第127話 長尾祭二日目


 長尾祭二日目の朝が来た。いつもの様に門の所で待っている早苗と一緒に駅に向かった。

「達也、今日は午前中私が接客であなたが受付だね。楽しくやろうね」

「ああ、そうだな」

「なんかつれない」

「そんなことないよ」


 握っている手を少し強めに握り直すと

「うふふ、じゃあいいわ。今日は外部の人も随分来そうだね。そう言えば最近三頭さんと会っている?私がこんな事聞くのもおかしいけど」

「夏休み終わり辺りから会っていない」

「ふーん、彼女良く我慢出来ているわね」

「どういう意味だ?」

「そういう意味よ」

 何を言いたいんだ早苗は?



 駅で玲子さんと合流し、更に涼子と四条院さんと合流して学校に向かった。校門には派手に長尾祭の看板兼用のアーケードが作られている。学校側も気合が入っている様だ。


 午前九時に生徒会長の放送で二日目が開始された。俺は早速受付に座る。学校の机と椅子は俺には少しきついが、後半年だ仕方ない。そのまま座っていると

「あ、あの入っても良いですか」


 俺はついギロッと目で声の主を見ると

「ひっ!いいです」

 帰ってしまった。やっちまったあ。


「達也、何しているの。駄目じゃないもっと優しく接しないと」

「早苗、悪い、気を付ける」


 二組目がやって来た。

「あの、入っても良いですか」


 今度は女子生徒だ。俺は笑顔を作って

「どうぞう」

「ひーっ!」

 また帰ってしまった。


「もう仕方ない。どうしようかな。これじゃお客様入って来れないじゃない」

 

 実行委員が

「立花さん、申し訳ないが受付代わってくれないか?」

「えっ、でも」

「玲子良いじゃない。私工藤君案内するし」

「分かったわ。達也さん貸し一つですよ」

「済みません」


 やっぱり俺には向いていない。でも玲子さんには悪い事してしまった。


 玲子さんに代わってからは、何故か入場の行列が出来始めた。早苗も忙しそうだ。

「達也、駄目じゃない。さっ、私と一緒に回ろうか」

「えっ?」

 振り向くと

「加奈子さん、もう来ていたんですか」

「ふふっ、達也の顔を早く見たくて。良いのよ達也は私だけのものだから」


 その声に玲子さんが鋭い視線を何故か俺に浴びせて来る。そしてこの光景を見た早苗が俺に怖い視線を浴びせて来た。不味い。



「あっ、三頭先輩だ。いつも美しいですね」

「わーっ、先輩来てくれたんですね。ぜひ入って下さい」

「達也入る?」

「いや、俺は…」


「達也さん入って下さい。売上貢献ですよ」

 玲子さんが渇いた声で言って来た。


「さっ、達也入ろ」

 俺の腕を掴んで来た。


 教室内からは凄い視線が。

「立石の野郎、まさか三頭先輩まで手を出しているとは」

「やはりあいつには痛い目に遇って貰わないと気が収まらない」

「きゃーっ、三頭先輩と立石君出来てたんだ。でも立石君の彼女って桐谷さんだよね」

「そうだよね」


 あーあっ、もうどうしようもなくなっている。早苗が水の入ったグラスを持って俺達の所にやって来た。

「三頭先輩お久しぶりです」

「あら、達也の正妻さんね。お久しぶりね」


「ねえ聞いた。確か三頭先輩、桐谷さんの事、達也の正妻って言ったわよね。それって」

「ま、まさかあの二人結婚しているの?」

「「ええーっ!!」」


「達也、何か騒がしいわね」

 あんたの所為だろうが!


「先輩何にします」

「お薦めで良いわ」

「分かりました」

「おい、早苗俺の注文は」

「達也は聞かなくても分かるからいい」

「…………」

 駄目だ。完全に怒っている。



 加奈子さんにはホットミルクティとモンブランケーキ、そして俺にはコーラとアップルパイだ。こんなのメニューに有ったっけ?

「早苗これは?」

「達也スペシャル。好きでしょ」

「それはそうだが」

 周りのテーブルの子が何故かメニューと俺の前に置かれたものを交互に見て不思議そうな顔をしている。もう無視をしよう。



 私、桐谷早苗。失敗したわ。まさか三頭さんがこんなに早く来るなんて。あの時、私が側でゆっくりと達也に受付教えていればこんな事にはならなかったのに。

 これじゃ、この後二人でどうぞと言っている様なものだ。立花さんは受付にしてしまったし。私は接客、四条院さんは彼氏か、本宮さんじゃあの二人の邪魔は出来ないし。もう頭に来た。


「桐谷さん、来客の対応お願いします」

 うっ、言われてしまった。



「ふふっ、達也予定外だけど二人でゆっくり出来るわね。午前中学校の外行こうか?」

「駄目に決まっているじゃないですか」

「じゃあ、昨日約束通り長尾祭終わったら私と一緒よ。もちろん今日一日もね」

「午後は用事が有ります」

「良いじゃない、断りなさい。誰私が言ってあげる」

「加奈子さん、その位にして下さい。長尾祭後は付き合いますから、今日はここで帰って下さい」

「えーっ、冷たいよ達也」

「…午前中だけですよ。それと態度と言葉遣いは友達対応で。出ないと一緒に歩きません」

「分かったわ。学校内だものね」

 本当は受付を無罪?放免された後、午前中涼子と一緒に歩くつもりだったが仕方ない。


 

 私、本宮涼子。達也が三頭さんと歩いている。彼が受付を止めて立花さんが代わりに座ったから私と一緒に午前中一緒にいれると思ったのに。…仕方ないか。もう一度涼香のクラスにでも行こう。


 3Aが騒がしくなっていた頃、長尾祭の校門の上に飾られているアーケードの前に一人の男の子が立っていた。

「ねえ、ねえ凄いイケメンだけど」

「誰か待っているのかな?」

「誘ってみようか」

「でもあれは待ち合わせでしょ」


 俺、工藤正人。明日香さんが自分の高校の学祭に誘ってくれた。昨日は嬉しくて睡眠不足な位だ。


 初めて明日香さんと体を合せてから、少しだけだけど彼女に対して普通に接する事が出来る様になった。いつも圧倒されていたから。


 あれから二回程体を合せた。やっと落ち着いて彼女を抱けるようになった。彼女も喜んでいてくれる。


今日もこの学祭の後は二人きりになれる。

もうそろそろ約束の時間なんだけど…。時計を見ると約束の午前十時を過ぎていた。あっ、来た。


「正人待ったあ、ごめんね」

「いえ、今来た所です」

 本当は二十分前に来ていたんだけど。


「さっ、行こうか」

 彼女から手を繋いで来た。嬉しい。



 最初は、彼女のクラス3Aの喫茶に行った。

「お久しぶりですね。工藤さん」

「立花さん。あなたともあろうお方がなんで受付などを」

「工藤さん、ここは学校です。全てが生徒に平等です。ここでは私は一生徒です」

「正人、ここは学校よ」

「わ、分かりました」

 そうか、そうだよな。でも立花家のご令嬢が受付なんて、ここはどんな学校なんだ?


「ねえ、ねえ四条院さんの彼って結構なイケメンね」

「まあ、四条院さんも相当の美少女だから仕方ないわ」

「お似合いだよね」


 可愛い女の子が水の入ったグラスを二つ持って来た。

「いらっしゃい四条院さん、工藤さん」

「えっ、何で君僕の名前を知っているの?」

「正人、この人は私の友達の桐谷早苗さん。私からあなたの事教えているのよ」

「そ、そうですか。初めまして桐谷さん、宜しくお願いします」

「ふふっ、四条院さんの彼って面白いわね。同い年なのに敬語使っている」

「正人はいつもの事よ」


 俺達はお薦めを注文して何となく廊下を見ていた。

 えっ、あの人は!


「どうしたの正人、そんなに驚いた顔をして」

「いえ、なんでもないです」

 見間違いじゃなあない。なんで立石産業の跡取りと三頭家のご令嬢が一緒に、それも手を繋いでいる信じられない。


「明日香さん、この高校に立石産業の跡取りっています?」

「達也の事?いるわよ。いつも一緒よ」

「えっ、じゃあ三頭家のご令嬢は?」

「去年卒業したわ。ああ、あの二人を見たのね。まあ気にしない事よ」

「それはそうなんですけ」


 なんて高校なんだ。立石産業の跡取り、三頭家のご令嬢、立花家のご令嬢、そして明日香さんは四条院家のご令嬢。どれだけの財閥がこの高校には居るんだ。俺が継ぐ工藤工業なんて蟻でしかないじゃないか。


 いつもその蟻に群がる人達に嫌気がさしているのに。ここではあの人達が普通にしている。立花家のご令嬢が受付しているなんて。

 俺は頭を抱えてテーブルに顔をうつ伏した。俺は井の中の蛙より視野狭窄に陥っていたようだ。

 それにさっきの可愛い子といい、俺もこの学校に入っていれば、今の様な気持ちにならなかったかもしれない。もう遅いけど。


「どうしたの正人」

「あっ、えっ、いや何でもないです。でもこの高校凄いですね」

「何が?」


「お待ちどう様」

 さっきの可愛い子確か桐谷さんって言ったっけ。この子も物凄く可愛い。俺の学校にはいない。


――――――

 

 二日目が思ったより長くなってしまいました。このままでは締まらないので次話に続きます。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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