第112話 明日香の彼


 私、四条院明日香。南部君とは、喫茶店で話をした後、映画を見て買い物に付き合って貰った。

 中々感じが良く優しい子だという事が良く分かった。それにあっちの話をすると普通に恥ずかしがるし。彼にする訳にはいかないけど友達として遊ぶのは良いかも知れない。



 その後の三日間は家で真面目に夏休みの宿題をやった。もう半分以上は終わっている。内容は簡単だ。進学校とは聞いていたけど、これなら帝都女子学園の理数科クラスの方がレベルが高いかもしれない。



 塾の夏期講習会まで後二日。その前に彼と会う事にした。場所はこの前と同じデパートのある駅。ここはデパート、映画館、公園と一通り周りにある。もちろんラブホまで。


 エスカレータを降りて改札に向かうと改札の向こう壁に立っていた。彼の名前は工藤正人(くどうまさと)。高校三年生、身長百七十五センチ、私より少し大きいだけ。もちろん学校は違う。


 視線的には同じ高さに感じる。でも結構なイケメン。頭も運動も皆中の上。だけど極端な奥手だ。

 彼と会ったのは合コン。でもそんなイケメンが合コンに来る目的は女子の体。そう思いながら少し話をしていたら気が合った。でもどうせ私の体目当てだろうと思っていたら、半年経ってやっと手を繋げた。


 なぜ合コンに参加したのか聞いてみたら良くある数合わせ要員で初めての参加だと言っていた。


 聞いてみれば女性経験無し。これだけのイケメンが経験ないなんて嘘と思っていたが、近寄る女性は学生だけでなく社会人もいたらしい。

 だけどやたら積極的な人が多かったらしく、返って引いてしまったそうだ。多分工藤工業の跡取りという事がポイントみたいだ。ちなみに彼の会社は立石産業傘下の会社。本人は知らないみたいだけど。


 だから、この子をどうしようか私が手を付けるのもいいかと考えたけど、初めてな子はその後変にべったりしてくる可能性もある。だからちょっと迷う。



「待ったあ、正人」

「いえ、今来たばかりです」

 本当は三十分前から待っていたけど。今日も明日香さんは綺麗だ。白を基調とした花柄のワンピース。薄いクリーム色のハイハイヒールに薄い緑色のハンドバッグ。ちょっと俺より大きく見える。


 でもいつも離れているけど怖そうな男の人が彼女の側にいる。こちらから手でも繋ごうものなら腕を切り落とされるんじゃないかと思ってしまう。俺のメンタル蟻だから。


 俺のメンタルが弱い原因は俺の姉さん二人の所為。まあ、その辺は後にして今日は久しぶりに明日香さんから会おうと言ってくれた。嬉しい。昨日は眠れなかった位だ。



「正人、今日は何しようか?」

「は、はい。映画とかどうですか。後公園で散歩とか」

 はあ、本当にこの子は…。


「分かった。映画。何見ようか」

「え、えーと。入ってから決めませんか?」

「いいわよ。上映時間も分からないしね。さっ、行こうか」



 映画を見て、昼食を摂った。彼は決して〇ックとかには誘わない。育ちなのだろうか。今日はおそばが食べたいと言う事でSCのレストランフロアに来ている。


有名な蕎麦屋の前にあるサンプルを見た。昼定食でも二千円を超えている。

「あの、ここでも良いですか」

「うん、いいよ」

 ふふっ、可愛い。


 二人で注文をし終わると

「正人、この後はどうする?」

「え、えーっと。明日香さんに任せます」

「ふふっ、本当に私の行きたいところ行く?」

「…あの、俺が行ける所なら」

「いけるわよ。どうする?」


 明日香さん、まさか。でも考え過ぎかな。俺した事無いし。もしうまく出来なかったら嫌われてしまうかもしれない。

この人が経験ある事は知っている。だから…。どうしょう。


「正人、どうしたの顔が赤いわよ」

「い、いえ。そんな事無いですよ」

「あっ、もしかして私が正人をラブホに誘うと思ったんでしょ」

「ら、ラブホ!」

「こら、声が大きい。周りの人が見ているじゃない」

「済みません」


 明日香さんは綺麗で可愛い事も有るけどこのはっきりした物言いや考え方が好きだ。俺には無い。それに俺の後ろを見ていない。俺だけを見てくれる。


 注文の品がテーブルに並べられた。蕎麦を食べながら

「公園でも行こうか。正人はラブホ行く前にキスの練習しないとね」

「キ、キス!」

 箸を落としそうになっている。この子本当に大丈夫かな?


「ほら、蕎麦食べよ」

 ほんと、可愛い。



 蕎麦屋でお昼を食べた後、公園に行く事にした。映画館の通りをずっと進むと公園がある。池や古民家風の建物があり、周りを遊歩道や木々で覆っている。とても素敵な所だ。

 休みの所為か家族ずれやカップルも多い。


 私はそっと彼の手に触れた。彼は一瞬ビクッとしたが、ゆっくりと手を繋いで来た。本当に驚いてしまう。今時こんなイケメンがこんなに奥手なんて。でもいい、どうなるかは時間が教えてくれる。ふふっ、指を絡ませてみようかな。


 明日香さんと一緒に公園を歩いている。手が触れるか振れない程度に距離だ。手を繋ぎたいけど俺からだと不味いかな。避けられたら嫌だし。


 あっ、手を繋いで来た。暖かい。えっ、指を絡めて来る。こ、これって。噂で聞いた恋人繋ぎ。そうだよな。明日香さんは俺の恋人、うん?どうなんだろう。


 彼女は友達、恋人?聞いたら引かれるかな。いいや、このままで。でもこうして付き合う様になって半年。やっと手を繋げるようになった。キスとかその後も時間が解決してくれる。


「正人、何考えているの?」

「えっ、……」

「ふふっ、当ててみようか。正人は私が友達か恋人か迷っている。どうかな?」

「…その通りです。なんで分かったんですか?」

「正人はどっちで有りたい?」

「え、えっと…。恋人かな、あっ、でも無理ですよね。済みません変な事言って」


 私は立ち止まると正人の前に立った。

「ねえ正人、友達と恋人の違いってなあに?」

「違いですか。えっと友達は話したり偶にこうやって会うだけ。恋人は…そのキスとかその後も…」

「ねえ、顔真っ赤だよ。大丈夫?」

 本当に知らないんだ。どうしてなんだろう。言い寄る子は多いだろうし。


「ねえ、正人には言い寄ってくる子一杯いるでしょ。その子達とはどうしているの?」

「みんな断っています」

「どうして?いくらでも好きに出来るんじゃない?」

「俺は明日香さんが…」

「そうか。そうか。君は私が居るから他の人からの告白を断っているのか。でも君の頭の中では私はまだ友達でしょ?」


「…………」

明日香さん。俺を弄っているのかな。こんな会話今までした事無いし。


「ねえ、正人。私の事好き?」

「はい」

「じゃあ、私の全部を知りたいとは思わないの?」

「…そういう事は、そのやっぱりきちんと…」

「何をきちんとするの?」

「…分からないです」

「じゃあ当分このままね」

 これは重症だな。この子このまま行くのかな?でもこんな事したらどう反応するかな?


「正人」

 私は彼の両頬を手で持って強引に


チュッ。


 ふふっ、顔が真っ赤だ。


 明日香さん、いきなり。でも女性の唇ってこんなに柔らかいのか。

「あの、もう一度…」

「じゃあ、正人からしてみて」


 彼は恐る恐る私の両肩に手を乗せると


チュッ。


 離れようとしたから思い切り彼の背中に手を回して


チューッ。



「わぁ、今の若い子は人前でも遠慮なくキスするのか」

「でもあれだけのイケメンと美女だぜ。いいなあ」

「あははっ、お前には無理だな」

「お前もだろ」


 通りすがりの声を無視してキスをしてあげた。途中から彼が私の背中に手を回して来た。


「ぷはっ」

「ふふっ、しちゃったね。これで恋人かな?」

「は、はい。嬉しいです。とても」

「じゃあ、もう少し散歩しようか」

「はい」


 この後は、まだ午後五時だと言うのに駅で別れた。本当はあっちしても良かったのに。まだ無理か。キスであれじゃあ。


改札で彼がエスカレータに乗って上がって行くのを見終えると


「お嬢様。車を来させております」

「分かったわ」


 やっぱり正人じゃ、私の彼は無理かな。友達としてならあれで良いんだろうけど。


――――――


 なんと奥手な彼でしょう。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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