第125話 二学期は初日から賑やかです


 今日から二学期。いよいよ高校生活も後半年になった。塾の夏合宿の最終日のテストは良い成績だったがあくまで合宿で行った授業の範囲という事もあり、実際は帝都大の合格率は塾の模試でも依然B判定のままだ。ただ、教科によってはA判定もあるが、全体としては未だぎりぎりな所だ。

 



 流石に俺のベッドの中に早苗はいない。やはりあれは夏休みの彼女らしいイベントだったのかと思うとホッとする。


 朝ごはんを食べて、制服に着替える。まだ夏服なのが助かる。朝から太陽が思い切り降り注いでいるから。

 今年の残暑はいつまで続くのかと思いながら玄関を出て門の所に行くと早苗がスクールバックを持って立っていた。


「おはよ達也」

「早苗おはよ」


 俺は何気なしに早苗のスクールバッグを彼女の手から取って自分のバッグと一緒に手に持つと


「ふふっ、達也ありがと」

 いきなり俺の左腕にしがみついて来た。


「早苗歩きづらい。そんな事すると持ってやんないぞ」

「ちぇっ、もう私のおっぱいは効果無いの?」

「そういう事じゃあない。それに…」

 危うく口を滑らしそうになった。今更感もあるが朝から柔らかい物を腕に押し付けられるのはどうも調子が狂う。


「それに?」

「何でもない」

「達也、顔赤いよ?」

「えっ?!」

 全く要らん事言って。昨日の事を思い出してしまった。こういう事は結婚すればいくらでも出来るだろうに。やはり男と女は違うのだろか?



 駅の改札に行くと玲子さんが待っていた。

「達也さん、桐谷さんおはようございます」

「玲子さんおはようございます」

「立花さんおはよう」

 達也さんが桐谷さんのバッグを持っている。私のバッグも持って欲しいですけど、あの様子では無理そうですね。残念です。


 ふふっ、今の達也の状況では立花さんのバッグを持つのは無理。立花さん、違うのよあなたとは。


 俺は二人の視線の合わせで早苗のバッグを持った事の失敗を悟ったがもう遅い様だ。仕方ない。

 

 そのまま電車に乗り二つ先の駅に着くと涼子が乗って来た。早苗と玲子さんの様子に不思議そうな顔をするがいつもの挨拶だけで終わった。今更説明も無いだろう。


 私本宮涼子。電車がホームに入って来て達也達が乗っている車両のドアから乗るといつもの様に桐谷さんと立花さんが視線でお互いの不満を言っている。

 私には関係ないけど共倒れとか無いのかなと思ってしまう。達也は黙っているけど表情で困っている事が分かる。原因は彼の手に持っている二つのスクールバッグ。達也のバッグは肩に掛けているが、手には桐谷さんのバッグを持っている。これが原因私にとってはつまらない事だけど。


 そして学校のある駅に着くと改札を出てから四条院さんと合流した。いつもながらの表情だが、何か夏休み前と違うのは気の所為だろうか。




 俺達が教室に入って行くと健司が小松原さんと楽しそうに話していた。健司が少し日焼けしている。良く見ると小松原さんも部分的に日焼けしている。

 二人で夏休みはずっと居たのかな羨ましい限りだ。俺はいつもの様に


「おはよう健司、良い色に日焼けしているな」

「達也おはよ。バスケの練習が忙しくてな」

「そうか、バスケはインドアじゃないのか?」

「あっ、まあ偶には外で練習もするさ」

「そうか、小松原さんも少し日焼けしているけど?」

「えっ、立石君。これは…」

「健司羨ましいよ」


 何故か、早苗と玲子さんと涼子に睨まれた。



 健司と話していると予鈴が鳴って白鳥先生が入って来た。今日も抜群のスタイルで男子生徒の視線を思い切り浴びている。

「みんな、体育館に行って始業式行うから廊下に出る様に」


 いつもの校長先生の長ーい有難い話を聞いた後、生徒会長が二週間後にある長尾祭(文化祭)の手続きについて話をしていた。去年例の事で飛んでいるから改めての連絡だろう。


 教室に戻り、みんなそれぞれ話していると白鳥先生が入って来た。

「皆席に着いてー。さっき生徒会長が言っていた通り、長尾祭が二週間後に有るから実行委員決めて催し物を出して頂戴。クラス委員、前に出て来て実行委員決めて」


 そう言うと自分は教壇の横にある椅子に座ってしまった。しかし見ているだけでも迫力がある先生だ。つい白鳥先生の方を見ていると隣から

「達也、何処見ているの?」

「えっ?」

「達也は私達だけじゃ物足りないの?」

「りょ、涼子何言っているんだ」

「ふふっ、達也催し物どうするの?」


 気が付くともう実行委員は決まっていて催し物を皆から聞いている所だった。俺そんなに先生の事見ていたんだろうか?

 クラス内では何を行うか揉めている。去年突然中止になっているから今年は皆やる気満々だ。


「喫茶がいい」

「お化け屋敷だ」

「郷土文化の説明だ」

「そんなの面白くない」

「模擬店」



 俺の周りにいる子達は静かだ。皆興味無いのかな?俺はどれでもいいが、なるべく負担が少ない方が良いと思っている。

「達也、何かしたいものある?」

 早苗が聞いて来た。


「あんまり分からない」

「早苗はどうなんだ?」

「うーん、なんでもいいけど、面倒なのやだな。喫茶とか」

「そうだな」


 そんな事を言っていると実行員が、

「喫茶とお化け屋敷の票数が一番多くて同数だ。この二つのどちらかに決めるぞ。みんなどっちが良いか手を挙げてくれ」


 これは困った両方ともやりたくない。手間掛かる。

「達也どうする?」

「達也さんどうします」

 早苗と玲子さんが聞いて来た。


「お化け屋敷面白そうだけど」

 四条院さんの意味の分からない言葉を流しながら、みんな好きな事を言っているが、どちらかに手を挙げなくてはいけないので仕方なく喫茶の方に手を挙げた。お化け屋敷はどうしても嫌な予感しかしない。


「えっ、達也喫茶が良いの。じゃあ私も」

 健司も含め俺の周りは皆喫茶に手を挙げた。


「「おーっ!」」


何故か周りが騒いでいる。実行委員が

「圧倒的に喫茶の方に人気が有るな。じゃあどんな喫茶にするんだ」


「メイド喫茶」

 やっぱりか。


「いやよ、普通の喫茶が良い」

「なんで?うちのクラスには、学内でも美少女トップファイブが揃っているんだぜ。売上ナンバーワンは間違いないだろう」

「それはそうだろうけど…執事喫茶とかは?」

「やだよそんなの」


 何やら揉めているが、それを無視して前を見ていると実行委員が

「メイド喫茶や執事喫茶も良いが、他のクラス、学年から同じものが出てきたら抽選になるから、その時は、普通の喫茶になるぞ」

「「ええーっ!」」


 男子の一部がブーイングしている。実行員が、

「メイド喫茶と言っても洋服の準備とかあるだろう。予算の関係もあるし、決まったとしてもその辺はどうするんだ?」

「…………」


「おいおい、そこに裏付けないと出来ないぞ」

「…………」

「仕方ない。じゃあ普通の喫茶で提出する」

「「ええーっ!」」


「後どの位集客が見込めるとか、提供する商品とか、手配先とか、その辺も大体でいいから決めるぞ」

 流石実行委員だ、きちんと皆をリードしている。これには俺は加わらず眺めているとどうやら決まった様だ。


 多少のブーイングは有ったが、実行員が生徒会に要望を出しに行ってしまった。取敢えずメイドとか執事とかはやらなくて済みそうだ。



 結局、次の日の午後のLHRで普通の喫茶が決まったと実行委員から報告があった。ただ、お客様対応と裏方でまた揉めていたが、何故か受付は全員が俺を指名した。どうしてだ!


「ふふっ、達也が受付なら変な奴入ってこないからでしょ」


 俺は門番か?まあ、午前午後の交代制で二日間の内、一回だけだから良いけど。


――――――


 さて、文化祭どうなる事やら?


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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