第100話 GWの前に達也は考える
俺立石達也。早苗を玄関まで送って行った後、風呂に入った。湯船に浸かりながら
確かに早苗の言う通りだ。加奈子さんはあくまで立石家と三頭家の結び付きの為。でも早苗は俺が選んだ女性だ。
ならば、一番優先するのは早苗の気持ちじゃないのか。玲子さんや涼子はあくまで友達だ。
でも急には物事は変えられないし変わらない。だが、少しずつ変えて行こうという気持ちを俺が持つことが必要だ。
しかしなあ、玲子さんとは大学卒業するまで真摯に向き合うと両方の両親の前で言ってしまっている。明日からさよならとはいえない。
涼子の事もそうだ。俺と彼女との間には、理屈ではない何かが有るのだろう。だから後一年彼女の支えになる事が俺に科された役目だと思っている。
まあ、こういう状況の中で早苗を優先させる事にするか。今の状況からどれだけ変えれるかは分からないが。
少し湯船に長くつかり過ぎたようだ。少し頭がぼーっとする。さて、上がったら寝るか。
翌日も門の側で早苗が待っていた。
「達也おはよう」
少しご機嫌だ。
「おはよう早苗」
「うふふっ」
そう言って俺の手を繋いで来た。昨日の事良かったのかな?
「達也、GWもうすぐだね。どうする」
「塾の特別講習が有るからそれ以外の日は遊べるな」
「うん、二人で遊ぼう」
「ああ、いいぞ」
加奈子さんの件が有るが調整しよう。
やがて駅が見えて来た。
「達也さん、桐谷さん、おはようございます」
「おはよう玲子さん」
「おはよう立花さん」
桐谷さんはご機嫌の様です。どうしたのかしら。
俺達はそのまま電車に乗って二つ先で涼子が乗って来た。いつもの様に早苗の隣に立つとチョコンとお辞儀をしていつもの挨拶をして来た。
学校の有る駅で降りて四人で改札を出ると
「達也、玲子、桐谷さん、本宮さんおはようございます」
「おはようございます明日香」
「「おはよう四条院さん」」
「おはよう四条院さん」
これだけいると挨拶するだけでも大変だ。俺の右に早苗、左に立花さん、俺達の後ろに涼子と四条院さんが歩いている。何か変な気分だ。
四条院さんがいるお陰で、今まで風景の一部となっていた俺達が、また目立ち始めている。俺に対する妬みや、嫉妬の視線がまた戻った様だ。
「玲子、テニスの事だけど」
「えっ?」
「この学校では、女子テニス部は無いの?玲子も私も前の学園では一、二を争っていたじゃない」
「明日香、私はこの学校ではクラブには入りません」
「なんで?あれだけ頑張っていたじゃない。この学校も地区大会では結構上位に居たわよね」
突然、玲子さんが立ち止まって振り返ると厳しい表情で
「明日香、後で理由は話します。もうそれ以上言わない様に」
「わ、分かったわ」
いったいどうしたの、そんなに厳しい顔をして。
私桐谷早苗。まさか立花さんが元の学校でテニスをしていたなんて。でもここで話を止めたのは正解。本宮さんが悲しそうな顔をしている。達也との関係を考えると複雑な気持ちだけど今は話す事ではない。
「玲子さん、四条院さん、学校に行こうか」
「そうですね達也さん」
私、四条院明日香。何かとんでもない事を私は言ったのかしら。単に玲子とまたテニスしたいなと思って話しただけなのに。
まあいいわ。後で理由を話してくれる。隣の本宮さんが悲しそうな顔になっている。何か彼女と関係があるのだろうか。
俺達は下駄箱で履き替えてから教室に入った。俺が自分の席に鞄を置くと横にいる早苗に
「早苗ちょっと良いか」
「えっ?うん」
俺は早苗を廊下に呼び出すと
「早苗不満かも知れないが涼子に話しかけてくれないか。さっき四条院さんが事情を知らないとは言え、涼子には随分な話の流れになった」
「意味は分かるけど…。私がするの?…達也そこまで本宮さんの事気にしなくても」
「早苗がしなければ俺がする」
「分かったわよ。これ貸一つだからね」
また随分懐かしい事を言ってくれる。
「分かった」
俺と早苗が教室に戻るとまだ涼子が下を向いて寂しそうな顔をしていた。
「本宮さん、どうしたの暗いよ。昨日数学の先生が言っていた宿題の部分、答え合わせしない」
「えっ?」
桐谷さんが理解出来ない事を言っている。普段というか、まずこんな事言う人で無いのに。さっき四条院さんが言った事で私が暗い顔していたから達也が頼んだのかな。
達也ありがとう。わざと達也の方は見ない様にして、前に座る桐谷さんと宿題の答え合わせをした。
「ねえ、あれなんか変だよね」
「うん、どうしたんだろう。でも本宮さん教室に入って来る時、暗かったし」
「うーん、分からない。でも数学の答え合わせだって。私もしたいな」
「ムリムリ、あの二人の答え合わせは内容が高すぎる。私達じゃ書いて有る内容理解出来ないよ」
「そだね」
私、桐谷早苗。雑音を無視してなるべく本宮さんに話しかける様にしながら数学の答え合わせをした。
解き方は違っていても答えは同じ。悔しいけど本宮さんの方が、上手く式を導いている。やはり考査で二位なのは意図的か全く。
朝の予鈴が鳴った。
「桐谷さんありがとう」
彼女の笑顔が戻った。良かった。達也に何して貰おうかな。
放課後になり、俺は図書担当の毎週の打合せの為、図書室に行こうとすると玲子さんが、
「達也さん、私と明日香は話したい事が有りますので、先にお帰り下さい」
「分かった」
それを聞いた後、俺は図書室に向かった。早苗と涼子は下駄箱で待つ予定だ。今日は二人で話すだろう。
「明日香、駅の喫茶店で話しましょうか」
「えっ、あっ、うん」
私四条院明日香。朝の会話何気なくしたつもりだけどなにか相当不味い事言ったみたいね。
私達は、老夫婦が経営する静かな喫茶店に入ると注文してから玲子が話始めた。
「明日香、女子テニス部の件なんだけど…」
私立花玲子は、達也と本宮さんの関係、白河修二という男が本宮さんにした事、それによって女子テニス部がどうなったか。
その結果当時の女子テニス部三年生、二年生が本宮さんにした事、それを知った三頭さんのお爺様が県教育委員会に指示を出し、結果として女子テニス部三年生、二年生は勿論の事、校長、教頭、女子テニス部顧問、学年担任及びクラス担任に下された処分等、全て明日香に話した。
明日香は始め、目を大きく開いて開いた口が塞がらないという顔をしていた。
「それで今女子テニスは同好会に格下げになったのか。同好会を認めてくれているだけいいわね」
「流石に全く何も知らない一年生からもテニスを取り上げる訳にはいかないという温情からよ」
「本宮さんに悪い事したな。心の古傷を言葉で殴ってしまった感じだね。でも私は何も知らなかったし。それに謝って済む事かな」
「明日香、取敢えず本宮さんには事情話して謝っておくのが礼儀ね」
「そうだね。でもそうか。この学校でテニス出来ないか。公式戦に出場して来ないからおかしいなとは思ったんだけど」
「とにかく今はどうにも出来ないわ」
「ねえ、玲子、明日の放課後、二人でテニス部見に行かない」
「えっ、どうして?」
「その女子テニス同好会を見てみたくてさ」
「明日香一人で行きなさい。私は行きません」
「じゃあ、達也に頼もう。一人じゃ嫌だから」
「明日香!」
明日香の我儘を許すと要らぬ方向に行く事を心配して達也さんも誘った所、桐谷さんも来ることになった。
本宮さんは男子テニス部との事も有り、行くのは止める事になった。
明日香の学校紹介も兼ねて翌日放課後、テニス部のコートに行くと男子テニス部員だけでなく近くの男子バレーボールの男の子達からも凄い注目を浴びてしまった。
明日香が、コートの隅で練習している二年生の女の子に話しかけた。
「ねえ、あなた達なんでコート使わないの?」
「私達は学校からクラブとして認められていないんです。だからコートを使えるのは男子部員が練習していない時間だけです」
「えっ、そうなの」
明日香は少し考えた後、私達の所にやって来て
「玲子、女子テニス部復活させよ。私テニスしたいから」
「「「ええーっ!」」」
俺だけでなく、玲子さん、早苗も驚いている。
おい、四条院さんまた凄い事言い始めたよこの人。
――――――
さて四条院さん、とんでもない事を言い始めましたが、どうなりますやら?
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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