第103話 GWも後二日
早苗とは二日目に遊園地に行った。午後二時位まで遊園地に行った後早苗の部屋で過ごした。
流石に心が満たされたのか、今日からの二日間の事については渋々顔が少しだけ和らいでいた。
俺は、午前八時に加奈子さんの家の最寄り駅でスポーツバッグを持って待っている。中に入っているのは一泊分の着替えだけだ。
いつもの様に改札で待っていると駅前の交差点の少し手前に大型の黒塗りセダンが止まった。中から加奈子さんが降りてくる。手ぶらだ。
「達也、待った?」
「いつもと同じです」
「ふふっ、いつもと同じね。今日は車で移動するから」
「分かりました」
正月に我が家に来た車と同型だ。サングラスに黒スーツ姿の男が頭を下げながら後部座席ドアを開けて待っている。
「さっ、乗って」
「いえ、加奈子さんが先に」
「ふふっ、分かったわ」
後から俺が乗るとドアを開けている男とは別に運転席にもう一人いた。俺が乗り終わるとドアが閉められ、ドアを開けていた男が助手席に乗った。
「お嬢様、出発します」
「はい、お願いね」
「加奈子さん、これって」
「達也ごめんね。本当は達也と二人で電車で行きたかったんだけど、お父様がどうしてもこれで行けと言われて」
「いやそれは良いんですけど」
「ああ、セキュリティの事。これはね」
シートの真ん中のセンターボックスをシートの中から取り出して蓋を開けるとその中の一つのボタンを押した。運転席側と後部座席側の間にグレーのボードが下からせりあがって来た。
「ふふっ、気になるならこうしておいてあげる。声も遮断されているわよ」
「…………」
「驚く事は無いわ。いずれ三頭家の全ての物が達也の自由になるのよ。今から少しずつ慣れておく事は良い事だわ」
なんか、ほんと凄い家系だな三頭家って。でも俺の家も今俺が知らないだけみたいだし。父さんは高校を卒業したらというか十八才になったら色々教えてくれると言っていた。
「分かりました。でも目の前のボード降ろしませんか」
「えーっ。じゃあこれだけしたら」
チュッ。
「か、加奈子さん」
「何驚いているの?ただのキスでしょ」
「いえ、いきなり車の中は」
「だからボードが必要なの」
俺はその後、やはりボードを降ろして貰った。前が見えている方がいい。但し、後部座席から前は見えるが、前部座席から後部座席を見る為には、前部座席と後部座席の間にあるシールドのカラーを調整する必要が有るという事だ。まあ何と言うか感心してしまう。
車は高速に乗って二時間程走って下の道路に降りた。更に三十分程走ると止まった。
広大な敷地内に立つホテル風の建物。入り口の前には片側十人ほどが二列になってお辞儀をしている。
「加奈子さんここは?」
「ごめんなさいね。国内にある三頭家の別荘の内の一つよ。普通のホテルか旅館にしようと思ったのだけどお父様が、私と達也が行く所だ中途半端な所は駄目だと言われて」
「そうですか」
俺の持っているスポーツバッグ、少しくたびれているんだけど。
建物の入口から男の人が近寄って来た。
「お嬢様、ようこそおいで下さいました。一同ご到着をお待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「お世話になるわね。こちら立石達也さん」
「ははーっ、ご連絡は頂いております。粗相の無い様万全の態勢でご準備させて頂いています」
入るだけで疲れそうだ。
入口は大きく、ホテルならロビーだろうと思われる所だが、受付フロントなどは何もない。ここが一般の別荘で有る事が分かる。
広々としたフロアに大きくゆったりとソファとローテーブルが何ヶ所かおかれている。普段はもっと多くの人が一度に泊まれるようにしてあるのだろう。
「お嬢様、お部屋にご案内します」
「達也、行こうか」
俺が持っているスポーツバッグを他の人がお持ちしますと言われたが流石に断った。
案内されたのは、二十畳は有りそうなリクライニングルーム、ここに置かれた調度品は俺が見ても見事な物ばかりだ。ここにもローテーブルとゆったりと座れそうなソファが置いてある。
そして奥に十五畳はあるベッドルームだ。ベッドは特注だろう。クイーンロングサイズより大きい。
バルコニーだけで一部屋作れそうだ。大きな丸テーブルと椅子が置かれている。
「達也気に入ってくれた?」
「えっと、俺の部屋は?」
「何を言っているの。ここを二人で利用するのよ」
「…………」
「ふふっ、達也ずっと一緒だから」
「…………」
部屋の中にいると加奈子さんの顔が段々妖艶になって来そうなので取敢えず散歩に出ようという事になった。
車止めとは反対が広大な芝生の庭になっている。はるか向こうには相模湾だろうか。綺麗に見えている。
「天気が良くて良かった。天気が悪いと何も見えないから。やっぱり達也と私は神様に守られているのね」
「そ、そうですね」
俺達の周り百メートル以上は離れているが四方にセキュリティの人間が経って周りを警護している。
「達也ごめんね。目障りかもしれないけど慣れて」
「いや、セキュリティの人達は俺の家にもいるので良いのですけど、随分広い芝生だなと思って」
「そうね。縦横それぞれで三百メートルはあるわ。これも安全の為。あの建物は対戦車ミサイルを撃ち込まれても一部分しか破壊されない頑丈な建物よ」
「…………」
何も言えない。
「達也そろそろお風呂入らない。ここは温泉も出るから気持ちいいわよ」
「あのそのお風呂って」
「ふふっ、勿論達也と私だけのお風呂よ」
「…………」
夕食は豪華そのものだった。高校生の俺は食欲をしっかり出したが、給仕の人が嬉しそうに料理を運んでくれた。
「ふふっ、達也が美味しそうに食べてくれて嬉しいわ」
「実際に美味しいです」
「そう。じゃあ一杯食べてエネルギーを付けてね。明日の朝まで時間は一杯あるわ」
「…………」
……………。
「達也、今日私安全日なんだ。だからね。思い切りね」
「わ、分かりました」
ふふっ、やっぱり何も無い方が達也を感じる。嬉しい。
俺達が寝たのは、何時か分からなかったが、二人で朝九時までベッドの中にいた。目を覚ますと
「達也…」
結局ベッドを出たのは午前十一時を過ぎていた。加奈子さん、ちょっと目の下にクマが…。
「達也、また来週日曜まで会えないけど、少し我慢出来そう」
「少しですか」
「うん少しよ。もっとしたいけど、今日は帰らないとね。ふふふっ」
その日の午後七時に俺の家の最寄り駅まで送って貰った。車を降りようとした時
「達也、またね」
チュッ。
「…………」
車が見えなくなるまで駅に居た後、帰ろうとして振り向くと
「達也さん、今お帰りですか」
「玲子さん。どうしてここに」
「そんな事どうでもいいです。お願いします。一時間でも良いです。私の部屋でお話できませんか?」
「しかし、もうこんな時間に」
「まだ、午後七時ではありませんか。私、私達也さんと全然二人きりになれなくて、玲子悲しいです」
俺に抱き着いて来た。少し涙ぐんでいるのが分かる。
「分かりました。お話だけなら」
「はい」
急に花が咲いたように笑顔になった。
玲子さんのマンションの部屋はとても広かった。リビングだけで十五畳ある。ベッドルームは十畳だそうだ。
リビングのソファに座ると玲子さんがすぐ隣に座った。
「達也さん、二回目ですね。私の部屋に来て頂けたのって」
「そうでしたっけ」
「三頭さんも桐谷さんも狡いです。三頭さんは毎週日曜日二人だけになれる。桐谷さんはいつでも達也さんと二人だけになれる。でも私は、玲子はなれません。どうしてですか。不公平です。友達だからですか。友達だと二人きりになれないのですか」
「玲子さん」
「私、とても寂しいんです。心が寂しいんです。一番の席も内縁の妻の席も要りません。でも偶には、友達だからって偶には…」
「駄目です。玲子さん」
「私の命を助けてくれましたよね。私の初めても貰ってくれましたよね。友達でも特別ですよね」
思い切り俺に抱き着いて来た。泣いているのが分かる。
「達也さん、お願いします。今日なら今なら誰にも分からないです。二人だけです」
強引に口付けをして来た。
俺が家に着いたのは午後十時近かった。流石に疲れた。
ふふふっ、やっとやっと達也さんと久々に…。一歩進みました。内縁の妻なんかどうでもいい。やはり一番目の席。彼の心の中にある一つの席は誰にも譲りません。
――――――
達也を取り巻く人達って…。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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