先に行くから」
参ったなあ、こんな事するの生まれて初めてだよ。まだドキドキしている。本宮さんを真直ぐに見るとめちゃくちゃ可愛い。あの子のお姉さんも綺麗だけど、それ以上かも知れない。
「瞳ちゃん、貰ちゃった。どうしよう」
「良いんじゃない。普通に使えば。しかし彼がハンカチを涼香ちゃんに贈るとはね。あっ、私には何も無かったな」
「ふふっ、これあげようか」
「いやそういう事じゃないんだけど」
俺は教室に着くと自分の席にスクールバッグを置いて、この前ゲーセンに一緒に行った仲間の所へ行って駄弁っていると二人が教室に入って来た。
チラッと本宮さんを見るとやっぱい可愛い。つい意識してしまった。彼女がこっちを見ている、視線が合うと彼女は直ぐに目を逸らした。
「おい、南部どうしたんだ、本宮さんの方ばかり見て」
「何でもないよ」
私、本宮涼香。教室に瞳ちゃんと二人で入って自分の席に行くと視線を感じた。そちらに振り向くと南部君が私を見ている。ちょっと私も視線を合わせたけど、恥ずかしくなって直ぐに視線を外した。
なんで見ているんだろう。今までこんな事無かったのに。
「どうしたの涼香ちゃん?」
「あっ何でもない」
もうこっちを見ていない、気の所為かな。
授業が終わり俺は直ぐに部活へ行こうしたけどちょっと気になって本宮さんを見た。立石さんと何か話をしている。あの二人いつも一緒だな。
あっ、こっちを見た。俺は直ぐに視線を逸らせると教室を出た。なんで気にしているんだろう。
「南部、おーい南部聞いているか?」
「あっ、なんだっけ?」
「しょうがねえなぁ、秋の大会の事。今日みんなで話すって言っていたじゃないか。どうしたんだ。らしくない」
「…………」
どうしたんだ。俺?
この時期になると午後五時頃には練習を切り上げる。ボールが良く見えないのに練習して下手に怪我でもしたら元も子も無いからだ。
下校はいつも部活の仲間と帰る。普段はテニスの事しか頭に無いのに何故か朝の本宮さんのちょっとはにかんだ顔が忘れられないでいる。
「おい、南部どうしたんだ。なんか考え事ばかりしているじゃないか」
「ちょっとな」
「まあいいけど、ゲーセン寄って行くか?」
「今日は止めておく」
俺は自宅に戻り自分の部屋で理解出来ない自分の頭の中を考えていた。何故か四条院先輩の事は出てこない。あんな事した仲なのに今は本宮さんの事で頭がいっぱいだ。
あの時、彼女がポケットからハンカチを直ぐに出して小さな手で俺の頬に当ててくれた。甘いいい香りがした。
なんか、胸がドキドキしている。どうしたんだ。俺は四条院先輩が好きだ。でもこんな感情はない。
むしろあの時の事を思い出してしまう事の方が多い。だから俺は四条院先輩を追いかけているんだろうか。
俺はあの人との肉体的な繋がりを引き摺ってそれをただ好きだと思っているんだろうか。いや恋愛感情のはずなのに。
先輩は綺麗だ。スタイルも抜群。側に居て欲しいと思っている。でもその底辺にあるのって…。やはりあの人の……。
本宮さんとは話すのも今回が初めてな位だ。やはり先輩とは違う感情だ。どうすればいいんだ。
次の日、教室に入るともう本宮さんは来ていた。立石さんと話している。
「南部おはよ。うん?返事が無い。おーい南部」
「あっ、おはよ」
「お前、本宮さんと立石さんばかり見ているけどどうしたの?お前好きなの三年の四条院先輩じゃあなかった?」
「おい、あまり大きな声で言うな」
あっ、本宮さん達に聞こえたようだ。こっちを見ている。
「涼香ちゃん、南部君に気に入られたみたいね」
「まさかぁ」
でも昨日ハンカチを貰って時から南部君の様子がおかしくなった。いつも見られている様な気がする。昨日の放課後もそうだった。
「だって、南部君、瞳ちゃんと目が合うと顔を赤くしているわよ」
「でも…」
「ふふ、良いじゃない。彼ちょっとかっこいいし」
「瞳ちゃんはどうなの?」
「私、彼眼中にないわ」
「酷い言い方。南部君かぁ」
あっ、またこちらを見ている。本当は瞳ちゃんを見ているんじゃないのかな?
俺はその日も自分の部屋で…。本宮さんの事しか頭に無かった。あんな事だけでなんでこんなになるんだ?
まさか、俺が本宮さんを好きに…なったのかなぁ?でもなあ、四条院先輩の事も…。
やっぱり先輩に求めているものって…それだけなのかなぁ。そんな事無いと思うんだけど。
とにかく今は秋季大会目指して頑張る時だ。こっちを優先させないと。最近女子の方も成績上げて来たし、負けるわけにはいかない。
でもなぁ…。
――――――
南部君の頭がお花畑化しそうです。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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