第126話 長尾祭初日


 今日から長尾祭だ。普通三年生にもなると受験もあり、催し物に気が入らないのが普通だが、去年出来なかっただけに何故か皆気合が入っている。


 先程、生徒会長から長尾祭開始の放送が有った。学祭実行委員が、

「皆始めるぞー!」

「「「おおーっ!」」」


 男子も女子も気合が入っている。長尾祭は、土日の二日間開催される。もちろん郊外の人達の来場も可能だ。


 俺の門番(受付)は、明日日曜日の午前中が担当だ。ちなみに玲子さんと四条院さんは今日の午前中、早苗が明日の午前中、涼子が明日の午後だ。


 取敢えず、俺は何もする事がないが、せっかくだから2A、妹の瞳と涼香ちゃんがいるクラスに行ってみる事にした。早苗と涼子が一緒だ。


 二階に降りてすぐ右に折れると2Aがある。受付に瞳が居た。三人で側に行くと

「あっ、お兄ちゃん、早苗お姉ちゃん、涼子お姉ちゃん来てくれたんだ」

「ああ、何やっているんだ?」

 そう言えば聞いてなかった。


「うん、執事喫茶。涼香ちゃんは、裏方だからいないけどまだ人少ない来ないから呼んでくる?」

「いいわ。ありがとう瞳ちゃん」

「早苗、涼子どうする。入る?」

「お兄ちゃん、売上に協力してよ」

「そうだよ達也。入ろ」

「うん、入ろう達也」


「えへへ、ありがとうお姉ちゃん達。三人様ご案内です」


 俺達が入り口に入ると既に二組のお客が入っていた。まだ始まったばかりなのに人気だな。

 良く見ると執事役は中々のイケメンたちだ。俺には無理そうだ。白いシャツと長い黒のエプロンを付け、銀色の丸いプレートを持った男の子が寄って来た。

 そして早苗と涼子を見てニコッとした後、俺を見て目を丸くしたが、

「さ、三人ですか。どうぞこちらへ」


 三人で案内された四人席に座ると

「ご注文は如何しましょう?」

「お薦めは?」

 早苗が聞くと

「暖かいカフェオレとショートケーキです」

「私それにする」

「私も」

「じゃあ、俺も」

「皆さん、お薦めですね。少々お待ちください」

 

 カーテンの仕切りに入って行く直ぐに出て来た、クラスメートと何かひそひそと話している。


 三年生が早い時間に入って来たので驚いているのだろうか。待っている内にカーテンの仕切りから涼香ちゃんが出て来た。

「立石先輩来てくれたんですか。嬉しいです。桐谷先輩、お姉ちゃんいらっしゃい」

「涼香ちゃん、教室上手くデコしているね」

「うん、みんなで一週間かかって飾り付け作ったんだ」

「へーっ、これ皆手作り?凄いな」

 窓のカーテンが素敵なドレープになっていて黒板にはいわゆるチョークアートが描かれている。壁にも素敵な絵が掛かっている。


「何か私達のクラスより素敵だね」

「えへへ。褒めてくれると嬉しいな。私裏方しているから戻るね。ゆっくりしていって」

「ありがとう涼香ちゃん」


 三人で教室のデコを話していると注文したお薦めを俺達を案内してくれた男の子ともう一人の男の子が持って来た。中々二人共似合っている。

「ご注文のお薦めをお持ちしました。どうぞ」

「ありがとう」



「あの、涼香ちゃんのお姉さんですよね」

「そうだけど?」

「あの、もし良かったら握手して貰えますか?」

「僕も」

「えっ?」


 涼子が俺の顔を見た。俺が頷くと涼子が手を出した。二人が順番に涼子と握手すると

「ありがとうございます。とても嬉しいです」

「俺もです」


 ニコニコしながら仕切りの所に戻って行った。

「達也どういう事?」

「さあ、俺には分からないが?」

「本宮さん人気あるのね」

「分からないです」


 先程涼子から握手して貰った男の子達が、嬉しそうにニコニコしながら他の男子と話している。涼香ちゃん繋がりなのか?良く分からないが。



 カフェオレもショートケーキも美味しかったが、俺には少し甘すぎたようだ。早苗と涼子は美味しい、美味しいと言ってたべているけど。


 二十分位すると受付に待ち行列が出来始めたので、俺達は後ろの出口から教室の外に出ると

「達也、一通り回らない?」

「良いけど」

「ねえ本宮さん、私達也と一緒に回りたいんだけど」

「早苗それは…」


「達也いいよ。達也とここに来れただけでも嬉しいし」

「ごめんね。明日の午前中なら私客対応しているから達也と一緒に回れるよ。立花さんが五月蠅いかも知れないけど。達也行こう」

「達也は明日午前中受付です。私は明日の午後担当です。だから明日は達也と回れません」

「っ!…」

 そうだった。明日は二人共交互に担当だった。でも…。


 早苗が俺の腕を引っ張って階段の方へ行こうとした。涼子が少し寂しそうな顔をしたので、ちょっと躊躇したが、

「達也、桐谷さんは彼女なんだから一緒に行って」

「…………」


 俺は早苗に引っ張られる様な格好で階段に向かった。背中に涼子の視線を感じるが仕方ない。


「早苗どうしたんだ?」

「えっ、別に。私達也の彼女なんだから二人で回りたいと思っただけ。駄目?」

「全然駄目じゃないけど。涼子への態度は、らしくなかったからな。玲子さんになら分かるんだが」

「ふふっ、いいじゃないそんな事」

 本宮さん、何故か達也との距離感が近い気がした。だから三人で回るのが嫌だったのだけど、そんな事言う訳にもいかないから。でもちょっと言い方きつかったかな。



 俺達は、その後、二年生で教室で催し物をしている所を回って、体育館で開催されている軽音や演劇を見た。中々旨いものだな。俺にはとても出来ないけど。


「達也お腹空かない?」

「えっ、さっきショートケーキ食べただろ」

「だったもう午前十一時半だよ。混む前にグランドに出ている模擬店で何か食べようよ」

「そうか、もうそんな時間か。じゃあ食べるか」


 俺達は、焼きそばとたこ焼き、それと豚汁を買って飲食スペースに行った。まだ席に余裕があった。

「ふふっ、天気も良いし楽しいね」

「ああ、そうだな。この豚汁上手く出来ているな」

「達也、豚汁好きなら作ってあげようか?」

「いや、それは良いが」


 二人で食べていると

「達也さん」

「達也」

振り向くと玲子さんと四条院さんだ。


「達也さん、お食事終わりましたら私と一緒に見て回りませんか」

「何言っているの立花さん。見れば分かるでしょう。達也は私といるのよ」


 また始まった。

「玲子さん、今日は早苗と回る事にする。でも明日の午後なら空いているから。早苗いいだろう」

「仕方ないわね」

「…分かりました。達也さん。絶対ですよ」

 そう言うと四条院さんと一緒に他の飲食スペースに行った。


「達也ありがとう」

「早苗は俺の彼女だからな」

「ふふっ、言ってくれるのね。嬉しいわ」


 しかし、明日は、加奈子さんが来ると言っていた。何時とは聞いていないが…。でもまさか今更文化祭一緒に回ろうなんて言わないだろう。



 昼食を終わらせてから話し込んでいると

「あれ?達也あれ見て」


 早苗が顔を向けた方を見ると確かあれは瞳と同じクラスの南部和人だ。四条院さんに何か言っている。彼女は困った顔をしているが、玲子さんも何か言っている。

 そのまま見ていると南部が諦めて彼女達の前から去って行った。

「何か有ったのかな?」

「さあ、俺には分からないが」


 この後は体育館で行われている催しものを見ていた。近くに涼子がいるがそれはそれでいい。


 

 長尾祭初日が無事に終わり俺はいつもの様に早苗、玲子さん、涼子それに四条院さんと一緒に帰った。別れ際に四条院さんが、

「玲子、明日工藤君が来る。一緒に回ってくれない」

「何を言っているのですか。明日香は彼と二人で回ればいいでしょう」

「そうなんだけどさ。彼氏内気でしょう。その辺が気になって」

「それはあなた達の問題です」


 駅についてそのまま四条院さんはいつもの様に改札を抜けて駅の反対側に行った。


「立花さん、工藤君って誰?」

「明日香の彼です」

「えっ、じゃあ四条院さんの彼を初めて見れるんだ。楽しみ」


 マンションの前で玲子さんと別れ、早苗と別れようとすると

「達也、部屋行っていい?」

「今日は疲れた。少し休ませてくれ」

「そうか、じゃあ長尾祭終わった後でね」

 笑顔のまま自宅の玄関に入って行った。何考えているんだ。


 夕食も終わり、風呂にも入って今日は早めに寝ようと思った所で加奈子さんから連絡が有った。

『達也、明日長尾祭行くけど案内してよね』

『俺、午前中受付します。午後からもちょっと予定が入っているので』

『何よそれ。少しは私に時間取れないの。最近冷たいわ』

『そんな事言われても』

『じゃあ、長尾祭終わったら会って。ならいいわ』

『分かりました』

『どちらにしろ、長尾祭には行くわ。じゃあ明日ね』


 なんか、最近疲れて来たな。仕方ない事だけど俺だけの時間が欲しい。


――――――

 

 達也がんばれ!


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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