第99話 GWはもうすぐです。でもその前に


 塾の申し込みを行った翌日曜日。


 私、桐谷早苗。昨日の達也との約束通り朝早く達也の家に来た。まだ午前六時だ。彼のお母さんがニコニコしながら早いわね。達也はまだ寝ているわ。行ってあげてと言って、家にあげてくれた。


私は彼の部屋にそっと入ると音がしない様にドアを閉めた。彼が寝ているベッドの側に行くと


「た・つ・や」

 ふふっ、声を掛けても起きない。それではと素早く洋服だけでなくあっちも脱ぐと彼の毛布の中にゆっくりと気が付かれない様に入った

 達也の毛布の中が暖かい。またくっ付いて少し寝よ。いや今日は…。



 うん?なんかいるのか。俺の頭はまだほとんど眠っている。そうか早苗か。まあいい。もう少し寝るか。


 それから三十分して。


 うん?なにか変だ。あっ!これって。

 俺は目を開けるととろんとした目で早苗が俺の体の上にいる。


「えっ?!」

「しっ!」

 早苗が俺の口を手で塞いだ。


「起きたのね。達也このまま、少しで良いからこのままにして」

「しかし…」


 うーん、気持ちいい。もう少しこのままで。でもちょっとだけ動いて…。


 早苗が自分の口を手で押さえている。仕方ない、早苗の腰に手を回してあげた。



「早苗、もう午前七時半だ。起きるぞ」

「うーん、もう少し寝かせて」

「駄目だ。起きろ」

「達也のケチ」


 毛布を思い切り開ける訳にはいかず、俺は早苗と反対側を向きながら

「早く着てくれ」

「いいじゃない。もう少しだけ」

「駄目だ」


 早苗が洋服を着て一階に降りると、俺も気持ちを落ち着かせてから洋服に着替えた。

「まったく、来るだけだと言ったのに」



 一階に降りて行くとダイニングで早苗が母さんと瞳が朝ごはんを食べている。早苗は手を付けていない。

「どうしたんだ早苗。母さん達と一緒に先に食べれば良いのに」

「達也、早苗ちゃんはあなたを待っていたのよ。さっ、早く椅子に座りなさい」

「ふふっ、早苗お姉ちゃん、もうお兄ちゃんのお嫁さんだね」


 早苗が顔を真っ赤にして

「瞳ちゃん、私はまだ…」

「あら、早苗ちゃん良いのよ。もう一緒に生活する?」

「えっ?」


「母さん、そういう冗談は言わない」

「あら、冗談じゃないけど」

「もう、早苗ご飯盛っておいて」

「ほら、早苗ちゃん、達也のお嫁さんじゃない」


 早苗がジャーの中にしゃもじを落とした。



 朝食後、少し話をしてから早苗を家に帰して俺と瞳は爺ちゃんの道場に行った。

途中、


「瞳、南部って子はどうしている?」

「別に、あの子普通に良い子よ。いま男子テニス部のクラブ勧誘に一生懸命。笠井先輩がいきなりいなくなってしまったから、あの子が代理で部長している」

「そうか」

 人間的には良い子なんだな。涼子駄目なのかな。涼香ちゃんでも良いんだろうけど。


「お兄ちゃん。本宮姉妹は南部君の彼女になるのは無理よ。他の部員のメンタル面での障害が大きすぎる」

「そうか」

 やっぱり無理か。しかし最近瞳も精神面で高校二年生って感じだな。俺としては嬉しい事だが。


「お兄ちゃん。なにニヤニヤしているの?」

「いや、瞳も大きくなったなと思ってさ」

「前にも言ったでしょ。お兄ちゃんとは一つ違いなだけよ」

「そうか、そうだな」

 しっかりと高校二年生だ。


 爺ちゃんの所で稽古をした。最近集中できている。良い事だ。


 稽古が終わりシャワーを浴びた後、昼食を摂らずに加奈子さんの家のある駅に行った。しっかりと二十分前だ。


 例によって十分前に駅前の交差点に加奈子さんが現れた。爽やかなワンピースだ。今日も思い切り注目を浴びている。


「達也、待ったあ?」

「いつも通りです」

「ふふっ、いつも通りね。さっ、行こうか」





「ねえ達也、塾の件はどうなった?」

 俺は昨日の塾の申し込みの件を話した。


「そう、じゃあ五人で行くのね。でも四条院さんが転校するとは思わなかったな。今更感は有るけどね」

「どういう意味ですか?」


「四条院家については、達也も歴史では知っているだろうから説明はしないけど、今は往時の勢いはない。

 でも家柄はしっかりしているから今でも企業をそれなりに持っている。彼女の兄はしっかりした人間だから問題ない。多分立石産業と関係を持てばより強力になると思っていたのかしら?でも今ではもう遅すぎる。なんで達也を?」

「いや、待って下さい。別に四条院さんは俺が目的とは限らないでしょう。玲子さんから話しは聞いて知っているはずだし」

「…損得無く動くとも思えないけどな。分かったわ。もうその話は止めましょう。それより達也…」


 ふふふっ、上手く皆で塾に行く事になった。塾に行けば私のいる大学なんて問題ない。達也以外が入って来ても関係ない。

 それよりもこれで桐谷さんと達也が二人きりになれる時間が少なくなる。良い事だわ。



………………。


 ふふっ、気持ちいい。一週間に一度だけだけど、達也とは毎週会えるから我慢出来る。今日も一杯して貰おう。





 まだ、達也の腕の中。そうだ。

「達也、GWの予定は?」

「まだ何も」

「そう、今年は七連休よ。全部とは言わないけれど、二泊三日でどこかに行こうか」

「えっ、でも確か塾で特別講習とかがあった様な」

「全日ではないはずよ。それを除いた日にすればいい。ねっ、いいでしょう」

「分かりました」

 ふふっ、これでGWも達也と一緒。




 俺はいつもの様に家のある最寄り駅まで加奈子さんの家の車で送って貰った後、歩いて家に戻った。


「ただいま」


タタタッ。


「お帰りお兄ちゃん。うんっ?」


じーっ。クンクン。


「お兄ちゃんのエッチ」


タタタッ。


「お母さーん。お兄ちゃんが加奈子お姉ちゃんの匂い一杯付けて帰って来た」

 おい、瞳。もう高校二年生じゃ無いのかよ。



 俺は手洗いとうがいをしてからダイニングに行くと母さんがニコニコしながらテーブルに座っていた。

 その顔で見られながら夕食をするのも精神的にきついので、急いで食べ終わると自分の部屋に戻った。まだ風呂には入っていない。


 ブルル。


 スマホの画面を見ると早苗からだ。直ぐに画面をスクロールすると


「達也、私。今帰って来たの?」

「いや、夕飯を食べ終わったところだ」

「そう、ねえ今から行っていい?」

「えっ?」

 俺は風呂に入っていない。シャワーは浴びて来ているけど。瞳の事もある。このままでは不味い。


「早苗、三十分後でいいか」

「今すぐが良い。何か不都合があるの?」

「いや、そのだな…」

「今すぐ行く」

 あっ、早苗が電話切った。



コンコン。


 早い。一分も経っていない。


ガチャ。


「達也」

「うぉっ」

 早苗が床に座っている俺に飛び込んで来た。


「早苗…」

「私、達也の彼女だよね。そうだよね」

「ああ、何を今更」

「…達也、塾に皆で行く事になった。ますます二人で会える時間が少なくなっている。日曜日は三頭さんの所。

 ねえおかしいよ。私彼女だよ。もっと達也と二人で会いたいよ。買い物したり、映画見たり、散歩したり、あれもしたり、ねえ二人で居たいよ」


「早苗…」

「達也、今日も三頭さんと会って来たんでしょ。その後でいい。私と一緒に居て。寝るまでとは言わない。二時間でもいい。一時間でもいい。達也とこうして居たい」


「…そうだな。早苗の言う通りだな。時間を作るよ」

「うん、ねえ朝の続きしよ。声出さなくて出来たでしょ」

「…………」


――――――


 四条院家についてはあくまで小説の上での話とご理解ください。現在の四条家とは全く関係ありません。

 うーん、正妻と内縁の妻の戦い。まだまだ続きそうです。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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