第116話 夏期合宿はハードです


 俺立石達也。昨日は午後九時を過ぎて家に着いた。夏期合宿に持って行く着替えや勉強道具をスポーツバッグに押し込むと急いでお風呂に入った。


 そして今、目覚ましが賑やかに鳴っている。塾に八時半集合だ。目覚ましが午前七時を指している。仕方ない起きるか。


 しかし、ちょっと体が疲れていた。流石に一昨日からの行動は強行スケジュールだった。玲子さんというおまけもついてしまったし。


 だが、ここでのんびりしているとあいつが来る。急いで起きて着替えようとすると


コンコン


ガチャ


「達也起きた?あーっ、まだそんな恰好している」

 いきなり早苗が入って来た。


「おい、早苗。今から着替えるから下で待っていてくれ」

「駄目、着替え手伝う」

「いやいや、流石にそれは駄目だろう」

「良いじゃない。ほら早く」

 いきなり俺のTシャツを掴んで来た。


「わ、分かったから」

 仕方なく、早苗の前でTシャツを脱いで黒のジーンズを履いているとじっと俺の姿を彼女が見ている。


「なあ、なんか着替えにくいんだけど」

「気にしなくて良いよ。さっ、Tシャツはこれでしょ」

 濃紺のTシャツを手に取って渡して来た。


 参ったなあこういうのに慣れさせると今後に支障が出るが今日は仕方ない。着替え終わると


「早苗、顔を洗ったら下でご飯食べるぞ」

「私は食べて来ているから」

「そうか」


 ダイニングで食事をしてから母さんに挨拶すると

「お兄ちゃん、お土産期待している」

「瞳遊びに行く訳じゃない」

「瞳ちゃん、私が買ってきてあげるから」

「わーっ、早苗お姉ちゃんありがとう」

 そう言って早苗に抱き着いた。でも良く見ると瞳の方が全然大きい。


「ひ、瞳ちゃん大きくなったわね。今何センチ?」

「この前の学校の身体測定の時、百七十二センチって言われた」

「えーっ、私より十センチ近く大きいの?」


「早苗、仕方ない。我が家は背が大きい家系だからな」

「でも、おかげで洋服選びが大変だよ。靴もね」

「そうかあ、じゃあ合宿終わったら一緒に洋服買いに行こうか。達也つれて」

「おい、何でそんな会話になる」


「ほら二人とも時間よ」

 母さんに言われて時計を見ると七時四十分を過ぎていた。


「「行って来まーす」」

 母さんと瞳に言ってから玄関を出た。


 駅まで行っても玲子さんが居ない事に気付いた早苗が

「あれ、立花さんは?」

「ああ、事情で合宿には参加出来ないそうだ」

「ふーん」

 まあ、私には都合が良いわ。



 二つ隣の駅で涼子が乗って来た。淡いイエローのTシャツと茶系のジーンズを履いて靴はスニーカーだ。とても可愛い。


「達也、桐谷さん、おはようございます」

「涼子おはよ」

「本宮さんおはよう」


 立花さんが居ない。まあ彼女は良家のお嬢様。色々有るのだろう。私には都合が良いけど。


 

 塾の前に着くと今回の夏期合宿に参加する人が大勢集まっていた。


「あれ、四条院さんが居ない」

「彼女も家の事情で参加出来ないそうだ」

「そうなんだ。じゃあ今回は私と達也と本宮さんだけね」

 早苗がとても嬉しそうな顔をしている。



 俺達は指示に従ってバスに乗り込んだ。窓側に早苗、隣に俺、そして通路を挟んで隣のシートに涼子が座った。彼女の隣には知らない女の子が座っている。

 行先は確か軽井丘と言われている。日本でも有名な避暑地兼観光地だ。何度か行った事があるが、俺にはちょっと合わない。


 着いたのは大きなホテル。一人一人が個室の様だ。部屋が割り当てられると

「えーっ、達也と部屋が離れている。本宮さんは?」

 涼子がルームナンバーを見ると


「あっ、達也の隣の部屋だ。酷いよ」

「早苗、離れていると言っても同じフロアだ。何も不都合無いだろう」

「でもーっ」

 なんで本宮さんが達也の隣なのよ。なんで私が部屋離れているのよ。もう。



 早苗の愚痴を余所に部屋に荷物を置いて直ぐに用意された会議室に行った。四十人程度が入る会議室で行われるみたいだ。

大きなホワイトボードが三つ並んでいる。上からはプロジェクターも投影出来る様だ。 俺の右に早苗、左に涼子が座っている。


 塾の責任者が説明したスケジュールは中々ハードだ。

朝八時半から午前十一時半まで三教科。間一時間の昼食休みを挟んで午後一時から午後四時まで三教科。それが終わったら午後五時まで休憩時間。

夕食が午後五時から午後六時まで。そしてその後宿題が出されている。


 流石三泊四日集中講習だ。今日は、この後早速午前中の一枠だけをやるらしい。



 昼食時、早苗が

「ねえ達也、夕食後の宿題は一緒にやろう」

「駄目だ。早苗とやると早く終わるが俺の頭に入らない。一人でやらないと参加した意味が無い」

「えーっ、でもーっ」

 せっかく立花さんが居なくて二人だけになる時間が取れると思ったのに。


「ねえ、声掛けないから一緒にやろう。講義で使われている会議室、午後九時まで開放しているって言っているし。ねえそうしよう」

「達也、私もそうしたい」

「二人共分かった。但し絶対声を掛けない事。これを守れるなら一緒にやる」

「「うん」」



 午後の講義も終わり束の間の休憩時間。

「達也、何か本当に合宿だね。初日から疲れちゃった」

「そうだな」

 昨日までの事も有り、本音は今日は早く寝たい。どんな宿題が出るのやら。涼子は直ぐ傍にいて俺達の会話を聞いている。でも何故か嬉しそうだ。



 私本宮涼子。この合宿に立花さんも四条院さんも参加すると思っていたけど、参加したのは私と達也それに桐谷さんだけ。ふふっ、この合宿の間、ずっと達也の傍に居られる。嬉しくて堪らない。

講義中、偶に彼に触れる様にしても何も言わない。彼の熱さも匂いも直ぐ側で感じれる。こんな感じは久しぶり。付き合っていた頃の様。桐谷さんは申し訳ないけど、これがずっと続いてもいい位。それに部屋は隣同士だなんて。やっぱり達也と私は…。


「本宮さん、何かとても嬉しそうね」

「そうですか。特に嬉しい事は何も。それに大学受験の為の勉強合宿ですから」

 絶対嘘だ。達也の傍に居れるのが嬉しいのに決まっている。まあ立花さんみたいにしつこく達也にくっ付いてこないのはいいんだけど。なんか割り切れないわ。



 夕食が済んで宿題が渡された。夕食が終わるまで知らせないという徹底ぶりだ。内容は今日の復習を兼ねた各教科からの重要点が出されているからしっかり解く様にという事だった。でも少ない量ではない。A4で四ページある。




 合宿も三日目の午後の部が終わった所で、合宿の責任者が、

「今日は、宿題は出しません。その代わりホテルの横に有る広場で花火大会をします。参加は自由です」

「「「おーっ!」」」

「「「わーっ!」」」

 参加した男子女子が喜んでいる。


「達也やったね。二人で花火しよう」

「早苗、駄目だ。俺はまだ合宿中の勉強内容が全部消化していない。だから自分の部屋で勉強している」

「そんなあ。せっかくの花火大会だよ。一緒に見ようよ」

「達也私もそうしたい」


「二人共分かってくれ。今のままではあの大学に入るのは難しい。だから今頑張らないと」

「ねえ、達也。あそこの大学行かなくても良いじゃない。二人で他の公立大学にしようよ」

「…早苗、それは出来ない。一生懸命勉強して落ちたなら分かるが、手を抜いて余所の大学を受験するのは駄目だ」

「でもーっ、ねえ、お願いだから。じゃあ、最初の三十分だけでも」

「達也、私もそうしたい」


「分かった。じゃあ最初の三十分だけだぞ」

「やったあ」



 俺は仕方なく、早苗と涼子と一緒に花火大会に参加した。打ち上げ花火を見たり手持ちの花火などをやって結局一時間、終りまで付き合う事になった。この後は消灯の午後十時まで自由行動だ。


「達也散歩しよう」

「早苗、我儘はここまでだ。俺は部屋で勉強する」

「えーっ、じゃあ、私も一緒に」

「それも駄目だ」


 早苗がさんざん不満を言っていたが、何とか部屋で一人で勉強した。まだまだ腑に落ちない所が多い。



 翌日は午前中合宿の成果を試すテストが行われ、その後バスで塾まで戻った。その後電車に乗って涼子と別れると早苗が

「ねえ、明日、一日一緒に居たい」

「明後日じゃ駄目か」

 実際疲れている。ただ早苗から言われるのは予想済みだ。


「駄目。明日」

「分かった」

早苗の家まで来ると


「達也、じゃあ明日ね」

「ああ」


今日は珍しく別れ際に我儘を言わなかったな。明日は朝からかな?


――――――


 達也無事に夏期合宿が終わりましたね。

 あっ、そう言えば妹の瞳へのお土産買ったのかな?


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る