第122話 涼子
俺立石達也。昨日、玲子さんと会って色々考えてしまった。今のままでは彼女はこの関係から抜け出せなくなる。
大学卒業までと言っているがそれから先も続けようとしてくるのは目に見えている。だが今の俺にはいい案が見つからない。
別れようと言うのは簡単だ。しかしそれでは正月に言った言葉を反故にする事になる。それだけは避けたい。
これは時間が経てば解決するどころか深みにはまって行くだけだ。とにかく解決策を見つけないと…。
今日は涼子と会う日だ。彼女とは綺麗な関係で居る。心の支えになるという自分の思いも上手く行っている様だ。
あの三人の様なしがらみがないだけ久しぶりに二人だけで会う涼子に爽やかさを感じる。
涼子の家のある駅の改札で待合せた。午前十時もう日差しがだいぶ強い。改札を出るとすぐ右に涼子が立っていた。
薄黄色のTシャツに薄茶色のホットパンツ、かかと付の白いサンダルを履いている。改札を出入りする人がみんな横目で見ているのがはっきり分かる。
「達也おはよ」
「おはよ涼子」
「達也、今日は川べりを散歩して私の家でお昼食べよ。昨日から準備してあるんだ」
「そうか、それは楽しみだな。でもいいのか川べり」
「うん、心の区切りを付けたいの。達也と一緒だったら出来ると思うから」
「そうか」
駅から約十分位掛かる。朝の最初の散歩には丁度いいだろう。
川沿いに着いて河川敷まで降りて行くと涼子がじっと川面を見つめた。
最初涼子の目から涙が出そうなくらい寂しそうな顔で川面を見つめていた。そして段々穏やかになって来た。
どの位経ったか分からないが、川面を見ながら彼女は
「達也が、私がここに来ることを知っていなければ、
私が川べりを歩いている事に気付いてくれなければ、
私が川に入った事を見ていなければ、
そしてあなたが私を助けてくれなければ……私は今こうして生きている事が出来なかった。
達也を裏切った私を達也が助けてくれた…………。
言葉が見つからない。どう表現すればいいのか分からない。達也へのお礼、償い、何をどうすれば分からない。
でもこの川面を見てしなければいけない事が分かった。達也の優しさを受けているだけではいけない。だから私は達也の支えになりたい。
…本当はね、高校まで達也に支えて貰って大学入ったらあなたに気付かれない様に支えようと思っていたの。でもここに来て考えが変わった。今日から私は達也を支える」
「涼子…」
「達也、散歩しよう。あなたと手を繋いで…いいかな?」
「ああいいぞ」
とても嬉しそうな顔で俺の側に来た。それから俺達は三十分位歩いたり休んだりしながら川べりや土手沿いの道を歩いた。
言葉は要らない、ただ握り合っている手だけが何かを話している様な気がした。
「達也、そろそろお腹空かない?」
「空いたな」
「じゃあ、家に戻ろうか」
川から涼子の家まで十分、川からは駅と涼子の家が三角形の位置だ。言葉少ないが話をしながら歩いていると直ぐに着いた。
「達也、上がって。両親は仕事で居ないから」
久々だな。あれ以来だ。
「手を洗ってからダイニングに行こう」
洗面所で一緒に手を洗いダイニングに行くと涼子は可愛いクマさんのエプロンを付けてテキパキと準備し始めた。
「何か手伝おうか?」
「いいよ達也は座っていて」
冷蔵庫から下準備してあったんだろう具材を出して電子レンジで温めたり、フライパンで調理をしたりしている。
十分もしない内に料理が並べられた。鶏もも唐揚げが千切りキャベツの上に一杯乗って脇にトマトのスライスが付いている。出汁巻卵とひじきの煮物、それにわかめのお味噌汁と白いご飯だ。
「凄いな。これ昨日から準備していてくれたのか?」
「うん、達也と一緒に食べれると思うとちょっと力入っちゃった。食べましょう」
唐揚げは揚げたてで熱かったがジューシーで美味しい。出汁巻卵も上手く甘さを控え目にしてフワッとしている。ひじきは俺の好物だ。
「おいしいよ涼子」
「ふふっ、嬉しいな。一杯食べて。唐揚げ足らなかったらまだ揚げれるから」
「そ、そうか」
流石に追加は要らなかった。食べ終わると
「食器洗うから少し待っていて」
「分かった」
食器は二十分程で洗い終えた。
「達也、私の部屋に行こう」
覚えのある階段を登り、涼子が自分の部屋のドアを開けた。久しぶりに嗅ぐ涼子の部屋の匂いだ。
「さっ、入って」
涼子の手には紅茶のセットがプレートに乗せられている。部屋に入ってローテーブルにプレートを置くと
「達也、座って。ちょっと狭いけど」
「気にするな。十分広い」
「…………」
「…………」
涼子が俺の側に寄って体を付けて来た。
「達也」
じっと俺を見ている。
「涼子駄目だ」
「でも…」
「俺は涼子とは運命で繋がっていると思っている。だから高校卒業までは涼子の心を支えるつもりだ。だがこれはしない」
「で、でもこれは私の心を支えてくれる一つだよ」
「…それでも駄目だ」
「達也、私が汚いから出来ないの?」
「涼子、今度そんな事言ったら怒るぞ」
「じゃあどうして?」
「…………」
どうしてだ。他の子達の事は関係ない。涼子に対しての気持ちだ。俺はこの子と今のままで高校まで卒業したいと思っている。だから出来ない。でも…。
「達也、私の命はあなたのもの。あなたが居なければ私は生きてここに居ない。もし達也が私を必要としないなら、助けて貰った命だけどもう必要ない」
「そんな事言うんじゃない!俺は涼子の事が大事なんだ。だから…」
涼子が思い切り俺に抱き着いて来た。
「達也、私の命を心を助けると思って」
強引に口付けして来た。
仕方ないんだろうか。でも…。
「達也お願いして」
涼子がTシャツを脱いでブラも取ってしまった。
…………………。
自分もいけないとは分かっている。でもして欲しかった。
この感覚、この気持ち、久しぶり。これが欲しかった。これを感じたかった。達也が側に居てくれる証拠が。
「達也もっと」
隣で私の愛おしい人が目と閉じている。短い髪の毛、しっかりした眉毛、大きな目、そしてしっかりとした鼻、その割には綺麗な顔の線。離れたくない。出来れば一生離れたくない。
あっ、目を開けた。
「達也、ありがとう。ごめんね疲れていたのね」
「それは良いんだが」
「達也、お願い。一番目争いなんて私には興味ない。三頭さんの事だって構わない。でも、でもほんと偶にでいい、こうして欲しい。こうしてくれれば私はずっと心穏やかに気持ち良く元気に生きていける」
「涼子…」
参ったなあ。これじゃあ、玲子さんと同じじゃないか。どうすればいいんだ。
――――――
達也が意図しない関係。本来ならこういう風になって欲しくなかった。そしてその回避策が分からない。悩み多き年頃です。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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