第113話 夏期講習の間に


 俺、立石達也。俺の家のリビングで行われている夏休み宿題会は、予定より一日早く終わった。


 流石、県下有数の長尾高校の秀才三人だ。涼子がわざと点数を落としているのは、宿題のやり方や出来方を見ても簡単に分かる。


 この三人の頭は俺の頭と全く構造が違うらしい。前頭葉も側頭葉も位置は同じだろうが、中身が違う。


 今回の宿題会でもそれを散々見せつけられた。午後三時からその日終わらせる予定で俺の終わらなかった分と分からない分を見て貰うが、他の三人は遥かに先を終わらせている。それも全教科だ。

 教えたかは三人三様だが、涼子の教え方が一番分かる様な気がした。


 そして、明日は日曜日だ。加奈子さんは、一昨日実家に帰って来たと連絡が有った。明日は予定通り午後一時に会う事になっている。



 宿題が終わった当日、玲子さんはマンションまで、涼子は駅まで送った後、一人で家に帰った。

早苗もその時帰宅したが彼女の家を通り過ぎようとしたところで玄関が開いた。


「達也」

「どうした早苗」

「今から達也の部屋に行っていい」

「いいけど」

 まあ、何となく気持ちは分かるのでそのまま俺の部屋に二人で入った。



「達也」

 いきなり早苗が抱き着いて来た。俺に背中に手を回している。


「少しこうさせていて」

「…………」


 仕方なく早苗の背中に手を回すと、顔を上げてじっと俺を見て

「ずっと、ずっと我慢していたんだから」


 目を閉じた。


 俺がゆっくりと唇に触れると思い切り合わせて来た。



 どの位経ったのか分からないが、早苗がゆっくりと唇を離すと

「達也…」

「早苗、もう家族が居るから駄目だ。それにもうすぐ夕食だ。声を掛けに来る」

「でも、でも明日は三頭さんの所行くんでしょ。夜遅くまで二人で居るんでしょ。だったら私もそうして」

「早苗でも今は無理だ」

「じゃあ、どうすればいいの。私はあなたの彼女でしょ。なんで二番目の人を優先するの?」

「…………」


「達也は私より三頭さんの方が大事なの。家の繋がりとか関係ない。女として私より三頭さんを選ぶの?」


 確かに言われてみれば俺は加奈子さんを優先していた。いつも優先していた。確かに早苗の言う通りだ。俺は早苗が好きだ。加奈子さんは確かに魅力的な人だ。でも俺は早苗を優先する。こんな事で家の関係がどうのなんてあり得ない。



「早苗、分かった。明日は加奈子さんの所には行かない。明日はずっと二人で一緒に居よう」

 早苗の目が思い切り大きく見開いて輝いた。


「ほんと。本当に明日は私と一緒にずっと居てくれるの?」

「ああ、本当だ」

 加奈子さんは怒るだろうけど、早苗の気持ちの方が大事だ。


「じゃあ、達也、明日は朝からここに来るよ。そして朝食食べたら私の部屋に行こう」

「ああ、そうしようか。だから今日は帰りなさい」

「うん、分かった。じゃあもう一回」


 早苗が目を閉じた。




 隣だが、早苗を家まで送った後、俺は夕食の準備が出来たという母さんの声に軽く返事をした後、部屋に戻って加奈子さんに電話した。


「達也どうしたの?」

「加奈子さん。明日は会えなくなりました」

「えっ、何言っているの。冗談でしょ?」

「冗談ではないです」

「…理由は?」

「早苗と会います」

「えっ…」


 そんな。達也は考査試験前以外はどんな時でも私を優先してくれた。私のお願いは聞いてくれたのに。


 先週は、夏休みの宿題会をやるとかで中止にしたけど、もうそれも終わったはず。だから明日を楽しみにしていたのに。


 それに私より桐谷さんを優先するなんて。それも私と会うのが決まっている日曜日に。これは不味いわ。でもここで無理言っても達也は聞かない。


「加奈子さん、急に静かになりましたけど?」

「分かったわ。明日は桐谷さんと会ってもいい。でも塾の夏期講習が終わった翌日とその翌日私と会って。これ守ってくれるならいいわ」

「でも夏期講習の後、直ぐに夏期特訓という合宿形式の講習会が有るんですけど」

「間二日有るわよね。夏期講習は七日まで。合宿は十日から三泊四日でしょ」

 知っていたのか。流石だ。


「分かりました」

「じゃあ八日は、あなたの家のある駅まで午前八時に迎えに行く。いいわよね」

「はい」


 プツン。


 切られた。口調もそうだが、怒っているのがはっきり分かった。初めてだなあの人怒らせたのは。でも仕方ないこれからも増えるだろうが、これは今後ともはっきりしていかないと。



 不味いわ。達也が桐谷さんを優先するなんて。今までは、内縁の関係になるとはいえ、一番は私と思っていた。正妻なんて誰がなってもいい位に思っていた。

 なのに達也が、正妻となる桐谷さんを私より優先してくるなんて。何とかしたいけどどうにかなるものでもないし考えないと。嫌だわ二番目なんて。




 翌日、目覚ましが鳴っていないからまだ七時前だろう。でも俺のベッドの上にタオルケットを半分横取りして柔らかい肌をくっつけて来ている早苗がいるのが分かる。ゆっくりと目を開けると


「目が覚めたの達也。暖かい。こうして居ると幸せ」

 なれと言うのは恐ろしい。早苗は何も身に着けていない。それが違和感なくなってきている。でも俺の心の感性はしっかりと感じ取っている不味い。


「ふふっ、達也。ここ元気だよ」

「あっ、こら。勝手に触るな」

「でも、達也の気持ちが、私を呼んでいるよ。えへへ。する?」

「しない」

「ちょっとだけは?」

「だめ」

「あっ、止めろこらっ」

いきなり早苗が俺の体の上に乗って来た。


「早苗だめだ」

「ちょっとだけ。声出さないから」


 はぁ、早苗が目と口を思い切り閉じてしている。こいつなんでこんな事こんなに好きなんだ。まずいちょっと気持ち良くなって来た。



 早苗が俺の体の上に横たわっている。体を俺の胸につけながら顔を俺の方に向けて

「えへへ。後は、私の部屋でね」

「…………」

 どうしたものか。こんなことしなくても俺は早苗から離れないのに。



 午前七時半に起きて、早苗と一緒に朝食を取った後、早苗の部屋に行った。当然ご両親は仕事で居ない。


……………………。



 午後五時

「早苗、大丈夫か。明日から夏期講習だぞ」

「うへへ。らいりょうふ」

 早苗の奴、俺の体の上で完全に伸びている。俺も疲れた。明日から参加できるのかな?


 このまま家に帰ると瞳はまだ涼香ちゃんと勉強中のはずだが、万が一がある。早苗の家のシャワーを使わせてもらう事にした。


 頭がスッキリしたのか早苗が、

「ふふっ、ありがとう達也。これで合宿終わるまで我慢出来る」

「えっ?」

「女の子ってそんなものよ。三頭さんだって毎週でしょ」

「…………」


 JK、JD恐るべし。


――――――


 私もそう思います。でも男の子も同じでしょ?


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る