第87話 学年末考査が近くなりました
学期末考査が後二週間に迫った。手を抜く訳にはいかない。しかし、また勉強会とやらで揉めるのかな。出来れば俺一人でやりたいものだけど。
二月も半ばになり相当に寒い時期だが、例によって早苗が門の側で待っている。手には鞄とバッグ。そうか今週は早苗がお弁当を作る週だ。
ほとんど出かける時間は決まっているのでそんなには待っていないはずだが、それでも吐く息は白く気温が低い事が分かる。
「達也おはよ」
「おはよ早苗」
さっと彼女の左手が俺の右手を掴む。さっと俺はコートのポケットにその二つの手を入れると早苗が恋人握りして来た。
「ふふっ、暖かいね」
「そうだな。そのバッグ俺が持つよ」
「ううん、これは私が持って行く。鞄持ってくれると嬉しい」
「分かった」
少し歩くと早苗が俺の腕に寄りかかりながら
「達也もうすぐ学年末考査だね。二人で勉強しよう」
やっぱり言って来たか。
「そうだな」
「ねえ、もう本宮さんや立花さんとは二人だけで勉強しないでね。達也と私は恋人同士なんだから他の人(女性)と二人だけは無しだよ」
ポケットで繋いでいる手をぎゅっと握って来た。
「ああ、それはしないよ」
駅の改札が見えて来た。玲子さんが笑顔で待っている。
「達也さん、桐谷さんおはようございます」
「おはよ玲子さん」
「おはようございます立花さん」
三人で改札に入ると
「達也さん、もうすぐ学年末考査です。この成績で三年次のクラス分けもあります。また一緒に勉強会をしましょう。
もちろん、達也さんには桐谷さんという恋人がいますけど、私も達也さんの友達です。ですから二人だけで行いたいでしょうけど私を入れて三人で行う日も作って下さいね」
そう来たか。なぜか早苗がまたポケットの中の手をぎゅっと握って来た。
「達也、私は玲子さんと一緒に勉強会するのはいやよ。達也と二人だけでする」
「そんな…」
玲子さんが思い切り悲しい顔をしている。彼女には悪いが、この辺は、もうはっきりとしておいた方がいい。
「玲子さん今回は早苗と二人でやります」
「えっ、でも…」
「玲子さん今回はそうします」
ふふっ、達也それでいいのよ。立花さんもうあなたが入り込む余地はないわ。
二つ隣駅で涼子が乗って来た。
私本宮涼子。いつもの車両に乗ると、あれっ立花さんが悲しそうな顔をしている。どうしたんだろう。まあいいわ。私には関係ない。いつもの様に桐谷さんの隣に立った。
俺立石達也。立花さんが悲しそうな顔をして改札を出た。流石にさっきは言い過ぎたのだろうか。
早苗とは毎日でも出来る。だから日曜位良いんじゃないか。加奈子さんには学年末考査を理由に会わなければ良いはずだし。
玲子さん、教室についても俺に話しかけてこない。いつもなら少しだが俺の方を向いて話してくるのに。
「ねえねえ、あれどういう事?立花さんのあんな顔見た事無い」
「さあ、何か有ったのかしら?」
「立石君の周りってほんと落着かないわよね」
「なんか最近立石君の好感度下がっちゃった」
「そだね」
雑音は無視する事にした。
午前中の授業が終わり昼休みになった。早苗が俺の席に近付いてくる。
「達也お昼食べよ」
「ああ、そうするか」
あれ、玲子さんこっちを向かない。先週までのメンタルの強さどこ行ったんだ?
「玲子さん、お昼一緒に食べましょう」
こっちを振り向くと
「はい、ありがとうございます」
登校時より少しだけ明るい顔をしている。良かった。
今週一週間は早苗が作ったお弁当だ。玲子さんは自分の分だけをこちらに向いて食べている。早苗はくっつけた隣の席と俺の席にお弁当を広げた。
「達也、全部私が作ったんだよ。食べよ」
おかずとご飯が別れている。おかずは出汁巻卵、鶏唐揚げ、蛸さんウィンナー。箸休め、胡麻和えのきんぴら、レタスの上には肉団子とかぼちゃの柔らか煮が乗っていた。
「凄いな、作るの大変だっただろう?」
「ううん全然、夜の内に下ごしらえしておいたから」
「そうか、じゃあ頂きます」
桐谷さん、それなりの形にはしているわね。でも味はどうなんだろう。
「立花さんも如何ですか」
「いえ、悪いですから」
「そんなことないですよ。むしろ立花さんに食べて欲しいです」
「そうですか。では」
私は胡麻和えのきんぴらを少しだけ取った。甘すぎず、胡麻の風味とごぼうの味が上手く合わさってしっかりと出している。確かに基本は出来ているけど…。
「いかが?」
「桐谷さんとても美味しいです。お料理お上手ですね」
「ありがとうございます」
なんか、口先だけだな。達也は美味しそうに食べているけど、後で味聞いてみよ。
俺立石達也。早苗の作ったお弁当はどれも美味しい。人と比較するのは良くないけど、食べ終わった後の口に残る満足感が少しだけど玲子さんの方が良い感じがする。でも今日が初めてだからな。
午後の授業も終わり、図書室担当の打合せも終わると下駄箱に行った。玲子さんと早苗が待っている。そう言えば最近涼子がいない。良い人でも出来たのかな。そうであれば嬉しいのだけど。
玲子さんと彼女のマンションの前で別れて早苗と二人になった。
「なあ、早苗。朝勉強会二人だけでやるって言ったけどまだ二週間ある。お前とは毎日出来るから日曜日位玲子さんと一緒でも良いんじゃないか」
「えっ?!何言っているの。二人だけでやるって言ったじゃない」
「でも一週間に一日位いいだろう。早苗は俺の彼女だけど玲子さんは俺の大切な友達だ。三人でやる日が一日位有っても良いんじゃないか」
「…それはそうだけど」
「なっ、早苗頼むから」
なんで達也はあんな女の為に。でも三人でやって達也と二人が恋人同士だって事を思い切り見せつけてやれば、今日以上にダメージが有るかもしれない。得は有っても損はないわね。
「分かったわ。でも週一回だけよ」
「早苗、聞き入れてくれて嬉しいよ」
早苗には彼女になった後の他の人との免疫を少しでも付けさせないと。
「達也、今日勉強は何処でやる?」
「何処でも良いけど?」
「じゃあ、私の部屋」
「分かった」
ふふふっ、勉強会のお陰で達也と一緒に居る時間がいっぱいできる。
俺は、早苗と一緒に勉強した後、午後六時には家に帰った。早苗が変な事を言い始めたが考査が終わるまでは絶対に無しと強く言っておいた。
食事が終わった後、風呂に入り終わった午後十時。少し遅いが玲子さんに連絡を入れた。
ブルル。
誰かしら?あっ達也さんだ。
『はい、玲子です』
『立石です。勉強会の件なんですけど。日曜日だけは三人でやる事にしました』
『えっ?!でも桐谷さんが』
『あいつにはしっかりと言い聞かせています。立花さんは俺の大事な友達だから週に一回位一緒に勉強しても良いだろうって』
『そうですか…。玲子嬉しいです。やはり達也さんはお優しい。場所は?』
『それは明日の登校時にでも三人で話しましょう』
『分かりました。達也さん、少しお話できますか?』
『別に良いですけど』
結局その後三十分位、達也さんと話すことが出来た。電話は切った後も私は嬉しくて堪らなかった。
やはり達也さんは私の事もしっかり思っていてくれる。お弁当の味、達也さんの顔を見ればどちらが美味しかったなんて直ぐに分かります。
桐谷さんにはもう少し油断しておいて貰いましょう。ふふふっ。
――――――
うーん、女性の心は難しすぎて……。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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