第111話 明日香の夏休み
私、四条院明日香。玲子は夏休み宿題会を達也の家でやっているらしいけど、私はそんなものに参加する気はない。高校最後の夏休みだ。
宿題は夏休みが終わるまでに終わっていればいいだけ。早めに終わらせて後は遊ぼうなんて気持ちは全くない。
玲子は去年この長尾高校に転校して来てから達也の事ばかりで、全く私と遊んでくれなかった。
私も去年の夏は、今は別れた元カレと適当に楽しんでいたから良いけど。今の彼は連れて歩くには良いけど、全く私に手を出そうとしない。
ちょっと欲求不満になる。元カレとは正反対だ。もっとも元カレは私の体が目当てなだけだったから付き合って三ヶ月で別れたけど。
それから三ヶ月位して今の彼と付き合う様になった。でも付き合って半年も過ぎているのに手を繋ぐのがやっと。それも私からだ。
彼が私を嫌いでないのは分かっているが、私を本当に好きなのか疑りたくなる。誘うのはこちらからだけだ。でも誘えば断る事はない。
それに中々のイケメン。連れて歩くには丁度良い。だから別れない。新しい彼が出来たら別れる位にしか考えていない。
そう考えられても仕方ない位無反応だ。
そういう訳で私は今、自分の部屋で夏休みの宿題をやっている。仕方ない。八月一日から塾の夏期講習が始まる。
これは、楽しそうだから行く。達也と玲子、桐谷さんとのバトルが面白い。本宮という子は、中々の曲者。今は桐谷さんが彼女らしいが、最終的にどう転ぶかは、分からないからだ。
達也は体も大きく顔も強面だが、武道の心得もあり側に居て安心出来る。その上立石家の跡取りだ。彼としてまた夫として側にいるには申し分ないだろう。
ただあいつは女性に優しいというより接し方がまだ分かっていない様な気がする。これは克服しないと弱点になる。
しかし、宿題だけやっているのは面白くない。明日は女子テニス部の練習でも見に行くか。一応用意もしておこう。
翌日、朝十時に高校のグラウンド行くと、練習は始まっていた。部員も二年生が六人、一年生が五人だ。申し分ない。これから成績を残していけばもっと増えるだろう。
ネットの側で見ていると来宮さんが声を掛けて来た。
「あっ、四条院先輩。見に来ていたんですか」
「ええっ、練習はどうかなと思って」
「はい、見ての通りです。皆元気いっぱいです。これも先輩のお陰です。ところでラケットとそのバッグって」
「うん、もし少し出来たらなと思って」
「えっ、本当ですか。じゃあ、部室で着替えて来て下さい。ぜひお手合わせさせて下さい」
「分かったわ。ちょっと待っててね」
私は女子テニス部の部室で着替えをした。ユニフォームは帝都女子学園時代のもの。まあ遊ぶだけだからこれでいいか。
上は白で胸に帝都女子学園のマーク、スコートは薄いグレーに金の線が縦に入っている。靴下も学校指定のものだ。
私は、バッグからラケットを取出してガットの張りを確認したがそんなに緩んでいない。これで良いか。髪の毛は後ろに結んでいる。
テニスコートの方に歩いて行くと
「「「おーっ!」」」
何故か男子テニス部員の注目を浴びた。まあ身長も百七十二センチ。スタイルには自信がある。見られるには慣れている。
「凄いなあ。あのスタイル。あの身長。抱き着きたい」
「でもあの格好って」
「お前知らないのか。帝都女子学園のユニフォームだよ。スコートのデザインが独特で大会ではいつも注目されているんだ」
「へーっ、お前詳しいな」
「おい、そこの二人。練習に戻れ」
「ほら、部長代理に起こられてしまったよ。練習しよ」
「そうするか」
私がネットの中に入って軽く柔軟していると来宮さんが寄って来た。
「先輩、私が相手させてもらっても良いですか?」
「いいわよ。久しぶりだから最初軽く流してからね」
「はい」
軽くストロークでラリーをした後、サーブとボレーの練習もした。
「そろそろやろうか。三セットマッチでいいかな」
「はい。サービスは先輩からお願いします」
先輩、どの位の腕なんだろう?
私、四条院明日香。大分体が感覚を思い出して来た。と言ってもブランクは四か月だけだからね。
ラインを踏まない様に立ってルーティンに入ってからボールを手で高く上げた。
スパーン。
「えっ!」
私、来宮佐紀。一歩も動けなかった。何今のサーブは。
「どうしたの来宮さん。後輩だからって遠慮しているの?」
「いえ、次は返します」
スパーン。
ラケットが届かない。不味い。これでも女子テニス部の部長代理。何とかしないと。
ふふっ、仕方ないわね。少し緩めますか。
スパーン。
スコーン。
スコーン。
二人の試合を見ていた他の部員が
「ねえ、あの人って」
「そうだよね。一昨年のインターハイのダブルスで一年ながらベストエイトまで行った四条院明日香さん。一緒の相手は確か立花玲子さん」
「えっ、立花さんってあの三年の頭のいい綺麗な人?」
「そうだよ」
「それにしても凄いわ。来宮さんに手を抜いているのがはっきり分かる位なのに来宮さん全然対応出来ていない。やっぱりインハイのレベルって凄いね」
三セットマッチが終わった。3-0で四条院の完勝だった。
「先輩、凄いです。私も地区大会上位には行ける位なんですけど、全く歯が立たなかったです」
別の二年生が、
「あの先輩って帝都女子学園の四条院明日香さんですよね」
「元ね。今はこの学校の3Aよ」
「加奈知っているの?」
「だって、インハイ出場者だもの。雑誌にも載っていたわ。美少女ダブルスと言われて当時とても話題になった事を覚えている。確か立花玲子さんとダブルス組んでいましたよね」
「え、ええ、えーっ!」
「美紀知らなかったの?」
「うん」
見たんだろうけど忘れていた。
「先輩、女子テニス部入って下さい。お願いします」
「ふふっ、残念だけど私三年だから。受験もあるし」
「じゃあ、顧問でも」
「顧問は白鳥先生がいるじゃない」
「あの先生、何も知らないんです。今も職員室にいるだけです」
まあ、あの先生にはムリムリで顧問して貰っているしな。
話をしていると南部君が寄って来た。
「四条院先輩。凄いですね。見ていて驚きました。偶には女子の練習も見てやって下さい。お願いします」
「ふふっ、それは条件次第だわ」
この後、練習が終わるまで見ていた。久しぶりのテニスで体が活性化された気がする。
そして、その後、駅の近くのファミレスで少し話をした。
南部君を強引に誘って話をした後、スマホの連絡先を交換した。その時、一緒に居た来宮さんや他の子達とも交換させられていてちょっと困った顔をしていたけど、私だけだとおかしいから丁度良かった。
そしてテニスを見に行った翌々日、南部君を映画に誘った。デパートのある駅で待合せた後、上映まで少し時間が有るので映画館の近くの喫茶店に入った。
注文をした後、
「南部君、彼女いるの?」
「いきなりですね。いません」
「そう。とてもモテそうな気もするけど」
「好きな人がいます。片思いで実りそうには無いですけど」
「へーっ、誰?」
「先輩、遠慮ないですね。3Aの本宮涼子さんです」
「あははっ、君もはっきり言うね。そうか本宮さんか。彼女は厳しいかな」
「何故ですか。彼いないんですよね。立石先輩が好きとは聞いていますけど、立石先輩は彼女がいるから望みあると思っているんですけど」
「ふふっ、子供には分からない事情があるのよ。本宮さんの心が達也から離れる事は無いわ。諦めなさい」
「達也?」
「ああ、立石達也。私も彼とはちょっと縁が有って名前呼びしている」
「そうなんですか。でもなんで立石先輩あんなにもてるんですか。失礼な言い方ですけどモテ顔じゃないし」
「男は顔だけじゃないわよ。その位理解しなさい」
「…………」
「南部君、この学校には可愛い子が一杯いるじゃない。来宮さんだってとても可愛いじゃない。他の部員だって」
「彼女は良い子ですけどそれだけです」
「そうか、じゃあ…本宮さんの妹さんは確か涼香ちゃん」
「彼女は同じクラスですけど、そんな目で見たことも考えてもみませんでした。姉の方に目が行っているので」
「良く似ているじゃない涼香ちゃん。お姉さんにさ」
ふふっ、この子どう動くかな?
――――――
四条院さん、中々悪戯が好きですね。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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