第128話 長尾祭二日目その二
二日目の続きです。
――――――
俺、工藤正人。今日は明日香さんに誘われて長尾祭に来ている。県下一の進学校であり帝都大学にも毎年何人も行っている名門進学校だ。
実際には俺の頭では入れない、入れなかった。それに数多の財閥のご令嬢、子息、美少女や可愛い女性とか一杯いる。なんて事だ、俺の学校なんて歯牙にもかけないレベルだ。
さっきから明日香さんに連れられて校内を見て回ったり体育館での催し物を見ているけど、周りの生徒を見るのも楽しい。
「四条院先輩」
カッコいい男の子が声を掛けて来た。
「あら、こんにちは南部君」
「あの、その人誰ですか?」
「ふふっ、そういう事か、いきなりだわね。彼は工藤正人、私の彼よ」
南部と呼ばれたその子はじっと俺を見て
「顔はイケメンですけど、俺のが良いじゃないですか。俺諦めませんからね。工藤さんだっけ。あんたから四条院さんを奪ってやる、覚えて置け。四条院さん、後で体育館で仲間とライブするんです。見に来て下さい」
「ふふっ、時間有ったらね」
カッコいいわ。本当は南部君なんだけど彼じゃあ私はやっぱり従になってしまう。だから君では駄目なのよ。分かって南部君。
それにしてもあれだけ言われて何も言い返せない正人、やっぱり駄目かな。これじゃあ将来不安だわ。
俺は驚いていた。彼氏がいる前で彼女にこれだけはっきり言う子なんて。俺では太刀打ち出来ない。でも明日香さんは俺を選んでくれている。大丈夫だ。あんな野蛮人彼女は選ばないから。
「さっ、もっと見ようか正人」
「はい」
俺、立石達也。午後になって加奈子さんには帰って貰った。赤子の様に駄々をこねていたが、終わったら必ず連絡すると説き伏せて。本当は何処にいるか分からないけど。
「玲子さん、待ちました?」
「いえ、でもまだ何も食べていないんです。達也さんと一緒に食べようと思って」
「そうですか、俺も食べていないです。では早速食べに行きましょう」
俺は流石に自分のクラスに入る事は止めた。さっき加奈子さんで悪目立ちしたのに今度は玲子さんと一緒に入ったら皆から何を言われるか分かったものではない。もう言われているけど。
「達也さん、何を食べますか」
「じゃあ…」
早苗の時とは違って、唐揚げ、お好み焼き、おでんを買った。飲食スペースは混んでいたが、空いている席も有るので玲子さんと一緒に座った。何席か向こうに四条院さんと男の子が一緒に居るが構わないだろう。
「嬉しいです。三頭さんより私を選んでくれました。幸せです」
「そ、そうですか。冷めないうちに食べましょうか」
俺としては昨日の約束を守っただけなんだが。
「達也さん、あーんします?」
「えっ?」
「一度して見たかったんです。ここなら誰にも分かりません」
「で、でも」
「良いじゃないですか、はい、あーん」
玲子さんが唐揚げを箸に挟んで俺の口元に持って来た。くっ、断る訳には行かないのか。
仕方なく口を開けると玲子さんが唐揚げを俺の口の中に突っ込んで来た。
「美味しいですか?」
「もぐもぐもぐ(美味いです)」
「ふふっ、顔が真っ赤です。達也さん可愛い」
俺のメンタルゼロだ。
俺工藤正人、立石家の跡取りと立花家のご令嬢が二人で飲食スペースにやって来て、彼女からあーんして貰っている。彼はさっき三頭家のご令嬢と一緒に歩いていたはずなのに!
「正人、何驚いた顔しているの?」
「明日香さん、あれ」
「ああ、達也と立花さん、あれがどうかしたの?」
「だって、彼、さっき三頭家のご令嬢と…」
「何だそんな事か。玲子は達也の事が好きなの。さっき3Aで紹介した人が達也の彼女、一応達也を桐谷さんと玲子が争っているってところ」
「じゃあ、三頭さんは?」
「あの人は達也の確定内縁の妻よ」
「はぁー?」
立石産業の跡取りとは、そこまで美人の財閥令嬢や可愛い子にもてるのか。どうすれば慣れるんだ?
「あははっ、正人、あなたじゃ無理だわ。達也は全く別格よ。不思議な人だけど、人を惹きつける魅力があるの」
「明日香さんは、どうなんです」
「心配しなくていいわ。あの集団に分け入ろうなんて気持ちは全くないから」
「じゃあ、俺で良いんですよね」
この子はなんでここまで自信がない子なんだろう。やっぱり南部君にしようかな。
本当は…達也なら頼れるし決して自分を押し付けて来ないし、優しくて強い、気遣いもいい。あんな男中々いない。
まあ、桐谷さん、玲子、三頭さん、それに本宮さん、あの中に入る気は毛頭ないけど。
「そうね正人がもっと自信を持てるようになったら考えるわ」
「えっ?!」
「ふふっ、嘘よ。さっ行くわよ」
やっぱり考えよ。
やがて長尾祭も終盤に近付いて来た。俺達は教室に戻ると何か騒がしい。俺は入口にいるクラスメイトに
「どうしたんだ?」
「立石か、あれだよ変な奴が本宮さんにちょっかい出そうとして、いま先生を呼んでいる」
俺は直ぐに涼子の肩に手を置いている男の腕を取るとそいつの背中に捻った。
「うがっ、な、なんだ手前は?」
「誰だでもいい。接客の女子生徒に触るんじゃない」
もう一人の男が俺に掴み掛ろうとしたので、仕方なくもう片方の腕でそれを避けると足払いした。
ドタン。
「ぐえっ」
「皆楽しくしているんだ。ルールは守ってくれ」
「うるせえ、ちょっと誘っているだけじゃないか」
入口から運動部の顧問の先生達が入って来た。
「どうした立石?」
俺が説明するでもなくクラスメイトが状況を説明してくれて、二人は連れて行かれた。流石に空手や柔道部、他の運動部の顧問には逆らえない様だ。
「達也ありがとう」
「涼子、大丈夫だったか」
「大丈夫じゃない」
涼子が俺に抱き着いて来た。
「ちょ、ちょっと本宮さん離れて」
早苗が剥がしにかかっているが、きつく抱き着いている。
「いや」
「もう、達也も離れてよ」
「涼子、もう良いだろう」
「うん」
「あちゃあ、見慣れているとはいえ、やっぱり立石君モテるわ」
「くそっ、俺がもう少し腕っぷし強ければ」
「さっきビビってたじゃない」
「…………」
「やっぱり立石君がいいなあ」
それを言った子に早苗と玲子さんと涼子が睨みつけた。
「ひっ、もう言いません」
「三人共その辺にして置け」
「立石、ご苦労様だったな。皆、お客様もいないし、売上はクリアしている。整理だけするぞ。売上金はまとめてくれ生徒会に持って行く」
「「分かった」」
流石実行員だ、見事に混乱を収拾している、俺には出来ない。この後打ち上げが有るらしいが、俺はキャンセルして加奈子さんと会う事にした。
三人が相当に文句を言っていたけど。
加奈子さんに連絡を入れると校門から少し離れた所に車を待たせているから来てくれという事だ。
「達也、お疲れ様だけど、これからは私との時間よ」
「…………」
俺が家に帰れたのは午後十一時近かった。
疲れた。
――――――
達也ご苦労様。しかし長尾祭色々有りましたね。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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