第131話 揺れ動く心


 俺、南部和人。長尾祭の時、四条院さんが連れていた男は、顔だけの男だと思った。俺があれだけの事を言ったのに何も言い返してこない。


 あんな奴、あの人に合う筈がない。今は私の彼なんて言っているけど、俺が何しなくてもいずれ捨てられる。


 でも待っている事は嫌いだ。これからもあの人には積極的にアプローチを掛けるつもりでいる。




「南部、お前の番だぞ」

「ああ」

 今日は長尾祭の後の代休。俺は今クラスの仲のいい友達とゲーセンに来てエアホッケーをやっている。一番負けた奴が、〇ックで他の三人にジュースを奢る約束だ。



 一時間の死闘?の後、負けたのは何故か俺だ。テニス部部長代理なのに納得いかないが仕方ない。ゲーセンを出て〇ックに行こうとした時、出口で入って来る男三人とぶつかった。

「済みません」

 謝ってそのまま行こうとしたが、ぶつかった男、金髪でイヤリングを着けている奴が


「おい待てよ。人にぶつかってなんだその態度は!」

「えっ、いやでも少し当たっただけだし」

「ふざけるなよ」


 いきなり俺の胸倉を掴んで来た。身長は俺と同じ位だ。

「止めて欲しいな。こういう事は」

 一応喧嘩位何度かした事のある俺は軽くいなすつもりで俺の胸倉を掴んでいる手をにじると

「痛てえ、どういうつもりだこの野郎」


 いきなり殴りかかって来た。軽く避けるつもりが、よけきれず頬にまともにパンチを食らってしまい、後ろにのけ反った。


「おい、大丈夫か」

 友たちが声を掛けて来てくれたところで、今度は蹴られそうになった時、

「止めなよ」

「えっ」

 聞き覚えのある可愛い声が聞こえた。




 私、立石瞳、今涼香ちゃんと買物が終わって〇ックの方へ向かおうとしていた所でゲーセンの出入り口で人だかりが出来ている。

「涼香ちゃん、あれなんだろう?」

「さぁ?あれっ、南部君だクラスの子もいるよ」


 その言葉に近付くといきなり南部君がチャラい男に頬を殴られ尻餅を着いたところをまた蹴られようとしている。


 本当は外ではいけないのだけど、知合いが困っている所を見逃すわけにはいかない。つい声を掛けてしまった。


「止めなよ」

「なんだ?ほう可愛いお嬢さん。こいつを助ける気かい。助けても良いけど俺達と遊ばない?」

「屑を相手にする程暇じゃないわ」

「なんだとこの女、人が下出に出ればつけ上がりやがって」


 私の肩を掴もうとしたので、そのまま近接で手をはじいた後、顔に肘打ちを入れてやった。


「ぐはっ!」

 男はそのまま吹っ飛んだ。身長は私よりほんの少し高いだけ、簡単に決まった。


「この女」

もう一人が殴りかかって来たので、簡単に腕を払うと顎に掌底を食らわせた。

「ぐぁ」


「まだやる?」

「くそ、覚えておけよ」

 三人が逃げて行った。


「あんな可愛い子が凄い!」

「俺惚れそう」

 何故か周りの人が拍手してくれた。恥ずかしくて殴られた南部君を見ると、あっ


「南部君大丈夫?」

 涼香ちゃんが介護している。


 俺、南部和人。まさか立石さんに助けて貰うとは。流石あいつの妹だ。それはともかく俺の頬には涼香ちゃんのとても甘い匂いがしているハンカチが添えられている。

「だ、大丈夫だよ。ちょっと油断しただけだ。立石さん悪かったな」

「別に。あんなちょろい奴に殴られるなんて情けないわね」

「瞳ちゃん、そんな事言わない。南部君かわいそうじゃない」

「まあ、そうだけど」

 何で南部君が顔赤くしているの。



「南部君、もういいでしょ。涼香ちゃん帰ろ」

「あっ、うん」

 涼香ちゃんがハンカチを仕舞おうとしたところで

「本宮さん、血が付いている。洗って返します」

「いいよ。瞳ちゃん行こうか」



 俺達三人だけが取り残された。何か気まずい。

「南部、〇ック行こうぜ。あの二人には休み明けにお礼言えばいいし」

「そうしようぜ」

「ああ、行くか〇ック。しかし、今度あいつら見つけたらただじゃ置かないからな」

「駄目だ南部、言い方悪いが今回はお前が殴られただけで済んだが、もしお前が相手を殴って、暴力事件になったら、テニス部に影響が出る」

「…それはそうだけど。ちょっとコークでも飲んで頭冷やすか」

「「そうしようぜ」」


 しかし、本宮さんいい匂いしていたな。四条院先輩とは違った柔らかいと言うか可愛い女の子らしい匂いだったな。


「おい、南部大丈夫か。目が遠くを見ているぞ」

「あ、ああ大丈夫だ」

「しかし、立石さんってあんなに強いんだ。なんか普通に話せなくなりそう」

「そんな事はないだろう。確かに睨まれるとちょっと怖いけど」

「でも立石さん彼女にしたら守ってくれるかな?」

「お前なー、男だろ」


 確かにこいつらの言う通りだな。




 私、本宮涼香。家に帰って来て洗面所で手洗いをすると一緒にハンカチに洗剤を付けてからお風呂の中にある桶に水を入れて浸した。血はこうしておくとある程度取れる。


 しかし、知ってはいたけど瞳ちゃん強いな。身長も私より十センチ以上大きいし、カッコいいな。やっぱり立石先輩の妹だけの事はあるかぁ。


先輩の事はもうほとんど諦めている。あの包囲陣の中に付け入るスキがない。お姉ちゃんはそれでもあの件以来、先輩とは上手く行っている様だから羨ましいけど。

先輩の件で一時お姉ちゃんと仲が悪くなったけど、それも時間が解決してしまった。


 でもお姉ちゃんがとても明るくなったから妹としては嬉しいけどね。部屋の中で今日瞳ちゃんと一緒に駅の両側のデパートでアクセサリや洋服を見て少しだけ買った物を鏡に映しながらつけたりしていると


コンコン。


ガチャ。


「涼香、お風呂桶に血の付いたハンカチが入っていたけどどうしたの?」

 お姉ちゃんがいきなりドアを開けて驚いた顔で聞いて来た。


「あっ、それは…」

 今日の出来事を話すと


「そうなの、心配した。涼香に何か有ったのかと思って」

「大丈夫だよ。私瞳ちゃんといつも一緒だから」

 妹の言葉に何とも言えない感情が胸をよぎったが、確かに瞳ちゃんと一緒に居る限り安心して外を歩かせる事が出来る。


「あのままだとお母さんが心配するから、早く洗っちゃいなさい」

「はーい」


 私はこの時までは、何も変わらない日が続くと思っていた。


――――――


 むむ、南部君の心に新しい甘い風でも漂って来たのかな?


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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