第104話 中間考査は一人で


 GWも終り、最初の登校日。いつもの様に早苗は門の側で待っていた。

「達也おはよう」

「おはよう早苗」


 GWが過ぎると大分暖かくなって来る。朝晩はまだいいが、昼間は冬服だと大分暑い。早苗と手を繋いで駅まで歩いて行くと

「達也さん、桐谷さん、おはようございます」


 玲子さんがとてもすっきりした顔で朝の挨拶をして来た。

「玲子さんおはよう」

「立花さん、おはようございます」


 立花さん、とてもすっきりした顔をしている。何か有ったのかな。このGWの間、達也は私と三頭さんしか会っていないはず。…まさかね。


 俺達は駅から電車に乗り二つ目の駅で涼子が乗って来た。涼子の顔が少し元気ない。どうしたんだろうか。いつもの様に早苗と玲子さんに挨拶をしている。


 学校のある駅で降りて改札を出ると四条院さんも加わった。慣れたとはいえ、まだ登校中の生徒達がじろじろと見て来る。物珍しい目、嫉妬の目、妬みの目など色々だ、なんか抵抗あるな。どうにかならないものだろうか。

 

「達也さん、来週は中間考査ですね。また一緒に勉強会しましょう」

「達也、勉強は私とだけよ」

「へーっ、玲子勉強会なんかするの。学園一の才女と言われたあなたが?」


「明日香、全て達也さんの為です」

「嘘でしょ。達也と居たいだけじゃない」

また始めたよ。全く。



「あの皆、今回は俺一人で勉強する。みんなが教えてくれる予想問題をやってしまうと俺の本当の実力が分からない。だから今回は俺一人で勉強する」

「「えっ!」」


「でも…。じゃあ予想問題やらないで一緒に勉強しよう」

「そうですよ。達也さん」


「早苗、玲子さん。今回は一人にしてくれ。復習だけでもみんなのレベルは高いんだ。俺一人でどこまで出来るかやってみたい」

「で、でも達也」

「早苗、一人でやる」

 ここまで言うという事はもう一緒に勉強する事は出来ない。寂しいけど仕方ない。


「達也、分かったわ」

「分かりました達也さん。でも分からない所有ったらすぐに電話下さいね」

「玲子さん、それもしません」

「そんな…」

 仕方ないようです。それにこうすれば達也さんの今後の勉強方法が分かるというものです。



 そんな事を話している内に学校に着いた。下駄箱で履き替えて教室に行くと健司と小松原さんが楽しそうに話している。ちょっと羨ましく思えて来た。


「健司おはよう」

「おう、達也おはよ。GWどうだった」

「ああ、まあそれなりに」

「そうか。そうか」

 俺と佐紀が街で達也と桐谷さんがラブホに入って行くのを見たという事は伏せておくか。俺達も同じことしてたしな。


「健司、顔がにや付いている」

「佐紀、そ、そうか」

「いやらしい事でも考えていたんでしょ」

「そんな訳ない。俺は佐紀だけだ」

「うふふっ、それならいいわ」


 健司と小松原さんがやっぱり羨ましい。




 月曜の放課後、図書室では図書担当の桃坂先生からの連絡事項がある。来週から中間考査なので入室者が多くなるが、退室は速やかにさせる様にとのお達しだ。後、図書担当を何とか勧誘するようにという事だ。これ難しいんだけど。出来れば一年がいい。最悪でも二年生だ。


 それを聞いた涼香ちゃんが

「立石先輩、二人で勧誘しましょう」

と言って俺の手を握って来た。

 何故か桃坂先生も同じことをしている。不思議だ。



それが終わると俺と桃坂先生は直ぐに図書室を出る。入室待ちの生徒が居るからだ。下駄箱に行くと早苗、玲子さん、涼子、四条院さんが待っている。

そう、塾へ行く為だ。今日はGWの最後にやった特別講習確認テストが返却される。ちょっと心配だ。



 塾の教室に入るとこのクラスの担当の先生からテストが返却された。やっぱりか。国語八十五点、数学七十五点、英語八十点だ。他四人は全て満点だ。

 やはりこれが俺の実力か。これでは中間考査も危ういな。


「達也、やっぱり一緒に勉強しよう」

「達也さん、そうしませんか」

「二人共、俺は一人でやると言ったんだ」

 少しきつい口調になってしまった。


「ごめん」

「ごめんなさい」


 周りの生徒が俺達を不審な目で見ている。悪目立ちしたようだ。ただでさえ目立っているのに不味い。




 塾が終わるともう午後六時半だ。塾は駅の近くにあるので、改札で四条院さんと別れるといつものように二つ前の駅で涼子が降りる。挨拶はするが、やはり寂しそうな顔をしている。


 玲子さんとマンションの前で別れると早苗と二人きりになった。


「達也、本宮さんの事考えているんでしょ?」

「ああ、隠せないもんだな」

「ふふっ、達也は直ぐに顔に出るから。玲子さんも気付いているんじゃない」

「そうか」


「どうせ、今日の夜電話するんでしょ」

「まあな、高校卒業するまでは涼子を支えると決めたからな」

「それはいいわ。でも電話した内容は教えてね。私にも力になれる事あるかも知れないから」

「そうか」


 達也とは家の前で別れた。彼は私が玄関に入るまでしっかりと見届けてくれる。本宮さんの事は仕方ない。あれだけの縁を持ってしまったんだ。友達という枠では達也のいう事は正しいから。



 俺は、中間考査の勉強をする前に塾のテストの見返しをした。国語や英語は何処で間違えたかは大体分けるが、数学は、何故その答えになるのかが分からない問題が一つあった。でも今回は誰にも聞かない。


 その後、中間考査の勉強を始めようとしたけど、涼子の事が頭に浮かんだ。まだ午後十時前だ、電話してもいいだろう。



ブルル。


 あっ、達也だ。


「はい、涼子です」

「俺だ。涼子、何か有ったのか?」

「えっ?…」


「涼子、黙っているっていう事は何か有ったんだろう。心配なんだ話してくれないか」

「……分かった」


 私は、今の我が家の状態を達也に話した。

 妹の涼香がGW前に達也に二番目の席でも良いという事を皆の前で言ってから、喧嘩状態。口も聞いていない。


 お母さんは心配するけど、理由なんてお互いに言えた物ではない。だからお母さんが姉妹が理由も分からずにこんな状態になっている事に心配して何度も聞いてくるが、妹も私も話さないからお母さんも少しイライラしているのが分かる。


 お母さんはお父さんには話していない様だ。朝早くから夜遅くまで仕事をしているお父さんに心配を掛けない様にしているんだと思う。

 だから三人で食事しても誰も何も話さなくなっている。


「そうか。俺の所為でごめん」

「達也が謝る事ではないよ。妹の涼香と私の問題だから」


 俺は涼子から今彼女が精神的に不安な理由が分かった。しかし分かったからってそれを解決する術が浮かぶはずもない。ましてこれは姉妹の間だけの問題だ。その問題の種が俺にあるにしても。


「ごめん。こんな事言っても達也に迷惑だよね」

「そんな事は無いが、俺では解決策が見つからない…。困ったな」


「達也聞いてくれただけでも嬉しい。もう遅いから切るね。勉強頑張って。本当は一緒にしたいんだけど」

「今回だけはそれは出来ない。ここで俺の本当の実力が分からないと対策の立てようが無いからな」

「そうね。じゃあお休み」


 悲しそうな声のまま涼子が電話を切った。聞かない方が良かったと言う訳ではないが、俺は全く役に立てそうにない。どうすればいいものか。


――――――


うーん、本宮家の姉妹、家族問題は介入しない方が良いというのは世の常識ですが。この件の場合どうなんでしょう?


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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