第124話 閑話 二学期が始まる前のほんの朝の一時


達也と早苗のほんわか朝事情です。ちょっとその前に合宿稽古が終わった後の事も。


――――――


 俺立石達也。爺ちゃんの所の合宿稽古も終わり心の中から俗世間のもやもやが無くなった…と言う訳には行かないが、爺ちゃんと話している中で少し解決策が見えた感じもした。


 そして加奈子さんとの約束。この後二学期が始まるまでは一緒に居て欲しいというお願いを何とか一日だけにして貰い、いつもの様に会った。


 大学はまだ夏休みが続くらしいが、高校生はそうも行かないので日にちを短縮して貰った訳だ。大分ご不満のようだったが仕方ない。

 日曜日毎週会うという約束はこれからも継続するから良いと思っているのだが。


 そして隣の家の幼馴染で俺の最愛の彼女、早苗とも一日会った。彼女曰く、夏休みの間に俺が行った事全てを早苗自身で上書きするんだという、俺には意味の分からない事を言っていたが、まあこいつのお願いはほとんど叶えてあげるつもりで居るから仕方ない所だ。



◇◇◇



 二学期が始まるまで後二日、この二日くらいはのんびりとするつもりで居たが、今日も今日とて俺のタオルケットを半分横取りして寝息を立てている奴がいる。流石にもう止めさせないと。


 目覚ましが午前七時を知らせて来た。だがもう少し寝ていよう。後二日しかない夏休みだ。もう一度眠りに就こうとして目を閉じると



「達也、起きている?」

「…………」

 ここは狸寝入りに限る。


「まだ寝ているのか。じゃあ良いかな」

 私は手を後ろに回してホックを外すと、そっとブラをベッドの下に置いた。そして達也の大きな体にぺったりとくっ付いてまた目を閉じる。

 体を一杯くっつけて達也の体温を素肌で感じる。とても気持ちいい。ずっとこのままで居たらどんなにいいだろう。




 二度寝は気持ちいいが、そろそろ起きないと。隣に寝ている子を起こさない様にゆっくりと腕を伸ばして机に置いてある目覚ましをこちらに向けると…あっもう午前八時を過ぎている。起きないと。

「早苗、起きろ。もう八時だ」

「うーん、もう少しこのまま」


 脇腹に柔らかい物がぴったりとくっ付いている。いまさらそれが何かなんて分かるが、俺の本能が勝手に反応し始める。不味い。


「早苗、起きろ」

「いいじゃなない。もうこんな事後二日しか出来ないんだから」

 一応日付感覚は有るようだ。だが、いい加減に起きないと妹が…と思っていると


コンコン


ガチャ


「お兄ちゃん、早苗お姉ちゃん起きて。お母さんが朝ごはん食べなさいって。あっ!」

 言った後、瞳はベッドの側をじっと見て


「早苗お姉ちゃんだけ狡い。私だって大きくなるんだから…」

 意味の分からない事を言った後、ドアを閉めた。



 一階に降りて行った様だ。瞳もこの状況に慣れてしまっている。それはそれで困ったものだが。

 しかし、俺がタオルケットを剥がす訳にもいかずどうしたものかと考えていると早苗の手が急に下に伸びた。


「えへへ、達也私としたいんだ。いいよ」

「ち、違う。これは自然現象だ。決して…」

「ふふっ、私に感じているんでしょ。言い訳しない」

「あっ、こら待て」

 流石にこの時間だ。彼女が俺の体に乗る事を止めた。


「いいじゃない。ちょっとだけだから」

「駄目だ。後からだって出来るだろ」

「えっ、ほんと。約束だよ」

「あっ、いや」

「いやも何もないの。じゃあ起きようか」


 早苗がタオルケットからもぞもぞと起き出してベッドに座った。とても綺麗な姿が目に入る。直ぐに目を閉じると

「達也、見ても良いのに」

「いいよ。それより早く着替えてくれ」

「ふふっ、仕方ないなあ」

 早苗が着替えが終わったのか急に俺の唇に柔らかい物がくっついた。俺の胸には柔らかい物がぴったりと付いている。ますます元気になってしまう。

そのままにしておくと勝手に体に乗っかって来た。中々離れない。流石にと思って目を開けると

「もう少しだけ」


 仕方なしに早苗の背中に手を回すとずっとしている。流石に顔を逸らせて

「早苗、着替えるから退いてくれ」

「達也が起こして」

 背中に回していた手を彼女の肩に置いて少しずらしながら起こすと

「おはよ達也」

「おはよ早苗」


 早苗がニコッとして

「嬉しいな毎日こうして居られると良いのに」

「…………」

 俺はつい爺ちゃんの言葉を思い出したが、流石に今言う訳にもいかず、じっと彼女の顔を見ていると

「どうしたの?」

「いや何でもない」

「変なの達也」



 俺は着替えて顔を洗い、早苗と一緒にダイニングに行くと母さんと瞳がニコニコしながらこっちを見ている。母さんがいきなり


「達也、早苗ちゃん新婚みたいね。早く籍入れたら」

 早苗が耳まで顔を真っ赤にして下を向いてしまった。


「ふふっ、いいのよ早苗ちゃん。もうお嫁さんになるのは決まっているんだから。でも子作りはもう少し先ね」

 瞳が声を出して笑い始めた。


「か、母さん、言い方気を付けて」

「あら、事実でしょ。別に構わないわよ。二人で仲良くするのは」

「私も早苗お姉ちゃんが、早く立石の苗字になるのは嬉しいな。籍入れちゃったら、ねえ早苗お姉ちゃん」


「…………」

 流石の早苗も声が出せない様だ。


「二人共その辺にしてくれ。これから朝ごはん食べるから」

「はいはい。早苗ちゃん頼むわね」

「はい!」

 下を向いていた早苗が顔を上げ、急に顔を明るくして大きな声で返事をした。


 お味噌汁を温めている間にテーブルの上の料理に掛かっていたラップを取って、お茶碗にご飯を盛る。そして温まったお味噌汁をお椀に二人分よそってテーブルに置くと早苗と一緒に食べ始めた。母さんが俺達を見ながら


「やっぱり婚約だけでもしたら、もう高校も後半年で卒業でしょ。良い考えだわ」

「爺ちゃんから話を聞いたのか?」

「何の事?お義父様とは何も話していないわ」

「…………」

 てっきり爺ちゃんに相談した事が母さんに漏れていると思ったが、流石に爺ちゃんは話していない様だ。良かった。だけど母さんまでこんな事を言うとは…。


 話の方向を逸らそうと

「瞳、彼氏とかいないのか?」

「いない。瞳が気に入るなんてお兄ちゃん位だから。もっとも早苗お姉ちゃんがお兄ちゃんと婚約したら諦めるけど」


「えっ?!」

 何故か早苗が反応した。


「だって、まだ分からないでしょ」

「それはそうだけど…」

「ふふっ、早苗お姉ちゃん可愛い」

「瞳ちゃん揶揄わないで」

 達也と婚約か、嬉しいけどまだ高校生だし。卒業すればいいとは思うけど。でも良いかも。



 朝食を二人で食べた後、また俺の部屋に二人で戻った。

「達也、さっきの話だけど」

「さっきの話?」

「うん、婚約の話。達也はどう思う?」


「いや今聞かれても。まだ高校生だし」

「そうだよね。でも高校卒業すれば二人共十八才だし。おかしくないよね」

「早苗は、俺と婚約したいのか?」

「うん、出来れば嬉しい。達也はどうなの?」

 そうすれば立花さんも本宮さんも流石に達也に迫って来る事は無くなるだろうし。


「今言われてもなあ。いずれは婚約して結婚するのは決まっているけどな」

「達也は今したくないの?」

 急に俺に顔を近づけて来た。


「せめて高校卒業までは、それに高校生で婚約とか色々大変そうだし」

 じーっと俺の顔を見て

「そうか、達也はそう思っているんだ」

 少し寂しそうな顔をしている。


「早苗はしたいのか」

「うん、今すぐ」

「へっ?!」

 いきなり俺の体に飛びついて来た。意味が違う様な?


――――――


 もう二学期は目の前です。この二人どうなる事やら。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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