第123話 達也の悩み相談


 涼子と会った次の日、流石に疲れた俺はベッドの上で目覚ましを無視して眠っていた。いたはずだ。

 今日も俺のタオルケットを半分横取りしてしっかりと寝ている女の子がいる。ほんと何とかしないと。まあ夏休みだからと理由もあるだろうが。


 机の上の目覚ましを見るともう午前八時になろうとしていた。


コンコン。


ガチャ。


「お兄ちゃん、お母さんがそろそろ起きて朝ごはん食べなさいって。あっ、ぷぷぷっ、そうかそういう事。じゃあねえ、おやすみなさいお兄ちゃん、早苗お姉ちゃん」


 瞳が目を下弦の月のようにして笑いを堪えながらドアを閉じた。参った。しかしどうしたものか。


 こんな事は早苗だからいいのだが、昨日までの俺の行動を考えると全く思考が止まってしまう。どうすりゃいいんだ。


何とかこの状況を打開しないと、本当に俺の残りの高校生活と大学の学生生活が終わってしまう。



「うーん。あっ達也おはよう」

「ああおはよ」

「なに朝からつれないね」

「そんな事は無い。ちょっと考え事をしていただけだ。それより起きよう。母さんが朝ごはん食べてくれと言っている」

 何故か朝から俺のベッドに潜り込むのが当たり前の様な受け答えだ。


「うん、でもその前に」

「しないぞ」

「ふふっ、今日はこれだけ」


チュッ。


「起きようか」

 


 一階に降りてダイニングで早苗と朝ごはんを食べ終わると

「達也、明日登校日だよ。持って行くもの整理してある?」

「宿題ならもう終わっているだろう」

「自由研究は?」

「えっ?なんだそれ?」


「やっぱりなあ。あれは二学期始まってからの提出だから良いけど、やっぱりやっていなかったんだ」

「自由研究か、早苗はどうしたんだ?」

「私は、夏の川辺に住む鳥達の観察。ちょっと子供っぽいけど面白かったよ」

「凄いなそれ。俺どうするかな」

「明日いれても後十日だよ。急がないと。じゃあ今日は私と達也の自由研究ね」

「助かるって言いたいけど何するんだ?」

「二人で考えよ。もしかして手分けしてやれるかもしれないし」


 早苗が食器を洗い終わると

「じゃあ、早速私の部屋で」

「ちょっと待て、私の部屋ってなんだ?」

「えっ、別にー。自由研究しよう」

 絶対に怪しい。


 なんとか、早苗を説き伏せて取敢えず図書館で研究テーマを考えたが思い浮かばず、結局早苗が行った観察で資料にしていない分を何とかまとめる事にした。多少彼女と被ってもまあ気付かないだろう。良いのかな?


その日は、受験生という事で午後から早苗と勉強する事にした。あの人が来なければいいのだが。



 翌朝、久しぶりの登校だ。今日は流石にベッドには潜り込んで来なく、門の日陰の部分で待っていた。

「おはよう達也」

「おはよ早苗、今日ぐらい家の中で待っていればいいのに」

「ふふっ、これがいいの。さっ行こう」


 駅の改札で玲子さんと合流し電車に乗った。玲子さんが爽やかな顔をしている。昨日来なかったのも頷ける。


 そして二つ目の駅で涼子が乗って来た。思い切り嬉しそうな顔をしている。

「おはよ本宮さん。とても嬉しそうね」

「おはようございます桐谷さん。ええ、久しぶりに桐谷さんとお会いして嬉しいですから」

「そ、そう?」

 涼子のやつちょっと無理が有るけど上手く言い逃れしている。


そして学校のある駅に着くと四条院さんが待っていた。何だろう、彼女もすっきりとした顔をしている。良く分からん。

「おはよう皆さん」

 みんなが彼女に挨拶すると


「明日香、どうしたんですか。すっきりした顔して?」

「ふふっ、まあ割り切ったという所。玲子もすっきりしているわね」

「はい、私は久しぶりに皆さんに会えて嬉しいですから」

 なんか涼子と同じ様な?


「ふーん。まあいいや」


 五人で教室に入って行くと健司と小松原さんも変らずに楽しそうに話している。俺が席に着くと

「達也おはよう。今日も賑やかだな」

「そうか。お前が羨ましいんだが」

 つい本音が出てしまった。


「達也どういう意味?」

「達也さんどういう事ですか?」

四条院さんと涼子は笑いを堪えている。


「ほら健司が言うから」

「なるほど」

 賑やかな朝の会話をしていると白鳥先生が入って来た。ブラウスの前ボタンがはち切れそうだ。

「皆さん、おはようございます。怪我無く元気でしたか。出席を取りますね」


 出席を取り終わると

「各教科個別の宿題は個別に提出して下さい。今日は共通分だけ提出してね。クラス委員は頼むわよ」


 なんか簡単に終わってしまった。いつもだが、登校日は生徒の状況確認が目的なのかと思ってしまう。


帰り道、

「達也、今日はどうするの?」

「明日から爺ちゃんのところで集中稽古だからその準備だ」

 本当は何もする事ないが、偶には一人で居たい。


「そうなのですか残念です。少しはお話したかったのですけど」

 玲子さんの言葉に俺は早苗が口を開く前に


「毎年の大切な稽古です。ちなみに明日から二十二日までは、何か緊急でもない限り連絡もしない様にして下さい」

「えーっ、達也それないよ」

「だめだ。爺ちゃんの所に泊まる」

「ぶーっ!」

 早苗の対応に玲子さん、涼子と四条院さんが笑いを堪えている。




 俺は瞳と翌朝午前七時には爺ちゃんの道場に行った。朝稽古から参加だ。瞳は勿論毎日家に戻るが。


 空手と棒術の型と自稽古、複合技、両方の相手がいる組手を組み合わせた稽古だ。更に模範演技や精神集中の為の瞑想もある。

これを三日間に分けて朝から夕方まで行う。中々濃い稽古だ。精神が集中出来、俗世間から離れて心が穏やかになる。



 そして俺は瞳を家まで送った後、もう一度爺ちゃんの住まいの方へ戻った。相談に乗って貰う為だ。



「達也どうした。儂に相談とは」

「実は…」

 俺は素直に早苗、加奈子さん、玲子さん、涼子に対する気持ちを話した。そして少し恥ずかしいが現状も。


「ほほほっ、モテるのう。儂もお前の父親も同じじゃった。みんな顔はゴツイが、何故か女の人からはモテたよ。だけど選ばなければいけない。だから素直に自分の意思従った」

「それって一人だけ選んだの?」


「お前は三頭家との事もある。一人だけを選ぶ事は出来ない。そして儂たちも同じじゃ」

「えーっ!それじゃあお祖母ちゃんも母さんもそれを知っていて結婚したの?」

「ふふっ、仕方ない事だ。達也が一人を選べないようにな。だが三頭家は別にして手が無いわけではない」

 だからと言う訳ではないだろうが、母さんが今の俺の状況を楽しそうにしているのはそういう経験が有ったからか。



「どうすれば?」

「お前は早苗殿が一番と思っているのか。絶対にぶれないのかその気持ちは」

「絶対にぶれない。小さい時から決めていた事だ」

「ならば、高校を卒業したら結婚してしまえばいい。今からなら婚約してもいい。そうすれば立花の娘も涼子殿ももう二人の間には入って来れないだろう。それでもという時はその時だ」

「えっ?!結婚」


「そうだ、早苗殿が一番と言うなら出来るだろう」

「でも、玲子さんには大学まで真摯に向き合うと言ったし、涼子も高校卒業までは大切に支えると約束した」

「それは、いずれ気持ちが変わると言う事か?大学に行けば早苗殿から立花の娘に心が移る可能性があると言う事か?」

「それは絶対にない」

「ならば問題なかろう。立花の娘にとってもその方が良いじゃろう」

「…………」


 爺ちゃんからの提案は俺にとっては斜め上からの考えだった。玲子さんへの裏切りにはならないのだろうか。だが、結局は大学卒業と共に別れるなら早い方が良いという考えも確かにある。


「爺ちゃん、ありがとう。もう少し考えてみる」

「達也、人間は悩んだ数だけ大きくなる。今は悩んでいられる時期だ。大人になったらそんな時間は与えられない。特にお前の立場ではな。今は悩むが良い」


「…風呂入って来る」

「話はもうこれで終わりか」

「うん」

「では風呂上りに儂の酒に付き合え。お前に飲めと言うのではない。偶にはかわいい孫を肴に酒を飲みたいだけだ」

「分かった」

 爺ちゃんが嬉しそうな顔をした。


――――――


 さて達也、爺ちゃんの考えを聞いてどうするのかな?


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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