第98話 達也の塾問題その二


 俺は塾の事を母さんに相談したら、俺が塾に行くなんて思ってもいなかったみたいで、喜んでOKを貰った。俺いや俺達は早速土曜日図書室を閉めた後、その足で全国展開をしている可愛い塾(かわいじゅく)へ行く事にした。ここは学校のある駅の直ぐ側にあるビルの中に入っている。


 勝手が良く分からないが、とにかく入り口を入って受付に行って入塾したいと申し出ると

「すみませんが四月からの入塾受付は、三月末で終わっています。後はGWの短期講習の時に入る事が出来ます」

「そうですか。分かりました」


 俺が皆に目配せして仕方なく帰ろうとすると玲子さんが、

「あなた、ここの塾長を呼んで下さる」

「えっ、何か塾長にお約束でも」


 そう言った後に今度は四条院さんが、

「お姉さん、明日もここに勤めていたいなら直ぐに呼んできなさい!」

「ひっ!はっ、はい」


「明日香!」

「いいじゃない。ここは玲子の…もごもご」

 玲子さんがいきなり四条院さんの口を塞いだ。


「余分な事は言わない」


 少ししてから塾長にしては少し若そうな男の人がやって来て

「私に用事があると言われた方は?」


「あなたが塾長ですか。今ここにいる立石さん、四条院さん、桐谷さん、本宮さんそして私立花玲子が今日入塾の申し込みに来たのですけど、そちらの女性から拒否されまして」


 その塾長は何か考えている様な様子だったが、いきなり目を大きく開けると

「し、失礼しました。立花様。す、直ぐに手続きをさせて頂きます。おい、君早く申込用紙を。早く!」

「はっ、はい」


 どうなってんだ、これ?


 私桐谷早苗。やられたわ。ここは多分立花さんの会社と関係ある塾。でも場所が良いから仕方ないけど。それにしても立花さん。これで余計なマウント取ろうなんて思ってないわよね。


 俺達が、入塾申し込み書を書き終えると

「立花様、一応決まりとして入塾テストがあります。これは落とすとかではなくて、個人個人の学力に合った教育を行う為のものでして。もし宜しければ、今から五十分程で終わるのですが如何しますか?」


「皆さん構いませんか?」

玲子さんが振り向いて俺達の方を見ると、全員が頷いた。


「それではお願いします」



 俺達は五人が座るには十分な広さの教室に入らされて、机の端端に座って入塾テストを行った。それが終わると


「十五分程で結果が分かりますので、お待ちください」

そう言われてその場で待った。


「ふふっ、達也さん良かったですね」

「ああ、玲子さんのお陰だよ」

「ちょっと、立花さんどういう事?」

「桐谷さん、何の事でしょう?」

「さっきの塾長の態度よ」


「ああ、あれは皆さんがお綺麗だからではないですか」

「馬鹿にしているの?」

「ふふっ、そんな事良いではないですか」


 例によって早苗と玲子さんがやり取りしていると塾長と先ほどの受付の女性が入って来た。受付の女性は驚きの顔を隠せないでいる。


「立花様、皆様。本当に塾にお入りになるのですか?」

「塾長どうしたのですか?」

「いえ、言いにくいのですが、立石様を除いて全員満点で…。この学力なら必要ないかと。決してこの塾の入塾テストが易しい訳ではありません。多分近隣の塾からすると難しい筈なのですが…」


「ふふっ、そんな事ご心配しなくても良い事です。それより立石さんの結果はどうだったのですか?」

「あの立石様も成績は良くて全体としては八十パーセントの正解率です。私学ではこれで良いと思いますが、国立トップを目指すならもう少し我が塾で成績を向上させた方が安心かと」


「そうですか。それでは決まりですね。達也さん、入塾で宜しいですか。私以外の方はご自由に」

 玲子さん何で早苗が怒る様な言い方をするの?


「入るに決まっているでしょう。達也とあなただけなんてありえないわ」

「明日香、本宮さん宜しいですか」

「いいわよ玲子」

「立花さん、私もお願いします」


「それでは塾長、ここに居る方全員の入塾手続きをお願いします。塾長良かったですね。来年はこの塾から五人も帝都大に入ります。良い宣伝になりますよ」

「は、はい。ありがとうございます」


 おい、俺は返事していないぞ。



 俺達が別室から出て受付フロアに行くと


「おおっ、なんなんだ」

「今日はこの塾の撮影でも有るのか。凄い美人、カワイ子ちゃん揃いじゃないか」

「いやまて、強面ゴリラが一人いる」

「そっか」


 いつもの事だけど…。酷い良い様だな。あっ、四条院さんが反応した。

「ちょっと、待ちなさいよ。何今の言い方。達也がゴリラだって!」

「何だよお前は?」


 あっ、不味い。


 俺は直ぐに男の子達の前に行くとじっと二人の顔を見つめた。

「ひっ!」

「ご、ごめんなさい」

 急ぎ足で受付フロアを出て行った。個人的には少しショックなんだけど。


 その後、塾方針や出席の方法などを聞いて塾を出た。


 俺達が去った後、


 受付嬢曰く

「塾長、世の中不公平です。あんなに美人でスタイルが良くて頭が良くて、その上お金持ち。塾長!世の中不公平です!」

 塾長曰く

「俺もそう思う、あんなくそゴリラ野郎がなんであれだけの美少女を連れているんだ。世の中不公平だ!」


「あの、あの人立石産業の跡取りらしいですけど」

「えっ!」

「塾長、私達は私達の平和を望みましょう」

「そ、そうだな」




 そんな事を言われているとは露知らず、俺達は駅の改札で駅の裏のロータリーに車を待たせている四条院さんにさよならを言った後、彼女が一人で帰るかと思ったら


「ねえ玲子。玲子のマンション、部屋空いていない。あそこ玲子の所の不動産部門のマンションでしょ」

「な、何を言っているの明日香?」

「だってえ、私だけ、みんなと別れるなんて…」

「駄目です。入らせません。家から通いなさい」

「あっ、達也の家大きいわよね。一部屋空いていない?」

「明日香!帰りなさい」

「はーい」


 四条院さんのちょっとがっかりした後姿を見送りながら

「まったく明日香ったら、何てこと言うんでしょ」

「でも立花さん、人の事言えないでしょ」

「桐谷さんはこれ以上達也さんの傍に女性が増えていいんですか?」

「駄目に決まっているでしょ。立花さんだって…」

「早苗もう止めろ!」

 全くこの二人は。ちょっと隙を見せると。涼子が何故かニコニコしている。


 俺と早苗と玲子さんそれに涼子は電車に乗り、涼子が降りる駅に着くと

「達也、月曜日ね」

 とても柔らかい微笑みをたたえながら降りて行った。周りの男達が目を丸くしている。


「な、なに。あの笑顔?」

「早苗、落着け!」


 やがて、玲子さんとマンションの前で別れて早苗と二人になると

「達也、なんか面白くない。ねえ私、達也の彼女だよね」

「早苗、それは皆が認めている。落着け」

「でもーっ、なんか立花さんといい、本宮さんといい、更に変なのまで出て来て…。達也、私不安でしょうがないよ。

 ねえ、明日の朝、達也の部屋に行っていい?本当は今日が良いけど、もう午後六時回っているし」


「来るのはいいが、それだけだぞ」

「分かっている」



 塾は月火水の午後五時からの二時間と土曜日の三時間のコースで受ける事に決まったけど、俺大丈夫なんだろうか。玲子さん凄い事言っていたけど。

 でもまさか五人で加奈子さんのいる大学に行くなんてあり得ないよな。おれ絶対他一校受けとこ。


――――――


 女の子達の精神戦が続きます。

頑張れ達也!

塾長と受付嬢の会話はお気にせずに。あとどこかで聞いた塾名が出て来ましたが、何も関係ありませんから。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る