第91話 春休みはもうすぐその三


 中々春休みに入れません。


――――――


 水曜日の夜に涼子と話した南部和人という子がどんな子か瞳に聞くと妹曰く

 ごく普通の男の子、悪い噂も聞かない、友達に対する態度は優しく、勉強も上の方、テニス部に所属している明るい子だそうだ。ちなみに女の子にも人気があるそうだが、告白は断っているらしい。


 それを聞いて、俺はこの子なら涼子に良いんじゃないかと思ったが、妹曰く

南部君はテニス部。涼子さんと付き合ったとしても過去の事が有るから難しいのではないかという事だ。


 確かに女子テニス部を廃部に追い込んだのは、女子テニス部員だが、もし南部和人が被害者とは言えそのきっかけを作った涼子と付き合うとなると何らかの不祥事が起きるリスクは高い。


 この事を涼子にそのまま伝えた所、結局、登校はいつもと同じ一緒だけど帰りは出来る限り一緒に帰りたい。

南部から声を掛けられたら一緒に来て欲しいと言われた。流石に一緒に行くのは無理だが、なるべく近くで見るという事で収まった。


 しかし、困ったものだ。これをまた早苗と玲子さんに教えておかないと要らぬ誤解を生む。特に早苗は焼き餅焼きだ。これを話すだけでもブーブーだろうな。仕方ない。



 今日は金曜日。明日は土曜だが授業は無い。来週が終われば春休みだ。俺は図書室で受付を担当している。

 何故か涼香ちゃんがやって来た。今日は担当じゃないのに?


「立石先輩。お話したい事があります。今日図書室閉めたらお話できませんか?」


 図書室で俺と一緒に帰る予定の早苗、玲子さんそして涼子を見ると

早苗は不機嫌で、玲子さんは平静、涼子はなんで?という顔をしている。でも仕方ない。


「良いけど、二人だけにはなれないよ」

「えーっと、では明日の午前中空いています?明日は休みですよね」


 またちらっと三人を見ると表情は変わっていない。困ったな。俺が考えていると


「分かりました。では立石先輩以外の人が居ても良いです。ここで待っています」

「あ、ああ」


 もう再来週から春休みに入るから本の貸出を希望する人もいない。いるのはここで本を読んだり勉強したりしている常連さんだ。後あの四人も…。





 予鈴が鳴った。常連さん達が図書室を出て行く。俺は締め処理をして図書室全体を軽く見て汚れやごみが落ちてないか確認した。…あれ何でみんな残っているの?


「みんな図書室閉めるから出て。下駄箱で待っていればいいから」

「分かった」

「分かりました」

「うん」

「はい」

 全く四者四様の返事だな。


 俺は図書室の鍵を閉めてから職員室へ鍵を返しに行くと桃坂先生が寄って来た。


「立石君、お疲れ様」

「あっ、はい」

「来年の図書室担当なんだけど、君が二学期で終わるから何とか新しい子を入れないといけないね。誰か良い子いたら紹介して」

「はあ」

 なんで先生を俺に聞くんだ。


 桃坂先生はそのまま自分の席に戻った。なんなんだ?


 急いで下駄箱に行くとしっかりと四人が視線を合わせずに待っていた。話位出来ないものなのかな?


「立石先輩。待っていました」

「ああ、涼香ちゃん。ちょっと待って靴履いたら行こうか」

「はい」


 早苗が不服顔だ。涼子は妹の行動が分からないという顔をしている。玲子さんは平静だ。


 門の方に歩きながら

「立石先輩。先輩は桐谷さんという彼女がいる事はもう学校中が知っています」

「えっ、そうなの?」

「立石先輩は有名ですから」

「…………」


「それが分かっている上で言います。私は二学期の初めに先輩に告白しています。でも返事は貰っていません。だからはっきり言います。私を二番目の彼女にして下さい」

「「「えーっ!!!」」」


 おい、何て事言うんだ。


「ちょっと涼香。何言っているの」

「お姉ちゃんには関係ない。先輩とは友達なだけでしょ」」


「涼香ちゃん。私はそれ許さない。駄目よ絶対に!」

「桐谷先輩は正彼女だから良いじゃないですか。私は二番目で良いと言っているんです」


「涼香さん。やはりその意見は強引すぎますよ。今の先輩後輩ではいけないのですか?」

「立花先輩だって立石先輩を狙っているじゃないですか。お友達と言う顔して」

「えっ、それは…」


 凄いよこの子。この三人を相手に言い負けしていない。いや、勝っているか。


「達也、何とか言ってよ。嫌よ二番目の彼女なんて。ふざけないで!」

「桐谷先輩、ふざけていません。真面目に話をしています。桐谷先輩が立石先輩と一週間会うならその内の一日だけ立石先輩を私と会わせて下さい。




 私立花玲子。驚きました。本宮さんの妹さん。中々はっきりしています。明日香ではないですが、ここでは混乱を求めましょう。その隙に…という考えも有ります。でも私と会う時間が少なくなります。困ったものです。




「涼香ちゃん。気持ちは十分分かった。でも俺は早苗という大切な彼女がいる。君の気持ちを受ける事は出来ない」

「えっ、でも、でも。じゃあ、じゃあ友達なら…」

「そうだな。友達ならいいよ。図書室担当の事もある。友達でいようか」

「はい!」


 ふふっ、別に私は二番目の彼女になりたいわけじゃない。立石先輩に触れるのをこの三人に分からせる為に言っただけ。


 おっ、いきなり手を握って来た。

「じゃあ、立石先輩。手を握って約束しましょ!」


「ちょっと待ちなさい」

「良いじゃない。お姉ちゃんはもっと立石先輩と体くっ付けていたんでしょ」

「何ですって!」


「ふふっ、立石先輩。今日はありがとうございました。私は一人で帰ります。じゃあまた」



 涼香ちゃんが一人走って駅に向かって言ってしまった。なんなんだあの子?


「達也、手出して」

「えっ?」


「達也さん手を出して下さい」

「えっ?」


 何故か右手は早苗に左手は玲子さんに彼女達の二つの手でぎゅっと握られた。


「達也、帰ろ。もう頭に来た。なんなのよあの子」

「達也さん、帰りましょうか」

「達也、ごめんなさい」

「そうよ、あなたが悪いんだわ」


「早苗!涼子は悪くない。口を慎め」

「でもーっ」

「気持は分からないでもないが、涼子は何も悪くない。それに涼香ちゃんとは今までだって友達と同じだっただろ。早苗も玲子さんも」

「分かっているけどー」


 はぁ、涼香ちゃんどういうつもりだよ。この三人の前であんな事言ったら怒らすだけじゃないか。




 次の一週間は、まるで今日の事が無かった様に過ごした。ただ水曜の昼休み花壇に涼香ちゃんと一緒に水やりをしているとやたら体を触れて来ていたけど。


 涼子は南部和人から接触は無かったそうだ。クラブが忙しいのだろうか。いずれにしろ良い事だ。


 さて来週から春休み。静かに過ごしたいものだけど。


――――――


 達也、私も思っています。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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