第94話 映画を見るだけでは終わらない


 俺立石達也は、まだ春休みが始まって三日目の月曜日、デパートのある駅の改札にいた。約束の午前十一時にはまだ時間が有る。


 朝早く早苗が来て、昨日電話で話した事を再度念を押されたが、彼女の性格からして仕方ない事だと割り切っている。

でも高校だけじゃなく、大学卒業までこれが続くと思うと嬉しいのやら何なのやら分からい気分だ。まあ焼き餅焼きなのは嬉しいか。


 そんな事を思っていると午前十一時まで十分前、玲子さんがエスカレータで降りて来た。直ぐ後ろに沖田さんがいる。


 エスカレータを降りた後、俺を見つけた玲子さんは、沖田さんに一言二言話すと沖田さんが玲子さんに一礼して、登りエスカレータに乗って行った。


 俺の視線を外さずに玲子さんが改札を出る。

「達也さん、おはようございます」

「おはよう玲子さん」


「お腹は空いていますか。午前十一時半に予約入れてあります。映画は午後一時半からなのでその位からで良いかと」

「済みません。予約までして貰って」

「ふふっ、全然構いません。やっと達也さんと昼食を二人だけで摂れるのですから」


 俺達は、三十分程デパートの中をウィンドーショッピングした後、隣のSCに入っているイタリアンレストランに入った。


 私立花玲子。今日は久しぶりに本当に久しぶりに達也さんと二人きり。駅で注意して周りを見たけど桐谷さんが後をつけて来るような事は無かったです。


もし付けて来てもここで巻く予定でしたから。ここは入口の他にもう一つ出口がある。そこから出て行けば彼女は分からない。映画館でも同じ事。

今日は二人だけで楽しみたいと思います。



 ゆっくりとした昼食も摂り終わると午後一時を少し過ぎた所だ。

「達也さん、そろそろ映画館に行きましょう」

「そうですね」



 適度にお腹が満たされている。会話をしながら良く噛んで食べると体に良い。ここから映画館までは一度一階に降りて駅の改札の前を通って映画館のある方に向かう。時間もあるのでエスカレータで各フロアを見ながら一階に降りた。


 信号が青になるのを待って交差点を渡り、駅の改札を横に見ながら反対方向の出口に歩いて行く。





 うんっ、全く。あれで変装しているつもりか。俺の大切な女の子がサングラスに帽子、スプリングコートに身を包んで改札の近くに立っている。

 あっ、こっちに近付いて…。立ち止まった。どうやら声を掛ける気はないらしい。仕方ないそのままにしておくか。




 私桐谷早苗。やっぱり達也と立花さんの事が気になって達也の後を付けて行こうとしたけど、私の尾行では簡単に分かってしまう。

 少し時間をずらせてデパートのある駅に行って、達也の電話番号をタップしてと…。


 ふふふっ、達也はSCの中に入ったらしい。でも階まで特定できる機能をこのアプリには無い。仕方なく〇ックでおさかなのハンバーグとポテチを食べながら達也が動くのを待った。

 一時間半位して達也たちが動き始めたのだが分かる。あっ、こっちに移動して来た。駅の改札の方に向っている。まさか電車に乗るの?


 私は〇ックを出ると直ぐに二人に分からない様に改札の側で達也達を待った。来た来た。手は繋いでいない様ね。

あれっ、電車の乗らない。そうか映画館か公園だ。ならばと私も移動する事にした。


 あっ、やっぱり映画館か。何見るんだろう。遠目で見ているとチケット発券機でそのまま中に入った。


 えっ、立花さんが達也の腕に思い切り抱き着いている。達也が放そうとしているけど彼女がしっかりと掴んでいる。もーっ、あの女。私が居ないからって。達也早く離れてよ。


 でもどうしようかな。仕方ない。このアプリが有るからそれまでデパートでも行ってみよ。




 私立花玲子。ふふふっ、やっぱりいましたか。それでは彼女が入れないゲートをくぐったら


 ぎゅっ。思い切り達也さんの腕に絡みついて…。


「れ、玲子さんいきなり何を」

「いいじゃないですか。偶に偶に会えたのです。この位」

「で、でも…」

「少しだけです」


 ふふふっ、桐谷さん、焼き餅焼きました?



 私、桐谷早苗。立花さんの行動に意図的な感じを受けながらも全くあの女。達也にもっと厳しく言っておかないと。まあとにかく時間を潰さないと。デパートを見て喫茶店にでも後で入ろ。




二時間後


 あっ、達也達が動いた。駅の方に向って来る。急いで駅の改札が少し見える所で待った。




「お嬢さん一人?」

「えっ?」

 いきなり帽子を取られた。


「可愛い顔しているじゃないか。俺達と遊ぼうよ」

「そうだぜ。俺達お金持っているし。みんなで楽しい思いしようよ」

「や、止めて下さい」

「そう言わないでさ」


 腕を掴まれた。離そうとしたが全然取れない。力が違い過ぎた。

「こっちにこいよ」

「助けてー!」

「誰も来無いって。車用意しているから」

「えっ、やだ。たつやー!助けてー!」



 俺立石達也。玲子さんと映画を見終わり、玲子さんの自宅マンションに行く事になった。駅の改札に向かうと

「えっ、やだ。たつやー!助けてー!」

「えっ?」


 声の方を向くと早苗が茶髪のチャラ男二人に車に引き込まれそうになっている。



「ごめん、玲子さん」


 車まで五十メートル。人はいるけど、全力で走った。


 一人が運転席に座り、もう一人の男が早苗を車に押し込んで自分も乗り込もうとしている所を


 ガシッ、ボカッ。ドカッ。

 男が気絶した。


「早苗降りろ」

俺は彼女の腕を掴んで強引に車から引き釣り出した。そして運転席の男を後ろから首を押さえて


 ガクッ。

 失神した。




 早苗が思い切り俺に抱き着いて来た。

「うううっ、たつやー。怖かったよう。怖かったよう」

早苗の足が震えている。


 早苗をしっかり抱きかかえると

「どうしたんだ。こんなところで?」

「ううっ、ごめん…。ごめんなさい」


 玲子さんが近づいて来て、早苗を見て呆れた顔をしている。

「達也さん、予定外の事になりましたね。どうしますか。この二人?」



 パトカーのサイレンの音が聞こえた。誰かが警察を呼んだようだ。

 それから警官に事情を聴かれた。いつの間にかパトカーが三台にもなって周りが人だかりの山だ。


 結局、早苗と俺は警察署に連れて行かれ事情聴取をされた。玲子さんは、一人で返す訳にもいかず仕方なく一緒に来て貰った。


ここの警察署は涼子の時にも来ている。署の中に涼子の時の事を覚えていた警官がいて、今回も早苗を助けたという事で随分優しく対応してくれた。


 解放されたのは、二時間後。

「すみません。玲子さん。こんな事になってしまって」

「…本当ですと言いたいところですが、仕方ありません。もう起こった事ですから」

「立花さん、ごめんなさい。本当にごめんなさい」

 早苗が玲子さんに頭をペコペコしながら謝っている。



「桐谷さんのお気持ち良く分かりますけど、今回はやりすぎでは。思い切り反省して下さい。それと今日のせっかくの達也さんとの楽しみが中途半端になってしまいました。

 桐谷さん、今日は映画を見終わった後、達也さんと私で楽しい会話の時間を過ごすつもりでしたが、もう出来なくなりました。

 明日、再度達也さんと会います。宜しいですよね。達也さんも」


「えっ…」

 駄目に決まっているのに。でもこんなことになってしまって。


「分かりました。達也と明日会っても良いです」


「おい、早苗。玲子さん、確かに中途半端になってしまいましたが、明日は断ります。また今度にしましょう」


「えっ、でも。私だって達也さんと…」

「今度にしましょう」

 彼がまじめな顔で言って来ている。仕方ないです。


「分かりました達也さん、でも今度は本当に二人きりで一日会って下さいね」

「…考えておきます」




 それから俺は玲子さんをマンションまで送って行き、早苗と一緒に帰路についた。

「ごめんなさい達也」

「もういい。昨日言っただろうが」

「でも、心配で」

「まったく、もしあの時俺が居なかったらどうするんだよ。もう絶対するなよ」

「ごめん」


 もう家の近くだ。

「ねえ達也、なんで立花さんと明日会うの断ったの。私責任あるから仕方ないと思ったのに」

「早苗、お前がこんな状態で玲子さんと会っているなんて出来る訳無いだろう。…それにお前と明日一日居るって約束した」

「あっ…」

「忘れたなら会わないぞ」

「だめ、だめ絶対駄目。会う、会うの。朝から会うの」


「もう家の前だ。じゃあ明日な。それとベッドの中に入り込んで来るなよ」

「分かった。ねえ達也」


 早苗が目を閉じた。まだ暗いからいいか。



「じゃあな」

「うん、達也今日はありがとう」


 早苗の姿が玄関の中に消えてから俺は家の中に入った。


「ただいま」


タタタッ。


「お帰りお兄ちゃん」


 じーっ。


「ふふふっ、いいわよ、そのリップの色なら」


タタタッ。


「お母さーん。お兄ちゃんが早苗お姉ちゃんのリップ一杯唇に付けて来た」


 はあーっ、参ったな。もう言わなくなったんじゃあなかったっけ?


――――――


 達也ちょっとだけ男だね。いつもより。でも早苗を襲った二人ちょっと気になります。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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