第86話 バレンタインデーはドラマが有る


 俺達が学校に近付くと周りの生徒が驚いた顔をしていた。まあ仕方ない。


 俺と早苗が手を繋いだまま教室に入ると


「「「えっ?」」」


「なあ、立石の奴、桐谷さんとより戻したのかな?」

「何かそんな感じだな。俺桐谷さんを…」

「おい、声大きいって」

「残念だ」


「あれ、桐谷さん、立石君ともう戻ったのかな?」

「そう見たいね」

「あーあ。もう少し面白い事見たかったなあ」

「あっ、桐谷さんがこっちに来る」


「残念ながらもう見れませんよ。絶対に!」

「「…………」」


 早苗、もう少し落着いて欲しいよ。


健司が俺の所に来た。玲子さんも居る側で

「達也ちょっと」

 俺達は廊下に出ると

「達也、桐谷さんとより戻したのか?」

「ああ、なんとかな」

「そうか良かったよ。嬉しいぜ。俺が言う言葉じゃないかも知れないが、もうあんな事になるなよな」

「分かっている。色々ありがとうな健司」

「礼はいい。後でその辺教えてくれ」

「分かった」



 教室に入って席に戻ると玲子さんが、

「はい達也さん、バレンタインチョコです。思い切り心を込めて作りました。貰ってくれますか」

「ありがとう玲子さん」

 ちょっとだけ早苗が不満顔だ。



「達也」

 俺は入口のすぐ傍なので後ろを振り向くと涼子がいた。


「達也、これバレンタインチョコ。心込めて作ったから」

「ああ、ありがとう涼子」

 またまた、早苗が不満顔だ。



 今年は去年みたいにクラスの子はチョコをくれない。構わないけどちょっとだけ寂しい。



 健司がニタニタしている。自分だって小松原さんに貰うだろう。それに机の上にはもうチョコの山じゃないか。


一限目が終わり中休み、次の授業の準備をしていると後ろから声を掛けられた。


「立石先輩」

「えっ」

 聞き覚えのある声に振り向くと涼香ちゃんが入り口に立っていた。俺は入口に近付くと


「涼香ちゃんどうした?」

「あの、これバレンタインチョコ。手作りです。先輩の事思って作りました。貰ってくれますか?」

「うん、ありがとう」



「ねえ、あの子って」

「うん確か本宮さんの妹の涼香ちゃん」

「可愛いわねえ」


「なあ、何で立石だけ可愛い子からチョコ貰えるんだ」

「なに、私が可愛くないって言うの」

「いや、それは…」

飛び火でやけどしている奴がいる。


「先輩、じゃあ放課後図書委員会でね」

「ああ、分かった」




 お昼休みになり、前に座っている玲子さんが、こちらを向いて

「達也さん、昼食にしましょう」

「はい」


 あっ、早苗が来た。

「達也、私と一緒に食べよ」

「早苗、立花さんも一緒でいいだろう」

「いいけど…」


「桐谷さん、お昼位良いではないですか。三人で食べましょう」

「いやちょっと待ってくれ」


俺は健司の所に行くと

「達也俺は佐紀と食べるからいいよ」

「そうか。悪いな」

 健司が教室を出て行った。小松原さんは涼子と同じBクラスだ。そっちに行ったんだろう。


 席に戻ると

「達也さん、食べましょうか」

 早苗がちょっと不満顔だ。何とかこの二人仲良くならないものだろうか。


 昼食が終わると早苗がいきなり

「達也、立花さん話が有る。ちょっといい」

「私は構いませんが」


 どうも教室では話辛いらしい。仕方なしに早苗について行くと校舎裏の花壇の方に向かった。そうだ、花壇の世話が俺一人になってしまった。どうするかな。


校舎裏に近付くと話し声が聞こえる。


「本宮涼子さん、俺一年の南部和人って言います。本宮さんが好きです。付き合って下さい」

「ごめんなさい」

「えっ、誰か好きな人がいるんですか」

「うん、だから付き合えません」

「誰ですか。その人」

「立石達也さん。だからごめんね。付き合えない」

「そうですか。分かりました」


 おい、またよりによって二人がいる所で。その男の子が俺達とは反対方向に掛けて行くと涼子がこちらに歩いて来た。


「あっ」

 玲子さんは冷静だが、早苗が怒った顔をしている。でも何も言わない。


「皆さん、ごめんなさい。失礼します」

そう言って校舎の方へ歩いて行った。姿が見えなくなると


「達也、あれどういう意味?」

「俺にも分からない。涼子とは友達というだけだ」

「そうなの。でも彼女は」

「早苗、気にするな」

「分かっているけど…」


「桐谷さん、お話とは」

 早苗はじっと玲子さんを見ると


「玲子さん、もう達也のお弁当は作ってこないで。私が作る」

「…桐谷さん、お弁当位いいではないですか。確かに達也さんはあなたに告白して二人がお付き合いし始めたのは知っています。

 でも私は達也さんのお友達です。それも大好きなお友達です。だからその人の為にお昼ご飯を作る事はいけない事ですか?」

 玲子さん完全に開き直っている。


「いけない事ではないけど…」

「桐谷さんも作って来ればいいではないですか。達也さんがどちらが美味しいか確かめて貰いましょう」

 不味い展開だ。


「玲子さん、それはしない。交代で作るか、二人共作ってこないかだ。それと三人で一緒に食べる事にする。早苗それは聞き入れてくれ」

 玲子さんを一人にする訳にはいかない。


「達也…」

「ふふっ、桐谷さんそうしましょう。今日は私が作ってきましたので明日は桐谷さんで作って下さい」

 玲子さん完全に早苗に喧嘩売っている。どういうつもりだ。


「玲子さん、今日の明日は無理です。一週間交代にしましょう」

 桐谷さんの肩を持つなんて悔しいです。でもここは引き下がりますか。いずれどちらが美味しいかはっきりします。味には負けませんよ。桐谷さん。


「達也さん、私はそれで構いません」


 早苗が俺の顔をじっと見ている。

「分かったわ立花さん。今週は任せます。来週は私が作りますから」

「はい」


 予鈴が鳴った。

「じゃあ、教室に戻ろうか」

「「はい」」



 しかし、この二人というか玲子さんこんな人だったっけ?



 放課後になると

「早苗、玲子さん、下駄箱で待っていてくれ。図書室担当の打合せが終わったらすぐに行く」

「わかったわ達也」

「分かりました達也さん」



 月火水は涼香ちゃん、木金土が俺の担当になった。来年はまた一人入ってくれないかな。あと花壇の世話も。

 そんな事を考えながら図書室に行くともう入口は開いていて涼香ちゃんが開室処理をしていた。少し待っていると桃坂先生がやって来た。


「はじめましょうか。本宮さん、立石君」



 図書室担当の打合せが終わると

「ところで立石君。花壇の水やりだけど、今どうしているの?」

「どうしてって、毎週一人でやっています」

「…そう悪いわね。もう一人見つかるまで私も手伝いましょうか?」

「良いですよ。今は寒い時期なのでそんなに大変ではないです。春先からの肥料をやるのや草むしりがちょっと大変ですけど。もし手伝ってくれるならその時で良いです」

「分かったわ。じゃあ今は任せるね」


 俺と桃坂先生の会話を聞いていら涼香ちゃんが

「あの、それって私じゃ駄目ですか?」

「えっ、本宮さんが担当してくれるの?大変だわよ」

「いえ、立石先輩と一緒なら全然大変じゃないです」

「そ、そう。立石君いいかな?」

「涼香ちゃんさえ良ければ」

「じゃあ、決まりね。本宮さん頼むわね」

「はい!」

 俺は助かるのだけど……。



 打合せが終わって、一般の生徒が図書室に入って来ると俺と桃坂先生は図書室を出た。直ぐに下駄箱に行くと早苗と玲子さんがお互いにそっぽを向いて立っている。笑いたくなった。


 駅について改札を出ると直ぐに玲子さんのマンションがある。入り口で

「達也さん、桐谷さん。また明日」

「はい」

「さよなら立花さん」



 二人だけになると

「達也約束覚えているよね」

「ああ、俺一度家に帰るから」

「何で、このまま私の部屋に行こう」

「いや、だって…なっ、必要なものが」

「大丈夫。初めてして貰った後、用意したいつでも出来る様に」

「いやいや、あれはやっぱり俺が」

「駄目、一分も勿体ない。早く帰ろ」

「…………」



 達也思いっきりしてよ。

 分かったよ。



 俺達は玄関でドアが開く音がするまで一緒にいた。


――――――


 うーん、涼香ちゃんの参戦ですか。望みあるのかなあ。

 しかし、ここに来て涼子へ告白する男の子が現れるとは?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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