第114話 夏期講習も賑やかです
加奈子さんとの約束を早苗に切り替えた翌日の朝、いつもなら早苗はもう俺の部屋に居るはずなのに今日は来ていない。多分理由は昨日の事だろう。
塾の夏期講習は朝九時半から始まる。塾は高校のある駅前のビルに入っている為、ゆっくりはしていられない。
朝食を摂った俺は、部屋着から外出着に着替えると言っても暑い夏だ。黒のジーンズに濃紺のTシャツ。簡単で良い。
早苗はまだ来ないので迎えに行けばいいと思って肩掛けのバッグを持って玄関を出ようとしたところで早苗が来た。淡いピンク色のTシャツにキュロットスカート。夏らしい。
「達也おはよう」
「おはよう早苗」
流石だ昨日の疲れが微塵も見えない。
「行って来まーす」
「行ってらっしゃい」
母さんの見送りを受けながら早苗と玄関を出ると門を通ってから少しして、早苗の持っているバックを俺が手で持った。
「ありがと達也」
右腕にギュッとしがみついて来た。
「お、おい。歩き辛いだろう」
「ううん。そんなことないよ。昨日はありがとう。とても心が爽やか」
「そ、そうか良かったな」
「合宿終わったらまただよ」
「へっ?!」
あの、俺も体力は無限じゃないんですけど。
二人で玲子さんの居るマンションの前に着くと何故か玄関で待っていた。爽やかなワンピース姿だ。
「玲子さん、改札で待合せでは?」
「夏は陽が登るのも早いです。この時間は心配いりません」
と言っても沖田さんが少し離れて後ろに立っている。
「達也さん、桐谷さん。おはようございます」
「おはよう玲子さん」
「おはよう立花さん」
何でしょう。何故こんなに彼女は爽やかな顔をしているの?昨日は達也さん、三頭さんと会っていたはずなのに。まさか?!
「達也さん、昨日は三頭さんと会っていたのですか?」
「ふふっ、達也は私と会っていたの。三頭さんとは会っていないわ」
「えっ?!」
どういう事。そんな事あるの。彼は何事にも三頭さん優先では無かったの?
「そうですか。良かったですね桐谷さん。達也さん、今度は私とも二人で一緒に…」
「立花さん、達也がそんな事する訳無いでしょ」
また始まった。
「早苗、落着け。今の言い方は流石に玲子さんに失礼だぞ」
「でもーっ、じゃあ達也は立花さんと二人で会うの?」
「当たり前です。私は達也さんの特別な友達です」
「玲子さんも朝から煽らないで下さい。二人とも早く行かないと塾に遅れるぞ」
「「………」」
二つ隣の駅から涼子が乗って来た。水色のTシャツに白のスキニーパンツだ夏らしい。いつもの様に挨拶をするが、早苗と玲子さんを見て何か不思議そうな顔をしている。取敢えず無視をするか。
塾は涼子の家のある駅から三つ目だ。直ぐに着いた。まだ二十分程余裕がある。塾の前で四条院さんが待っていた。塾の中に入る塾生が彼女を横目で見ているのが分かる。
彼女も白をベースとした花柄のブラウスと膝上のスカート。モデルにしか見えない。
まあ、確かに身長百七十センチを超え、スタイル抜群で髪の毛が腰まであり容姿端麗だ。目立ちすぎる位だ。芸能人でも早々にはいないだろう。
「おはよ皆。朝から仲いいわね」
「おはよ四条院さん」
早苗、玲子さん、涼子も挨拶をする。
「達也ちょっと」
四条院さんが急に俺の腕を引っ張って入口の隅で
「達也どうしたの玲子と桐谷さん、なんか目を合わせないけど」
「いつもの事だ気にするな」
「そうなの?」
いつもの事って、私は知らないけど。
夏期講習は午前中二枠あるが人によっては午後二枠も取っている。全日程七日間コースで有名国立コースを選んでいる俺達は当然一日四枠のコースを取った。
それが終わると自習室が閉まるまで今日やった講義内容を復習する。いつもそうだが、何故か俺達の周りには男のが一杯いて自習室が閉まるまで一緒に勉強している。流石だ皆受験勉強に必死なんだろう。俺はそう思いたい。
俺がちょっと席を外していると偶に男の子が四人の誰かに声を掛けている事があるが、俺が戻って来ると元の席に戻る。ちょっと心外だが仕方ない所か。
問題はこの後だ。日によって教科は違うがその日行った四時間分の講義を自習室の二時間で終わらせられる訳が無い。自然と一教科位が残る。家で一人で復習するつもりが
「達也さん、残った教科は私と一緒に近くの図書館で終わらせましょう。あそこは午後八時まで開いています」
「何言っているの立花さん。達也は私と一緒に家でやるのよ」
何故か四条院さんがニコニコしながら二人を見ている。
私四条院明日香。なるほどこれが朝達也が言っていた事か。これは達也には災難だ。しかし、この男本当に何か持っているものがあるのか。私には分からないが、この三人がここまで執着するなんて。
理由が下世話な事でない事は一緒に居れば分かる。どんな魅力があるか少し興味もってもいいかも。
「ねえ、玲子、桐谷さん。みんなで図書館に行って残った一教科やるようにしない。ねえ本宮さん」
「はい、私もそう思います四条院さん」
全く明日香は余分な事言って。話の流れで達也さんと二人だけの時間を作れると思ったのに。
なにこの人、立花さんといい、四条院さんといい、ほんと邪魔だわ。
「そうだな。四条院さんの意見に賛成だ。一時間を区切りに図書館で終わらすか」
「はい」
涼子が嬉しそうに言った。
「仕方ありませんね」
「分かったわ」
「じゃあ、達也行こうか」
「「ちょっと待ちなさい」」
「なんで明日香が達也さんの腕を掴むのです」
「だって、あなた達二人だと喧嘩になりそうだから私が代表して図書館まで達也と腕を絡ませて行くの、いけない?」
「「「駄目!」」」
「四条院さん腕離して。揉めるなら俺家で一人で復習するから」
「「「「…………」」」」
何とか静かになった。
結局この五人で塾後は一時間だけ近くの図書館での残りの復習をする事になった。しかし初日からこれかよ。
塾も終わり、家に帰ったのが午後六時半。部屋で休んでいると玲子さんからスマホに電話があった。
『玲子です』
『立石です。どうしたんですか?』
『達也さん、私夏期合宿特訓にはいけません。セキュリティの関係で両親が許してくれないんです』
『そうですか』
『だから、合宿が終わったら私と一日だけで良いんです。会って下さい』
確かに玲子さんの気持ちも分かる。早苗は彼女だが、玲子さんも特別だ。
『良いですよ。いつがいいですか?』
『合宿が終わった三日後の十六日では如何ですか。本当は十四日か十五日でも良かったのですが、合宿直後ではお疲れでしょうし』
『気遣いありがとうございます。良いですよその日で』
早苗は間違いなく十四日か十五日と言って来るだろう。
『楽しみにしています。この事はくれぐれも桐谷さんには内密に』
『分かっています』
その後何故か涼子からも電話が掛かって来た。涼子には夏期講習後会う事を約束している。だから十七日した。
これで八日、九日が加奈子さん、十日から十三日が夏期合宿、十四日か十五日が早苗多分、十六日が玲子さんそして十七日が涼子だ。なんかこの構図過去に経験ある様な?
ちなみに十九日が登校日そして二十日から三日間爺ちゃんの道場の稽古に集中する事にしている。これは最優先だ。そうしたら二学期は目の前だ。
但し加奈子さんとの約束日曜日は会うという事が反故になっている。多分どこかで穴埋めをさせられるだろうけど仕方ない。
そして長い夏期講習が終わった。最後の七日目は全教科とも講習成果の確認テストが行われた。結果は自宅に送付される予定だが今回は悪くなかった気がする。全問自信をもって解答できたからだ。
――――――
達也、そう言えば去年の夏も?
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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